「いやあお見事。参った」
やれやれといった様子で笑うメイメイに、構えを解いたクチナシが声をかける。
『もういいのか?』
「君の実力は十分見せてもらったよ。正直、予想以上さ。これ以上は歯止めが効かなくなりそうだから、残念だけどやめておく」
それに、と続けて、メイメイは手にした槍を垂直に立て、石突で地面を二、三度叩く。
「制圧はもう完了しているだろう? 普通、これは気付かないだろうからね」
『なんだ。あんたは気付いてたのか』
クチナシがそう呟くと、メイメイの周囲にばらまいていた種が魔元素の粒子となって消えていった。仮にあのまま戦闘が続いていたならば、メイメイが一歩でも足を動かした瞬間種を起爆させるつもりだった。
それを悟らせないために、彼女の死角である真上を通り過ぎた時に種をまいたのだが、どうやらあっさりと看破されていたらしい。さてそれはどうしてかと考えていたのがメイメイにも伝わったのか、彼女は簡単に種明かしした。
「転換術《
『さすがに気づかれていたか。転換術《感知》。触覚の広域化、と言えばいいのか。目に見えない透明な靄のようなものを展開して、それに触れたものの姿かたちを知覚する』
「なるほどね。どうりで距離感を完璧に把握できたわけだ。ちなみに範囲はどのくらいだい?」
『その気になればこの街全域を見渡せる。空間が繋がっている必要があるから、建物なんかの壁で覆われたものの中までは分からないが』
「十分すぎるどころか、条件次第じゃ私以上じゃないか」
さらりと言ってのけたクチナシの言葉に、メイメイは感嘆の声を上げる。戦闘能力は申し分なく、索敵能力も高い。これまで何人もの護衛達と共に仕事をし、様々な能力を見てきたメイメイだったが、彼ほどの人物は初めてだ。
「ウチの雇い主、ヒカガミ商会の会長からは私から口添えしておくから、クチナシの採用はほぼ確実だと思ってくれていい。さて、あとはキンカちゃんだけれど――」
「そっちなら話はもうついているぞ」
突然横やりを入れてきた知らない声にクチナシが反応して振り返る。その視線の先から、メイメイとクチナシの戦闘を見ていた野次馬の中から、ブラウンのコートに身を包んだ恰幅のいい男性がこちらに向かって歩み寄ってきた。
そして、その男性の隣には、なぜかキンカが自慢げな顔をして一緒に歩いていた。