ダンジョンに儲けを求めて何が悪い!   作:ケツアゴ

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第二十二話

 それは偶然だった。ミノタウロスが大群で現れたのも、消化不良で暴れた幹部に怯えて上へ上へと逃げて行ったのも。

 

「一階層に一人は残れ! 一匹たりとも逃がすな!」

 

 自分達が逃したミノタウロスが未熟な冒険者を襲ってはいけないと追い掛ける幹部だがいかんせん数だけは多い。

 四方八方に散らばるミノタウロスを追い先陣したアイズ達に遅れて十階層に到着したレフィーヤの耳にミノタウロスの唸り声が微かに届いたのも運が良かった。

 

「あっちの方から鳴き声がっ! 行って来ます!」

 

 杖を構え横道の先を進めば少々頼りなさそうなヒューマンの姿。だが、その動きからしてステイタスは高くないだろうにミノタウロスの動きを読み切って動いていた。

 

「凄いなぁ……」

 

 絶望的な状況にも関わらず臆して固まる様子の無い姿を見て脳裏に浮かんだのは憧憬の対象であるアイズの姿。

 湧いた疑問。自分は彼と同じ下級冒険者の頃に、いや、Lv2の頃に彼の様に立ち向かえるだろうか。杖で殴り殺せる今でさえ咄嗟の事なら怯える自分が浮かび上がる。

 

 感じたのは素直な感心と応援の気持ち、そして僅かな嫉妬に杖を強く握り締めた所で我に帰る。このままだと彼を見殺しにしてしまうと慌て、残り少ない精神力を過分に注ぎ込んだ魔法はミノタウロスの頭を吹き飛ばした。

 

 

 

 「あ、あの、大丈夫ですか……?」

 

 間近を過剰威力の魔法が過ぎ去ったからか腰を抜かした彼に罪悪感を覚えながらも手を差し出したレフィーヤだったが、彼は少し戸惑った様子で伸ばした手を止める。

 その視線が自分の顔に注がれている事に戸惑うも、少し思い当たる事があった。

 

 エルフは肌の接触を極端に嫌う者が居るのでそれで手を取るのを遠慮しているのだと思うと何処か可笑しくて笑みが溢れる。

 

「大丈夫ですよ。エルフにも色々居ますの…で……」

 

 耳に微かに届いたのは金属を擦り合わせた様な不愉快でか細い鳴き声。視界の遥か先には魔法が僅かに掠めただけで瀕死になったキラーアントが数匹。

 

 

 瀕死状態になれば仲間を大量に呼び寄せるキラーアントが何匹も瀕死の状態で転がっている。

つまり……道の奥から大群が押し寄せる音と気配が響き渡った。

 

「に、逃げますよ!? って、きゃあ!?」

 

 咄嗟にベルの手を掴もうとして身を乗り出したレフィーヤはミノタウロスの死体に躓き転ける。直ぐに立ち上がろうとして力を込めた足が傷んだ。

 

 流石に普段の彼女なら転んだ程度で足は挫かない。ただ、今回はイレギュラー続きの遠征帰り。溜まった疲労が此処で牙を剥き、キラーアントの大群は直ぐ其処まで迫っていた。

 

「くっ! こうなったら私を置いて……」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 逃げて、そう口にする前にレフィーヤを抱き上げた彼は顔を真っ赤にしながら走り出す。大剣も放り出しての逃走。

 お姫様抱っこと呼ばれる持ち方で運ばれている事にレフィーヤの理解が追い付かない中、キラーアントの群れは徐々に二人へと迫って来て、正面から武器を振り上げながら迫るガレスとすれ違った。

 

「どぉりゃあああああああああっ!!」

 

 轟音一閃、たった一撃の振り下ろしがキラーアントの群れを纏めて薙ぎ払い、生き残った個体も慌てて逃げ出して行く。

 

「た、助かった……」

 

 レフィーヤを抱えたまま安堵の溜め息を吐き出す彼の姿にガレスは何があったのかと頬をポリポリと掻きながら首を傾げていた。

 

 

 

 

「はっ! 雑魚を助けに行って自分が助けられてちゃ世話ねえな。弛んでんじゃねえぞ、ボケ!」

 

「は、はい! ごめんなさい!」

 

 逃げ出したミノタウロスは全て片付け終わり、他の団員とも合流したレフィーヤが事情説明を行えば真っ先にベートが怒りと呆れを見せる。

 当の本人である少年は状況に気が付いた途端に恥ずかしくなったのかレフィーヤを丁寧に下ろすと慌てた様子で走り去って行き、何処のファミリアの誰かも分からずしまい。

 

「ミノタウロスを追う必要が無ければ直ぐに追い掛けたんじゃがのぅ」

 

「顔を真っ赤にして走って行く子が見えたけれど、そんな事があったんだ。……兎みたいだった」

 

「まあ、落としていった大剣はギルドに預けるとして、レフィーヤを助けて貰ったお礼はしないといけないね。でも、今は一旦帰ろうか。オラリオへ」

 

 こうしてロキ・ファミリアは地上への帰還を果たした。新種のモンスターや襲撃と同じタイミングで現れた赤い髪の女、そして突如現れた巨大なモンスターと謎は深まるものの団員は皆疲れている。

 

 残る課題に頭を痛めつつもフィン達はホームへと向かうのであった。

 

 

 

 

「【千の妖精(サウザント・エルフ)】について何か教えて欲しい? 情報料として二百ヴァリスな」

 

「う、うん! 二人は商売でロキ・ファミリアと関わっているって聞いて彼女がどんな人とか、

こ、好みとか知ってたらなあって……」

 

 一方、初恋に浮かれてギルドに直行、アドバイザーのエイナから最低限の情報しか引き出せなかったベルが思い浮かべたのは世話になっている隣人の兄妹。

 オッタルから関わりがあると聞いたと照れながら訊ねれば金を出せと手を差し出された。

 

「まいどー。っつっても俺達が交渉するのは幹部かラウル位だからな。アイズとかなら少しは付き合いっつーか、俺が一度ランクアップ期間の記録更新した時からしつこく絡んで来ていて……まあ、他種族に抵抗が無い以外はエルフらしいエルフ? ちょっとポンコツっぽいな」

 

「生真面目でお人好し、それとアイズ様に憧れていますよ。恋愛に関してですが……此処から先は偶々カフェでお会いした時の話なのですが……」

 

 気になる話題へと差し掛かり、ベルは思わず緊張から唾を飲み込む。だが、数秒待っても続きは語られず、その代わりに今度はリリルカの手が差し出された。

 

「此処から先は五百ヴァリスです」

 

「お、お金が溜まったらお願いします」

 

 幾ら順調に行っていたとしても許可されている階層での儲けは乏しい。今のベルには計七百ヴァリスの情報料など到底払える筈も無く、トボトボと帰って行くのであった。

 

 

 

 

「多分次の機会は六百五十ヴァリスまで吊り上げても平気そうですね」

 

「もうちょっとだけ増やさねえ? にしてもエルフがカフェで恋バナでもしてたのかよ、ビックリだな」

 

「いえ、憧れの相手と仲良くなろうと妄想全開の様子でしたし、そっちの趣味があったのではと、不確定情報なのでこの程度で良いでしょう」

、不確定情報なのでこの程度で良いでしょう」

 

 

 

 

 

「レフィーヤさんかぁ。凄く強くて可愛かった……僕よりずっと」

 

「ベル君?」

 

 地下室への階段を降り、先程の事を思い出しながら浮かれていた時、ベルは思い出してしまった。

 助けが来る事を前提に動いてしまっていた事を。

 

 あの状況に陥るまで自分はもっと成長したと、憧れの相手に一歩でも近付けているのだと思っていた。

 だが、現実は違う。自分じゃどうにもならないと早々に諦めて他の誰かに期待していたのを思い知らされた。

 

 思わず壁に拳を叩きつけたベルの両目から涙が溢れ落ちる。思い上がった自分が情けなく、それ以上に悔しかったのだ。

 

 

 

 

「神様、僕もっと強くなりたいです。憧れた人達に近付ける様に、今度は僕が誰かを守れる様に……」

 

「ベル君……」

 

 悔し泣きで嗚咽を漏らすベルの姿にヘスティアは手を伸ばして慰めようとし、首を左右に振って止める。

 

 

 

 

 その翌日の事、ダンジョンに向かうベルを見送ったヘスティアが向かったのはアーデ兄妹の家だった。

 

 

 

 

「朝から急な話だけれど頼みがある。ボクにお金を貸して欲しい。ベル君の助けになりたいんだ」

 

 

 

 

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