世界とは何か、それの定義は人それぞれでしょう。兄さんなら自分と周囲のごく狭い環境こそが世界であり、関わらない場所は存在しないのと同じとでも言うでしょうね。
それを押し付ける気はないから他人の命を救う時は対価を請求しますし、命の恩人であるヘイズ様には甘い。
リリも同じ考えですね。自分が感じ取れる範囲、それが世界の全てです。
「おっ! リリたんやんか。お前もこの店に来とったんやな」
「どうも、ロキ様」
だからロキ様の所のフィン様の掲げる種族の復興? まあ、そんな感じの目標は興味が無いんですよね。
同じ種族云々なら一番多いヒューマンは一番同族を殺してますけれど? って風で、ニコニコと手を振られても彼にお熱のティオネ様が怖いだけですよ。
ほらぁ、ロキ様が呼び掛けたせいで視線が集まるし、フィン様もご機嫌でティオネ様が……。
これでリリが惨めなサポーターなら別として、幾ら地位と名声があろうと二十八歳年上はちょっと……。
寧ろ種族の英雄のお相手とか絶対に周囲の意見や感情が重くなって面倒じゃないですか。
「今日はこの店限定でオラリオメリーの取り扱いの商談に来まして、纏まった安堵で団長が眠ってしまったのですよ」
兄さんに育てられた事で得た価値観からすればごめん被りますなのですが、修行相手になって下さるフレイヤ・ファミリア幹部の皆様とは別でお金を落として下さるロキ・ファミリアとも懇意にしなければいけない訳でして。
「マジっ!? 今日から飲めるん!?」
「いえ、今日は試飲分を持って来ただけでして……」
「あるんやな! ミア母ちゃん、言い値を払うから飲ませてや! リリたんもこっちに来ぃ! 一緒に楽しむで!」
「お、お邪魔させて頂きますね。ははは……」
主神からのお誘いを特に理由無く断るとか出来る訳もなく、愛想笑いを浮かべながら一堂の席へと近付いて行く。
その前に団長の足を起きたら痛む程度に踏むのも忘れずに。
さて、誰の近くに座りましょうか……?
フィンやティオネ 論外!
リヴェリア 他のエルフの反応がちょっと
アイズ 兄さんの最速ランクアップの件が気になる模様なので……。
ベート 雑魚呼びが面倒なんですよ。こっちだって詐称してるだけで第一級冒険者なんですからね!
ティオナ こっちも無邪気に色々聞いて来そうで
ガレス 無難っちゃ無難ですが関係は薄いので……。
困った、幹部陣の近くは……いえ、だったら幹部候補の近くにしましょう。今後昇格する可能性だって高いですしね、
それ以外? 特に仲を深めても商売繁盛に繋がらないでしょうし。
「では同性でランクも年齢も同じな【
お金稼ぎの日々の中で身に付けた愛想笑い。隙間に椅子を差し込んで座れるのは小柄な種族ならでは。
はいはい、ちょっと詰めて下さいね。
「へぇ。ダンジョンでその様な事があったなんて。リリは武器を使った近中距離戦しか出来ないので羨ましいです」
「で、でも私も杖術はまだまだ未熟者ですし……」
「ロキ・ファミリアは戦力になる方が大勢居るので適材適所という奴ですよ。最近新しい魔法を漸く覚えたのですが扱いが難しくって。
おっと、いけないいけない。誉めて煽てて持ち上げる事で儲けに繋がったら良いなって思ってたのに、ついつい愚痴が。
「に、二十冊。相当な金額になったんじゃ……」
「お酒の席でお金の話は無しですよ、レフィーヤ様。只でさえ【ヤバい方の小人兄妹】とか呼ばれているんですからご勘弁を」
競りの場合一冊一億を超すなんてザラですからね。あー、やだやだ。億単位の物が無駄になって行くとか悪夢ですよ、悪夢。
色々と忘れたいので他愛もない話でお茶を濁して酒宴は進む。アイズ様はランクアップについて聞きたいみたいですが、その辺はファミリア間のマナーって事で他の方が押し留めてくれて助かっていたのですが……。
「ねぇねぇ! キリアって何処かの女神に求婚された事があるってホント?」
ティオナ様が向けた質問に酒場から一瞬音が消えました。兄さん、色々な意味で有名人ですもんね。
ミアさん以外(気絶中の団長は除外)は聞き耳を立てていますし、話さないって選択肢は無いみたいの様で……。
「リリも同行した訳では無いので詳しくは知らないのですが、『今の君が私に恋をしないなら、来世も来来世の君にも恋をしよう』とか言われていたと同行していたアルフリッグ様が尾ひれ背鰭満載で語ってくれました」
何でも黄金の造形の参考にしようと一緒に向かった遺跡で封印が解ける際だった古代のモンスターの手下みたいなのと遭遇して、調査に来ていた女神アルテミス様達に手を貸す事になって……。
「嫌な予感がしたので調査に協力する中で気に入られたとか、小太刀をぶっ刺したとか、復活した黒い蠍のモンスターからアルテミス様を守りながら戦ったとか、絶対盛っている部分がありましたけれど」
「ぶっ刺した、か。まあ、あの小僧が使っとるんは神を積極的に狙ってた【神狩り】の武器やからな。有り得ん話やない。……あの噂が流れ出したのも彼奴が【神狩り】を討ち取った後やな」
「噂? どの様な噂が……?」
ロキ様の呟きに保護者三名は頭痛を覚えた様子でアイズ様は誤魔化す様に視線を逸らす。何があったかを知っている方々も呆れやらで苦笑いと居た堪れない様子。
これ、喋って良い雰囲気じゃないですよね。黙って……。
「【銭ゲバ】から金を借りられた冒険者は大成するってくだらねぇ噂に雑魚が縋っただけだ。他より早くランクアップしたりレアスキルを持っているらしい奴等も居たがな。この馬鹿も噂を聞いて金を貸してと付き纏ったんだよ」
「……ベートさんの意地悪」
「しかも直ぐにリヴェリアママにバレてドチャクソ叱られて涙目で返しに行ったんよな」
「……ロキまで」
こっちが折角気を遣って沈黙で終わらせる気でしたのに仲間から暴露されてアイズ様は拗ねてしまいました。ロキ様の追撃まであって少し同情しそうですが、相手が相手なので五百ヴァリスを利子込み六百ヴァリスで済ませたのですし要りませんよね?
ポンコツエルフ二号は拗ねた彼女が可愛いとか呟いてますが、本当にそっちの趣味の方なのでしょうか?
「色々誤解されていますがリリにも兄さんにもお金を貸した相手の成長を促進するスキルも魔法も持っていませんよ。兄さんの直感で大きなリターンを期待出来る方を選んでお貸ししているだけですので」
勿論中には死んでしまった方もいらっしゃいますが、死んだ場合に所属ファミリアには請求しないという条文込みの契約書を提示しています。
その分、利子は借りた時点で数割に月に数%と少々お高めですが、死んだ後に財産は回収しないので良心的では?
「マジかよ……」
と伝えればベート様にさえドン引きされている始末。他人を雑魚雑魚と見下して喧嘩売りまくりの方にドン引きされるとか傷付くのですが!?
「まあ、冒険者の危険性考えたら仕方無いんやけれど、死んだらチャラで本当にええんか?」
「はい。お仲間にも親族の方にも請求しません。そのせいで今まで死亡時は殆ど……失敬、お酒の席では止めておきましょう。ミアさんもお怒りの様子ですし」
口が滑り掛けた事に内心焦りつつ話題を切り上げる。兄さんが【神狩り】との戦いで強く思った使い易いスキルや魔法が欲しいという願い。
それで生まれたスキルですが、魔法を交換可能な方は一部の方には知らせていますがもう一つ、【
「にしてもぶっ刺したってのが真実なら、つまり……あの拗らせた処女神の求婚も有り得るっちゅー事やな」
「わわっ!? 凄い凄い! アミッドやヘイズと仲が良いって思ってたけれど、他の人には人気が無いみたいだから意外だね!」
神妙な顔で語ったかと思いきや急に面白おかしく語りたくなったらしいロキ様の一言で酒場は一気に盛り上がるのですが、これで兄さんの婚期が遠ざかる気が……。
あの人、只でさえ女神に囲まれる事が多くて普通の人とは縁が薄いのに。
「あのお二人とは仲が良い止まりな気もしますけれどね」
リリとしては妹の世話ばかりで恋愛なんて遠ざかってる兄さんが心配でならないんですよ。私はまあ、十五歳ですし? 未だ余裕が有るって言うか……。
「え、えっと、リリルカさん達は顔が広いですよね? 少し探している方が居まして、大剣と短剣を使う新米冒険者の方で……」
この話題から急に飛びましたね。いや、まさか?
少なくても好印象程度は感じているらしいレフィーヤ様ですが、どうも続きが口に出せない様子。
真面目なエルフですからね。異性への興味とか口に出せないのでしょうか。
「兎みたいな子だった」
そしてぶちこみますね、アイズ様。確かに白髪の赤目ですが……。
「他派閥の情報なので詳細は教えられませんが、知り合いではありますよ。彼の身内と債権者と債務者なので」
あれ? 急に静まり返っちゃいました。家が近所と言ったら私の家まで知られちゃうので隠しましたが失敗でしたかね?
【
・金を貸した相手が完済前に死んだ場合、スキルの価値と貸した金額で変動する確率で効果をストック出来る
・ストックするかどうかは選択可能。一度選んだ効果は変更不可能
・ストックした効果は入金した金を消費して発動
現在のストック
1 精神力の消費を増大させ詠唱を省略する
2 ?
3 ~6 空ストック