まあ、ソーマは興味示さないから無いだろうし
何か急に思い出したが、リリルカの魔法で呼び出した三体って使用した血の持ち主の眷族扱いだとか。
神って恩恵を通して眷族と繋がってたよな?
「ヘファイストス大変だ! 前もあったけれど、眷族が勝手に増えたんだよ!? 昨日なんて三個も反応が増えたと思ったら消えちゃうしさ!?」
「何言ってるのよ、お馬鹿。ほら、借金が凄まじいんだからバリバリ働きなさいよ。……正直焼石に水過ぎて下手すりゃ処女神の処女をオークションに出されそうな気もするけれど。流石に無い……と思うわ」
「う、うん。何だかんだで本質は妹想いの良い子ではある……とは思うから多分大丈夫だよ」
ラシャプは送還したし、もう片方はヘスティアだから構わないがな。一応彼奴って神としては上位なんだよな? 見えないけれど。
それは突然の事だった。何処かで昼寝でもしようかと思っている俺に彼奴が話し掛けて来たのは。
「……剣で勝負して。ダンジョンで見たけれど凄かった」
「別に良いが、勝った方がじゃが丸くん奢りな」
何年か前、不意に現れたアイズにこんな事を頼まれたんだが、不運な事に臨時収入があって上機嫌だった俺は引き受けてしまった。
対人戦を安全に積める機会だと思い、安易な判断を下した当時の俺に言いたいのは、最低最悪最大最高の間違いだぞって事だ。
「俺の勝ちだな。じゃあ、約束通りじゃが丸くん買って来い」
魔法無しで先に当てた方が勝ちってルールで負けたらじゃが丸くん奢り。ロキ・ファミリアでちゃんと剣の指導を受けていたアイズだが、頻繁にダンジョンに潜っているせいで観察の機会は多かったので癖を覚えていた俺の圧勝だ。
一合目で受け身に回り、二合目で大振りを誘って三合目で剣を弾いて取りに行こうとした背中を軽く突っついて終了。
ぶっちゃけ互いに構えてヨーイどんで始めるとか実戦では有り得ないから冒険者の訓練としては微妙だよな。
モンスターや闇派閥なんて不意打ちされるしするしだろ?
まあ、俺の方が才能が有ったって事で、大した経験値にならなさそうだと思っていたが、買いに行く筈のアイズが動かない。
「おい、まさか金が無いって言わないよな?」
「もう一回勝負して。次は勝つ」
「頬膨らませて拗ねんな。妹でさえしねえぞ」
これが三回続いたんで強制的に終わらせて、積もった分も合わせて財布の中身は全部没収だ。小遣い稼ぎにはなったと思っていたが……。
「また勝負して」
「今日も……」
「戦って……」
こんな具合に小遣いを稼いでは俺に勝負を持ち掛ける様になった。あまり金を巻き上げ過ぎると主神に睨まれそうだから避け続け、負けたら満足すると思いきや見抜きやがった。
結局、バレてアイズが保護者に怒られるまで続いて、これで小遣いにはなるが鬱陶しい日々からは解放かと思ったんだが……。
「宿題出された。間違い多かったらお勉強増やされる。……教えて」
「いや、同じファミリアの奴に教われよ。俺は商売の準備で忙しいんだ。妹のケツ蹴り上げてでも強くしなきゃならねえんだし」
「ファミリアの誰かに教わるの駄目って言われた。早くダンジョンに行きたいから教えて」
こんな風に戦う以外の頼みまでされる様に。悪どい契約文や金勘定の為にはお勉強も大切なんで渡された問題なんかは楽勝なんだけれど、当然タダじゃ駄目だ。
「取り敢えず全問正解だと怪しまれるし、正答率五割が合格ラインみたいだから六割辺りを狙うとして……幾ら出せる?」
「この位……」
「後でちゃんとやったのか試されるだろうし、簡単な解き方も教えてやるよ」
「どうにか逃げる方法も教えて」
「そんなんだから今回の自体を招いたんだよ」
戦いの時から分かっちゃいたが、アイズは中身は成長してやしねえ。人形みたいな時期で止まっていた分だけ遅れたし遅くなってるんじゃねえのか?
因みにバレたらしい。嘘が顔に出やすいからな、間抜けめ。
フィン達に小さな貸しが作れるかもとこの後も偶に相手をしてはいたが、周りに仲が良い連中が集まったり第二級冒険者になった辺りで五月蝿いのも出始めたんで商売の時以外はあんまり関わらない事にして、只の知り合いだったアイズとの関係性も薄れた、そう思ってたんだがな?
ただ、あの日々を思い出すと頭に浮かぶ事がある。
ウチの妹、拗ねると面倒だな。アイズに関わってたら相手出来ない時間が増えちゃったんだよ。当時は子供だったからなぁ。
それと確か俺から質問をした事が一度だけあったな。
「お前さあ、周りの心配無視して力求めて、その結果何がしたいのよ? いや、違う違う。その倒すべき相手ってのを倒した後。は? ……分からない? ちゃんと考えとけよ、その程度。切り捨てた物と最終的な目的不明の目標じゃ釣り合わねえだろ、馬鹿」
まーったく何を考えているのやら。事情なんて知らねえし知りたいとも思わねえが、その程度は必要だろうによ。
その日その日を生きるのが精一杯じゃあるまいし。
「いや、何やってんだ……」
アミッドの水浴びも終わり、リヴィラに戻ってみれば広場に出来た人集り。中心には困り顔のベルと楽しそうなモルド。
すわ新人潰しかと思いきや、どうやら違う様子。ギャラリーの一人に訊ねてみればベルを気に入ったモルドが軽く稽古を付けてやると言い出したと。
「アミッド、治療費はちゃんと踏んだくれよ?」
流石は荒くれ者の街だけあってちゃんと実力を示した奴は受け入れられる。俺もそうだったから特に言う事は……あったな。
ちゃんとバイトとして働けよ、馬鹿。終わったらヘトヘトだろうと働かせるからな。
「よーし! 俺に三十発入れられる前に五発入れたら帰り道にサポーターとして中層を経験させてやる! 俺達は三人ともLv.2だから安心しな。まあ、五発入れられたらの話だがよ!」
「え、えっと、それは嬉しんですが僕、バイトの方が……」
「そんなん終わってからやったら良いだけだろ。ほら、来いよ!」
「は、はい!」
雇用者側からすれば一言申したいが、盛り上がっている以上冷や水を浴びせれば出張治療院の運営にも支障が出るだろう。
「終わるまで少し掛かるだろうし、騒がしいから少し離れようぜ」
「そうですね。後で治療をしに来れば良いでしょうし」
避ける事と防ぐ事、この二つの技術は徹底的にベルに叩き込まれている物だ。ランクが一つ違う場合のステイタスに上昇値は300や其処らじゃきかねえが、秒で終わる筈がない。
実際、ゴライアス討伐の参加と観戦メンバーの中にはベルに賭けているのも居て、ベルが勝つ可能性はあると思われているんだ。
なのでアミッドを連れて広場から離れていけば向こうからやって来るのは目立つ集団。
ガレスとベートを除くロキ・ファミリア幹部陣の勢揃いだ。
あー、何か猛烈に嫌な予感がして来たぞ。
「やっほー! キリアとアミッドも来てたんだね。デート?」
「いえ、デートではなくお仕事ですよ、ティオナさん。幾ら彼でもデートにダンジョンは選びません。まあ、デートの経験があるかは不明ですが」
……酷くね? 確かに普通のデートとか経験無いし相手も居ないし、そもそもどんな所に行くべきかも知らないが。
そしてアイズは何で頬を膨らませてるんだ。お前、今年で幾つよ?
「私が誘っても一緒にダンジョンには来ないのに……今回は来る?」
「行かねえよ? 近々借金の取り立てがあるし、ミッションも色々立て込んでんだ」
「むぅ……」
俺が断るもアイズは納得してない様子で俺の服の袖を摘まむ。餓鬼の頃から変わらねえ癖だ。
これが【剣鬼】だの【人形姫】とか呼ばれてるんだから不思議なこった。
もう少し感情を表に出しゃ良いものを。俺が考える事でも無いんだが……。
「はわわ。拗ねてるアイズさんって凄く可愛い……」
このポンコツエルフ二号をどうするかも俺が考える事じゃねえっつーか、考えたくない。変人の相手は【神狩り】で十分だしよ。
「おい、保護者。この中身幼女をどうにかしてくれ。それかガレス呼んで来い。何なら俺がホームに呼びに行くか?」