「それで友神に働きながら眷族を探せって言われちゃってさ。挨拶ついでに勧誘しようと思ったけれど、既にファミリアに所属してるのなら仕方無いな」
ヘスティアと名乗った神は竈の女神らしい。神が嘘を吐いても神にも見抜けない。だから俺は内心では疑念を捨て切れずにいた。
本当は悪神の類いかも知れないし、偶然近くに住処を与えられたというのも疑わしい。
家に上がられるのを拒否する理由として玄関近くはわざと散らかしてあるから玄関口で軽く言葉を交わすんだが、嘘が混じらない程度に紛らわしい言葉選びをし、相手を探る。
あー、面倒臭え。アホばっかに見える神だが基本的に人間より遥かに知能が上だし、見抜かれている可能性も高いんだろうがな。
こっちの警戒心に気が付いた様子も無く能天気に話す女神は一見すれば善神の類いだろうが、人間を都合の良い玩具として認識している可能性だって捨て切れない。
「へー。ホームの居心地が悪いから家を買って住んでいるんだ」
「ええ、ですが神様方って少し注目を浴びれば強引な勧誘をして来ますし、リリ達については内密にお願い致しますね」
「勿論だとも。ボクは地上の子供達が困る真似はしたくないからね」
……友達の家に居候して怠惰が過ぎて追い出されるとか絶対に眷属にも迷惑掛けてるだろうに、この女神は呑気な事だ。
「あっ、リリ達は特殊なケースですが、それでも力があるのとファミリアの運営に適しているかは別問題ですし、ヘスティア様が取り纏めるにしろ、事務仕事要員は必要になりますよ」
ウチとか俺達は運営に向いて無い主神は論外って感じで団長に丸投げしているからな。オッタルとか人望無いし女神の護衛が主だからオラリオに居ても書類仕事はどうなんだって感じだし……そもそも冒険者なんて暴力装置としてのし上がろうってのが殆どだからな。
「書類仕事かぁ。そういったのは得意じゃないし、ダンジョンに行く子以外にも必要な人員を探さないとな。参考になったよ、ありがとう!」
女神ヘスティア(暫定)は元気良く礼を言って去って行き、俺達はその背中を見送った後で一旦扉を閉めて顔を突き合わせる。
「あの神様、自堕落で困ると店員さんが話していたのを思い出しました。胸が大きく少女の姿で特徴的な紐の装飾が話に一致しています」
「神なんて元から仕事放棄して地上に遊びに来てるんだろ? 怠惰だなんて……なんてな。そもそも疑わしい話だ」
どんな経緯か廃教会に住み着く事になったらしい女神との挨拶を済ませた俺達はダンジョンに来ていた。
上層は駆け抜け、十三階層からは縦穴を利用してのショートカット、地図は頭に入っているから問題無い。
問題は
「リリルカ、地図を」
だから直感で探す。渡された地図を眺めていると背中の一部が熱くなるのを感じ、続いて地図の一部が気になった。
「此処だな。多分人魚がこの辺を住処にしている……と思う」
「相変わらず便利ですよね、兄さんの発展系アビリティ」
俺が初めてランクアップした時、選択肢には狩人や耐異常の他に初見の物があった。それが【直感】。
まあ、少しばかり勘が鋭くなる程度、絶対当たる訳でも無いから頼りきりは駄目なんだがな。
あくまでも参考程度に留める。半年に一度な上に微妙な情報が多い啓示とどっこいどっこい。どうせなら金運とかその手の方が良かった。
「兄さん、人魚発見です」
「今日の俺達は最高についてるぜ。日頃の行いが良い……事は無いんだが」
物陰に隠れて様子を伺えば人魚は俺達に気が付く様子も無く水の中をゆっくりと泳ぐ。但し一度気が付いたら追い付くのが難しい速度で泳いで逃げられる。
だから……。
「買ってて良かった雷の魔剣」
軽く振れば迸る紫電、それは水を通して周囲一帯へと広がった。この時になって人魚が気が付くが遅い。
電撃が全身を襲い、痺れて動きが鈍った所に追撃。リリルカのスターフォールが水中に飛び込んで鎖で絡め取って陸へと引き上げた。
「さてと、サクサク進めるか」
ナイフで魔石を抉り出せば体は灰になり、血が溢れ出した所を咄嗟に瓶で受け止めた。まさか一発で手に入るとか。
……ふと思ったんだが、人魚を半殺しの状態で拘束しつつ生かしてたら血が取り放題なんじゃね?
ハイエルフってユニコーン飼ってるんだし、モンスターはモンスターなんだから構わない気がするんだが、下手に人間っぽいから忌避する奴が出そうだよな。
その程度は専門職なら思い付くだろうに、やってないって事はやれない理由があるって事だ。
民衆の味方だの正義の女神だの名乗っておいて、人間に倒された程度のリヴァイアサンやベヒモスを神の力で倒さなかったんだからよ。
素人がどや顔で提案しても呆れられるだけってな。馬鹿馬鹿しいから黙っておこう。
「ん? おおっ! 来やがったか、【銭ゲバ】」
粗末な室内で鑑定作業を行なっていた男は俺の姿を見るなり手を止め、親しげな顔を向けて来た
「おーう。景気はどうだ? ボールス」
今回は直感が上手く働いて依頼の品を想定より早く集められたんだが、それでも徒歩で進めば時刻は夜中。
経験値稼ぎの為にリリルカにばっかモンスターの相手をさせていた事もあって十八階層のリヴィラの街まで戻って来ていた。
ならず者の楽園である此処は俺同様に足元を見た強気の値段設定での運営で、束ねているボールスはL v.3のステイタスで破落戸供を上から抑え付けている。
「聞いたぜ。妹の方が遂に俺様と同じレベルになったんだってな。それでも平団員のままかよ」
「酒と金しか頭に無い連中の手綱なんて誰が握るかよ。そういったのは得意な奴に任せておいた方が良いだろ?」
力で此処を維持しているからこそ本来は第一級冒険者なんて目の上のたん瘤、縄張りで好きに動かれても文句が言えない厄介な相手ってのがボールスの認識だ。
俺は特例。ボールスだけじゃなくリヴィラで商売やってる連中の多くに受け入れられているとなりまあ、表面上とか利用する気でってのも居るだろうが。
同業だが商売の場所だのが被らず、上澄みに位置する実力者なのに同じ穴の狢ってのが琴線に触れたか?
冒険者になる奴なんて、他に道が無かった俺みたいなのを除けば大抵は夢を追ってやって来た連中だ。
そして大抵は下級冒険者で終わり、多少素質があっても煌びやかな連中には届かない。だからこそ、第一冒険者でありながら日影者、とても喝采を浴びて名声が広がるタイプじゃねえ俺だから受け入れられているんだろう。
さてと、本題に入るか。
「おい、ボールス。妙な噂とか知っているか?」
「抽象的過ぎるだろ。具体的には?」
「喋るモンスターを見た、とか」
「あっ? んなの絵本じゃあるまいし、人間っぽい奴が言葉みたいに鳴いたのを間抜けが勘違いしただけ……って話じゃねえのか」
馬鹿らしいとばかりに話を切り上げようとして、声を落とし真剣な表情になる。金の付き合いを通して培った俺との関係が今の戯言みたいな言葉を戯言じゃないと判断したらしい。
ボールスは経験豊富な冒険者であり日陰者、地上じゃ扱えない品だって扱うだけあって裏にも精通している。
だから噂が本当だった場合の危険性を察したんだろう。
「そういった魔法や装備品なら出処を押さえれば良いんだが……」
「ダンジョンの変化だった場合やべえな。モンスターなんて頭が良くても結局は獣みてぇに本能で動くけどよ……」
喋る、つまり言葉を理解する知能を持っているのがどれだけ驚異なのか考えてボールスは冷や汗を流した後で椅子にどっしりと腰掛けた。
「仕方無え。妙な噂が無いか集めといてやる。闇派閥の残党の噂を聞いたとでも言っとけば誤魔化せるしな」
何せ何処で話を聞かれているか分からないんだ。マジで困った話だ。
「ああ、多分残ってるよな。台所の油汚れみたいなのが。あの連中のせいで疾風に腕切り落とされたし、」
「おっと、そういやラシャプ・ファミリアってのが随分と暴れているらしいぜ。どうも何処ぞの国に入り込んで好き勝手に暴れているとか。……ダンジョンのモンスターを使ってるって噂もある」
「ラシャプねぇ……」
ちょっと探ってみるか……。