ジェンティルドンナのにぃに概念   作:おっき!!!

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……やばい期待がやばい……っ。



ちょっと後書きで語ります。、




 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

可愛らしい小さなウマ娘と出会って数日が経った頃だ。

かなり懐かれてしまった俺は、夏休みという事もあって、ウマ娘━━━ドンちゃんと毎日のように遊んだ。

 

彼女は夏休みを使って、隣町の別荘地帯で過ごす予定だったそうだが、俺というイレギュラーと出会った事で、毎日が俺との遊ぶ日となってしまった。

夏休みの宿題とか終わってないのでは?と思ったが、ドンちゃんは夏休みが始まる前に粗方終わらせているらしい。終わってないのは俺だけである。

 

 

うだるような夏の暑い時間は続く。朝は日が昇り切るまではそこまで暑くは無いが、昇ってしまえば夜まで暑くなる。夜も暑いが、昼間は比にならない。

コンクリート道路の上に寝っ転がって、地面からゆらゆらと揺らぎ上がる陽炎を見るのが昔は好きだったが、今はなんであんなことをしていたのだろうかと不思議に思うばかりだ。

 

今日もドンちゃんと遊ぶのだが、今日は嗜好を変えて遊びに行く事にした。

海無し県ことうちの県は、有名な川が流れている。鮎が有名なその川は、川遊びをするには危険ではあるが、キャンプ場の傍も通っている事もあって、県外の人からも親しまれている。

そんな川の畔で今日は県内一の大きなお祭りがあるのだ。堤防の車道を規制し、1キロ以上にもなる長い距離で屋台が出される。花火の打ち上がる数もかなり多く、所謂夏といえばコレというお決まりの行事である。

 

ドンちゃんとはお祭りを一緒に回ると約束しており、日中は準備やドンちゃんの習い事等で潰れてしまう為に、夕方までは俺は暇なのである。いや夏休みの宿題終わらせろよ。

 

 

勉強机の前に座り、何とか一教科終わらせることが出来た折り、急にやる気がなくなってしまった。全然残っているという訳では無いが後ちょっとで終わるという量でもない。

部活動ならまだまだ3年生でも目指せる大会はあるだろうと思うかもしれないが、ぶっちゃけやり切った感があるし、何より受験勉強に本格的に力を入れる奴らがいるから、俺が言ったところで人数が足りないのだ。1、2年だけでは試合が出来ない。つまり、うちの部活は3年が抜けたら暫く大会は出場出来ないのである。可哀想。

 

とはいえ、俺も受験勉強をしなくてはならないため、宿題なんてさっさと終わらせなければならない。親がいつの間にか用意していた参考書の山から目を逸らしつつ、俺はやる気が起きないながらもシャーペンから手を離すことはなかった。

 

 

「……将来ねぇ〜」

 

 

正直な話。将来の夢とか、将来に何かしっかりとしたイメージがあるわけではない。野球からも離れるつもりだから、自分が何をしたいのかという根本的な物が欠如している。

学校の三者面談でも、先生からせめて何がしたいかぐらいは考えとけと言われた。それが無いから困っているんだよほんとに……。

 

 

「……ドンちゃんは、なんかあるのかな……」

 

 

ふと頭の中に浮かんだ小さなウマ娘の姿。ドンちゃんは将来の夢とか、何をしたいかとか、そう言うのはあるのだろうか。

ドンちゃんは小学生。いっぱいやりたい事があるはずだ。夢もきっといっぱい思い付いている。少し羨ましいと思う。ドンちゃんは寂しがり屋で愛らしい。しかし優しくて強い芯を持っている。きっと、やると決めたらやり通すことができるのだろう。彼女の事だ、なんでも完璧にこなすに違いない。

 

 

「……後で、聞いてみよっと」

 

 

参考程度。なんならパク……真似……写しぐらいなら大丈夫だろうか。いや小学生の夢をパクる高校生とか、恥ずかしい事限り無し。

 

ふと手元にあったスマホにlaneの通知が入る。送り主はドンちゃんのお母さん。大体八割ぐらいの確率でドンちゃんが送信してくるので多分ドンちゃんだろう。ドンちゃんはまだ小学生である為、まだスマホを持つ許可をされていない。よって、代わりにドンちゃんのお母さんの連絡先を貰い、それを通してドンちゃんと連絡を取り合っている。

 

文章もドンちゃんが打っているようで、まだ慣れていないのか所々変換ミスがある。ドンちゃんが必死にしかめっ面でフリック入力に齷齪しているのを想像すると、なんだか微笑ましく思えてしまう。これを言うと、きっと本人はぷりぷりと怒り出すかもしれないが、可愛いものは可愛いのだ。許して欲しい。

 

どうやら、用事が終わったので一時間後に合流したいとのこと。

現在午後2時過ぎ。一時間後だと3時過ぎか。おやつの時間である。しかし今日おやつを食べてしまえば、屋台の食べ物の美味しさが半減してしまう。カントリーマ〇ムはお預けだ……。

 

せめてドンちゃんが来るまでは勉強しようと思い、少しやる気を戻した俺は再び勉強に取り組むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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定刻通り、呼び鈴と共に母親の俺を呼ぶ声が聞こえた。

暑さで怠ける体を動かし、玄関まで向かう。

 

 

「……ちょっとちょっとっ。〇〇っ」

 

 

途中俺を呼びに来た母親が何故か大興奮で俺の肩を叩いてくる。

基本的お調子者なうちの母親は何事も大事(おおごと)しようとする節がある。この様子を見るにその大事の類なのだろうと察しがついた。

 

 

「……痛いって。何?ドンちゃんが来たんでしょ?」

 

「そうっ。そうなのよっ。ドンちゃんが来たのよっ」

 

「……分かった。わかった!!分かったから叩くな!!」

 

 

だる絡みしてくる母親を置き去りに、人影がある玄関まで足を進める。

うちは2世帯で暮らしているため、家自体は大きいがかなり年季の入った家になっている。歩く度に軋む廊下の板を踏み締め、夏であるにもかかわらずほんのりヒンヤリしている踊り場まで足を運んだ。

 

 

瞬間。身体全身を風が吹き抜けた。圧倒的な存在感の何かが玄関にいる。それが誰の存在感なのか、目にするまでは分からなかった。

玄関先には、見慣れない少女がいた。浴衣姿の気品に満ち溢れた少女だ。俺は、それがドンちゃんの姿である事にすぐには気が付けなかった。

 

はっきり言おう。俺の目の前に、天使がいる。愛らしく、可憐で、幼さの中に見える煌びやかな美しさ。逆光も相まってまるで輝いているように見える。下界に降り立った天使が迷い込んだのだろうか。いや、天使は天使だが、天使のようなドンちゃんだ。天使のドンちゃんが目の前にいる。

天使のようなとは、頭の上に金色にひかる輪っかを浮かべた羽の生えた人ではなく、表現的な意味での話だ。

 

ドンちゃんは普段左耳に黒と赤のシュシュを付けている。私服も黒と赤と白の三色が多いが、ドンちゃんに相応しい色合いだといつ見ても思っていた。

 

しかし今日は違った。俺の考えは、ドンちゃんへの認識がとても浅はかであったと思い知らされた。ドンちゃんはいつでも可愛いなんて言うのは、正直当たり前なんだと。俺は何故、それがドンちゃんの可愛さの()()であると決め付けていたのか。それ以上はないと思い込んでいたのか。

そんな浅はかな俺の考えを蹴っ飛ばす程の衝撃を与えてきた。今、ドンちゃんの姿はまさにそう。天使の様な愛くるしさを醸し出していた。

 

 

ドンちゃんは黒と赤の二色の浴衣を着ている。ひと目で分かる、そんじょそこらの素材では無いことに。光に反射して布生地の空に散りばめられた金箔の輝きが、二色のトーンを引き立たせる。赤い牡丹の刺繍が縫われ、ドンちゃん━━━━━ジェンティルドンナの気品を形どっているかのようだった。

少し恥ずかしそうにしているジェンティルドンナは、いつもは肩まで伸ばしている長い髪を後頭部でお団子結びに纏めており、前髪も赤色の髪留めで止められて彼女のおでこと深紅の透き通った瞳がより明確に見ることが出来た。

雰囲気が大人びている。垢抜けた様な変わりよう。ドンちゃんをジェンティルドンナたらしめる風格を全身が抱いている。しかし頭の上に装飾されたリボンの髪飾りは、ジェンティルドンナの年相応なドンちゃんという幼さの部分を残している。腕に抱いているジェンティルドンナとお揃いの服を着た熊のぬいぐるみのどなちゃんも合わさると、色んなものがごったになってとんでもない事になっている。

 

背伸びして垣間見える大人な雰囲気と、年相応な雰囲気が合わさり、普段のジェンティルドンナとは思えない色香を感じる。

これはダメだと思った。姿、着こなし、今の仕草。全部が全部見てはいけないものを見てしまったような胸の高鳴りを感じた。

これは()()()()()では無い。()()()()()()()()()だ。これが本来の。いや、今でもまだ彼女の本当の姿では無いのだろう。成長過程において、ジェンティルドンナという少女の未だ未発達点。しかし、そんな状態にあるにも関わらず、心を惑わすこの破壊力。

 

可愛いとか、綺麗とか。そんな言葉で表す事すら、烏滸がましいと思ってしまう。なんなのだろうこの気持ちは。彼女を、安っぽい言葉で表したくないが、正しく表せる言葉が見つからない。

美しい、綺麗、可愛いよと。そんなことは簡単に言える。だが違う。俺はこれを言葉にしたくない。いや、言葉に言い表せないと言うべきか。語彙力が死ぬとはこういう事なのだろうと初めて思った。そりゃそうだと思う。摩訶不思議この世のものとは思えない想像を絶する光景を見れば、今まで見てきた全ての光景は、一瞬で塵芥と変わる。そんな塵芥に表現していた言葉で、度肝を抜かせた光景を同じように表現していいのか、いいや絶対だめだ。俺が許さない。

 

 

「……にぃに?」

 

 

玄関先で棒立ちした俺を心配して、天使が声を掛けてきた。その声もバフかかって凄くクリアに聞こえる。

胸の奥から表現したくないが、可愛い可愛いという言葉が波のように押し寄せてくる。油断すれば、絶対口から漏れそうだ。

 

 

「ねぇ〜?ちょっと可愛過ぎない?ドンちゃんヤバくない?」

 

「…………」

 

「いや〜、ドンちゃんみたいな可愛い女の子、うちにも欲しかったわ〜。うちのは男だから愛想が無いのよね愛想が」

 

「…………」

 

「……ちょっとアンタ。なぁに黙ってんの?女の子の可愛い姿を褒めてなんぼが男でしょう。ドンちゃんが不安がってるじゃ………って、何泣いてんのよアンタ」

 

「……え?」

 

 

後からやってきた母親の指摘に、俺は目元を擦って漸く自分の状況を理解した。

俺は、今大粒の涙を流していた。自覚すれば、すぐに鼻もムズムズし始める。目尻が熱くなって、頬を垂れて地面にポチャポチャと落ちていく。

 

流石に恥ずかしくなって、俺は思わずその場に塞ぎ込んだ。今まともにジェンティルドンナの姿を見ると絶対に涙が止まらなくなると思ったからだ。後恥ずかしくもある。高校生にもなって、こんなガチ泣きは流石に羞恥が勝つ。

 

 

「……あー、やっべぇっ。なんでぇー……っ」

 

 

込み上げる涙に、最早為す術が無かった。しかしなんの涙なのか、その事に関してだけは考えるまでもなかった。

俺は、ジェンティルドンナの姿に感動しているのだ。まるで芸術の作品。元々涙腺が脆いとは自分でも思っていた。映画とか見てもラストシーンは泣く事が多い俺だが、ジェンティルドンナの姿を見て情緒が崩壊したようだ。心の底から、可愛いと凄いと美しいとか賛美の声が込み上げてくる。

 

 

「にぃにっ、どうしたのっ!?」

 

 

ジェンティルドンナが思わず近付いてきた。下駄の音で姿を見ていなくても近付いて来たのが分かる。

 

 

「……いやっ、大丈夫っ。……ごめん。ドンちゃんの着物姿見てたら、つい……っ」

 

 

何とかざわつきを落ち着かせて、少しでもジェンティルドンナの姿を見ようとするも、視界に入るジェンティルドンナの姿の美しさに再びざわつかされる。これは激毒だ。刺激が強過ぎる。

 

 

「……っ、ご、ごめんなさい……っ」

 

「……え?」

 

 

一向に俯き続ける俺に対し、ジェンティルドンナは何故か謝罪の言葉を述べた。その言葉の真意に、思わず素っ頓狂な声を出してしまった。

 

 

「………なんのごめんなさい?」

 

「……にぃに。ずっとこっち見てくれない。私の浴衣、似合ってないから……っ」

 

「っ!?」

 

 

思わず顔を上げてジェンティルドンナの両肩に手を置いた。下を向いていたから分からなかったが、ジェンティルドンナは物凄く泣きそうになっている。目尻に涙を堪え、今にも決壊しそうな程。

 

やってしまったと思った。ジェンティルドンナに不安を与えてしまった。ジェンティルドンナの謝罪は、浴衣姿を見て俺が泣いたのを似合ってなかったから幻滅したのではと深ぼって考えてしまった結果の謝罪であるのだろう。

 

俺はジェンティルドンナのくりくりとした両目を見つめる。いつにも増してはっきりと見えるその瞳は、しっかりと俺の情けない姿を反射させている。笑えてくる。こんな幼い牡丹の蕾に、俺はなんて情けない姿を晒しているのか。

 

 

「ごめんドンちゃんっ。俺が悪かった……っ。突然泣き出した俺が悪いっ」

 

「……ちがうのっ。私のせいで……、にぃにのこと悲しませちゃった。ごめんなさい……っ、にぃにっ。もう、この浴衣……脱ぐっ」

 

「っ、待って違う!!そういうことじゃない!!」

 

 

俺は優しくジェンティル━━━━━ドンちゃんを肩を抱いた。いつもとは違う花のいい香りが鼻腔を刺激してくる。

五感全てが、目の前の少女を明確に捉えている。俺にとって、今のドンちゃんは甘い蜜。ドンちゃんの全てをこの手に収めたいとすら思ってしまうほど。

しかし、それはドンちゃんを不安にさせる要因となる。これ以上ドンちゃんを悲しませる事はしたくない。

俺は、馬鹿正直にドンちゃんへの思いを伝える事にした。

 

 

「……その、はっきり言うのむっちゃ恥ずかしいんだけど、むっちゃくちゃ似合ってる。浴衣って、女の子を可愛くする衣装だとは思ってたけど、ドンちゃんの姿は……その、て、天使に見えて……っ」

 

「ふぇ……、……天使さん?」

 

「そうっ。そうなのっ。天使の様に可愛くて可愛くて仕方が無いの!!やばいむっちゃ恥ずかしいけど、これだけは言える!!俺はドンちゃんの事むっちゃ可愛い女の子なんだって改めて思った!!」

 

「か、かわっ、かわわわわわっ!?!?!?!?」

 

 

ドンちゃんが顔を真っ赤に染めながら頭から蒸気を放出している。若干涙目なのも可愛い。

だがこれでは止まらない。まだまだドンちゃんの可愛さを伝えるには足りなさすぎる。

 

 

「黒と赤の色合いむっちゃ似合うよねドンちゃん!!普段からその2色好きだから着てるって言ってたけど、ドンちゃんにはこの2色が専属色じゃないかって思えるぐらいの嵌りこみ!!マジむっちゃ可愛いし似合う!!俺を萌え死にさせる気か!!」

 

「えっ!?死んじゃったらやっ!!にぃに居なくならないで!!」

 

「俺は死なん!!それに、ドンちゃんのお団子ヘアーも超超可愛い!!前髪も整ってプリティなおでことくりくりお目目が見えてドンちゃんのこともっと可愛くて可愛くて仕方なくなるよ!!なんでそんなに可愛いんだい!!」

 

「っ、うっ。に、にぃにっ。そ、そんなに見ないで………っ。は、恥ずかしい……っ」

 

 

よく見えるおでこを指の腹で軽く撫で、くりくりお目目をじっくり観察する。よく見れば、赤いと思ってたけど、朱色と茶色が合わさったような鮮やかな色をしている。新しい発見だ。

 

 

「その恥ずかしがってる姿もグッジョブ!!どなちゃんとお揃いとか可愛がすぎる!!心がキュンキュンする!!やばいドンちゃん可愛すぎ!!」

 

「にぃにっ、にぃにっ。も、もうやめてぇ……っ」

 

「幼さと大人びた感じがダブルパンチで俺の心をだばァ!?」

 

 

「正気に戻れやバカ息子ぉ!!!!!」

 

 

母親の物理的なダブルパンチで、俺は暫く意識をぶっ飛ばす事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何処からか太鼓の音が聞こえる。等間隔で設置されたスピーカーから流れる太鼓のBGMだろうか。本物の太鼓なら味が出るだろうが、音だけというのも雰囲気を出してくれてとてもいい。

 

ガヤガヤと活気立つ屋台が並ぶ堤防の入口付近。色々あったが、定刻通り俺とドンちゃんはお祭りにやってきた。送迎はドンちゃんの家の使用人さんがしてくれるらしい。かなり交通規制がかかるから大変だろうに、ありがとうございます。

 

ドンちゃんは少し緊張と興奮といった感じで俺の手を握ってくる。内心ちょっと焦ってる。前はドンちゃんの力の制御が出来ていないという事で、正直な話ちょっと怖かった部分がある。ドンちゃんの全力は手のひらサイズの石を粉々に粉砕出来る。最近はかなり力の制御が出来てきたので、かなりの成果が出ているから、そこまで怖がる必要も無いのだが。……やっぱりちょっと怖いかもしれない。

短時間でここまで力の制御が出来るようになったのは物凄く凄いと思う。最近はどなちゃんのことも傷付けずにすんでいる様なので、特訓の成果が出たようで安心した。

 

 

「凄い盛り上がりだね。はぐれないようにしっかり手を繋ぐんだよ?」

 

「っ、うんっ。ずっとずーっと繋いでるっ」

 

「取り敢えず気になったもの見に行こっか。ドンちゃん何が食べたい?」

 

「りんご飴っ。りんご飴とわたがし!!」

 

「ハハッ、甘いのほんと好きだね。俺も好きだけど」

 

「むーっ、にぃに!!子供扱いしないで!!今日はにぃにの()()なの!!」

 

「はいはい。今日はドンちゃんは俺の彼女さんだね。しっかりエスコートするよ」

 

 

数時間前の俺による暴走によって、今日はドンちゃんの言うことを1度だけ聞くという話で纏まり、ドンちゃんが今日は俺の彼女になりたいと言うものだから、今日お祭りの間はドンちゃんが俺の恋人なのである。可愛い天使が俺の彼女か。青春を謳歌したいと思っていた夏休みに出来るのは、とても嬉しい事である。……ただ相手が小学生と言うのは、些か問題ではあるが。

 

 

「今日はお昼ご飯食べてないからいっぱい食べたいな!にぃには何が食べたいの?」

 

「俺か〜。無難にたこ焼きとか焼きそばかな。やっぱりこれを食べるとお祭りに来たって感じがするし」

 

「じゃあにぃに後で一緒に食べよ!……た、たこさんはにぃににあげるね?」

 

「こら。好き嫌いはダメだぞ」

 

 

たこ焼きのたこだけ抜いたらただの小麦粉焼いた生地焼きじゃないか。まあ小学生なら生地を焼いてソースかかってるものだけでも食べるものか。俺も小学生の頃はドバドバソースかけて粉物食べてたっけ。お好み焼き具材抜きとか平気で食べてた。

 

プク〜と不貞腐れるドンちゃんのほっぺを突き、丁度目の前に入った焼きそばの屋台に足を向けた。

市内は()()()()()()()()学園も近い為、ウマ娘も多くこの祭りにやってくる。大体屋台では、普通の人用とウマ娘用で量が分かれていることが多い。値段もそれ相応だが、チュルチュルチュルっと一瞬で食べ物が無くなっていく光景を見るのは、ある種の見世物。一瞬にして食べ切れば、周りから拍手喝采雨霰が巻き起こる。学校の同級生も食堂でウマ娘定食というドカ盛定食をペロリと気がつけば食べ終わらせているので、俺は毎日のように拍手喝采を彼女に送っている。ドンちゃんはまだ小学生だから流石に普通でいいかな。

 

 

「おじさーん、焼きそば下さい」

 

「はいよっ。600円ね。お、可愛いウマ娘の嬢ちゃんじゃないか。お兄ちゃんと楽しんでるかい?」

 

「違うのっ。お兄ちゃんじゃなくて()()なのっ」

 

「どへぇっ、そいつはすまねぇ。ほーら、お詫びにサービスして多めに入れてるよ。彼氏と楽しんでな」

 

「うんっ、ありがとうおじちゃんっ」

 

「すいません。ありがとうございます」

 

「いいってことよ。……子守りは大変だからな。しっかり楽しむんだぜ?」

 

「うっ、はい。勿論です」

 

 

変な気遣いが逆に申し訳ない。気前のいいおじさんのサービス精神に感謝しつつ、お金を渡してその場を後にした。

ちなみに言うが、今回の出費は全てドンちゃんのお父さん持ちである。百円玉数十枚と1000円札数十枚渡された時は何事かと思ってしまった。バイトしていない為、稼ぎがない俺には申し訳ないが、とても有難い事であった。今日はしっかり甘えさせてもらう事にする。

 

堤防は座る場所と言ったら車道の外にあるコンクリートでできた側面帯ぐらいしか無いため、空いてる場所を見つけてドンちゃんを座らせた。下駄を履いているドンちゃんだが、慣れてない下駄で長時間歩かせるのは流石にマズいと思った為、少しずつ休憩しながら楽しむ事にする。

花火までまだ時間はある。まずはしっかりお腹を満腹にしてお祭りを楽しまなければ。

 

 

「はいドンちゃん。熱いから気を付けてね」

 

 

割り箸をドンちゃんに渡すと、ドンちゃんは首を横に振り違うと訴えてくる。

最初は意図が分からなかったか、ふと近くに座っていたカップルらしき男女が食べさせ合いをしていたのをドンちゃんが見ていた。これはあれか、恋人さんのような事をしなきゃいけないってことか。

つまり今のお姫様が望んでいることは。

 

 

「……フーッ、フーッ。はい、あーん」

 

 

少なめに割り箸で摘んだ焼きそばをドンちゃんの口元に運んであげる。ドンちゃんは嬉しそうに口を大きく開くと、パクリと口に含んで咀嚼する。

美味しさのあまり、表情がはにかんでいる。とても可愛い。腕の中に抱いたどなちゃんを嬉しそうに抱き締めている。ピコピコと耳としっぽが忙しなく動いている事から、相当美味しかったのだろうか。

 

 

「にぃにっ、にぃにっ。もう1回っ、もう1回っ」

 

「ふふっ、そんなに気に入った?待ってね。少し冷ましてあげるからね」

 

 

同じように小さくつまみ、息を吹いて少し冷ましてあげる。パクリと食べたドンちゃんは、次は嬉しそうに体を前後に揺らし始める。可愛い。

 

浴衣姿を最初見た時は、大人びてとてもじゃないか小学生には思えなかったが、今の姿を見れば年相応なんだと理解できる。やはりドンちゃんにはこうして何事にも楽しそうに笑って喜んでいる姿が一番似合っているな。

 

 

「にぃにっ。次は私の番っ。にぃにに食べさせてあげるっ」

 

「俺?……あ〜、いや俺は……」

 

 

ドンちゃんにそう言われたが、ちょっと流石にやる気になれない。小学生に食べさせてもらうって、結構恥ずかしいぞ。

しかしドンちゃんはかなりやる気だ。もう一膳入った割り箸を少し不格好に割り、焼きそばをグッと器用に摘み上げた。

 

 

「……え、ちょっと多くない?」

 

「にぃにならこれくらいっ。はい、あーんっ」

 

 

俺のあーんでは恐らく顎が外れると思う量なのだが。しかしこんなにっこにこの笑顔であーん待ちしているのを見ると、ドンちゃんの願いを踏み躙ってしまうようで、断るに断れない。

俺はしっかり口を開けて一口で摘まれた焼きそばを頬張った。

 

熱い、熱々っ。口の中がかなり熱い!!やっぱりドンちゃんに食べさせるやつ冷ましてよかった。口の中に入れたら流石に火傷しちゃうかもしれん。俺も最初に食べてたら火傷してたかもしれない。

ドンちゃんはお気に召したようで、凄い嬉しそうにしている。

 

 

「……美味しいよ、ドンちゃん。ありがとう」

 

「っ!!うんっ。ねぇ、にぃにっ。次は私の番っ」

 

「……ん、分かったよ」

 

 

手元の焼きそばが無くなるまでドンちゃんに食べさせてあげた。終始にっこにこで美味しそうに頬張るドンちゃんの姿を見て、俺もちょっとずつだが心のボルテージが上がってくるのを感じていた。ドンちゃんがいるのでそこまではっちゃけられないが、とことん楽しめるならとことん楽しむ。ドンちゃんのお守りではなく、もう少し軽い気持ちで望んでみよう。そう思った。

 

 

「少し何処かで遊ぼっか。金魚すくいとかヨーヨー釣りとかあったからそこに行こ」

 

「うんっ。金魚さん飼いたいっ」

 

「ちゃんとご両親にいいよって言われてからじゃないとダメだよ。ダメって言われたらうちで飼うけど」

 

「じゃあにぃにのお家でいいっ。そうすれば、ずっとにぃにのお家に行けるね」

 

 

計算高いなこの天使。可愛さと賢さを両立しているのか。なんて恐ろしい子っ。

うちはまあダメとは言われんだろう。味気ない玄関前の踊り場にでも置けば少し色鮮やかになると思う。ペットとか飼ってないから、ここいらで進言してみてもいいかもしれない。ダメって言われるかな。

 

 

「そうなら、まずはちゃんと金魚すくいできないとね。ドンちゃんお祭りとかあんまり行ったことないって聞いたけど。金魚すくいはやった事あるの?」

 

「……うぅん。やった事ない。お祭りもあんまり来た事ないの……」

 

「あぁ、ごめんよドンちゃん。変な事聞いたね。今日は俺とめいいっぱい楽しんでお祭り行った記憶の中で一番の思い出にしよ」

 

「っ、うんっ。でももう一番の思い出だよ?」

 

「え、どうして?」

 

「だって、にぃにと一緒に来れるってだけで、私とっても嬉しい!!」

 

 

純粋無垢な笑顔が花開いた。俺はその笑顔に応えるべく、笑顔を向けてありがとうと口にするのだった。やっぱりドンちゃんは可愛い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空高くに打ち上がる色とりどりな火の玉。轟く爆発音が体を揺らし、美しさと相俟って心が震わされる。

打ち上がる瞬間の発砲音。そして空高く打ち上がる瞬間に聞こえる上昇音。一瞬の間を空けて爆発し、同時に四方八方に広がる巨大な夏花(はなび)は、全ての工程が1つの芸術として完成されていると俺は思う。テレビで見たことあるが、花火玉の調合は繊細だと言う。火種1gの差で花火の精度は大きく変わり、それこそ職人の技術と長年の経験から来る匠の技によって組み上げられる完成した花火玉は、まさに芸術作品だろう。

季節の風物詩を体験出来るのは、誰かが昔から紡いでくれた歴史を受け継いでくれたからこそ俺達は体験出来る。この国に生まれてよかったと、俺は鮮やかに夜空に咲く花々を見ながら、そう思うのだった。

 

隣に座るドンちゃんは、キラキラと瞳を輝かせて花火を見ていた。くりくりとした瞳の中に映り込む花火は、きっとドンちゃんの心の中に深く刻みつけられているのだろう。何かで見たが、子供の頃の体験は、後々フィードバックするらしい。この光景がいつかドンちゃんの何かに繋がればいいなと、俺はそう思う。

 

いや、それは無粋か。そんな計算でこの光景を見るなんて罰当たりにも程がある。無意識に、俺はドンちゃんの肩を優しく抱いていた。

 

 

「……にぃに?」

 

「……綺麗だね。ドンちゃん」

 

「うんっ。すっごく綺麗っ。こんな凄いの、にぃにと見れてとっても嬉しいっ」

 

「そうだね。俺も、ドンちゃんとどなちゃんと一緒に見れて、嬉しいよ」

 

 

在り来りな言葉ではあるが、君の美しさがより引き立つよと、内心そう思っている。将来、きっと今の俺と同じぐらいの年になれば、ドンちゃんは間違いなくこの景色に相応しい女性になるだろう。美しく、可憐で、花のように人々を魅了する。そんな素敵な女性に。

 

正直見てみたい気持ちがある。でも、多分その時にドンちゃんの隣にいるのは俺では無い。

悔しいが、俺とドンちゃんとでは釣り合わないだろう。俺が圧倒的に劣っている。本当は、今日の一日カレカノの関係なんて嫌だった。それは、ドンちゃんの魅力に俺なんかが混じると、ドンちゃんの魅力に影が指すと思ったからだ。

みんなお祭りに来ていた人達は、ちらりちらりとみんなドンちゃんの事を1度視界に入れていた。それぐらい今日は注目されていたのだ。そんな魅力的なドンちゃんに、俺なんかじゃドンちゃんの邪魔になってしまう。

 

悔しい。本当に悔しい。努力して何とかなるのだろうか。今からでも間に合うのだろうか。何をすればドンちゃんの姿をずっと見ていられる?どうすればドンちゃんの事を想っていられる?

 

考えれば考える程、分からなくなってくる。こんな、素晴らしい花火を見ているのに、段々と俺の心は冷たく冷めていく。言ってしまえば、現実を突きつけられてしまったのか。花火のような美しさには叶わない。ドンちゃんの魅力の足枷になる。ダメだ。ネガティブな気持ちばかりが出てくる。こんなに周りは熱いのに。俺だけ冷たい。俺だけ孤独。俺だけがひとりぼっち。

 

 

「……ねぇ、にぃに」

 

 

ふと、冷めていたはずの心が、少しずつ暖かくなっていく。俺の胸に、手を添えたドンちゃんが、熱を帯びた瞳で俺を見ている。

 

 

「……にぃに。私、いつかあの花火のようになりたい。みんなを魅了する、綺麗な花火になりたい!!」

 

「……ドンちゃん」

 

「私ね、中央トレセン学園に行くの。高等部?って高校生だよね?その時に行くの。それで、レースでいっぱい勝って、みんなが凄い凄いって言ってくれる花火の様に綺麗なウマ娘になりたい!!誰も彼も、にぃにも私に惹かれるそんなウマ娘になりたい!!」

 

 

その宣言を受けた瞬間、頭の中に何かが弾けた。頭の中に流れるイメージ。

桜の花弁を吹き荒らし、情熱と感動を文字通り拍手喝采で引き立たせる女王の姿を。3つのティアラを被り、全てを魅了する貴婦人の姿を。

赤と黒のドレスを纏った、美しいウマ娘。不敵な笑みを浮かべ、強者を踏破し、頂点を掴み取った女王。それが一体誰なのか、何故そんな姿が見えたのか、俺には分からなかった。しかし、それはいつかの有りうる未来の光景。誰かが成し遂げるであろう未来の姿。それが、ドンちゃんなのだろうか。

 

 

「私は必ず、頂点を取ってみせる。だから、にぃに。私の事、ずっと見ててね?」

 

 

それは卑怯だと思った。俺はドンちゃんから離れようと考えていたのに。ドンちゃんはそんな俺を離してくれないらしい。どうしようもない我儘だ。今日一日何でもするとは言ったが、限定カレカノでそれは相殺だろうに。

 

 

「……ははっ、言われるまでもないよ。俺はね、ドンちゃん。例え君に嫌だと言われても、俺は君の事をずっと見守ってるよ」

 

「っ!!うん!!にぃには絶対!!私から目を離しちゃダメなんだからね!!」

 

 

夏の夜空の下、鮮やかな花火が花開く満天穹。俺とドンちゃんは、そんな口約束を交わした。

 

思えば、俺はなんて馬鹿な事を思っていたのだろう。努力もしないで、そんな弱腰で。夢を語る方がよっぽどかっこいいだろ。まだ高校生。いくらでも出来ることはある。夢なんていつでも掲げられる。

そうか、俺はやりたい事が無かったんだ。だから将来の姿をイメージ出来ていなかった。足りなかったのは、何をしたいかという強い気持ちだった。

 

今、俺は夢が出来た。ドンちゃんを。()()()()()()()()()を輝かせてみせる。彼女の夢を叶えられるように、俺がそれを支えて上げたい。どんな形でも、ジェンティルドンナの為に出来ることをしてあげたい。

 

打ち上がる花火を前に、俺は決意を固める。ドンちゃんの姿を目に焼き付け、心の中に深く刻む。

 

 

俺はジェンティルドンナの為に、この身を費やす。

彼女の、輝きを磨く為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

重厚な扉をノックし、中にいるであろう人物に断りを入れて扉を開ける。

 

 

「━━━━━来たかね。〇〇くん。」

 

 

 

「━━━━━話というのは、何かな?」

 

 

 

「ドンちゃんの、いえ。ジェンティルドンナのお父さん。お話があります」

 

 

 

 

 

 

 

自分の新しい道の為に、俺は一歩歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









まず初めに、私のこの作品をご覧下さり、誠にありがとうございます。
数多くのお気に入り登録、評価、しおり、ここ好き。マジでありがとうございます。

ハーメルンにて活動しる中で、一番伸びてるこの作品ですが、正直ここまでの反響があるとは思ってもいませんでした。どうしてこんなにも長い間日刊ランキングに乗ってんだろう……って今週はずっとビビってました。
本来ならば、一話で完結しそれ以降は皆様の想像に任せるつもりではありましたが、多くの続きを期待される方々の姿を見て、皆様に丸投げしようとしていた続きを、自分なりの妄想で続けていきたいと思います。

とはいえ、正直私自身凄く凄いクソ雑魚なので、一話書くのも一苦労。ほんと毎日投稿とかされる人マジで尊敬します。


投稿頻度はかなり控えめになるとは思いますが、自分が納得終えるまでは投稿頑張りますので、何卒これからもよろしくお願いします。



PS


GIFドンナ可愛い………。ちゅき………。


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