ダンジョンに儲けを求めて何が悪い!   作:ケツアゴ

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第三十六話

「とんでもない! 兄さんはリリを騎士に助けられるだけのお姫様どころか従者とすら扱う気なんて有りませんよ。兄として守りつつも自分の所まで引き上げる気で居ますからね、あの人は!」

 

 取り敢えず話せる所まで話してくれと頼まれてやって来た高級レストラン。流石は最大手ファミリアの主神、予約も無しに個室でランチとか顔が利きますね。

 

 今月の酒代が云々と頭を抱えて悩む姿は見てみぬ振りで話し始めたのですが、一応同行して貰ったリューさんの放った『幾ら守って貰えるとはいえ危険な事をしますね』という言葉に思わず反論してしまう。

 

 手足の欠損を大事だと捉えないのが当たり前になってる今は異常だと認識はしていますからね?

 

「どうせロキ・ファミリアの首領陣には見抜かれているでしょうから言いますが、リリは既に【疾風】よりもランクが上ですよ?」

 

「た、確かに随分と動けるとは思っていましたが……え? 公式よりも二つも誤魔化しを……?」

 

「だって第一級が二人も居ったらミッションとか大変になるやん? ソーマん所はこの兄妹以外は高くても第三級、団長のザニスはダンジョン行く暇も無い激務やし……それ以外もあるやろ」

 

 どうもロキ様には見抜かれている様子。ええ、税金やミッション対策だけがリリのランクアップ偽装の目的では有りませんよ。

 寧ろ別の目的の方がメイン。ええ、簡単な話です。

 

「リューさん、一つヒントを差し上げましょう。ベート様の格下への言動を思い出しつつ先程訂正した内容、そしてかのアストレア・ファミリアの思考になりきって格下だけれど厄介な敵の行動を考えてみて下さい」

 

「それは一体……っ!」

 

「……そういう事かよ」

 

 どうやら思い付いた様子のリューさんとベート様ですが思い当たった様子。ええ、簡単です。兄に守られ少しは成長するも一歩も二歩も届かない大切な妹。

 

 敵からすれば絶好の狙い目でしょう? これでリリの本来の強さを認識されていたら雲隠れしてチクチク嫌がらせをするのでしょうが、美味しそうな餌を前にすれば少なくとも馬鹿は釣れます。

 

 実際、アポロン・ファミリアはリリを狙って闇討ちを仕掛けましたからね。同胞の一人を君からちゃんに変える事になりましたが、あれは本当に見事に引っ掛かって今でも笑えます。

 

「失敬、話が大きく逸れましたね。先ずは三十階層でのモンスターの大量発生についてですが……」

 

 ギルドからの口止めもあるのでモンスターになって生きていたオリヴァスを捕縛した事は伏せ、食人花を養殖していた集団を倒して死体を持ち帰った事と兄さん曰く精霊が関わっている可能性がある事だけを色々濁しながらお話しします。

 

 後はロキ様次第、どうせ勝手に調べるし察するのでしょうからリリ達が契約に違反した訳でも無い。

 

 出来れば知らない間の解決を望みます。これが大きな戦いに繋がるのなら無理でしょうけれど。

 

 

「……んー、隠しとる事も多そうやけれど別にええわ。ありがとうな、リリたん」

 

「いえいえ、お役に立てて嬉しい限りです。何せロキ・ファミリアには商売で何時もお世話になっていますので。次の遠征の時も期待していますね」

 

 何せお金と努力と時間は幾らあっても過分にはならないのですから。

 

 

 

 

 

 

 

「……所で世話になっとるちゅうなら此処の支払い分、ちょっと出すか無利子で貸してくれへん? 大手の主神でも限度があるねん。使い過ぎるとリヴェリアママに怒られるんや」

 

「生憎手持ちは少ないので残念ながら」

 

 あのハイエルフ、ママとか呼ばれてるんですか。生まれが生まれだけに生半可な相手とは結婚出来ないのは分かりますが、子供が居てもおかしくない年齢で未婚なのにママ呼ばわり。

 

 

 いや、自分から飛び込んだ冒険者の世界で一般的な幸せを望むのも妙な話ではあるのですが。それでも同情はしますね。

 下手すればギリの子供ポジションに子供が生まれて……。

 

「……おや? 随分と騒がしい声が聞こえますね」

 

 高級店だというのに妙に騒がしい声が扉を貫通して聞こえて来る。断片的な内容からお祝いの様なので文句は言わないのですが、場所に金を払っている(今回は奢りですが)側からすれば良い気はしませんよね。

 

 どんな連中なのか帰り際にチラッと顔を見てみましょうか。

 

 

 

 

 

 

「おや、アポロン様ではありませんか。お家賃とご返済の方を楽しみにしていますよ」

 

げぇっ!? リリルカ・アーデ!?

 

 何処の誰かと思いきや債務者であるアポロン様一行。団長のヒュアキンストス様と数人の団員……ああ、最近数人ほどが上級冒険者になったとギルドの掲示板で見掛けましたがお祝いでしょうか?

 

 それにしても人の顔を見るなり大声を出すなんて酷いとしか思えない。幾らホームの建物と備品は全ては全て兄さんが貸している状態と言っても、別にお祝い事ならお高い店に行ってもあーだこーだ言いませんのに。

 

「酷い反応やないか、アポロン。まさか今月の支払いが出来へんって訳でも無いよなあ?」

 

「ロキ様、さすがにそれは無いですよ」

 

「……いや、それなんだが」

 

 はい? アポロン様、どうして目をお逸らしに? こんな高い店に来る余裕があるのですよね?

 

「今月になって三人もランクアップしたし、お祝いの席を開いてやりたくなったんだ」

 

「……はぁ。それで今月のお支払は?」

 

「それなんだが偉業を達成したのは良いんだが装備も壊してしまったし、治療にも結構な費用が……」

 

「はぁ。それで今月のお支払は?」

 

 

「それ以外にも今月は出費がかさんでしまって……」

 

 

 

 

 

 

 

今月のお支払は?

 

「体で支払うので勘弁して下さい!」

 

「神なら男娼でも需要有りそうですがポン引きはやっていないので、鉱山での重労働と物好きな金持ちの使用人のどれが良いですか? どれも暫くオラリオには戻れませんからよーく考えて決めて下さい」

 

 勿論眷族の方々には今まで通りダンジョンで稼いでいただきます。効率が違いますからね。

 

 それも無理? じゃあ、返済は待ってあげますが家賃の方は半年間三割増しでお願いしますね。後日契約書を持って兄さんとお邪魔します。

 

 

 

 

 

 

 

「リリたん、エッグいなあ」

 

「そうですか? 酒代稼ぎの為に実の子供をダンジョンに向かわせたり年齢一桁で親を失くしたばかりの子供にちゃんと食事を与えず暴力で搾取する大人ばかり身の回りに居ましたし、マシだと思いますよ?」

 

 それに暗黒期に市民を守るために必死に戦ったアストレア・ファミリアを罵倒しながら石を投げていた市民に比べればマシ……は流石に言いません。

 

 兄さんと違って兄さんという保護者が居てくれたリリはその辺の気遣いが出来るのですよ。

 

 

 

 

 

 

 

ゴライアスと戦ったぁ!?

 

 出張診療所(仮)に響き渡るレフィーヤの叫び声。その声は建物の外にまで響き渡って通り掛かった冒険者でさえも足を止める。

 

 その叫びを至近距離で喰らったベルは先程までの稽古で散々殴られた影響で頬が腫れ上がって、声さえも染みそうだ。

 

「貴方Lv.1ですよ!? 新米ですよ!? その後で格上相手に殴り合いとか何考えてるんですか!?」

 

「い、いや、それはその……。でも、凄く良い経験になったよ?」

 

「うぅっ!? 確かに良い顔してますが、それでも無茶は無茶ですって!」

 

 聞いた話じゃモルドの拳を何発か喰らうも無事に五発入れて勝利したベルだったが、アミッドが戻るのを待っている間に事態を聞き付けた途端に駆け付けて、今は襟を掴んでガクガクと揺らしている。

 

「【銭ゲバ】! 貴方も……あれ?」

 

 俺? 痴話喧嘩に巻き込まれちゃ大変だと退散させて貰ったぜ。ベルを気に入って近くに居た連中も然り。

 

 此処に居るのは大抵が恋人も居ない連中だ。他人のイチャコラとか見せられてもな。

 

 

「……あの子に随分と気を掛けてる。そんなに強いの?」

 

「いや、仕込まれた物は確かでも才能自体はそれ程だ。ステイタスの伸びの方は驚きだがな」

 

 そうやって建物から出てみればアイズの奴が少しソワソワした様子で出張治療院(仮)の方に視線を向け、次に不満そうに俺の方を向く。

 

 

 

 

 

 

 

「おっ! 青春じゃんか、人生って良いって思うよ、人間讃歌! そしてこっちは修羅場だ、バラバラになってみる?」

 

 アイズの背後の屋台の上から響く明るい声。その口調に嫌な奴を思い出し思わず眉間に皺を寄せながら視線を向ければ全身タイツに仮面を装着したアマゾネスの餓鬼(・・・・・・・・)がアイズに向かって笑顔マークで黄色の丸い髪飾りを投げ付けていた。

 

 

 

「やべえ!」

 

 全身に走る悪寒に従った俺はアイズの肩を踏み台にボールへと飛び付くと上空へと蹴り上げる。それが天井の巨大な水晶へと触れる寸前、大爆発を起こした。

 

 巨大水晶周辺の水晶も爆発で吹き飛び破片が降り注ぐ中、一際大きい破片は真下の人物へと落ちて来る。

 

 

「あっ、しくった」

 

 ズドンと大きな音と共に建物に激突する水晶。爆弾を投げた女は建物ごとその下敷きになっていた。

 

 

「ぐっ! アタシちゃんピーンチ! レヴィちゃーん! レヴィちゃんセンパーイ! 愛しのアタシちゃんの大ピンチだから助けてー!」

 

「下半身が下敷きになってんのに随分と元気だな、おい」

 

「おっと、髪を切るのが散髪で、キリアちゃんは辛辣ぅ! そしてレヴィちゃん先輩は来やがらねえ」

 

 腰から下が水晶に挟まれて動けずもがく女に近付いた俺が仮面に手を伸ばした時、口から血を吐きながらもこっちを見て笑い掛ける女の笑みは粘ついた汚らしい物だ。

 

 

 

「アタシちゃんの素顔を見たら驚くぜぃ」

 

「……」

 

 まさか、と有り得ない考えが脳裏を過ぎる。喉笛を骨の一部ごと食い千切った上で折れた刃を咥えて胸に突き刺した。

 最後に死体の顔の右上をアレンが踏み砕いて完全に死んでいる。

 

 

【神狩り】が生きている筈が……。

 

 

 

 

 

 

「え? 誰?」

 

「この流れで知らない顔とか驚いたっしょ? ねえ、どんな気持ち? アタシちゃんの今の顔を見てどんな気持ち? アヒャヒャヒャ」

 

 仮面の下は知らない顔。それを見て固まる俺を笑う女。そして……。

 

 

 

「名乗ってなかったぜ。アタシちゃんは仮面の女幹部……何だっけ? レヴィちゃん、覚えてる?」

 

「知るか」

 

 別方向から聞こえる声。この声は……。

 

 

 あの赤髪の女が殺気を振り撒きながら此方へと近付いて来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベ、ベル。崩れた天井から庇って下さったのはお礼を言いますが……何時まで胸に顔を埋めてるんですか!?」

 

「ご、ごめん!? でも、今動けなくって……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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