ダンジョンに儲けを求めて何が悪い!   作:ケツアゴ

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第二十九話

「……いや、人様の家庭に口出しするのは駄目だと思うし、冒険者ならあの程度は当たり前だとも思っているよ。うちの派閥の風習が風習だし」

 

 目の前の光景を眺めながらアルフリッグは言葉を濁すんだが、俺には何が言いたいのかハッキリと伝わっていたんだ。

 

 壁や床の至る所が陥没し、鎖や植物で縊り殺され、刃や爪で斬り殺されたモンスターの血と肉と臓物と灰が周囲に積み重なる中、惨状を引き起こした当人はスッキリした顔をしながら頬の返り血を指先で拭っている。

 

「お前とは妹が小さい頃からの知り合いだから言わせてもらうんだが、もう少し情操教育をだな。まさか最近怒らせたりしてないか?」

 

「大丈夫だ。一つしか買ってないからバレてない」

 

 呪われた武器によって死に掛け、逆に相手を殺して手に入れたからか俺は呪いの品に魅入られている。ゴブニュ様曰く、それも肉削ぎと骨切り丸の呪いだそうで、近くの呪いを引き寄せ喰らい己の力に変えているとか。

 

 それは一種の自慢行為であり、自分達の持つ呪いの方が優れていると主人に見せびらかしているんだとか。

 

 イかれ女はヤンデレの甘えん坊? とか言って頬が切れるのも気にせず頬擦りしてたな。滴る血が刃に吸われて行く姿は異様だった上に俺が使ってたアダマンタイト製の盾を容易く切り裂きやがった。

 

 そんな訳で俺は直感を頼りに置いておくだけなら大して害の無い呪いの品をコレクションしている。一応呪いのせいで価格が下がってた黄金像とかの場合は助かっているんだ。

 

 ……まあ、結構な額を使ってるからリリルカに知られたら困った事になるんだけれど。それを知っているアルフリッグは頭痛がするのか額に手を当てていた。

 

「また呪いの品を買ったのか……。まさか去年の夏に起きた惨劇を忘れたのか? 最後にドヴァリンがボッコボコにされた『ヘディン監修 ラブラブデート大作戦』を!」

 

「あれは半分くらい本人が悪くね? そもそもモテたい女神と眷族が根本的な問題だしよ」

 

 それと今更ながらヘディンが真面目顔でアホな作戦名言ってたの笑えて来る。

 

 切っ掛けは古本屋の隅に落ちていた一冊の本。『真夏に彼氏としたい六つのイチャイチャ』って感じのタイトルで悍ましい執念と神気を感じ取って購入したんだが、その日にヘイズ達の治療帰りにしがみ付かれた時に落とし、それをヘイズが拾って何気なく開いた事で呪われてしまった。

 

 

『イ、イチャイチャしたい! 誰でも良いから、フレイヤ様を強く希望しますが!』

 

『誰でも良くねえよな?』

 

 誰でも良い(男女問わず)からイチャイチャしたくなる発作に襲われる呪いにな! フレイヤ様への狂愛で変な方向に行きそうになっていたけれど!

 

 呪いの原因である女神を知っていたのかフレイヤ様は鼻で笑い、呪いを喰う呪武具の主人である俺に持ち込んだ責任も兼ねてヘイズと一緒に過ごせと命じてきた。

 

 アミッドへの協力要請はヘイズにも責任があるからとさせてたが、助かったよ。だって主神が金の亡者だし。

 

『私の計算では四つ目までを終わらせれば薄まった呪いを喰い尽くすだろう。故に行え。愚かな女神と眷族の怨念を満足させられるラブラブデートを!』

 

 イチャイチャが分からないという問題もこんな感じでヘディンが指揮を取りメレンでのデートを決行。追いかけっこしてナンパしてジュースを一緒に飲んで、そんな風に進めていたら予想通りにとは行かず、ベッドで話していたら呪いは解除。

 

 ホームへ帰還後、揶揄ったドヴァリンがアッパーからの空中コンボを受けてランクアップの礎になったがセーフ。

 

 そんな事もあってアルフリッグには自重しろって叱られているんだが……。

 

「だって亡国の国宝の首飾りだぜ? 大粒の宝石を埋め込んだ黄金の首飾りが四百万ヴァリスってお得だよ、お得。装着したら呪われるけれど!」

 

「何処がお得だ、馬鹿。得じゃなくって毒だ、毒」

 

 

 

 

「……へぇ兄さんったらいつの間にそんなに高価な物を買ったんですか? 魔法に入れないお金は計画的に使う約束でしたよね?」

 

「それは……あ」

 

 思わず返事をして振り返ればニコニコの妹、但し目は笑っていない。薄く開けられた瞼の中から鋭い眼差しが俺を射抜いていた。

 

「じゃあ、呪いが解けたら売りましょう」

 

「え? あれって普通に俺のお気に入りのデザインでさ、普通に使おうと……思うんだが」

 

「売りましょうね。絶対派手な金ピカで悪趣味ですし」

 

「……はい」

 

 俺は妹には優しいが、守り続けるみたいな甘やかしはしたりしない。だが、怒った妹に俺は勝てない。

 

 だって……強くなれる様に俺が育てたら強く育ったんだから。

 

 発展アビリティ、【破砕】と【剛力】が有るんだぜ? 怖ぇって。スキルで荷物持ちが楽になるからって重量武器使わせてたらどうしてこうなった……。

 

 

 

 

 

「壁だな」

 

「壁だろ」

 

「壁か」

 

「壁で良いんだよな?」

 

「「「「壊すか」」」」

 

 絶え間無く迫り来るモンスターを蹴散らしながら向かった先は食糧庫。だが、植物らしい緑の壁に覆われて塞がっている。

 

 なーる。これで他の場所に集中した結果がモンスターの大群って訳だ。

 

 理由は分かったが、次は異変の原因の正体だ。試しにガリバー兄弟による同時攻撃を仕掛けてみれば穴が開いて通路が見えるも中まで緑一色、こりゃ奥に絶対何かあるな。そして何かが居る。

 じゃあ、俺達はどうするかだけれども……。

 

 

① このまま突入。第一級冒険者七人で押し通る

 

② 一旦戻ってギルドに報告。後は判断に任せる

 

③ 戻ってフレイヤ・ファミリア幹部で突入。オッタルが突っ込んでヘディンが魔法撃ちまくれば大体解決。但し遠征中に仲間割れで撤退の経験有り。

 

 考えている間に穴は塞がるし、モンスターの一部って事は無いよな? 有るかも?

 

 未知の敵には格上が居て、既知の敵にも奥の手があって、格下には逆転の一手がある。この時代、どんなスキルや魔法を持っているか分からないんだから慎重になるのは大切だ。

 

 だが……。

 

「……このまま放置したら嫌な予感がするんだよ」

 

 直感は大切だ。盲目的に頼るのは論外だが、何度も助けられて来た。最近も不味い飯屋には行かずに済んだりとか。

 

「まあ、情報を何も持たずに戻ったらヘディンが五月蝿いしな」

 

「不愉快そうに舌打ちするぞ」

 

「眼鏡をクイっとするだけで頭が良さそうに振る舞うからな」

 

「あの眼鏡エルフがな……」

 

 よし! 格上のファミリアの幹部で年上の意見だから俺達は従うしかないからな。中堅ファミリアの平団員だからな、俺達。

 

 

 

 

「来たぞ! 知らないモンスターだ!」

 

 ダンジョンには未知が溢れている。だから未知の場所なら、それ所か慣れた場所にも未知との出会いが待っている。

 故に第一級冒険者となりゃ未知の場所で情報に無い花のモンスターが襲って来ても直ぐに対応可能だ。そうじゃなきゃ死んでるだろ。

 

「……好みか?」

 

 柄に手を伸ばせば吸い付く感覚、武器が目の前の命を欲しがっている。犬が尻尾を振り猫が喉を鳴らして擦り寄る様で普段以上に手に馴染み、抜くと同時に無意識に先頭の一匹の頭を袈裟斬りに切り落とす。

 

 上顎から上を失った体が止まり、灰になる前に次の一体に斬りかかろうとしたんだが、それよりも先にガリバー兄弟が動いていた。

 四身一体、その言葉が似合う連携によって次々に倒して行くが、どうも打撃の効きが悪いな。第一級冒険者の武器だ。陥没させて倒せるが素手だと効かないかもな。

 

 それをたった一撃で四人全員が理解、無言で役割を変えて敵の動きを阻害するのに徹底。俺も妹と連携して動いちゃいるが此処迄じゃない。

 

 武器の違い? そんなのを言い訳にする必要は無い。あれが俺達の向かう先だ。

 

「リリルカ、よーく見ておけよ。お前の魔法の参考になる」

 

「はい」

 

 一歩も足を止めずに進めば奥から次々と現れる新種。第二級冒険者でも一体一体なら連携でどうにかなり、ガリバー兄弟なら何一つ問題が無い。

 

 こりゃ楽が出来そうだが、どうも見られている気がするんだよな。

 

 

 

 

「侵入者、それも手練れの小人族(パルゥム)か。狂信者共では足止めにもならん。あの死に損ない続ける狂人は出ている。……胎児が育つまであと少し。私が出るしかないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベルさん、下がっていて下さい!」

 

 地面を突き破って現れた新種のモンスター。蛇を思わせる姿を前にレフィーヤが選んだのは足止め。

 場所は街中、相手は未知。この場に冒険者は下級の更に新人のベルと自分だけだ。

 

(ミノタウロスを相手に粘る技量は有りますが……)

 

 相手の実力が分からない以上は逃すのが最適、並行詠唱は軽く走りながらでしか出来ないので前衛無しに魔法は使えないだろうが……。

 

「大丈夫。私だってミノタウロスを殴り倒せる程度には動けます。だから誰か援軍を呼んで来て下さいね」

 

 自分は他ファミリアだろうとも冒険者としては先輩。普段なら少し嬉しくなるのだろうが未知の相手を前にした事で気の緩みは生じない。

 

 自分が置いて行けと言われても迷いが生じる、優しいベルなら尚更だと役割を与え安心させる言葉と笑顔を向けて。

 同時に少しでもヘイトを稼ぐべく魔力を練り詠唱を始めれば畝っていた巨体の動きが止まり、頭部らしき箇所をレフィーヤへと向けた。

 

「は、はい! どうかご無事で……足元!」

 

「え?」

 

 目の前の巨体に意識を向けていたレフィーヤが気が付けたのは彼女に視線を向けていたベルの言葉があったから。

 足元に入るヒビ。慌てながらも直感的に飛ぶのと同時に飛び出したのは細長い鞭、いや、根だ。頭部が開いて現れたのは極彩色の花弁と中心部分の大口。

 

(蛇じゃなくて……花!)

 

 深層で遭遇した芋虫に似た特徴に意識を持って行きながらも回避に集中。もし直撃していれば腹部に喰らった攻撃によって動き回れない程に深刻なダメージを受けただろう。

  

「あぐっ!?」

 

 だが、避けられたのは致命的な直撃だけだ。根の速度はレフィーヤの耐久と敏捷では対応し切れない。

 片足を掠めただけで彼女の華奢な体は宙に投げ出され、激痛を感じながら屋台の方へと吹き飛ばされ叩き付けられそうになった時、飛び込んだベルが彼女を抱き止めて着地した。

 

「レフィーヤさん大丈夫ですか!?」

 

「ベル、逃げろって……痛っ!」

 

 足に走る激痛。目を向ければ掠った部分は変色し、これでは動けない。

 

「ぐっ! これじゃあ……」

 

「だ、だったら僕がこのままレフィーヤさんを担いで逃げれば……」

 

 そして助けは未だ来ず、新種は大きな顎を開いて二人へと迫る。どうすれば良いか頭が真っ白になる中、ベルが片手を前へと伸ばした。

 

「ファイアボルト!!」

 

「無詠唱!? でも……」

 

 放たれたのは高速の炎。本来必要な詠唱が無い即効魔法に目を見開くが、同時にその威力の低さも感じ取っていた。

 威力が上がれば長くなる詠唱、逆に短ければ発動までの時間が短くなり威力も低い。下級冒険者、そして魔法が発現したばかりで魔力のステイタスの成長が無いのなら尚更。

 

 正面から直撃したにも関わらず僅かに怯んだだけ。その僅かな時間で回避の時間は稼げたがジリ貧だ。

 

(一体どうすれ…ば……)

 

 先程聞いたばかりの自分を抱えて逃げるというベルの言葉。浮かんだ案にエルフとしての強い羞恥と不安が駆け巡るが……。

 

 

「ベルさん、少しの間だけ背中を貸して下さい。それと難しいとは思いますが……」

 

「詠唱の時間を稼ぐ、そうですね? わ、分かりました。それしか方法が無いのなら……冒険をしましょう」

 

 レフィーヤを抱える腕は震え、顔にも怯えの色が浮かぶ。だが、ベルの瞳は確かに冒険者の物だった。

 

「私の事は気にせず避ける事に集中して下さい!」

 

 貪欲に獲物を狙い無数の根がベル達へと襲い掛かる。後衛であったと言っても第二級冒険者が一撃で深傷を負う威力。

 掠るだけで終わりであろう威力を前にベルが選んだのは相手を視界に収めた状態での後退。ナイフを右手に構え、左手は突き出しつつの後ろ走り。

 

(私よりは遅いけれど、防御慣れている?)

 

 迫る根を魔法で弾く際、正面からではなく角度を付ける事で逸らし、ナイフも迎撃ではなく刃の腹での受け流し。

 推定Lv3以上の攻撃を新米である彼が防ぎ続ける姿に感じたのは慣れ。格上との戦いに慣れ、生き延びる事に特化した動きだ。

 

「っ!」

 

「【解き放つ一条の光、聖木の弓幹】」

 

 それでも受け流す度に腕は衝撃で弾かれ、魔法も連発を続ければ精神力の枯渇が待っている。一手間違えば二人共一巻の終わり。

 人を背負ってそれを続ける事への重圧は確実にベルの心身を削って行くだろう。

 

「【汝、弓の名手なり】」

 

 故にベルの限界が先か、レフィーヤの詠唱が完了するのが先かで二人の命運が決定する。普段頼りにする憧憬の少女は居ない。今居るのは自分を守ろうと必死になる本来なら守るべき相手だ。

 

「【狙撃せよ、妖精の射手。穿て、必中の矢】】」

 

(こんな所で……終われない! ここを乗り越えられない程度なら絶対にあの人には追い付けない!)

 

 周囲を囲う様に広がる根。開かれた大きな口の奥に見えたのは核である魔石。

 

「アルクス・レイ!!」

 

「ファイアボルトォオオオオ!!」

 

 そしてついに完成した光の矢がモンスターの魔石を撃ち抜き、その寸前に迫った根は炎の矢が弾き飛ばす。

 核を失いモンスターが灰に変わった瞬間、限界が来たのかベルも前のめりに倒れ込みそうになり、咄嗟に踏ん張って止まった。

 

「す、すいません。もう足が限界で……」

 

 このままだと自分も一緒に転ぶ事になるから倒れるのを耐えた事を理解したレフィーヤが慌てて降りると同時にベルは倒れ込んだ。

 

 

 

「お、終わったんですよね? レフィーヤさん」

 

「……レ、レフィーヤで良いですよ。私達は戦友……ですので。べ、ベル……」

 

 真っ赤になりながらも差し出した手を取るベルの顔も真っ赤だ。

 

 だが、突如二人の前方から三体の新種が現れる。絶対絶滅の状況でレフィーヤが咄嗟にベルを庇う様に抱き締める中、不意に一陣の風が通り抜ける。

 それはレフィーヤがよく知る風、憧れの相手の物だ。

 

 

 

 

 

「……大丈夫?」

 

 三体の新種を一瞬で切り裂いて憧憬の少女はレフィーヤの前に降り立つ。

 

「凄…い……」

 

「ベル!?」

 

 その姿に目を奪われる中、ベルの意識が途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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