ダンジョンに儲けを求めて何が悪い!   作:ケツアゴ

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第二十七話

「べ、ベル君! 魔法が発現しているぞ!」

 

「えぇっ!? 本当ですか、神様っ!?」

 

 アーデ兄妹に多少無茶な金利(+月々の採血)で二億五百万ヴァリスもの大金を借りたヘスティアがヘファイストスの元より帰って来たのはベルが朝食を作っていた時間帯だった。

 

 依頼された武器である【ヘスティアナイフ】の製作は勿論、剰りにも迂闊過ぎる神友に頭を痛めた事で強制された契約書や都市内部で起きやすい犯罪に関する講座。

 

 後々ステイタスの施錠という基本を知らなかった事で第二弾が行われる事になる講座での疲労はニート体質のヘスティアの精神力をガリガリ削り、お祭りをやっていると知ってもデートをしたいと言い出す気力すら奪い去った。

 

 なので更新を済ませたら二人でのんびり過ごしたいと思っていた所で芽生えたのが【ファイアボルト】という魔法だった。

 

「でも急にどうして……あっ! 神様、この本が関係有るんでしょうか?」

 

「その本がどうにかしたのかい? どれどれ? って、何も書かれちゃいないじゃないか」

 

 ベルが差し出したのはザルドとの話し合いを終えた二人が帰り際に届けて欲しいと頼まれた一冊の本(手数料千ヴァリス)。

 読んだ後に強烈な眠気を感じ、起きたら白紙になっていた不思議な本だ。

 

 

「叔父さんの伝言じゃ何処かのファミリアに入ってからじゃないと危なっかしくて渡せなかったらしくって」

 

「……あー、うん。それはそうだよ。だって魔導書(グリモア)だぜ、この本」

 

 売れば億に届くであろう品を田舎者のお人好しが持ち歩いていると知られればどうなるか、今のヘスティアには容易に想像がつく。

 

 なので今になって渡されたのは別に良いが(売っていれば借金が大きく目減りすると考えなくもなかったが、ナイフ自体が強くなる為の物だとして思考の角に追いやった)、此処で大きな問題が発生した。

 

 数日ぶりの更新で大きく上がったステイタスに新しい武器と魔法。ワクワクを隠せていないベルは一日お世話をしてくれるだろうが、その後の寝静まった夜中に試しに行く姿が思い浮かぶ。

 

「オッタル君との無茶な修行を見ていると絶対そうするとしか……」

 

 正直言えば甘やかされてラブラブな時間を過ごしたいのだが、居候中の姿に不満を持っていたのかヘファイストスの眷属が講師を務める講習は余所見や無駄口を許されず精神的にガリガリ削られた。

 

 借入時の二割、年利36%を契約書を熟読して確かめもせずに承諾した自分が悪いのだが欲しいとそれでも送還されるのではないかと戦々恐々したものだ。

 

 一応聞いてみたが無言だったので真意は分からないのが一番怖かったらしい。

 

「ベル君、ボクは一日のんびり寝ているから試して来なよ」

 

「じゃあ、お昼ご飯だけ調達してからダンジョンに行って来ます」

 

 今日はシルのお弁当も無いですし、と付け足そうとしたベルであったが、ザルドによる教育の賜物か言葉を飲み込む。

 女性と話している時には共通の知人だろうが他の女の話題は出すな、理由は未だ理解してはいないが尊敬する彼がマジトーンで言ってたので従っていた。

 

「じゃあ、試したら早めに帰って来ておくれよ、ベルくーん」

 

 顔を上げる気力さえないのかうつ伏せ状態のヘスティアに見送られてベルは人混みの中を進んで行く。

 途中、立ち寄った店でテイクアウトの品を頼むべく入る際に二階席から視線を感じた気がするも注文を終え、寝ていたヘスティアの分のサンドイッチを置いてダンジョンへと向かう、その最中。

 

「わっ!?」

 

 急いでいた為に横道から出て来た相手とぶつかりそうになって慌てて止まる。その相手を見てベルは別の意味で停止した。

 

 

「お、お久しぶりです。あの後お変わり有りませんか?」

 

「は、はい。貴女の方は……?」

 

 それは偶然だった。ベルの件もあって上の空な事が増えたレフィーヤは財布を忘れた事に気が付いて一緒に出ていたティオナ達と一旦別れてホームへと戻り、急いで向かう最中にベルと遭遇した彼女も思考が固まった。

 

「えっと、ウィリディスさん? ……はショーの見物ですか? あっ、僕はベル・クラネルです」

 

「は、はい。では、ベルさん、と。私もレフィーヤと名前で構いませんので……」

 

 方や一目惚れの初恋、方や初対面で戦う姿に魅入った上に助ける筈がお姫様抱っこで助けられ、二人揃ってお年頃。

 アーデ兄妹が目にすれば同時に『けっ!!』とコメントを貰うであろう光景だ。とある女神(候補は二柱)が見れば軽くキレそうな光景は周囲の通行人に見られているも二人は気が付かない。

 

「ベルさんは今日もダンジョンですか?」

 

「はい! 神様が新しいナイフを下さったのと、魔法が発現したので試しに……」

 

 嬉しさの余りに少し距離を詰める形でベルがレフィーヤに前のめりに近寄ったその時、モンスターの調教が行われている闘技場の方角から爆音と共に爆煙が立ち昇った。

 

 途端に起きるパニック。行き交う人々が我先にと逃げ惑う中、人混みの中で立ち止まっていた二人の内、先に動いたのはベルであった。

 

「もう大丈夫かな……?」

 

 咄嗟にレフィーヤの手を掴んで横道に引っ張り込んで人の流れから彼女を守る。やがて一頻り人の波が去ったのを確認して我に返った。

 

 一人が両手を広げて通るのにギリギリな幅の中、咄嗟に引っ張り込んだ為に胸で抱き止める形になってしまっている。

 

「は、はわわわわわわっ!?」

 

「だだ、大丈夫! ちゃんと助けて下さった結果なのは分かっていますので!?」

 

 共に純情な二人は赤面しつつ左右に飛んで離れる。もし今は初対面であったり何かの理由でベルに悪印象を持っていたなら反応は違ったのだろうが、僅かなりとも憧憬の相手と重ねた上に助けられている。

 

 ビンタの一つでも喰らったら面白いとアーデ兄妹なら口にするだろうが互いの顔を見られないだけで済んだ二人が通りに出たその時、地面を突き破って見知らぬモンスターが姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 一方、爆発が起きる僅か前の時間帯。公開調教用のモンスターを保管しておく場所にフレイヤが訪れていた。

 目的はモンスターをベルに嗾ける事。元の予定では暫く放置しておく筈だったのだが、偶々姿を見掛けたのだから仕方が無いというのが女神の意見だ。

 

 この時、少しだけ勘違いをしていた。彼女が居た店を訪れた際、先に昼飯の調達を行おうと装備を身に纏っていなかった為にダンジョンに行くとは思っていなかった。

 

「そうね。この子なんて良いと思わないかしら? オッタル」

 

「それが神意なれば……」

 

所で今回気に入った冒険者とはどの様な者なのかとオッタルは思っていた。普段は傍にいるので知れるのだが、今回は謹慎処分が明けたばかりなので知らされていない。アレンからの引き継ぎも無く、フレイヤも恋に夢中な余りにオッタルには話していない事を忘れていた。

 

「何処のファミリアの子かも分かっていないのは本当に困ったわね。でも、凄く綺麗な魂をしていたから絶対に……」

 

 

 

 

「見ぃ〜ちゃった、見ぃちゃった! せんせーに言うてやろ〜。あれ? あれれ? 神の先生って事は神だよねぇ? フレイヤちゃん様の先生ってどんな神なのか教えてくれね?」

 

「……は?」

 

 手に入れる、そう口にしようとしたフレイヤの目が見開かれ動きが止まる。それはベルを見付けた時と同じであり、同時に正反対の反応だ。

 

 声の主は腰まで伸びる紫の長髪をツインテールにし、左右の付け根に拳サイズの球体を取り付けており、右は赤く怒り顔、左は青く泣き顔が描かれている。

 首から下は髪と同じ色の全身タイツであり、腰の少々ゴツいベルトのパックルには黄色い笑い顔の球体。

 

 顔は口元以外を仮面で隠し声は裏声で小柄なヒューマンなのか小人族なのかの判別は付かない。だが、街中で別の服装で髪を染めていてもフレイヤは彼女を見付けたくなくとも見付ける自信があってしまった。

 

 穢れ、曇り、淀み、堕落し、腐り切った色、気が付けばそれを見た己の眼を抉り取ろうと指を伸ばしていた程に酷い色の魂だ。

 それこそラシャプに影響され暴虐の限りを尽くしていたワルサの兵達でさえ比較すれば眩く輝いて見える程。

 

 何故其処までになっても己の存在を許せているのかがフレイヤには理解不能であり、理解の為に思考を裂く事でフレイヤ自身も汚染されるのではないかと思えてしまう。

 

「……今直ぐに消えて欲しいのだけれども、何用かしら?」

 

 魂の色など見えはしないオッタルだが、フレイヤがこの場所に居る事を許さない相手、正確には死して天に魂が昇る事さえ許せず消滅させたいが干渉すらごめん被る相手へと濃厚な殺気を向ける。

 

 それを感じ取ってかオッタルはフレイヤを庇いながら武器を構える。都市最強の威圧に周囲のモンスターさえも萎縮していた。

 

「怖っ! 流石はオッタルちゃん。毒で弱ったザルドちゃんを倒して味付け海苔で漁夫の利フェリーランクアップしただけあるぜぃ! そして名乗って無かったね! アタシちゃんの名前は……仮面の女幹部X!!

 

 それでも尚、仮面の女はふざけた態度を崩そうともしないでいた。両手両足を大きく左右に広げ、全身でXを表現する。タイツに細工がされていたのかXの文字に発光までする程だ。

 

「アタシちゃんの役目は魅了で伸びてるガネちゃん様の下っぱ~ズの尻拭い! 尻拭き損ねりゃ糞まみれ! そ~ん~な~わ~け~で~! 超! 必殺! をお見舞いすんぜぃ!」

 

 左右に少しだけ広げた両腕を後ろに伸ばした仮面の女はその場で激しく足踏みを始めた。その動きは雜で、恩恵を得てステイタスの成長にばかりかまけた者に有りがちな酷い動きだ。

 

 その動きから察せられるステイタスは高いものの、それでも自分には遥かに及ばない物だとオッタルは判じる。

 

「第二級になったばかり程度か。だが……【銀月の慈悲、黄金の原野 この身は戦の猛猪を拝命せし 駆け抜けよ、女神の神意を乗せて】、ヒルディス・ヴィーニ」

 

「オッタルちゃんったらガチ本気~! アタシちゃんったら天に召されて神様逆ハー築いちゃう? あれれ? それって良くね?」

 

 それが下した評価。その上で魔法を使用したのは相手から感じ取った異様な雰囲気。今まで多くの人間やモンスターを打ち倒した彼でさえ不気味さを感じ取り使わざるを得なかった。

 

 消耗が激しい獣化こそ温存するも今この場で消さなければならない何かを感じ取り僅かな緩みも無く敵を見据える中、足踏みを止めてクラウチングスタートの構えを取った相手を見た瞬間、理由も無く感じ取ったのは選択を誤ったという確信。

 

「だがっ!」

 

 その程度の物など女神への忠誠の下に叩き潰すのみと構えた大剣を振り上げる。放とうとするのは【残光】、キリアの【雷影】が斬撃を飛ばす程度ならばオッタルのそれは砲撃。

 女神がやろうとしていた事の隠蔽など微塵も気にせずに振り下ろそうとした大剣はオッタルらしくない不格好な軌道で地面に叩き付けられただけ。

 

「何…だ……?」

 

 そう、落としたのだ。突如襲った脱力感によって武器を支えきれず、武器に振り回され前のめりになったオッタルへ明らかにステイタスが急上昇した女が飛び蹴りを放ち目前まで迫っていた。

 

「武器が重くて持てないオッタル君、そんな君にアタシちゃんのスーパーキック!」

 

「ぐっ!」

 

 蹴りの前に挟み込んだ腕が軋む音。粗雑なフォームからの一撃だった故に衝撃を殺し足が地より離れる事は無かったが、蹴りの反動を利用してバク宙で距離を取った女の動きは明らかにステイタスの急上昇を起こしていた。

 

「アヒャヒャヒャ! 今のアタシちゃんとオッタルちゃんは互角! そんな訳で必殺の……あばっ!?」

 

 両手を交差させ前傾姿勢になった所に飛来した電撃が女を貫き、尻を持ち上げた姿勢で顔面から倒れ込んだ所で更に降り注ぐ電撃。

 

「ヘディンか……」

 

「書類に不備があるからと訂正を求めに来たら何という有様だ、脳筋。強さだけが貴様の取り柄だろう、脳筋」

 

 心の底からの不快感を隠そうともせずに武器を構えるヘディンから再び電撃が雨霰と降り注ぎ女を貫く。

 濛々と立ち込める土煙の中、髪がチリチリになった女が立ち上がった。

 

 

「ぐぬぬぬっ! 男二人でか弱い乙女を狙うなんて卑怯だぜ。アタシちゃんの故郷はド田舎の秘境だぜ。そんな訳で……戦略的撤た……あっ、間違えちった」

 

 髪飾りの片方、笑い顔を地面に叩き付けた瞬間にオッタル

鼻に届いたのは火薬の臭いであり、聞こえたのは間抜けな声。

 

「こっちは煙玉じゃなくって爆弾……テヘペロ。オッタルちゃん達はカンカンで、アタシちゃん完!」

 

 眩い閃光に続いて起こったのは大爆発。演目中の闘技場を大きく揺るがし地面を大きく抉る威力の爆弾は僅かな仮面の破片と焦げた服の切れ端のみを残して女を吹き飛ばしていた。

 

「……一体何だったのかしら?」

 

 既に死んだ筈なのに消えない不快感にフレイヤは呟く。その答えを持っている者はこの場には居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヤベェヤベェ。あれが今の都市最大派閥ね。ゼウス・ヘラには及ばないからって油断してたぜぃ。イシュタルちゃん様も教えててよ。気が利かねぇなぁ」

 

「言っただろう! 機会を伺えと!」

 

「そだっけ? アタシちゃん刹那に生きてるから忘れちった」

 

 

 

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