……全部思い出した。思い……出しちゃった。
英雄カドモスが倒した邪竜。歌姫の加護によって撃ち倒された筈の怪物は魂だけになって尚存在を保ち、歌姫の血を引く私の歌に惹かれてやって来た。
歌姫の歌の加護を手に入れる為に。
私は歌が好きだった。両親が好きだった。故郷が好きだった。なのになのになのに……私のせいで邪竜が故郷に姿を現して……。
だから私は魅了で別人にして貰った。歌えない歌姫って道化を演じ続ける傲慢で我儘な役者ハルモニアに。
私が歌えば人が死ぬ。
私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が私が……。
「私が何でダンジョンに居るのぉっ!?」
「だってお前が俺達の力を疑うからだろ。ほら、あれが英雄の名を奪ったカドモスの今の姿だ。原種とは結構違うな」
全てを思い出した私は逃げ出そうとして……あっさり捕まった。片手で腰を掴まれて持ち上げられ、その姿勢でアフロディーテ様の計画を知らされたんだけれど、邪竜に実態を取り戻させて倒せる状態にするアイテムを手に入れてオラリオの冒険者で撃ち倒す予定らしい。
それを聞かされても私の恐怖は消えない。滅ぼされた故郷の光景が邪竜カドモスを呼び寄せる歌を歌わせない。
泣きながらそれを訴えたら【
因みに彼を連れて来た時の会話を要約すると……。
『俺さえ良ければお前を連れて来て殴り合いの相手ならしてやれるって言ってる田舎住まいのオッさんが言ってるけれど行くー?』
『フレイヤ様が許してくれたら行くー!』
『良いわよー』
『わーい! フレイヤ様ありがとー!』
『じゃあ、ハルモニアちゃんにオラリオの凄さ見せるからちょっと手伝ってー』
『良いよー!』
細かい所は違うけれど大体こんなもの。そして同じ美神なのに雰囲気とか全然違うと驚いている内にあれよあれよと深層のカドモス前へ。
どうしよう。本当に事態が飲み込めない。
「……その男は器用なのか不器用なのか分からん。少なくとも心の傷を負った者を激励する言葉など持ち合わせていない。出来るのはこうして納得させるに十分な物を見せるだけだ」
私の方を向きもせず【猛者】は言葉を向け、向かって来るカドモスを一撃で両断した。魔石を破壊され灰が舞い散る中、黄金の壁が私に届きそうな物を防ぎ切る。
「どうだ? あれがオラリオ現最強。それには及ばないが俺も含めて強いのは多いんだ。英雄の方のカドモスに倒された程度、袋叩きで終わりだ」
「……何それ。怪物に挑む英雄の台詞としては最悪よ。脚本家は三流ね」
「俺は別に脚本家でもなけりゃ英雄なんて期待に応え続ける事を強制される生贄って認識だからな.合理的に行こうぜ。それで歌えるようになったら公演で聞かせてくれよ」
「あは、あはははははは! 良いわ、ちゃんと聞かせてあげるから、今度こそ公演中に寝るんじゃないわよ!」
「……公演中に寝たのか。流石にどうかと思うぞ」
でしょ? よ、良かった。あれがオラリオの冒険者の普通じゃなくって。
【猛者】は殆ど表情を変えていないのに嗜める時には少し引いているみたいで、オラリオでの公演が少し不安だった私は安心した。
これで大丈夫……。
「にしても作戦で二番目に重要なのは俺じゃね? 一番で必須のハルモニアは事情が事情だから分かるが、迎えに行く前に伝えておいても良かっただろ」
「……お前の場合、被害を想定して歌姫を消すのが最善と判断する可能性があった」
「しねーよ! 精々二度と歌えない様に喉を潰すだけだって」
……大丈夫よね? そして本人の前で何を言ってるのよ、馬鹿ぁああ!!
それからは……うん。故郷を滅ぼした相手じゃなければ同情したくなる程の蹂躙っぷりで。
五十一階層から秒で地上に行けるものだから時間稼ぎの必要はなくって、私の左右をキリアと妹のリリルカが守ってくれているから歌に集中出来たんだけれど、光の矢とか凄い冷気とか雷の砲撃とか色々と撃ち込まれて、撃ち落とした所を宣言通り徹底的に袋叩き。
最後は悲鳴しか聞こえなくって、もう私の歌で皆を強化出来たみたいだけれど、必要だったのかなぁ。
「言っただろ? 袋叩きで終わりだって」
「うん。袋叩きだった」
凄かったな、色々と……。
こうして私は長い間封印していた歌を取り戻し、アフロディーテが誉めてくれたこの歌をこれからも大切にして行こうと思う。
公演? 勿論大成功。初見で爆睡かましたキリアを舞台の上からずっと見ていたけれど、妹さんが肘打ちをしていたから起きていたみたい。
ううっ……。みてなさい! 絶対に最初から最後まで見ていたいって思える舞台を用意してあげるんだから!
「はぁ~。まーた俺が送り届けるのか。面倒臭ぇ」
そして公演が終わり、メイルストラへと戻る手段は再び空を飛ぶ黄金の船。何気に行きとは別のデザインがされているのは凄いのよね。
それを操っている本人は凄く不満そうだけれど。
夜の甲板の上、凄く趣味の悪い黄金の椅子に腰掛けて今回の報酬を数えるキリアの姿を物陰からじっと見詰めていると椅子がクルリと回転してこっちを向いて……。
「ひゃあっ!? 気が付いてたの!?」
「素人の気配に気付けないならダンジョンでとっくに死んでるからな。さっさと寝ろ。冷えるんだし風邪引いて喉痛めたらどうするんだ、馬鹿」
「ば、馬鹿!? ……まあ、良いわ。ちょっと眠れないしお話しましょう」
「……ちょっとだけな。これで体調崩されたらアフロディーテに文句言われるの俺だからな?」
少し胸がドキドキして、不安で押し潰されそうになる。私はゴミ虫、私は萎んだスポンジ、私は地面の食べかす……。
「ねえ、キリア。好きな子って居る?」
「居ないな」
「そ、そう? じゃ、じゃあ、このままうちの劇団に入ったりしてくれたりは……? ほら、用心棒とか足とかで……」
「やるべき事があるから無理だな。オラリオの方が儲けが出るし」
「そっか。……うん、私はもう寝るね」
「さっさと寝ろ」
……はあ。駄目かあ。ちょっとだけ期待したんだけれどな……。
私は笑顔を浮かべたままキリアと別れ、そのまま向かったのはアフロディーテの部屋。ノックもせずに入れば私が来るのが分かっていたみたいにベッドの上に座って待っていた。
「はいはい、今晩はとことん話を聞いてあげるわよ。ったく、アルテミスだけじゃなくってアンタまでとはね。彼奴、ちょっと生意気よ」
「うん……」