「なあ、俺って最近働き過ぎてねえか? カドモスに三十階層に呪詛の本。この前なんて黒の砂漠でヤバい物を発掘してる連中を発見したから襲撃してヤベェ事態を回避したし……」
【マネーイズパワー】を手に入れてから三回目の啓示だったからずっと前に手に入れた情報だが、黒の砂漠……ベヒーモスの灰で覆われた大地で凄い事が起きる、当時の搾取されるだけの俺じゃあ気に掛ける余裕も無くて思い出したのは偶然だ。
まさかベヒーモスを復活させて従わせようとか直感が不味い事態だと知らせてくれて助かった。無事にドロップアイテムは奪って連中は始末。
この場で処分するべきだと思った俺は【エル・ドラド】で操る黄金に変えるべく換金。
魔法が示した市場価値はなんと……猛毒やらが危険過ぎて0ヴァリス! 市場価値まさかの皆無!! 人類の悲願の一つを達成した対価の一つが価値無し!
ザルド達も苦笑い。仕方が無いけれど苦笑い!
連中の裏に居たであろうオーディン辺りの恨みを買って襲撃者が誰なのか探しているだろうから収支はマイナスだよ、畜生! ドロップアイテムで受けた猛毒を癒すのにも大金が必要だったし!
「まあ、そう言うな。世界の危機となればお主の安寧も脅かされるのだぞ?」
「だからって神の不始末まで押し付けるとかさあ……。神ゼウス、約束通り大神の血は貰うって事で」
相手は大神でヘスティアとは同郷、神の寿命からして復活までの一万年程度誤差だろうから別に構わないだろうとは言えない。
まっ、報酬は貰えるから収支はプラスか。
「構わん。ヘスティアの犠牲を避けられるのなら安いものだ」
オラリオから遠く離れた小さな村で俺は嘗ての最大派閥の主神と並んで言葉を交わしながら中年の殴り合いを見ていた。
「少しは腕を上げたな、猪小僧」
「お前は実戦から遠ざかり腑抜けたか? 毒で弱っていた頃は覇気だけは漲っていたぞ」
オッタルとザルドの殴り合いは俺とリリルカのコンビ相手のウォーミングアップの後で行われている。
流石に【暴食】と【猛者】を同時に相手をするのは無茶があってベルの実家は巻き添えで倒壊、俺がちゃんと直しておいた。
「内臓と骨がグチャグチャに混ざり会う感覚は久々でしたよ。リリは死ぬかと思いました」
「普通は死ぬのだがな。治せるからと感覚がおかしくなっておらぬか?」
「そう言われても。それでオリンピアの主神の……」
「プロメテウスだ。アンタレスのドロップアイテムを使いゴブニュが打った武器が有れば最大の問題は解決可能だと伝えておこう。さすれば動きがある筈だ」
オリンピア、伝説とされる都であり、【愚者】扱いされる英雄エピメテウスが生まれた地。
「エピメテウス。あの英雄の逸話こそ民衆の愚かさと英雄の称号の無価値さを表しているよな」
万軍の怪物を倒せる者が幾人居る? 軍を率いれる指揮能力と武力を持ち合わせているのは現代では幾人だ?
確かに厄災には破れたが、一度や二度で心折れず挑み続け持ち帰った情報がどれだけの価値を持っているかも考慮せず愚か者として教訓に使われているんだ?
俺には理解不可能だ。
「英雄の偉業には価値はあっても英雄の称号がどれだけ脆いかを教えてくれるのがエピメテウスの話だ。成功と失敗の被害から報酬を換算したら幾億、いや、幾兆ヴァリスになるやら。……あっ、ベルの奴、好みのエルフの胸に顔を埋めていたぞ」
「その話詳しく! 何と羨まけしからん天晴れだ」
会話の最中もオッタル達の殴り合いは続いている。回りに被害を出さない為にルールを設け、拳打のみ装備無し足元引かれた線より後ろに出たら負け。
事前に土産としてカドモスの新鮮な死体を渡し、オッタルも獣化済み。並みの第一級じゃ秒で終わるだろう二人の殴り合いは暫く続きそうだった。
「治療費は幾らふんだくろうかな」
つまり怪我も相当な物になる。稼ぎ時だ、稼ぎ時。
「アミッドさんお手製のエリクサー二ダース分に色を付けて請求しましょう! 勿論情報で支払っていただき、ロキ様に高値で売り付けるんです」
「最近の子供は恐ろしいの……」
あっ、オッタルが良いの叩き込んだ。やっぱり第一線から退いてるってのは響くか。ベヒーモスのドロップアイテム奪取を手伝わせた件とかゼウスの指示で色々やってるみたいだが、日常的に身内と殺しあってりゃな。
「それこそ新生ヘラ・ファミリアでも呼び寄せないとザルド側は厳しいか。自分を追い詰める的な意味で」
「頼むから絶対止めてくれ。ゼウス、生涯のお願い! あのクレイジーサイコメンヘラヤンデレは勘弁してくれんか! 儂が追い詰められるから!」
必死だな。そんなに怖いか、ヘラが。まあ、衣装にヤンデレの意思が染み込んでるファミリアだったしな。
普通に怖いな、会った事は無いけれど!
「気持ちは分かる。俺もポンコツエルフと社畜に余計な事を言って怒らせてしまっているし。……ほとぼりが冷めるまでは身を隠したい。……ヘイズの所に行く予定さえなけりゃオラリオから暫く離れるんだが……」
ミアさんが肩凝りに悩んでいるらしいからイスラファンの伝統的な軟膏を届けたいし。
「どうせ兄さんが十割悪いのでしょうし、第二級の拳なら受けても大怪我はしませんよ。魔法や爆薬なら話は別でしょうが」
「その別の話になるだろ、あの二人なら。……別の問題もあるしな。【オーライーター】の件で重要なのが」
「能力自体は問題無く伝えるのではなかったのか? まさか他に大きな問題でも……」
俺の言葉を聞いてゼウスの声に動揺が混じる。そう、武器の持つ能力は問題無く使えるんだが、それとは違う根本的な問題が有るんだ。
「俺、弓の腕はそれ程じゃねえんだ。タケミカヅチ様も極東は弓は教えられるんだが微妙に扱いが違っていて」
「……アルテミスに教わったらどうだ? 処女神をただの女神にしたのであろう?」
「何処まで尾鰭付いてんだ、その話。出して無いし出す気も無いから」
狩猟の神でもあるアルテミス様に弓の指南を頼むって考えは俺にも有った。告白を断ったが死ぬ訳でもないし、別に良いだろうって拠点まで行ったんだが居なかったんだ。
「どうもアンタレスの件が解決したから別の場所に向かったらしくて、何処にいるかは直感でも正確には……」
「え? どうすんの!?」
……未だ日はあるし、弓が得意な奴に頼むしか無いか。
弓っつったらエルフか? ヘディンにでも事情話して相談してみるか。
鈍い音が二つ重なって響く。オッタルとザルドの拳が同時に相手の顔面に叩き込まれ、同時に後ろに……いや、ちょっと違うか。
「鼻の差でオッタルの勝ちだな。ザルドの足が先に線を越えた。ベルにも伝えて……」
「あぁん!? ふざけんな! 俺の勝ちだ、俺の! 疑うなら休んでからもう一回するぞ!」
「俺は直ぐでも構わないが、お前はムリなのか」
「テメェの為に言ってやってんだよ、猪小僧!」
「男の人って馬鹿ですよね」
リリルカの溜息混じりの呟きが掻き消える程の声でザルドが叫び、二人とも生まれたての子鹿みたいに震えながら立ち上がる。
脳筋はこれだから……。
オッタル、Lv.8へ昇格。最近起きた事件の不安を掻き消す様にその話題はオラリオ中を駆け巡る。
そして……。
「はいはい、動かないで下さいね。今、背中を洗って差し上げますので」
俺はヘイズに体を洗われていた。