ダンジョンに儲けを求めて何が悪い!   作:ケツアゴ

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第三十話

 かつて闇派閥が猛威を振るった暗黒期にて【白髪鬼(ヴェンデッタ)】の二つ名を持つオリヴァス・アクトという男が居た。

 

 その最期は自分達を囮に冒険者達を呼び寄せモンスターの大群に襲わせるという【二十七階層の悪夢】後に下半身だけが発見された事とされており、這いずって逃げた後がある事からキリアが『即死じゃなきゃどれだけ死に掛けても良い』と無茶をする理由の一つにされている。

 

 そう、死んだ筈……だったのだが。

 

「……来たか」

 

 通路の先、モンスターの栄養源が滲み出る柱に巨大な花のモンスターが寄生し、天井一体を花型の新種が埋め尽くす広間にてオリヴァスは近付く気配に反応して呟く。

 

 腕を組み頭蓋の仮面の穴の奥から睨み付ける入り口を取り囲む様にして構える白装束達はオリヴァスにとって使い捨ての駒。

 完全に魂が洗浄される転生を経ても自らの愛は失われないと妄信し、愛した者の近くに転生させると魂の管理を行う神に唆された死兵。

 

 精々自爆特攻で隙を生み出し食人花(ヴィオラス)や自分が狙う隙を作れと嘲笑を向ける彼の目に入って来たのは絶え間無く飛び込み続ける黄金の矢であった。

 

「ぎゃっ!?」

 

「何、がっ!?」

 

 入り口から飛び込んだ矢は広間で拡散し、数打てば当たるとばかりに見えていないターゲットを狙おうとばら撒かれ続けた。

 敵が見えたなら起爆装置を作動させただろう。そこに恐れは存在しない。

 

 だが、姿も見えない場所から降り注ぐ攻撃になどやられたら無駄死に、契約は御破算で無駄死にでしかないと思えば恐怖が込み上げる。

 

 天井から折り返す矢の雨に手で急所を庇い逃げ惑うが、避けられ床に転がる矢さえも無数の礫になって拡散されて、上だけでなく横からさえも命を奪おうとしていた。

 

「何が起きて……」

 

 この場で黄金の矢や礫を受けても致命傷になり得ないのはオリヴァスのみ。それも身に纏う布地は無事では済まずに貫かれ切り裂かれボロ布へと変わっていった。

 

 最初の矢が姿を見せてから一分程が経過しただろか? 白装束達は己の血で真っ赤に染まりながら転がり、オリヴァスは曝け出された異形の足に視線を向けながらワナワナと震える。

 

 その苛立ちをぶつけようと転がった矢を蹴り飛ばすも部屋に散らばった黄金は宙に溶けて消え去り、漸く侵入者六人が姿を見せた。

 

「本当に殲滅力ならヘディン以上だな……」

 

戦争遊戯(ウォーゲーム)では真っ先に潰さないと駄目だろうな」

 

「でも生きてるの一人だけだぞ。どうする?」

 

「アレで死ぬのなら持ってる情報も期待出来ないし良いんじゃないか?」

 

 暗黒期の地獄を知らない若手冒険者ならば吐き気を催すであろう光景、矢で撃ち抜かれ礫で打ち据えられて内臓や脳漿をぶちまけ散る死体を見ても軽く引く程度のガリバー兄弟に続きアーデ兄妹も姿を見せる中、オリヴァスは煮えたぎる怒りを抑え込み、逆に関心すら覚え始めていた。

 

 平和ボケしてぬるま湯に浸かった者達と侮っていたが、此方側の者が未だ居たのか、と。

 

 油断はしない。先程の魔法は自分に通じないが侮るべき相手では無いと認識し、それでも勝利への確信、或いは盲信は揺らがない。

 

「成る程な。少しはやるか。だがっ! ()()に新しい命と力を与えられた私が負ける筈が無い! 食人花(ヴィオラス)達! この者達を食い殺してしまえ!!」

 

 途端、その声に反応し数百を悠に超える数のモンスター達が動き出す。一斉に口を開いて歯がぶつかり合う音を響かせながら真下の六人に向かって急降下を始めた。

 

「先程の魔法を使う暇など与えぬぞ!」

 

 広範囲を一分間にも渡り攻撃し続ける大規模魔法ならば長文詠唱となるのは必須。どれだけの腕の戦士だろうと術士だろうと、狭い空間で押し寄せる大群を前にしては押し潰されるだけ。

 

「そしてこれはオマケだ! 巨大花(ヴィクテム)!」

 

 駄目押しとばかりに動き出すのは柱に寄生した塔の如き巨大な食人花の一体。第一級冒険者ですら単独での討伐は梃子摺るであろう巨体で擦り潰さんと地を這いながら突き進み、上からは豪雨の勢いで迫る食人花。

 

 大いなる存在によって生まれ変わった自らでさえ切り抜けるのは不可能に近い状態だと勝利を確信する中、小さな声が響いた。

 

「エル・ドラド」

 

 広間の床を黄金が埋め尽くす。魔力円の光を反射し眩く黄金は六人のみを避けて床の上で鋭く隆起した。

 

「馬鹿なっ!? 詠唱も無しにだとっ!?」

 

「うーん。あの声、何処かで聞いた覚えがあるんだが……まあ、良いや。リリルカ、あのデカイ奴に考えた技試そうぜ」

 

「えっ!? あの酔った際にリリが口走った妄言を実際にっ!?」

 

「やろうな」

 

 

 刺激される記憶の片隅に思考を傾けつつも黄金の矢は食人花(ヴィオラス)の口の中へと吸い込まれ、上顎奥の魔石を砕いて行く。魔力に反応するという性質の為に口を閉じて防御するという行動には出れず、降り注ぐ灰も屋根の様に広がった黄金が防いだ。

 

 そのまま傾斜を付けた屋根はオリヴァスに向かって降り注ぎ、それを避けるべく動いた時、灰の滝を突き破ってガリバー兄弟が迫った。

 

「取り敢えず生け捕りにするぞ。……また妹に無茶な要求を」

 

「喋れば良いから肺と頭が無事なら良いよな? ……可哀想に」

 

「おい、影響されてるぞ。 ……まあ、止めないけれど」

 

「もう戻れないな。 ……それで強くなって来たしな」

 

 喋りながらも行われるのは無限の連携攻撃。絶え間無く繰り出される攻撃は一撃でオリヴァスに重傷を負わせられる程の威力では無いのだが、反撃に出る暇すら与えない。いや、回避しようと動いた所を別の角度からの攻撃で崩され、防ごうとしても死角からの攻撃を受ける。

 

巨大(ヴィク)……」

 

「五月蝿い」

 

「もう黙れ」

 

「耳障りな声だな」

 

「一旦喉を潰すか」

 

 喉に叩き込まれる大鎚に指示を出そうとした声が途切れ、伸ばした右腕が宙を舞う。続いて左足が膝下から斬り飛ばされ、腹部に四人の攻撃が同時に叩き込まれた。

 

 肺の中の空気を全て吐き出されオリヴァスの思考が真っ白になる中、白目を向く寸前に見たのは巨大花(ヴィクテム)よりも巨大な黄金のモーニングスターだった。

 

「「「「一旦寝てろ」」」」

 

 そして続けて叩き込まれる追撃。残った手足を潰され、頭と腹部に再び叩き込まれた攻撃にオリヴァスの意識は今度こそ完全に途切れた。

 

「終わったな」

 

「あの二人と一緒に戦うと本当に調子が良い」

 

「多分そういったスキルだろう」

 

「一応は他派閥だ。追求はするなよ?」

 

「「「「それはそうと嫌な予感がするな」」」」

 

 

 

 

 迫り来る巨体を前にしてリリルカは己の愚かさを呪っていた。切っ掛けは先日の商談後、ティオネからのプレッシャーを誤魔化す為に飲みまくって気分良く酔った帰り道に思い付いた事を帰宅後に兄に話してしまったのだ。

 

「やりますよっ! やれば良いんですよねっ!?」

 

 足場にしたのは宙に浮く黄金の台座。その中心でスターフォールを回しながら回転すればオリハルコンの鎖の先の球体の重量もあって遠心力が加わり更に速度は増していく。

 

 その鎖の先のアダマンタイト製のトゲ球体を包み込むのは黄金。回転で、速度が上がっていくのに合わせて更に増え、やがて迫る巨体を超える大きさへとなって行った。

 

「必殺技名も頼んだぞー!」

 

「思いっきり楽しんでやがりますよね!? 後で張っ倒しますからね、兄さん!!」

 

 回転の中心である足場の黄金は回転摩擦によって擦り減って黄金の粉を散りばめながらすり鉢状へとなり、やがて回転が最高潮へと達した瞬間にリリルカは巨体へと狙いを定める。と見え

 

 

 

 

必殺! ギガントメテオ!!!

 

 放たれた黄金の彗星は巨体を轢き飛ばして尚も勢い衰えず、黄金の破片を撒き散らかしながらも突き進む。

 向かった先は残る二体が寄生したままの支柱。

 

 

 この部屋を支える柱は寄生したモンスター諸共超重量の塊によって叩き潰された。

 

 

 そう。この部屋を支える柱が潰れたのだ。

 

 

 

「「「「オッタルか、お前達は!! 少しは考えて動け!!」」」」

 

 文句を言いつつもオリヴァスと飛んで行ったスターフォールを手早く回収するガリバー兄弟。崩落を始めた部屋から脱出すべく地上へ続く扉へと慌てて駆け出して行った。

 

 

 

 

「……何かあったな」

 

 最後、支柱の影に隠れていた球体らしき物を一瞬だけ目にしたアルフリッグだったが回収する余裕は無く、そのまま一同はダンジョンから脱出するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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