《炸裂》の推進力と《身体強化》の補助で得た機動力を惜しみなく使い、クチナシは一呼吸のうちに間合いを詰め、メイメイの顔面目掛けて腕を伸ばす。
真正面からの不意打ちに、メイメイはほんの少し首を傾げて躱しながら、クチナシの急接近に合わせて槍を突き出していた。
クチナシは咄嗟に上体をひねって攻撃を躱す。右わき腹を穂先が通り抜けた。
メイメイはにやりと笑みを浮かべると、槍を真横に薙いだ。クチナシは《炸裂》で後方に飛びながら、密着した状態から勢いに乗り切れない槍にあえて振り回されることで、投げ出されるようにしてメイメイとの距離を空ける。
そもそもクチナシは近接戦闘を苦手としていた。それでも槍の間合いの内側に入り込み、何かをさせる前に決着をつければ関係ないと思っていたが、相手の反応速度と練度が彼の想定を超えていた。
初見でかつ不意打ちだからこそ五分の駆け引きにできたものの、距離を詰めたまま戦闘が続けば、いつかどこかで誤魔化しきれなくなる。幸い機動力はクチナシの方が上だ。一度体勢を立て直し、今度は槍の間合いの外側から攻めればいい。
だが、メイメイがそれを許さない。クチナシが後方に飛んだ直後に彼女は大地を蹴り、まだ着地していないクチナシとの距離を詰める。
クチナシが着地したのとほぼ同時に、メイメイが素早く三度槍を突いた。牽制と本命を的確に判別しつつ、クチナシは後退りながらメイメイの攻撃を躱す。
流れるように四度目の突きを狙うメイメイに、クチナシはそっと《炸裂》の種を彼女の胸元目掛けて放り投げた。このままメイメイのペースに乗せられて押し切られてしまう前に、切り返す一手を打つ。死角になる位置から投げた上に、彼女は攻撃に専念している。あわよくば、勝負を決める決定打となってくれればいい。
そのクチナシの思惑は半分外れた。メイメイは種の存在にいち早く気づき、四度目の突きを中断して跳ねるように《炸裂》の範囲外へと離れていく。
始まりの合図が出される前とほぼ同じくらいの位置まで離れたところで、二人は再度構え直す。
キンカはその二人を、固唾を呑んで見守っていた。
たった十秒にも満たない攻防だった。
たったそれだけでも、自分との力の差を思い知るには十分すぎた。
キンカだけではない。周囲にいた街の住人達も一人、また一人と二人の戦闘に魅入られ聴衆に加わっていく。
それに一瞥もくれず、次の手を考える二人。先に動いたのはメイメイだった。
槍を携えクチナシとの距離を詰めるメイメイに、クチナシは遠距離から種を飛ばして応戦する。爆発する種を捌きながら駆けるメイメイの槍が、ついにクチナシに届く距離までたどり着いた。
真上からの叩きつけを、半身になってギリギリ躱す。
続けざまに放ったメイメイの足払いに、クチナシは飛び跳ねて対応する。
空中で身動きの取れない彼に、メイメイが容赦なく刺突を行う。
《炸裂》によってさらに飛び上がったクチナシは、さらに続けて《炸裂》を放ち、体をひねりながらメイメイの真上を通り過ぎていった。
完全に背後を取ったクチナシの右腕が、メイメイの無防備な後頭部に伸ばされる。掴みかかられれば最後、零距離から放たれる《炸裂》で確実に勝敗が決される。
はずだった。
クチナシの手がメイメイに届く寸前で止まる。いや、止めざるを得なかった。メイメイが反転させた槍の穂先が彼の眼前に迫っている。
死角であるはずの真後ろからの攻撃に、彼女は完璧に対応してみせたのだ。
クチナシは後ろに飛びのいて再度距離を取る。それに合わせるかのようにメイメイの振り返り、槍を構え直す。
まるで演舞を見ているかのような二人の攻防に聴衆達がにわかにざわめき始める頃、ふとメイメイが口を開いた。