ダンジョンに儲けを求めて何が悪い!   作:ケツアゴ

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第五十六話

 この日、レフィーヤはキリアに対して憤慨と感謝という相反する感情を向けながら帰路に着いていた。

 

 切っ掛けはネーミングセンスに異議を唱えられた腹いせに語られた陳腐な怪談話。即興の有りふれた内容だとレフィーヤは思ったのだが、自分の手を握るアイズの姿は可愛い。

 

「お婆さん居ない? お辞儀しなくて良い?」

 

「あれはアイズさんを揶揄う嘘ですし、そもそもこんな早朝に幽霊なんて出ませんよ」

 

「でも、人間にも夜型が居るから幽霊にも朝型が居ても不思議じゃないってキリアが……」

 

 ホーム近くの空き家の窓から外を眺める老婆の幽霊を無視したら夜中に寝室を訪れる。それが嫌なら老婆に向かって深々とお辞儀をする。

 

 それを信じ切ったアイズはビクビクしながらレフィーヤの手をしっかりと握り、老婆に無視したと勘違いされない為か周囲を不安そうにキョロキョロと眺めていた。

 目には若干涙が溜まり、幼さすら感じさせる。少なくとも、戦場で見せる凛々しい姿はどっかに行った。

 

 憧憬の存在として見ていた強く美しい魔法剣士の姿は其処には無く、幽霊に怯える年頃の女の子でしかないアイズに対してレフィーヤはギャップ萌えで心臓が高鳴り、こんな可愛い姿を見れた事をキリアに感謝しつつもアイズを怯えさせた事は怒っている。

 

「おのれ、キリア・アーデ。そして有り難う御座います」

 

 心の中で拳を振り上げながらお辞儀をする姿を想像しながら件の空き家に近付けばアイズの体がビクッと跳ね上がり、レフィーヤは更にドキドキしていてポンコツエルフ度を上げながら安心させる為に空き家の窓に視線を向ける。

 

「安心して下さい、アイズさん。誰も居ま……居たぁああああっ!?」

 

「!!?」

 

 見上げた二階の窓のカーテンの隙間、誰かが居る気がして凝視すれば皺だらけの老婆と視線が重なった。

 思わず出た叫びにアイズも窓に視線を向けて、老婆と視線が交わる。

 

 声にならない叫び声を上げた二人は猛烈な勢いで老婆に向かってお辞儀をすると一目散にホームへと駆けて行く。

 

 この日から二人は遠回りして大通りに出る様になった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのお二人、どうなさったんでしょうか? リリは隠れ家の掃除に来ていただけですのに。……一応変身して来ましたが別に怖い見た目じゃ有りませんよね?」

 

 拠点バレを防ぐ為の変身を解いたリルルカは窓を完全に閉め切った後で小首を傾げ、そのまま地下通路へと向かう。

 一階の暖炉を掴んで引っ張れば壁ごと動いて現れ、中に入れば自動で閉まる。

 

 其処から別の家、更に別の家へと移動して最後は初老の紳士に変身したまま外に出れば丁度知り合いが前を通る所だった。

 

 

「あれ? 此処も貴女達の家だったんですね?」

 

「何の事でしょうか? 私達は初対面の筈ですが」

 

 なんか良く分からないが変身しても正体を見抜いて来る苦手な相手であるシルとの遭遇に内心焦りながらも、口髭を弄り平静を装う。

 

 兄は彼女が一体何者なのか心当たりがあるそうだが、知らない方が良いので教えてくれないのなら聞きはしない。

 

 兄には従うという事ではなく、兄の判断なら間違い無いであろうという信頼だ。

 

 その返答にシルは意味有り気に微笑みながらも追求はせず、お使いがあるからとさっさと通り過ぎようとして立ち止まり振り向いた。

 

「そうそう。ラキアがまた侵攻を企んでるって話ですよ。全然懲りませんね、前回なんてオラリオの外壁が見える前に装備の三割を奪われたというのに」

 

「それは良い情報をお聞きしました。感謝いたしますよ、マドモアゼル」

 

 迫る戦火もオラリオ住民からすれば日常に大きな影響の無い物事。冒険者からすれば数だけで経験値稼ぎにはならない木端仕事で、商人や娼婦からすれば稼ぎ時。

 

 但し、前回の侵攻では空からの急襲で五割が壊滅、謎の襲撃者に兵士の装備を奪われた上で主神アレスを人質の取られて大人しく撤退する羽目になった。

 

 オラリオには何も知らされず、裏で情報が出回るだけなのだが、普通なら酒場勤めの街娘が知っている筈もない。

 

「まあ、フレイヤ様のお気に入りらしいですし……」

 

 それなら納得しか無いとリリルカが頷いた時、離れた場所から爆発音が響き渡った。

 

 

 

 

 

「今日は呼び出して悪かったね。好きな物を頼んでくれ」

 

「じゃあ、この一番高い紅茶」

 

「それと一番高いケーキをお願いします」

 

 前にフィンから受けていたお茶の誘いに応じたものの、呼び出されたのは小人族向けでも特に格式高いカフェ。

 

 魔石製品の楽器からは静かに演奏が流れ、大きな声で喋る品の無い客は居ない。ぶっちゃけ紅茶の味の違いなんて分からねえが、奢りなら一番高い物を選ぶべきだと思う。

 

 それよりも良いな、アレ。音楽は良し悪しは分かんねえが、黄金製の楽器から自動で音楽が流れるとかインテリアとしては悪くない。

 

「駄目ですよ、兄さん。歌姫クラスの歌声で漸くってレベルの人が持つ物ではありません」

 

「……ドケチ。増えた胸囲は大胸筋」

 

「殴りましたよ」

 

 唸る鉄拳轟く打音。店全体を軽く揺るがす程の一撃は警告無しに叩き込まれる。

 多分第二級なら骨が砕けて失神してたぞ。

 

 

 

「それで用件ってなんだ? アイズに怪談話をしてる事か?」

 

「あははは……。今度も怖がっちゃってリヴェリアの寝室を訪れた程だったよ」

 

「彼奴十六だろ? 相変わらず中身餓鬼のまんまだな。死んだら魂は漏れなく天に昇ってそれ以降は神次第なんだから幽霊なんて居る訳ねえのに」

 

 だから、死者を弔うのは生きてる奴の自己満足、気分をスッキリさせる為でしかない。俺がアストレア・ファミリアの遺髪だのを探しに行ったのも主神やリューの奴への義理立てだけだった。

 

 なので幽霊にビビるのは馬鹿馬鹿しいし、何処ぞの喪女神と眷族の怨念だって解呪や物理で解決出来るんだ。

 

 なので俺達は両親の墓参りなんか行かないし、そもそも墓なんて用意していない。

 死んだら肉塊、元から赤の他人と変わらないんだ。弔う必要が無いだろ。

 

 ……まあ、話を逸らすのは此処迄だ。まさか怪談を度々話す事への文句とか子供の喧嘩に親が出張るみたいな情け無い理由で呼び出したって訳でもないだろうし、早く話せと視線で急かせばフィンの表情が変わる。気の良い中年から最大派閥の団長の物へと。

 

 

 

「率直に聞きたい。連中の裏にいる神の内で正体不明の……“エニュオ”は誰だと思っている?」

 

「普通に考えるなら天界でヤバかったらしいディオニュソス。簡単に変わる筈ねえし、本性隠してるんだろ、どうせ」

 

「リリも同じ意見ですね」

 

 本音ならロキだってヤバかったらしいが俺だって空気を読む。

 

 ……因みにディオニュソスが黒だった場合、フィルヴィスが一人だけパーティ壊滅から生き残ったってのも臭ぇ。

 案外ディオニュソス作の神酒が酔わす事に熱を入れて作った物で操られてるってのも有り得るか。

 

 自分達に可能なら敵も上位互換で可能だって警戒するのは必要だもんな。

 

「となると彼の派閥のホームが爆破され、主神が行方不明になっているのも何かあると考えていた方が良いかもね」

 

「確かダイダロス通りの老婆神も送還されたって話だろ? ……これじゃあ【神狩り】だぜ」

 

 遠征も近いってのに大変なこった。オリンピアの方もきな臭いからフィン達は参加出来ねえし、ティオナ辺りがブー垂れてそうだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおいおいおい、兄の息子は甥! ホームをうっかり爆破しちまったのを怒ってるの? まさかフィルヴィスちゃんが? どうせファミリアの仲間は本当の仲間じゃないのに?」

 

 

「貴様っ! 先程から巫山戯るな! 馬鹿にしているのか!!」

 

「アタシちゃんがそんな人間に見えるかい? フィルヴィスちゃんは化け物だから普通が分からないけれど、巫山戯ながら馬鹿にもしてんぜ! あっ、タンマ! 折角久々を神を斬ったのに殺されちったら余韻が台無し、容赦無しは許してチョンマゲ!」

 

「そうか、死ね。そもそも貴様が人の事を言えるのか? 寄生虫が」

 

「いや、人じゃないじゃん。ぐっはっ!? 本気で心臓刺しやがった。酷い! 人の心も失ったんだ、残ってるのは処女だけ……」

 

 

 

 

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