「そんな訳でちょっと外に出る許可をくれ」
「いやいやいやっ!? 無理に決まっているだろうがっ!?」
普段の俺が外で動く時は【エル・ドラド】を目撃されたら皆殺し確定状態で【盗賊狩り】に変身するんだが、リリルカから変身魔法を借りっぱなしにするには暫定ヘスティアが心配だ。
一階の隠し部屋に屋根裏への隠し通路、別の家に繋がる隠し通路を地下に作って襲撃には備えているが、それでも最後の手段として、って感じだ。
なので月一の密会(賄賂を渡す為)の時に外出許可を出したら叫びやがったよ、この豚。
あのサウザントなんったらって二つ名のエルフもそうだが余裕無いんじゃね?
「お前は自分が第一冒険者だと忘れているのかっ!?」
「おいおい、その気になれば自在に抜け出せるってのに交渉しているんだぜ? ……先月は二百、今月は百五十で……」
「ぬぐっ!?」
そんなんだから軽ーく揺さぶれば更に慌て慌てふためく。此奴、ギルドのトップとして立派に働いてるってのに変な所で頭が硬いんだよ。
固定観念ってのに囚われがちってか応用が効かないってか。
「なあ、俺は普通に商売しているだけだ。不正な出入りの手伝いもやっていない。だからアンタも届いた抗議を払い除けてくれているんだろう?」
普段の賄賂は基本その為。酒カスへの抗議? そっちは団長の仕事だろ。あの馬鹿はギルドとは関わりたくないっぽいがな。
「それに偶に無茶な捜査だって引き受けている。それにだ……ダンジョン産のモンスターが戦場に現れたって噂だぜ?」
此処で情報提示からテーブルの下で宝石の入った皮袋を手渡す。その重み(二つの意味で)に少し悩んだロイマンだったが、苦虫を噛み潰した様な表情になった。
「……あくまでギルドからの依頼としてラシャプ・ファミリアの調査に向かったという形にする。そして向かうのはお前だけだ」
「まあ、最初からその予定だよ」
妹の二つ名が分かるのが帰った後からってのは兄として口惜しいが、直感が告げてるんだよな。行った方が得になるって。
俺自身にはラシャプとやらが眷族を使って何をしようが、それでどれだけの血が流れようが気にしない。
モンスターによる被害も戦火による悲劇も貧困による犠牲も世界にあり触れていて、偶々足を運べる距離で起きてるからって介入するとか正直無いわー。
金が儲かるならするけれどな。名声は正直要らない。期待とか名声ってのは都合が悪くなった途端に悪意を割り増しにするって暗黒期で見せられたからな。
ああ、それはそうと啓示が再使用出来るんだった。一回一万ヴァリスの消耗で、何が分かるのやら……。
『今日中に出発しないとフレイヤ・ファミリアに絡まれる』
「よし! じゃあ今から行くか」
「おい!? いくら何でも手続きの時間が……」
「その辺はギルド長の権限でどうにか頼むぜ。じゃあ、そういう事で!」
慌て喚くロイマンを置いて俺はさっさと店を出て、許可は得ているので予め用意していた荷物を担ぐと外壁をよじ登って飛び降りる。
フレイヤ様の所に絡まれるって、どうせフレイヤ様関連だろ? やだよ、面倒臭い。あの連中、見た目に浮かれているだけの馬鹿と違って命捧げる心酔っぷりで、普段は常識的なのが非常識になるんだぜ?
だから俺は普段から酒の匂いを理由に例の酒場には行かないし、息の掛かった場所にも極力関わらない。
向こうも俺は興味の範疇に無いみたいだし、美の女神に関わるなんざ厄介事の種でしかねえ。
「調査名目で観光でもするか。のんびりと過ごして土産話でもリリルカに語ってやれたら良いよな」
確かソーマ様が興味を持ってた酒が砂漠のオアシスにあったし、材料と一緒に買って来てやるか。
それと金さえ渡してたら関わらなくて済むし、ウチの主神は本当に助かるよ。
調査はこっそりと、揉め事はロイマンが五月蝿そうだし起こさない方向で。
まあ、多分大丈夫だろ。普通に旅をしていたら……。
「いやっほぉーーー!!」
灼熱の太陽の光が降り注ぎ砂塵舞う砂の大海原の中、俺は黄金の戦車に乗って爆走していた。牛も戦車も手綱を引く御者も全て黄金。俺が【エル・ドラド】によって作り出した物だ。
幅広の車体の上にフカフカのソファーを固定し、大きめの日傘で日光を防げば砂漠の横断だって心地良い時間だ。
兄ちゃんとして羽目を外し過ぎない様に気負う必要も無く、兄妹の絆があっても一人の時間は必要だって感じさせられる。
だから! テンションが上がっていた!
足場が悪い上に砂丘の高低差が激しいものの実は少し浮いているから大して揺れず、魔法の籠った首飾りによって冷気が俺の体を包み込む。
少ーしばかり高い買い物だったが、少しばかりドガチャカして捻出しただけあって使い易い品だ。
因みにリリルカに知られたら買う前に相談しろと怒られる程度には値が張るので絶対に秘密だ。兄妹間でもヘソクリは許されると思う。
矢の様な速度で戦車は砂漠をかっ飛ばし、通路上に現れたモンスターは黄金の牛の突進に弾け飛ぶ。
灰が降り掛かるのは嫌なのでその瞬間だけ戦車の形を変えて屋根を作り、通り過ぎたら景色を楽しむ為に開けるのを繰り返していたその時、砂漠を徒歩で進む集団が遠目に見えた。
小柄な奴を屈強そうなのが守っている風に見えるし、荷物だって背負わせていない所を見ると親族か護衛か、どっちにしろ危険度は高い。
「大変だな、彼奴等。モンスターだって出るだろうに」
進む方角からして俺と同じリオードの街辺りが目的地か? 少し浮いた戦車と徒歩じゃ数日単位で到着に時間の違いが出るだろうし、苦労しそうだなって思うが、思うだけだ。
あんな少人数なら乗せられるぜ? 何せ未発見の金鉱を安く買い叩いて丸ごと【エル・ドラド】
に入れたんだ。一人に十台用意しても余裕が出るが、助けてやる義理なんて無いし。
遠目に見る限り裕福な商隊でも無さそうで、精神力を使ってやるメリットは感じられないし、さっさと通り過ぎるか。
「うん? 何かに追われてるっぽいな」
先を急いでいる風に見えたが近付くと後ろを気にしているらしい。何から逃げているのかと思ったら砂の中から現れたのはサンドワーム。
ありゃ全滅か生き残っても散り散りか、どっちにしても無事じゃ済まない。
「ん? あれ? 俺の方に向かって来ていないか?」
一団は俺の進行方向の斜め前から交差する形で進み、サンドワームもそれを追って同じ方向に向いていたんだが、戦車の音に反応したのか進行方向を変えて俺の方に向かって来ている。
あーあ、やらかした。調子に乗るからこうなるんだと俺自身に呆れちまうよ。
集団の中で守られていた奴が俺に向かって何かを叫んでいるがサンドワームの移動の音に紛れて聞こえない。
逃げるだけだったのに他人の心配とは立派な事で。でも、世の中ってのは残酷な物で、追い込まれた時に誰かに助けを求めても誰も助けてくれない事が多く、助けたくても助けられない事だって多い。
だから妹を背負って歩き続けたアレンは潰されそうになって投げ捨て、俺は手を引いて強引にでも進ませた。
要するに……この程度で困る程に弱くはないって事だ。
俺に向かって大口を開けて迫るサンドワーム。俺はそれを正面から見据え、地中から生えた黄金の逆杭がその体を貫通、一瞬の痙攣の後に灰になって消え去った。
さてと……どうすっかね。
「彼、随分と強いな。何とか頼れないだろうか……」
「いけません。お……アリィ様。ラシャプ・ファミリアの追っ手の可能性が……」
「しかしシャルザードの事を考えたら……」
全部聞こえてるからな? やっぱり王族か貴族かよ。おって何だよ、おって。お嬢様? 王女様? あー、これ絶対面倒な事になるけれど情報源や囮にちょうど良い奴じゃん。
……せめて街まで送り届けて駄賃貰って別れるか。それなら、これ以上の面倒は起きないだろうし。
警戒する一行の前に降り立った俺は人差し指と親指で輪っかを作って一向に向け、何か言う前に口を開く。
「お困りのようだな。運賃を全員分くれるならリオードの街まで送って行くぜ。但し後払いは無し。現ナマが無いなら装飾品でも構わない。その場合は釣り銭は出ないがな」
さてと、どれだけ搾り取れるのやら。払える物がないなら知らん。勝手に頑張れ。