「……人型のモンスターだと?」
「ああ、傷が塞がる寸前に一瞬だが魔石が見えた。擬態なのか元からなのかは分からねえが、完全に人の姿をして会話が成立した奴がだぜ? ……面倒だろ?」
結局ロキ・ファミリアは帰還を選び、荷物が大きく減った事で普段通りの余計な荷物の配送も無しだ。
なので今回の儲けは精々が飯代程度。……但し税金の申告に関わる書類作業を全部押し付けた事でご立腹のリリルカの希望でバベルの高級レストランの飯代だがな。しかも個室のVIPルーム。
入店だけで十万ヴァリスとか経営者は金に汚い奴だぜ、絶対に。
だから少しは臆すると思ったらコースより色々と好きな物を食べて飲んで騒ぎたいと御満悦の我が妹。
騒ぐのは駄目だからな? 第一級冒険者にランクアップした喜びも有るんだろうが、他にも客が居るんだから静かにな?
普段は節制好きなのに使う時はパーっと使いたがるんだからな、此奴。
「申告を頑張った分、今日はとことん食べますからね! デザート何があるんでしょう? それとワインは……」
ザニスに税金関連も押し付けられたら楽だが、そうはいかないもんな、うん。
あくまでも個人の商売だからファミリアとは無関係、なので作業も俺達でやらなきゃいけないのは大変だが、納税はしないとな。
ランク詐称での税金逃れ? あれは高ランクへのミッションが大変だからやってるだけで脱税目当ての割合は高くない、其処まではな。
そんな訳で今季もお疲れ様って事で良い席をオッタルの立場も利用して予約。自分の分の料金はちゃんと負担させるんだが、その食事中に出した話題にオッタルは警戒の色を見せる。
にしても即日で予約出来るって最大派閥は違うねえ。
「あの女の攻撃にはちゃんと技があった。そして不利と見るや逃亡。強さは第一級、下手すりゃフル装備のLv6まで行くんじゃねえの?」
「人の姿をしていて知能も人並みで言語も理解して、理性で判断出来るって事じゃないですか、兄さん。食事が美味しくなくなる話題は止して下さいよぉ」
しかも神がバックに付いてるぽいってな。
俺の語る情報にリリルカは面倒臭さと厄介さで嫌気が差したって顔だ。なのでワインも煽る煽る。
酒臭いの背負って帰るの嫌なんだけれどな。
「了解した。この話はフレイヤ様の元へと持ち帰ろう。出入り禁止も数日以内に解けるとお達しがあった。ヘディン達にも共有せねばな。……遠征帰りのロキ・ファミリアと鉢合わせせぬようにもと」
「実質的な失敗での不満と消化不良で気が立ってる連中もいるだろうからな。アレンとか絶対喧嘩になるだろ」
「その一番喧嘩を売りそうな奴が俺の忠告を聞かないのだが……」
「売りそうな奴も、ですよね。ザニス団長もそうですが、オッタル様も幹部の皆様からは慕われてはいませんし」
リリルカの言葉がトドメとなってオッタルはガックリと肩を落とす。うん、悪かった。強さだけは認めているんだから元気出せって。
「それにしても遠征は補助がギルドから少し出るとはいえ、今回の件を考えれば赤字になりかねません。……つまり必死にお金を稼ぐ必要が出るって事ですよね? 兄さん」
「つまり大儲けのチャンスだって事だな、リリルカ」
兄妹で顔を見合わせれば思わず笑みが溢れて来る。歴史に残る偉業も名声も冒険も好きにしたら良いさ。
俺達はそんなのどうでも良い。
英雄になるって事も種族の栄光も正直言って興味無し。
「金だよ、金。大切な物の為にお金が幾らでも必要なんだ。精々絞れるだけ搾り取らせてもらおうぜ」
「そうですね、兄さん!」
「「ふっふっふっふっふっ」」
さてさて、どうやって儲けるかだが、連中が帰って来てからのお楽しみだ。その間にも何か大きな儲け話があってくれたら嬉しいんだが……。
「そうやって笑う姿は悪役の様だな」
五月蝿い、脳筋。儲けを求めて何が悪い!
「俺が訓練を見てやれるのは今日までだ。後は自力なり他に指導者を見繕え」
「はい! 今までお世話なりました!」
最後の朝練を終え、用は済んだとばかりにオッタルは家の中へと入って行く。時刻は未だ朝日が昇り切らない時間帯。ベルはオッタルの背中が見えなくなるまで頭を下げ続けていた。
「朝っぱらから五月蝿え。訓練は良いが音は抑えろっつっただろ」
「今日は最終日だったからな。つい気合が入った」
「ついじゃねーよ、ついじゃ」
ベルにとって身近な理由は育て親の一人であるザルドであり、本人は不服らしいがオッタルも ザルドを一度倒した事と朝晩の訓練で世話になった事で加わった。
次に会う時までに少しでも成長した所を見せたいと、端的に言うと何処か舞い上がっていた。装備こそ新米にはこんな物だと近くの村の鍛冶屋が不慣れながら打った大剣とナイフといった物ながら身に付けた技術と厳しい訓練で上がったステイタスは浅い階層のモンスターなど寄せ付けない。
「冒険者は冒険しちゃ駄目だってエイナさんには言われたけれど……」
ステイタスが今と同じでも教えを受けていなかったら此処までではなかった事だろう。積み上げた技術は本来のステイタスなら苦戦する相手にさえ通用し、正直言って物足りなさを覚えていた。
ウォーシャドウをカウンター気味に大剣で両断し、キラーアントの飛び掛かりを避けて甲殻の隙間にナイフを突き立てる。
「順調順調。……もう少しだけ良いよね?」
それは成長を感じ取れたからこその油断、師達に知られれば苦言の一つ二つでも貰いそうだが、少しでも成長したと認めて欲しい見栄と順調過ぎる事での慢心、足を踏み入れていない階層への好奇心も合わさってベルの足は先へ先へと進んで行く。
五階六階七階と駆け降りて、妙に静かだと覚えた違和感に従って引き返せば良いものを九階へと続く階段に足を踏み入れようとした所で下から猛烈な勢いで走って来るミノタウロス達と目が合った。
「……はい?」
本来は中層以降、それも少し進まないと出て来ない牛頭人身の怪物。何かに追い立てられて来たかの様な恐慌状態で階段を掛け登って来る。
「さ、流石にこれは……」
急いで来た道を戻り横道に入って身を隠せばミノタウロス達が大慌てで駆け抜けて行く音が聞こえ、それが遠ざかった所で暫く息を圧し殺せば誰かが慌てた様子でそれを追って行く。
やがて音が聞こえなくなりホッと胸を撫で下ろすのだが……。
「ヴモォオオオオオ!!」
「一匹こっちに来てるぅうううう!? ほわぁああああああっ!?」
一匹だけ群れとは別方向に逃げ出し先程の追走者の目を盗んだらしく、安堵したのかモンスターとしての本能を取り戻す。
獲物は目の前のベル。赤く瞳を光らせ頭を粉砕すべく拳を振り下ろした。
ミノタウロスの足元をすり抜ける様に転がって回避すれば直ぐに振り向き今度は足を振り上げる。
先程までの鬱憤を晴らすかの様にベルを見下ろしながら踏み潰そうとし、その顔に土が投げ付けられた。
目に入ったのか片足を振り上げた状態で手で目を覆ったミノタウロスの軸足に向かってベルは大剣を振り抜く。
回転を加えて遠心力を威力に加えた一撃でもステイタスと武器の性能からミノタウロスの皮を断つには到らずともバランスを崩させた。
「今だ!」
尻餅を付くように倒れ込んだミノタウロス目掛けての振り下ろし。狙うのは脛だ。下級冒険者の力でも大剣の重量も合わさればそれなりの痛打となるだろう。
それを繰り返す事三度、か弱い獲物からの思わぬ反撃に怒ったのか大きく唸り声を上げ、両腕を振り上げながらベルへと襲い掛かった。
「ひっ! わわっ!?」
直撃は即死、掠るだけでも吹き飛ばされて終わるだろう。それをベルは必死に避け続ける。恐怖はあるが、もっと怖くて強い二人から鍛えられたからこそ戦えた。
逃げても追い付かれて死ぬ。なら立ち向かうしか道は無い。
「大丈夫だ。避けられる。速いけれどこんな力任せの攻撃なら読める!」
幼い頃からザルドから、そしてここ数日間に朝晩に受けたオッタルの修行。それが本来はステイタスの低さで避けられない筈の猛攻を動きを読む事で避けられた。
それも何時まで持つかは分からない。だが、生き残る道はベルの頭の中にある。
ミノタウロス達は何かに……いや、誰かに追われていた。つまりは……。
「アルクス・レイ!」
突如飛んで来た光の矢。それはミノタウロスの頭を吹き飛ばし、余波で尻餅を付いたベルが見たのは鮮やかな髪色をしたエルフの少女。
「あ、あの、大丈夫ですか……?」
因みにベルの好みは①長髪②金髪③エルフ。更に此処で年上も追加される。オドオドしながらも手を差し出した少女に対してベルは……一瞬で恋に落ちた。
その頃のオッタルさん
「フレイヤ様のところに行く前に書類を片付けておけ、脳筋。暫く分が溜まっているぞ」
「了解した……」