ダンジョンに儲けを求めて何が悪い!   作:ケツアゴ

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第五十二話

「あ〜、自宅が一番だわ。人様の家って気を使うよな」

 

「ですよね〜。ヘスティア様、そちらのお菓子取って下さい」

 

 フレイヤ・ファミリアでの短期宿泊訓練を終え、俺とリリルカは自宅の一つへと戻って来ていた。

 ソファーに身を預けてぐだぐだとしつつ菓子と茶を胃に流し込む。食う物には金を惜しまない派なので無論高級な奴だ。

 

 味の違い? さあ?

 

 飯を用意しなくても構わないのは良いが、好きなメニューを選べないとか大勢で食うのは騒がしいとか酒臭いとか、訓練は良くてもその他が精神的に疲れた。

 

 結局ヘイズの風呂乱入があったし、危うく勢いで童貞卒業する所だったぜ。後から絶対に厄介な事になるから悪戯は程々にしてくれよ。

 

 あー、ソーマ様が製法の説明の絵を描く時に提案した漫画っての? ザニス団長がねーむ? 絵を元に書かされた奴面白っ!

 

 これを読んでも酒造りには参加する気はしねぇが暇潰しにはなるわ。神は人の作った娯楽を楽しむが、神が提供する娯楽も良いじゃねぇか。

 

「おいおい、もっと話し合おうぜ? 穢れた聖火の対処は大変なんだからさ。いや、僕も死なずに済むって安心してるけれど、だからこそ打ち合わせはちゃんとしたいんだ」

 

「そう言われましてもリリ達は聖火を実際に見てませんし、現地に行かずに決められる事は少ないでしょう?」

 

「そうだけれどさー」

 

 未知、不明瞭、大切な物を賭けての行動で怖いのが情報不足。あの前最大派閥だってエピメテウスによってベヒーモスの猛毒やらの情報が無ければ討伐出来たかどうか。

 少なくとも情報収集によって犠牲が出ていた筈だ。

 

 強力なモンスターと戦って手札を引き出して撤退するって難しいからな、マジで。

 

 今回、既にゼウスが様子を見に行ってある程度の情報を持ち帰ってくれている。炎獣に炎人、幻の都はとっくの昔に滅んでいるんだ。

 皮肉な事に救世の為に与えられた聖火が人の持つ負の念によって変質する事でな。

 

 神の力に匹敵する炎が変質するって人の業がどうなってるんだって話で、悪派閥の中には人間を滅ぼさないといけないって信念持った奴も居そうだ。

 

「それでベルには話すのか? 下手すりゃ帰ってこれねえんだから」

 

「うーん。幾ら眷族でも僕よりゼウスの方が付き合い長い育て親の一柱だからなぁ」

 

 今回の件は神の尻拭い、力が封印されていない天界の神でさえ予想不可能で、火を司る女神が自分自身か大地の多く諸共焼き尽くさないと駄目だとか。

 

 俺達同様にヘスティアはソファーでダラダラとしていた。重要な話し合いだからと特別にバイトを休んでだ。自分の命が懸っているにしては随分と呑気な様子だが、不意に姿勢を正すと纏う空気が変わる。

 

「……もし失敗しそうな時は僕を見捨てて逃げてくれ」

 

 債務者と債権者や隣人としての態度ではなく、神と地上の子供達の物へと。

 

 ヘスティアは最悪の場合は自分を犠牲にする方針で、ベルが知ったら止めようとするだろうから話す気は無いらしい。

 

 

 幸いな事にミノタウロス倒しはしたが弱っていた事もあってランクアップには至らなかったらしいし、表沙汰に出来ない危険があるとだけ伝えるとか聞いたが、その場合俺らが恨まれねえ?

 

 返り討ちにするよ? 襲って来たら、当然の如く。

 

「当然。振り返らずに逃げるから役目を果たせ」

 

「あれですよ。億単位で生きてるなら新たに生まれ変わるまでの十万年も僅かな期間でしょう? 平気平気」

 

「君達さぁ……。本っ当にドライだよね」

 

 返事を聞くなり脱力して駄女神に戻るヘスティア。それで良いさ。肩肘張って力んでも無駄だよ、無駄。

 

「報酬が貰える以上は働くが、命が最優先だからな」

 

「神様と違ってリリ達は死者の蘇生なんて出来ませんからね。ヘスティア様に死なれたら返済が滞るので困りますが、だからって命懸けではありませんって」

 

 

 

 因みにオリンピアに向かう際に他ファミリアから不測の事態の対応の為に幾らか戦力が貸し出されるらしい。

 

 聖火については広まれば混乱が生まれるからって極秘だし、ダンジョンで合流してから俺がオラリオ外に連れて行くんだけれどな。

 

 

 俺、矢っ張り働き過ぎだわ。タケミカヅチ様から聞いた温泉でも行きてえ……。

 

 

「ん? 温泉……あっ!?」

 

「どうしたんですか、兄さん? アミッドさんとの約束でも忘れてました?」

 

 その通りだが、温泉って単語で彼奴関連だと分かるって出汁が温泉になる話を広め過ぎたか?

 

 

「悪い。新商品開拓の為に第三者の意見が欲しいから協力頼んでたんだ。時間がヤバいから行ってくる!」

 

 勿論足元を見られたら困るので、遠回しに伝えてるからディアンケヒト様には内緒だ。身嗜みに五月蝿いので、手櫛で跳ねた髪を適当に整え、アミッドとの待ち合わせ場所へと駆けて行った。

 

 

 

 

「お出掛けの目的ってちゃんと伝わってるのかな?」

 

「さあ? 兄さんですし」

 

 

 

 

 

 

 待ち合わせはギルド近くの広場。換金で懐が温まった事で気が大きくなった冒険者目当てに露天が連なる先でアミッドは既に待っていた。

 

 遅刻気味なので不機嫌そうに腕を組んで俺を待ち構えているその姿は普段通りの仕事着だし、多分訪問診療でも先に行ってたんだろう。

 

 まあ、デートでもねぇし良いんじゃねえか? 俺もお洒落してないし。

 

 向こうも俺に気が付いたのか不機嫌さを増した瞳で早くこっちに来いと伝えてきた時だ。空から降りて来て大いに目立ちながら馬鹿(アイズ)が俺に声を掛けたのは。

 

 

 

 

 

 

「キリア、お願いがある。付き合って」

 

「何処に何を何の目的で? 言葉が足りてねえんだよ。それと俺は今から用事だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 称賛は侮蔑へ。英雄の称号は愚物の汚名へ。栄光は没落へ。命を、人生を、全てを懸けて人の、故郷の、世界の為に戦った我が人生は汚泥によって埋め尽くされ今では教訓に使われる迄に貶められた。

 

 だから腹が立った。悠久の聖火すら穢す民衆に、守られておいて斜陽に入った途端に果たした偉業すら忘れ掌を返す者共に。

 

 救世の英雄しか認めない世界に嘆き憤怒し、そして滅ぼすと決めた。

 

 三千年の全てを注ぎ込む計画、女神の命を喰らい穢れた聖火で全てを焼き付くす……筈だった。

 

 外部より示された救世案。必要とされた女神ウェスタの犠牲すら無しにするという計画のピースとなるのは我が栄光を没落へ導いたアンタレス、それを討伐した冒険者とアンタレスの力を宿す武器だという。

 

 おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれっ!

 

 

 絶対に許してなるものかと憤怒を向ける一方、その男に神々が授けた二つ名が気になった。

 

 

「【銭ゲバ】か……」

 

 神喰らいの怪物を討伐し、とある砂漠の国を荒らしていた悪神を止め、何よりも若くして現代の冒険者の中でも最上位の一角に登り詰めた者に贈るにはあまりにもな物、侮蔑としか思えないそれ。

 

 我が果たせなかった偉業を成し遂げたにも関わらず世界の中心であるオラリオに、即ち世界に得るべき栄誉を全否定するかのごとき扱いを受ける小僧がどの様な者なのか少しだけ気になった……。

 

 

 

「少しだけ言葉を交わしてみるか」

 

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