「これがオラリオメリーねぇ。確かに良い酒だけれど他に魂胆が有るんだろ?」
冒険者が集う豊穣の女主人……まあ、一食五十ヴァリス有れば食費は十分な中で一皿の値段が数百はする店とか儲けているか明日には死ぬかもな冒険者位しか気軽に来れないのですが……ミアさんの威圧が凄いですね。
本日は商談、もといオラリオメリーの押し付け先探し。神々からの問い合わせが凄いせいでお金はあっても使う暇も無く働いているザニス団長の案で元第一級冒険者が店長をやっている此処を選んだのですが、お見通しとばかりに威圧感が凄いので帰りたいです。
自分だけ逃げましょうか……。
「いえいえ、ケツ持ちを考えてもこのお店なら安心してお任せ出来るとリリ達も考えた訳でして」
「ファミリアの仕事なんて殆ど放ってるアンタが言っても説得力無いよ。ったく、オドオドと兄貴の後ろに引っ付いてゴミ漁ってた癖に図太くなったもんだ。それとケツ持ちとかチンピラみたいな呼び方すんじゃない」
「そ、その節はお世話になりました。余った料理が包んであったり古い武器が放置されてたりと……」
「何の事だか分からないね。そんな事よりも酒なら取り扱ってやるから飯でも食ってきな」
「良かっ…た。これでやっと眠れ…る……」
「あらら、テーブルに突っ伏して眠っちゃいましたね」
「どれだけ仕事背負ってんだい、此奴……」
最近痩せたというよりも窶れた感じの団長は顔面から突っ伏してグーグーと寝息を立てています。
まあ、最近特に忙しいみたいでしたし? シャルザードの件で兄さんへの問い合わせもファミリアに来ますし、十日程寝てないとか言っていた気がする……。
「どれだけって酒の管理体制の指示と販売、ギルドや他ファミリアとのやりとりに団の運営全般。私達に関する問い合わせの対応に最近ではオラリオメリーを求めて中堅以上のファミリアからの問い合わせも有りますし、一年以上流していたのに急に酒作りを教えるから人員を三日以内に選別しろとか……色々」
「背負い過ぎじゃないかい?」
「好き勝手にする為に権限を集中していましたからね、この方。なのでリリ達が好きにしてたら儲けも増えて仕事も凄く増えたけれど周囲が育っていないので自業自得なのではと」
実は嫌いだろうって? はい、そうですね。ゴミ漁りしていたのもこの人の管理体制が原因ですし。
「取り敢えず今日は団長持ちなのでお勧めの品をお願い出来ますか? あっ、お酒の匂いが嫌いで此処に来れない兄さんに持ち帰りの品もお願いします」
「本当に図太くなったよ、アンタ」
ポケットを漁って取り出した財布の中身を数える私にミアさんが関心と呆れが混じった顔になる中、カウンターの端と端なので気が付いていない様子のベルさんの姿。
借金持ちの新米冒険者がこんな高い店に来るなんて思ってもみませんでしたが、シルさんに引っ掛かって連れ込まれたのでしょうね。
これは財布が死にましたか? 情報料は明日以降になりそうで残念ですよ。あーあ、勝手に色々と注文決められちゃって……団長に隠れときましょう。
そんな風に隣人を見捨てながら団長の金で食事を続けていた時、入り口が不意に騒がしくなり、って金蔓筆頭のロキ・ファミリアが来店して来ましたが……ベルさんったら急に隠れちゃいましたね。
「ゔぁああああああっ。これですよ、これ。もうこれが無いとやってられませんよ」
あー、うん。助かったなら良かった。
本日は【戦いの野】にてオッタルの依頼でヘイズ達後方支援組の疲労と諸々を癒す作業中だ。全員会う度にクタクタになって目に隈まで浮かんでいるのが何とも哀れ。
噂によればヘルメスの所の団長も同じ位に酷使されているとかで、俺は平団員で本当に良かったと思うよ。
「お肌の艶がぁ……」
「肩コリが……消えてる」
「あははは! 眠気がスッキリ!」
ヘイズ以外の奴等の分は金を貰っちゃいるが、来る度にこの反応なのは本当にもうな……。
今現在も幹部以外の団員は絶賛殺し合いの真っ最中。同じ相手ばかりだと経験値が美味くなくなるなんて知った事か! とばかりに殺し合い、治療や後始末の手間を考えないブラック環境の発生源と。
「そういや何時もならオッタルが出迎えに来るんだがバベルか?」
「いえ、ヘディン様が終わっていないとフレイヤ様が困る物以外の書類仕事を出入り禁止期間一切代わりにやっていなかったので部屋に篭っています、ざまぁ!」
ヘイズに続く様にオッタルの苦労を喜ぶ声が響き渡り、どれだけ恨まれてるんだって話だよ。あれか、激務自体は主神の方針だから文句言えないし、負担軽減の策を取れない現場責任者に不平不満が溜まると。
……やっぱり責任者はヘディンの方が良くね? 副団長ですらないから人材確保まで手を出しにくい訳で……。
「そりゃ大変だ」
もう嫌だと叫ぶ激務環境だろうと他に行きたいとは絶対に言わないのがフレイヤ様の存在があるからで、謹慎明けも愛しの主神に会いにいけないで苦手な頭脳労働とか。
取り敢えず手を合わせておこう……。
「じゃあ、俺はこの辺で……」
長居してると平団員やアレンが五月蝿く言って来るんだ。気に入った相手の勧誘にわざわざ出向く行動力高めの女神が外に出たいからって魔法の使用を求めて来た以外で何度もホームに来ても声を掛けも呼び出しもしない時点で眼中に無いとか分かるだろ。
なのでさっさと帰って飯にしようと思った俺の手に肩に腰に足にヘイズ達の手が伸びた。
「大丈夫大丈夫。貴方はホームで毎日私達を回復してくれれば良いから」
「もう限界なのよ。彼奴等、ご飯作る側への感謝もクソも無いんだから」
「耐えるしかな無いなら諦めた。でも、此処に疲労も寝不足もお肌の荒れまで治せるのが居る!」
うぉい!? どれだけ追い詰められてんの!? マネーイズパワーじゃ精神面は回復しねえからな……。
ヘイズ達に逃すまいとしがみ付かれ、その、何だ、色々と当たってるんだよ。キスすら未だの俺には刺激が強いっつーか、誰か助けて。
「……」
部屋の前を通り掛かったヘグニは一瞬だけ手を伸ばして何か言おうとして、直ぐに去って行く、おい、幹部!?
逃げるな! 逃げるな、卑怯者ぉおおおおおっ!!
じゃあアレン! アレン来てくれ!
だが現実は非情だ。請い願った所で叶う筈も無く、四方からしがみ付かれて密着される状況は終わらない。
柔らかいし良い匂い……はしねえな。一日働いた後だから土と汗の匂いだわ。
……臭っ。
ザニスは幾らいじめても良いって近所の村長が言ってた