「まずは自己紹介だね。私の名前はメイメイ。君達は?」
「ウチはキンカで、後ろの大きい人がクチナシさんっス」
「キンカとクチナシ、ね。それで君達に頼みたい仕事というのが、隊商の護衛だ」
「護衛っスか」
やっぱりな、と、クチナシは二人の会話を聴いて心の中で呟いた。メイメイの体や装備からして、内容はどうあれ荒事を任されることはなんとなく予想できていた。
別にそれ自体はいい。一般人相手の戦闘なら負ける気はしない。《炸裂》は攻撃と移動のどちらにも応用が利く万能な転換術だ。さらに《感知》のおかげで死角はなく、不意打ちによる万が一すらも許さない。
だが、それはあくまで自分一人でいることが大前提だ。
隊商の護衛となると依頼主や荷車、そして同業者のことも念頭に置きながらの戦闘になる。そして、護衛の目的は依頼主や荷車を守ることだ。たとえ自分一人がどれだけ強かったとしても、それらを守ることができなければ意味がない。
何より、仕事をするとなると、他の誰かと接する機会が出てきてしまう。人との関わり合いを極力排除したいクチナシはそれが嫌で仕方がなかった。
背後でクチナシがそんなことを考えているなど知る由もなく、キンカとメイメイは仕事の内容について、さらに詳しいところまで話し合っていた。
「私の雇い主であるヒカガミ商会の会長が、近々フォゾと大きな取引を行うんだ。それこそ今後の商会の命運を分けるといっても過言じゃないってくらいのね。だからこそ、今回の行商はなんとしてでも成功させたい。そこでとにかく人手を増やしたいと役場なんかを回っていたところに、君達が声を掛けてきた」
「ってことは、ウチら今からフォゾってところに向かうことになるんスか?」
「そういうことになるね。フォゾはヒカガミからモモトフ山脈を抜けて北に進んだところにあるから、王都に向かうのならば好都合だと思うのだけれど、勝手に決めてよかったかな?」
「それならむしろ大歓迎っスよ!」
「それならよかった。それじゃ契約についての話、をする前に……」
メイメイがふと立ち止まると、おもむろに荷物をその場に下ろし、背負っていた槍を抜いて身構えた。臨戦態勢の彼女の槍は、クチナシの顔にまっすぐ向けられている。
「護衛を頼む前に、君の実力を軽く見せてもらいたい」
『俺の、か?』
「他に誰がいるっていうんだい。まさかキンカちゃんを戦わせるつもりじゃないだろうね?」
『……まあ、それもそうだな』
諦めたように納得したクチナシは、両腕を軽く前に出して構える。それを見たメイメイがふっと微笑んだ。
相手は武器を持っていない。かといって構えを見たところ、武術の心得はないように見える。とすると、おそらく彼は転換術を主軸に据えた戦い方をするのだろうと推測される。
ならばまずは相手の手の内を暴き出すよう立ち回るのが得策だろう。槍で相手をけん制しつつ、使ってきた転換術を上手く捌きながら攻略の糸口を探る。
そう、本来ならば、それが最も安定した立ち回りであるのだろう。
だが、メイメイは確信していた。目の前の大男にそんなちゃちな小細工など通用しない、と。
「戦う前に状況を設定しよう。私は街に現れた暴漢だ。君が今からすべきことは、街への被害を抑えつつ私を確保すること。何か質問はあるかい?」
『特にない』
「それじゃ、開始の合図はキンカちゃんにお願いしようか。いつでも好きな時に始めてくれ」
「は、はい。それじゃ、よーい――」
どん、とキンカが口にしたのとほぼ同時に、クチナシの背後で爆発が起きた。