アミッドは激怒した。必ずやかの守銭奴に報いを与えんと決意した。
アミッド・テアサナーレはディアンケヒト・ファミリアの団員だ。時に主神の我儘に付き合い、その横暴っぷりに辟易しながらも命を救う為に行動して来た。
そんな彼女が見習い時代、自分の一歳下の年齢で既にL v.3に昇格していたキリアの噂を耳にした。
オラリオからダンジョン内部まで繋ぐ門を出現させる魔法を使え、それを利用してポーション類の高額転売を行っているのだとか。
別に全て買い占めている訳ではないからと先輩団員は咎めず、主神は常連だからと文句は言わないが、死に掛けの者を目敏く発見すると十倍以上の値段で必要な物を売り付ける行為には我慢出来なかった。
彼女は優れた
中にはぼったくりの値段設定に反発して買わず、そのまま命を落とした者まで居ると耳にする迄に彼の噂は広がっている。
そもそも危機に陥った相手の場所も情報の開示が無いだけで知る手段が有るのなら、他にやるべき事があると未熟な頃の彼女は思ったのだ。
だから問うた。命よりお金が大切なのかと。
彼は答えた。それは命より金を惜しんで買わずに死んだ馬鹿に言え、と。
話してみれば、成る程、自分の理念に通じる考えを持っている相手だ。
「金より大切な物なんてあって当然だろ。それを守る為に金が必要なんだよ。そして他人の命より自分と大切な奴の命が優先で、だから他人の命よりお金が大切だけれどな」
俺は利益を齎してくれる相手を贔屓しているだけだ。愛の為に戦う英雄と何が違うのか、そんな風に馬鹿にした感じの言葉を聞かされたが。
訂正、根本的な部分で相容れないかも知れない。それでも激動の時代を同じ都市で生きていれば接する機会も増えるし、一度だけ彼が切り落とされた腕を魔法で元の状態に戻した時は治療院への協力を要請するも断られて喧嘩になった事もある。
これは彼の力で誰かを助けられるという期待に加え。悪評に近い物を流されているのをどうにかしたいという気持ちの現れだった。
その返答はこれである。
「他人の世話焼いて稼ぐより足元見て吹っ掛けた方が時間も節約出来て儲かる。何でそんな事をしなきゃならねえんだ」
彼はお金よりも命が大切だという事には賛同するも、同時に全てお金が重要だと思っている。愛情も友情も結局は贔屓をする材料の一つでしかなく、名声も大衆が利用したいが為の空気作りと自分に都合の良い思い込みの結果であり、期待に背けばどうなるかはオラリオに居れば学べるのに何を見て来たんだと鼻で笑われた。
ついでに治療の腕は成長しても身長と胸は育たないと更に笑われた。
それでも仕入れに来た時に言葉も交わすし、多少無理なクエストも受けてくれるので関係性はそれ程悪くない。
彼の妹であるリリルカが間に入れば尚更なのだが、この間、偶々会った時にとある事を指摘された。
「お前の残り湯って温泉みたいな効果があるんだってな。リヴィラの街とかに売れば儲かるんじゃねえのか?」
「ななっ!?」
「まるで出汁だな」
この後、同行していたリリルカに怒られたからか適当に謝って帰って行くも、羞恥での硬直からアミッドが復活したのは少し後。
しかも他の客に聞かれただけでなくディアンケヒトにまで知られて温泉施設建設計画まで持ち上がった事を彼女は怒っている。
そして今、その仇敵が姿を現した事で考える前に体が動いていた。
「本っ当に貴方はデリカシーが無いのですから困ります。残り湯を商売に使われそうになった上に大勢に知られた私の気持ちが分かりますか?」
「さあ? 分かんねえ。俺の残り湯は洗濯に使ってるし」
デリカシー? 神含めて酒と金の事しか頭に無いファミリアで育ったのに何がどうなったら身に付くんだよ?
俺は今、恨みがましい目のアミッドに頬をつねられている。聖女だの普段の仕事っぷりはクールだのの噂を聞くんだが、結局はガキなんだよ、此奴。
昔は背伸びして大人っぽく振る舞っていたが、成長に伴いガキの部分が残り過ぎている。抵抗しないからって上下左右に引っ張り続けて弄ぶ。
おい、他の客も居るんだから適当な所で止めろって。
「悪かったって。ほら、何時もの出せよ。引き受けるからさ」
仕方が無いので俺から話題を切り出してやるんだが、まさか誘導されてるとかないよな?
此奴と俺の付き合いは客と店員程度だが長い。だから偶に俺が怒らせて、お詫びの名目でクエストを受けさせられる。
俺と違って人望有るからな。此処の薬は高価だけれど品質は良いし、大量発注するんなら関係性は良好が良い。
結果、正規の値段だが面倒な仕事を押し付けられるって訳だ。……計算の上なんじゃね?
「うげっ! ユニコーンの角や人魚の血まで。押し付け過ぎじゃね?」
リストに記載されているのは希少なドロップアイテムの数々。薬効も買取価格も相応だが、これを集めるのは少し骨が折れるぞ、これは。
ああ、確実にリリルカに怒られる。拗ねたら厄介なんだぞ、兄ちゃんに遠慮が無いからよ。
だから文句の一つでも言いたくなるが、この数秒でアミッドは仕事モードの顔だ。
「ロキ・ファミリアもそこまで頻繁に受けては頂けませんので。……なのに急に来ては大量発注する人は居るものですから困ります」
そりゃそうだろうさ。こんなのこなせる奴なんてファミリア内部でそれなりの地位を持っているだろうし。
ああ、だから俺に押し付ける気か。胸と身長だけじゃなく遠慮が無ぇ。
「……何か?」
バレたっ!? まさか俺と同じ発展系アビリティの持ち主っ!? ではねぇか。
「兄さんは何だかんだアミッドさんに甘いですよね」
俺の家はオラリオの町外れ。ホームは酒臭くて堪らないし酔っぱらいが鬱陶しいから買ったんだが、帰って話すなり予想通り。
呆れた風に嘆息してジト目を俺に向けつつもテキパキと探索の準備をしてくれている。
俺に育てられたのに立派に育ったもんだぜ。それでも拗ねているのは俺はリリルカに優しくしているが甘やかしはしないから嫉妬してるのか?
俺が側にいない時は時間稼ぎを、俺と一緒に居る時に俺が殺られたら、俺が殺り損ねた相手を殺れる程には強くなってくれないと困るし。
だからアミッドを贔屓していると思ってるんだろうが……。
「そんなに甘いか? 彼奴には情報殆ど渡してないしよ」
「甘いですよ。じゃあ、今回は費用節約の為に徒歩で行くとして食料と水を買いませんと」
じゃあ、さっさと買いに行こうとした時、玄関をノックする音が聞こえた。
「やあ。ボクは今日から彼処の教会に住む事になったヘスティアだ。よろしくね」
玄関前には小柄な女神。え? あの廃教会に住むとかマジで?