ジェンティルドンナのにぃに概念 作:おっき!!!
桜花賞は全三話の予定。全部繋げるとエグい量になってしまうので分割しました。
残りは出来次第公開します。お待ちください。
朝日がまだ登りきっていない早朝。春にも関わらず肌を刺す冷たい空気がターフの芝に朝露を与え、それが朝日に照らされて煌びやかに光っている。
白い息を吐き、早朝ながらターフを走るウマ娘。ペースは遅くトレーニングというより調整中と言った感じの走り。
青鹿毛のウマ娘、ヴィルシーナ。今日はクラシックGI初戦となる桜花賞の開催日。そのレースに出走するヴィルシーナは、朝から調整を兼ねてターフの芝を駆けていた。
(━━━━━48、49、50。1ハロン50秒ジャスト。もっとペースを落として)
手元のストップウォッチと比較し、自分の
(━━━━━56、57、58、少しペースが速いかしら。59、60。少し速い、58秒)
ゆっくりペースを落とし、クールダウンにはいる。夕方のレースとはいえ、足に負荷がかかる事は長々と続けられない。早朝に行ったのも、足に疲れが残らないようにする為である。
手元のストップウォッチを見る。58.4秒をデジタル画面に表示させた画面に写り込む自分の表情。少し緊張しているようだ。眉間あたりにシワが寄っている。
解すように顔を揉み、荷物が置いてある場所まで足を進める。ふと、荷物が置いてある場所に見慣れた姿が立っていた。
「おはよう、ヴィルシーナ」
「おはようございます、
ヴィルシーナの担当トレーナー、通称
ヴィルシーナは
「俺が来てからでも良かったんだけど?流石に最後ぐらいは見たかったな」
「……ごめんなさい。でも体のズレがないか心配でいてもたってもいられなくて」
「毎日意識してたらズレの誤差は少ないと思うけどな……。まぁ、ストレッチで身体の仕上がりは確認させてもらうから。クールダウンは?」
「もう済ませてます。早速お願いします」
「よし。じゃあそこに━━━━━」
「━━━━━
冷たい空気の中、凛とした透き通った声が聞こえた。
「おはよう、
「おはようございます、
ジェンティルの視線がヴィルシーナに向けられる。鋭い視線がヴィルシーナに突き刺さる。それに対抗して、ヴィルシーナも負けじと穏やかな瞳を鋭く細めた。
「おはようございます、ヴィルシーナさん」
「……ええ、おはようございます、ジェンティルさん」
ジェンティルも今日の桜花賞に出走する。故に2人は共にレースを走るライバルなのである。しかし担当トレーナーが同じということで、こうして
「……仕上がりは、良さそうですわね。精々2着争いに熱を上げなさいな」
「……こちらこそ、バックダンサーとしてウイニングライブを踊る準備はよろしいかしら?」
「……」
「……」
当日という事でかなり興奮状態なのか、普段よりも煽る言葉が鋭いのは気のせいだろうか。普段のジェンティルは絶対言わない言葉に
「……ジ、ジェンティル。会話も結構だが、早めに調整を済ませたらどうかな?俺はヴィルシーナのストレッチをしてるから」
「……かしこまりました。では、それまで
「……っ、言われずとも。今日のレースが終わった時、楽しみになさって?」
「あら、私と
「そちらこそ、私と
ふん、と鼻を鳴らすジェンティルは、そのままスタスタとターフのコースまで歩いていった。
突如として始まった殺伐な展開に、
「……仕方ないとはいえ、仲良くしような?」
「……それができたら、苦労しませんよ」
ため息混じりに出たヴィルシーナの言葉に、
ジェンティルがヴィルシーナの事をあまりよく思ってない事は
元々ジェンティルの専属トレーナーとして中央トレセン学園に来た
ジェンティルが入学する前に独立を果たせたが、先輩トレーナーのご厚意でそのままヴィルシーナを正式な担当として契約。
信じて送り出した大好きなお兄ちゃんがどの子誰とも分からないウマ娘に
無論、
ターフを走るジェンティルの背中を見つめる
ヴィルシーナもそれを分かっている。だが、言葉で納得しても心の底からそれに納得することは無い。
(━━━━━私がジェンティルさんに思うこの気持ち。不愉快で、だけど決して向けちゃいけないこの感情)
ジェンティルを見つめる
レース当日の朝。3人の思いは少しずつ朝の光と共に陰に押しのけられ、その後は普段通りの調子に戻るのだった。
微かな灰色の雲を漂わせる今日日。夕方頃になった今でも、阪神競バ場内は活気に満ち溢れていた。
本日、GIレース桜花賞。
クラシック級ティアラ路線を進むウマ娘達にとっての、最も重要なレースの一つ。世代の女王を決める一戦が、本日もう間もなくスタートする。
場内のパドックを囲む柵の向こう側は、多くの観客がギチギチに集まっていた。
パドックはレース前に出走するウマ娘達の状態を確認する場所である。レース前のテンションを上げるためのパフォーマンスを行い、レースに挑むための心構えを固める。会場入りする前のウマ娘と観客が心を一つにする最初のセクションである。
枠番の若いウマ娘から順番に姿を表すウマ娘達。今か今かと待ち構える観客達が見つめるのは、今回のレースで最も人気を博するウマ娘の登場。一人、また一人とパドックに姿を現すウマ娘達を見送り、唐突に会場の声がどよめきに変わる。
暗い日陰からコツコツと靴を鳴らしパドックに歩み寄るウマ娘。その全容が日の元で顕になった時、その姿を見た観客達は言わずとも口から極自然に声が漏れだした。本日の一番人気、
去年の暮れ、GIレースのホープフルステークスでも身につけていた赤と黒のドレス。女王の様な華やかさ、薄黒いインナーに覆われた魅惑の肌色。自信に満ちた表情と佇まい。支柱とされているのは醸し出される肉体美から来るのだろうか。
ウマ娘は皆一様に容姿端麗。しかし、事ジェンティルドンナにおいて、そんな言葉では測りえない完成された美が存在していた。
年齢で考えればかなり魅力的な女性的身体をしているが、その内々に秘められた暴の存在が顕著に現れ、女性とアスリート両方を極めた様な肉体をしていた。
「━━━━━あんなの、反則だろ……」
どういう意味なのか、そんなこと一々考える人は今この場にいない。誰もがその声に同意する他なかった。
周りのウマ娘と見比べてみる。明らかに異常だ。アマチュアとプロの実力差を見ているかのような気分だ。
言葉にするのは憚られるが、実力差が有りすぎてレースにならないのではないのかと、ジェンティルドンナの姿を見てそう思わざるを得ない。一番人気である理由も頷ける。
今日のレースは、確実に決まったなと、誰もがそう思った。
「━━━━━来たっ、
何処からかそんな声が上がる。観客達の視線は、自然とその姿に焦点を合わせた。
葵いドレス調の勝負服。少し大胆な、しかし彼女の美しさが引き立つその布面積は、彼女が周りのウマ娘達と身体の仕上がりに違いがあるのだと否応にも分からせる要素であった。
引き締まった身体。内々に秘められた力の上に広がる女性の色味。女性として、アスリートして、双方極めた先に立っているようなそんな雰囲気がヴィルシーナから醸しで 出されている。
観客達は自然と唾を飲み込む。同性、異性。その場にいる誰もがヴィルシーナに魅了されていた。写真を撮るはずのカメラマン達の手ですら止まり、見惚れるようにヴィルシーナを見つめていた。
会場のざわめきが一斉にして止まった。呼吸音すら最小の音で聴こえる。
それ程までに、彼女の仕上がりにはそんな魅力があるのだ。
ジェンティルが肉感で満ちた女性像であるならば、ヴィルシーナはモデルのようなスマートな美しさを持つ女性像であろう。
桜花賞。レースが始まる前から、既に注目の2強は鎬を削っていた。
視線が交差する。貴女には負けないと、私の前に平伏せと。
やがてパドックが姿を消していくウマ娘達。観客達は皆思う。今日のレースはとんでもない事が起きると。期待の度合いが更に上がった。
我先にと1番いい場所取りをすべく、押し合いを繰り広げながら観客達はその場を後にした。
ふと、置き去りにされた新聞の見出しにこう書かれていた。
女王の戦線、解放。
『会場の皆様、ターフにご注目下さい。本日出走するウマ娘達が堂々と姿を表しました。一番乗りは1枠1番フェルトルティ、チューリップ賞を制しやって来ました。1枠2番はこの子、アテルフェルネス。惜しくもチューリップ賞では2着ではありましたが、本日気合十分。そして━━━━━』
会場では既にターフに現れたウマ娘達を一人ずつ実況者が紹介していた。若手で有りながら、今最も競馬ファンの中で注目されている女性アナウンサー。解説席には初の女性トレーナーとして活躍した元トレーナーが座っている。
『彼女を待ち焦がれ幾星霜、ジュニア無敗の王者ジェンティルドンナ。無傷で挑みます桜の大輪。5枠10番伝説の一歩となるか━━━━━』
『ここで悲願となるか。百戦錬磨のジュニア女王。最も倒したい相手はすぐ目の前。7枠15番ヴィルシーナ。研いだ刃が今輝く━━━━━』
『さあ、卯月の春空の元行われます阪神競バ場、本日のメインレース。GI、桜花賞。桜の花道を駆け抜け、春の冠その頭に飾るのはどのウマ娘か。現在バ場状態良好、生憎の曇り空ではありますが、優駿達の輝きまでもは曇らせられない。今、春風の中ファンファーレが奏でられます』
陽気な春空の元、ファンファーレが響き渡る。その音がGIレースを開始させる合図だ。観客のボルテージはMAX。今日のバ場入は凡そ7万人。入場制限を軽く超える人数が集まっている。入り切らない観客は外に設置された巨大モニターを前に観戦する。GIレースと言うだけ人が多いが、今回は更に拍車をかける注目のウマ娘が走る。皆一様にそのウマ娘を見ようと阪神競馬場に集まっているのだ。
ファンファーレの演奏が終わり、会場中から拍手と喝采が巻き起こる。芝上では既にウマ娘がゲート入を始めていた。
『さぁ今日の展開はどうなると思いますか』
『矢張り18番が逃げますね。前走の痛手もありますが、先頭につけると好成績を残すウマ娘でありますから、恐らくペースメーカーは彼女が行うでしょう』
『上位3人の人気がそこまで離れていないのはどうみますか?』
『いや〜私は、……う〜ん。あや、なんでもないんだよ?ええ』
『ちょっと聞き辛い話振ってしまいましたね。どのウマ娘も魅力的という事でよろしいでしょうか?』
『どのウマ娘も甲乙つけ難いでしょ。去年の暮れのジュベナイルフィリーズとホープフルステークスを勝った両バが1番2番人気を取ってるのは当然分かりますし、3番人気の子もジュベナイルフィリーズ2着以外ここまで1着をもぎ取ってる実力者ですからね。何なら4番人気の子も3着ですから。前回はヴィルシーナに勝ち星を与えてしまった2人ですが、今回はその雪辱を晴らす機会でもある訳ですからね。私からはコメントしずらいねぇ』
実況者が話す通り、確かに今日の人気は上位層の人気がかなり競り合っている。
ジェンティルが一番人気、ヴィルシーナがかなり僅差で二番人気。三番人気四番人気もかなり接戦状態。ジェンティルは一人
三冠路線世代筆頭とまで呼ばれていたジェンティルも、マイルGIを走った上位3人も纏めてティアラ路線に殴り込んでいった。
今年一年は恐らく、ティアラ路線が大いに盛り上がる事であろう。
『仕上がりはどうでしょうか。パドックでみた限りだとジェンティルドンナとヴィルシーナがかなり仕上がってるようですが』
『あやや〜、あの2人はちょっと凄いよね。正直身体の出来じゃワンツーフィニッシュですよ。何したらあんな肉体美を作れるんでしょうね?見ました?さっき2人とも軽く体を解す感じで体を動かしてましたけど、その時背筋が異常な隆起してたんですよ。アレね。ヤバいの一言ですよね。通常、ウマ娘ってボディビルダーの様に筋肉をつけても体の表面に筋肉の隆起が浮き出にくいんですよ。なのにあれ程身体に浮き出てる筋肉の密度。見た目周りの子達と変わらない体格であるにも関わらず、中身はまるで別モンですよ。いやはや、恐ろしいですね。学会で机上の空論だと思われてた事が私の目の前で起きてるって考えると、今日の注目は自然とこの2人に集まっちゃいますよね』
『そこまで仰られる程なんですね。確かに言われてみるとトゥインクル・シリーズを始め、地方のレースでも筋肉ムキムキのウマ娘はいませんね。スピードを求められるレースにおいてスピードを出すための必要分のみを搭載したと言ってもいい身体を持つウマ娘達には筋肉の質というものかやはり違いますから。ムキムキのウマ娘はバンエイのウマ娘達と言うイメージ。しかしそれを前提にしても、仰られるようにあの身体に秘められた鍛え抜かれた筋肉量は前代未聞。何かと話題の注目になっていた期待の新人トレーナーの技量が今ここで披露されるのは必然という事でしょう。さぁゲート見まして既に奇数枠は無事に入っている。5枠10番1番人気ジェンティルドンナ悠々と入ります。その隣6枠11番今日は4番人気アイムシーズ。気迫は十分。続々と続いて入っていくゲート。ここにいます2番人気7枠15番ヴィルシーナ。いい感じに落ち着いてますね』
『ゲート難を示さない子がこの世代は多いですからね。観客としても、安心してみてられますよ』
狭い場所、自分の身体を満足に動かせない場所に入るのを拒むのは自然の摂理である。自分を害することはないとは分かってはいるものの、ほんの少しの恐怖心が1歩、歩む脚を拒ませる。
集中力が高まっている時ほど身体は機敏に五感を会するため、それが返って大きな緊張にも繋がってしまう。
ジッと、目を瞑り集中力を高めているジェンティルとゲート入りを待つヴィルシーナを見つめながら、俺は固唾を飲んで視線を場上に忙しなく動かしていた。
2人ともゲート訓練も一発で問題ないと判断できたレベルなのでそこまで気にしてはいなかった。レースもヴィルシーナはかなり出走慣れし始めてゲートに気にしなくなっただろうし、ジェンティルも持ち前の精神力で何処吹く風。
肝心なのは、俺が2人よりも
「………
「……た、たしかに。トレーナーさん、出走するウマ娘達よりも緊張してるよ?」
「……んぐぬ、流石に俺も緊張してしまうよ……」
去年もレースに出走はしていたが、クラシック級となると諸々の重みが増した気がする。
レースに出走していた事もあって、2人にはそれぞれ応援してくれるファンの人達が出てきた。グッズ販売も既にいくつか展開している為、世間にはしっかり周知されている。故にファンが増えたことで、それによって彼等からの期待や熱望が自然と集まってくる事になる。その期待が、トレーナーである俺にも押し寄せてくるのだ。
そしてクラシック級のレースは、トゥインクル・シリーズを走るウマ娘達の夢の大舞台。まだ見ぬ栄光を、光景を、光り輝く玉座の席を。1年を通して行われる一世一代の大演舞。そのレースを走るウマ娘達は皆一様に目指す目標の為に文字通り全てを費やしている。生半可な気持ちでこの場にいるウマ娘なんて居ない。
殺伐とした空気が、まるで乾いた風の様に頬をザラザラと撫でていく。芝生の上にいるはずの彼女達は、ダートの土よりも乾燥した荒野に佇む引き金に手をかけた西部劇のガウマン。射殺さんとする殺気に満ちた戦場の風景。
その雰囲気に思わず固唾を飲む。油断すると、この圧倒的な威圧に意識を持っていかれそうだ。
「……けど、確かに流石GIレースって感じだね」
「お姉ちゃんは去年も走ってたよ?」
「それだけクラシックレースは重要だって事だよ。……いつか、僕もあの舞台に……っ」
いつか自分もあの場所に立つ。そう意気込むシュヴァルを横目に、俺も緊張しながらも気合を入れてレースを食いみるようにする。
シュヴァルの言う通りクラシックレースは重要なのだ。シニア級に上がれば二度と出走出来ない奇跡の一年。
誰も彼もが憧れるその舞台に立つ彼女達は、今や憧れを捨て挑戦者となった。夢を夢だけで終わらせられるのは誰にだって出来る。夢を叶える事は難しい。
彼女達はまさに今夢を叶えようとしている。たった一つの冠を。一つの輝きを手に掴むため、彼女達は今改めて
最早彼女達の目にはターフの先しか見えていないだろう。強い闘志を燃やす彼女達の心は、自ずと一つの結論に至っている。
「……だけど君達は、そうやって
俺の視線の先にいる
息を整え、きっと頭の中では幾つもの作戦を考えている落ち着いた表情の中に口元を緩めた姿を見せる青い
彼女達は孤独な挑戦者でありながら、自身の夢の舞台に降り立った挑戦者でもある。獰猛に、渇望を欲し、手の届かない光に己の物だと強い自我を持って手を突き出す猛獣の如き。
プレッシャーが。威圧感が。緊張感が。背筋を擽り、そんな逆境に思わず口元の力が緩む。
『さぁ大外逃げ宣言オヤフネが入ります。クラシック級ティアラ一冠目GI桜花賞━━━━━』
━━━━━頑張れ、
『━━━━━スタートしましたッ!!』
━━━━━悔いのないように、戦ってこい!!
桜花賞が花開いた。
デカティティボインがっちりジェンティルvsボンキュッボンモデルヴィルシーナ……FIGHT!!