この日、ギルドは大騒ぎになった……てか、俺が大騒ぎにしてしまった。
「あれ? キリア君にリリルカちゃん? どうして……きゃあああああっ!?」
咄嗟に脱出先を選んだせいで扉の先はギルドの相談室。一応使わない時は人が居ないからって気を遣ったんだぜ? 向かう際も空室だと直感が告げていたし。
「おい、どうして此処にした?」
「報告に向かう手間が省けるかなって。流石にするだろ? 事態が事態なんだし」
ただ、タイミングが悪かった。まさか戻った直後にエイナさんが物音に気が付いて入って来るなんてな。
しかも四肢欠損状態の男を見たら悲鳴も上げる。ついでに白装束の死体も適当に蹴り込んでたし、冒険者じゃないから流石にポンコツエルフ四号の称号は無しだ。
しかし仮面を剥いでみたらまさかの人物。下半身欠損で死んだ筈のオリヴァスとはな……。
新しく生えた下半身は植物素材、【
何か切り落とした部分が少しずつ再生しているから刻み続けるか黄金で蓋をしなくちゃ駄目だし面倒な事だ。
「これはポンコツ
「取り敢えず肝臓に一発良いですか?」
「「「「そもそも俺達を入れるな、馬鹿、間抜け、
宣言通りのレバーブロー、そして四人同時の拳骨。流石に痛かった。今のは痛かったぞ!
そんな冗談の最中もギルド内部は随分と騒がしく、どうやら他にトラブルがあったみたいだけれど……。
「モンスターの脱走に謎の爆発、そして花型の新種。矢っ張りオラリオに協力者が居るんじゃねえのか?」
「であろうな……」
フレイヤ様が呼んでいるとかでガリバー兄弟が慌てて帰り、代表者として俺が向かった先で何があったのか、それを説明する相手はロイマンだったんだが、他の事件の後処理も控えているので既に胃が痛い様子。
もう百五十過ぎだろ? あんまり無理すんなって。
「深層で出会った人型のモンスターもそうだが、オリヴァスにも魔石があるとなったら寄生して乗っとるタイプか人をモンスターに変える奴が居るって事だ。何か精霊が関わってるっぽい」
「頭が痛い。その様な話、大っぴらに公表すれば大混乱を招くぞ!?」
「まあ、喋れる分だけ情報収集は楽だろ。美の女神の魅了か……オラリオメリーで正気失ったらペラペラ喋るんじゃねえ? 取り敢えず後始末は任せたから」
「ええい! 何でこうも問題が立て続けに起きるのだ!? 只でさえ妙な儀式を行っているという集団の調査をしている真っ最中だというのに!」
憤慨した様子のロイマンは拳をテーブルに叩き付ける。今日一日でも祭りにモンスターの脱走に謎の爆発に俺が持ち帰った情報。
そりゃ嫌にもなるってもんだ。
でも何で連続して起きるかってっと、そりゃ同時作戦とか混乱の隙を狙っての犯行じゃねえのかな? 暗黒期にもあった話だろ?
祭りはガネーシャ様の所が主体になって動いてるせいもあって事後の始末で都市警備の仕事にも支障が出そうな気配。
其処に公には出来ない事件も起きているとなったらギルド長も大変だ。贅沢に逃げる暇もなく動き回る必要が有るんだから。
正直ロイマンに倒れられたら俺は困る。実績が確かな上に清濁合わせ飲め、賄賂を渡しておけば多少の無理はごり押ししてくれる。
渡してる金が無駄になるのも嫌だから……。
「何なら怪しい集団の調査とやらは俺が引き受けるか? 報酬は妥当な額+来月の心付け分って事で」
「ぐぬぅ。確かに貴様に任せるのが楽ではあるが……一つ問題が有る。その儀式は女しか参加出来ぬのだ」
……ふーん。ちと厄介だな。
「大丈夫。これでもオラリオ外に顔が広いんでな。助っ人を連れて来る事も簡単だ」
実際は【シンダー・エラー】を使うんだが秘密秘密。何処の誰が敵か分からない以上、下手に情報は流せないが、知られても良い協力者は欲しいよな。
参加者には一般人やら冒険者がごった煮になっていて、敵だからぶっ潰す! なオッタル並みの脳筋作戦が出来ないのが面倒だ。
せめて首謀者を倒すって決めた時に避難誘導したり陽動をしたり責任を被ってくれたりする奴が良い。
「次の儀式までには日があるからそれまでに見繕うか。リリルカには教育上の悪影響が有りそうだし」
「……あまり派手に動くなよ? 貴様が好きに動いても大手派閥が強く抗議しないのは【神狩り】撃破の功績があるからだ。あの禁忌を鼻歌混じりに犯す狂人が残っていれば負けていたのは此方だった。だが、あの時期を知らん新人や新興派閥はどうなるか」
大丈夫、大丈夫。ちゃんとギリギリは見極めているさ。
ロイマンの忠告に軽く頷く中、そっと資料が差し出される。歌劇の都メイルストラでとある美の女神が主神をやっているファミリアの劇団について。
「前々から招致するかどうか議題に上がっていたのだが……少しばかり問題のある神でな。だが、今回の件で台無しになった祭りの代わりにしようと思っている」
「成る程。それで表向きじゃない方の理由は……ああ、このアフロ何ちゃらって女神にオリヴァスを魅了させるのか。そりゃ神イシュタルが鬱陶し過ぎるからな」
少し前の騒動でギルドはイシュタル達に強く出られない。だから借りを作るのは問題外だが、だからって魅了させるのにフレイヤ様を選んだって知られたら、侮辱されたと怒り狂いそうだし。
「もしかして檻の番人してた奴が魅了されてた?」
ロイマンは答えないが、それが答えだ。どっちがなにの目的でってのは材料不足だが、どっちにしろギルドの要請を軽く請け負ってくれる相手でも無いしな。
「それで俺にアフロ様一行をどうしろと? 接待……な訳が無いか。もっと華の有る奴は居る」
「……貴様がアンタレス討伐の一件で使った黄金の空飛ぶ船について耳にしたらしくてな。それで迎えに来るのならオラリオでの興行を引き受けると言われておるのだ」
……ふーん。良い趣味してるじゃねえか。どんな神かヘスティアにでも聞きに行くとして、確か今はヘファイストス・ファミリアの店舗でバイト中だった筈。
「別に良いが第一級冒険者の時間を拘束するに値する報酬は貰うからな」
因みに俺は稼ぎ効率悪い階層をすっ飛ばせる。後は分かるな?
「私と戦ってくれませんか?」
「はい?」
二人共それぞれ手と足の骨にヒビが入っている、それが治療院で受けた診察の結果だった。相手が強いとか恩恵を受けた以上は男女とも戦いの場で対等とか、今まで教わったけれど僕は悔しかった。
もっと僕が強ければレフィーヤに怪我なんかさせなかったのにって思うんだ。女の子に怪我をさせたって悔やんでいるのを知られたら本人は怒りそうだけれど、女の子は守れって教わってもいるから。
だから僕とレフィーヤがギリギリ一体倒したモンスターを一瞬で三体倒した【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインさん。
出会ったのが先なら彼女に恋をしていただろう光景に僕は憧れを抱いた。勿論、異性としてじゃなくって冒険者として。
彼女の強さに僕は強い憧れを抱いた。次に同じ事があれば今度こそ守りきれる様にって。ザルド叔父さんやオッタルさん、そしてアイズさんの様に強くて格好良い冒険者になりたいんだ。
でも、そんな彼女が病室を訪れての第一声が僕と戦いたい? 意味が分からないんですけどっ!?
「有り難う。引き受けてくれて」
あっ、この人って天然だ。どうしよう、お爺ちゃん……。
理解出来ずに口から出た言葉を聞いたアイズさんは薄い笑いを浮かべる。その人見に敵意は感じないけれど、何か獲物を狙うというか小動物に近付こうとする幼女というか、そんな風に見えた時だった。
「だ、駄目ですよ、アイズさん!? ちゃんと説明しないとベルが困っちゃいますっ!」
「呼び捨てにしてる。何時の間にそんなに仲良くなったの? レフィーヤ。ティオネがフィンに感じてるアレ?」