ダンジョンに儲けを求めて何が悪い!   作:ケツアゴ

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第五十七話

 温厚で神格者として市民、特に女性からの支持が厚かったディオニュソスの行方不明、そして清貧を説いていたベニアの送還。

 

 とある悪神の計画を大きく狂わせる事となった爆破事件は否が応でも市民の心に不安を掻き立てる。

 まるで暗黒期の再来の様だと。

 

 不安の蔓延は治安の悪化を招き、無法者の動きを活発にする。それが更に治安の悪化を招くのだが、それを解消しようと酒や賭博に溺れる者、快楽を求めて歓楽街に入り浸る者などが増え始め、それを収入源にすべく裏で不安を更に煽る者達などが暗躍。

 

 その様な中、不安や不満をぶつける事に大義名分があればどうなるか。そう、例えそれが言い掛かりや噂程度であったとしても……。

 

 

「おい、彼奴は……」

 

「間違い無ぇ。【死妖精(バンシー)】だ」

 

「仲間がまた死んで、主神だって行方不明なのに自分だけ生き残ったんだろ……」

 

「おい、見るな。今度は俺達まで呪われるぞ……」

 

 遠巻きにヒソヒソと小声で、それでも第二級冒険者の鋭敏な聴覚なら間近で話し掛けられているのと変わらない状況で悪評を流され嫌悪と恐怖の視線を浴びながらフィルヴィスは足早に去って行く。

 

「……」

 

 時折背中に向けて投げられた小石が足元で跳ねるも振り返りはせず、然も受けて当然の謗りであるかの様に少しだけ足早に。

 

 切れる程に唇を噛み締め.爪先が食い込んで血が滲む程に拳を握り締める彼女は路地裏に入り込み、ポケットの中の鍵を取り出して古びた一軒家へと入って行った。

 

 表札も掛けられておらず猫の額程の小さな庭は荒れ果て、二階の窓の一部は割れて外壁も少し剥げた空き家。

 窓から中を覗いても埃臭そうな室内が見えるだけなのだが、玄関を開けて見えた内装は別物だ。

 

 床板も壁も手入れがされ掃除が行き届いている。その中を無言で進み、暖炉前の絨毯を剥がせば地下への階段へと続く扉が現れ、更に奥へと進めば広い空間が現れた。

 

「迷わず来たな、ポ……【白巫女(マイナデス)】」

 

「……ああ、暫く世話になる、【銭ゲバ】。いや、キリア・アーデ」

 

 二つ名を口にした途端に失言だったかとフィルヴィスは目を伏せる。何処か無気力ながらも罪悪感が深く浮き出ていた。

 

「別に言い直さなくて良いけれどな。興味無い連中の評判なんて無価値だろ? 気楽に生きろよ。人生ってのは他人の為の演劇じゃねえんだ。主役も客も自分だけだぜ」

 

 当の本人は気にされる方が面倒だとでも言いたそうであったのだが。

 

 

 

 

「ディオニュソス・ファミリアの生き残りを監視してくれ? 嫌だ、面倒」

 

「あからさまに嫌そうな顔をするでない」

 

 ロイマンに呼び出されたと思ったら面倒な依頼。他の奴に頼めよ、他の奴に。

 

 ディオニュソス・ファミリアのホームで起きた大爆発は、主神の命令で偶々ホームを離れていたフィルヴィス以外は死体の一部が発見され主神は行方不明という有り様。

 

 送還された様子が無いのは恩恵が消えてないからされていないんだろうが、それなら目撃者になり得ないだろう路地裏住みの神ベニアが送還されたってのは妙な話だ。

 

 別の理由で狙われたのか、それとも関連があるかどうか……。

 

 

 

「……身を隠す場所は用意しよう。破棄予定の拠点が一軒あるし、ギルドが新築価格の五倍で買い取ってくれたら良い」

 

「いや、五倍は流石に出せる訳がなかろう!? 二倍にしてくれ」

 

「ニ・五倍だ。ちゃんと他から見張れる場所を用意するから安心して買い取れ」

 

 他の問題は身の回りの世話だ。何せ気高いエルフ様、他種族は触る事すら嫌う徹底振りで、だったら森に引き篭もってろ、シェイクハンドは挨拶と暗器発見の為に要るし、他が気を使うだろうが。

 

 うちは洗濯はリリルカと俺のを一緒にしているし、交代制だ。炊事と便所掃除は自分でやらせるとして、買い出しや洗濯は難しい。

 

 なので拠点だけ用意するから世話係は別に用意しろと交渉した結果……。

 

 

 

 

 

「え、えっと、レフィーヤ・ウィリディスです。宜しくお願いします。着替えとか身の回りの品は私達同胞が持ってきますので安心して下さい」

 

「……私にあまり関わるな。お前まで穢れるぞ」

 

 まあ、エルフを多く抱えるロキ・ファミリアにも仕事させろって話だな。

 フレイヤ・ファミリア? 流石にヘイズ達の仕事増やしたら不味いだろ。

 

 

 

 そんな風に仕事が増えたので魅了の香を裏で売ってる連中とか色々と面倒な案件を回されそうになっても多忙を理由に断り、アイズ達との早朝訓練に付き合いつつ過ごしていた俺だが、断れない仕事に辟易としていた。

 

 

「……あー、突入班じゃないだけマシな方か。後は敵襲さえ無けりゃ良いんだが……」

 

 二十四階層でも報告され始めたモンスターの大移動。前回同様に食糧庫が塞がれて連中が何かしてるんだろうと判断して集められた上級冒険者達。

 

 オッタルが突入班に入ってるって事もあり俺は一番面倒な役目を免除されて少し離れた場所での見張り。

 不満があるとしたらリリルカ以外のメンバーだ。

 

「ねーねー! オリンピアってどんな所か聞いてるー?」

 

「まあ、多少はな」

 

 美しかったのは遥か昔。今じゃ穢れた炎に囚われた魂が夜な夜な練り歩き燃料となる人間を求める地獄だって聞いてるぞ。

 

「オリンピア、神時代以前から存在する伝説の都か……」

 

「良いですよねー。この機会に外客を招き入れる様になったら良いんですが」

 

 穢れた炎をどうにかしたら復興支援も必要だろうし可能なんじゃねえか? 観光地としての価値は無いだろうが。

 

 

「はいはい。皆様、モンスターが来たのでお喋りは一旦お終いにしましょうね。【貴方の刻印は私の物 私の刻印は私の物】、シンダー・エラー!」

 

 俺が割り振られた班に居るのはリリルカとティオナとポンコツエルフ二号と三号、その他のヘルメス・ファミリアの団員。

 

 うーん、リリルカのランク詐称のデメリットが出たって感じだな。公開してる情報では第二級になったばかり。

 それでも俺との連携を考えて同じ班になったのは良いが、他に余計な連中まで。

 

 バグベアー群れに向かって分裂したスターフォールが叩き込まれて頭をカチ割り、引き戻すなり群の中央に飛び込みながら次に変身させた姿は鎖の両側から無数の刃が生えた形態。

 

 振るわれる爪や牙を避けつつ振り回して次々とモンスターを屠って行く。

 それに続いてフィルヴィスも飛び込んで短剣を振いながら時折雷の砲撃を放ち、ガン・リベルラの飛び道具から魔法の障壁で後衛を守るなどしていた。

 

「わっはー! 二人共、魔法剣士としての腕はピカイチだね。よーし! 此処はアタシだって」

 

「いや、俺達の役目はヤバい奴が出た時の対応だからな? 雑魚は第二級冒険者に任せて周囲の警戒だ、馬鹿」

 

「え? そうだっけ?」

 

 作戦も忘れて飛び込もうとしているティオナを止めつつも、視線の端にフィルヴィスを捉える。

 

 動き自体は申告通り、磨かれてはいるが連携慣れはしていないみたいだな。

 事情が事情だから当然として連中と一緒に敵に回ったら耐久と回復力えお利用して味方ごと魔法に巻き込む戦い方を選ぶかもな。

 

 

「……おっと、向こうは派手にやってるみたいだな」

 

 遠くでは食糧庫を覆う緑の壁が内側から吹き飛び食人花が逃げ出すも速攻で追い付かれて切り刻まれている。

 

 あの様子じゃ敵の幹部はお留守か? オッタルの奴、不満そうな顔で穴から出てやがるよ。

 

 

 

「こりゃ楽に終わるか? なら助かるんだが……」

 

 オリンピアに向かうのは数日後。大仕事になるから疲れるのは勘弁してもらいたいもんだ。

 

 

 

 

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