「会長。話がついたって、どういうことです?」
「この嬢ちゃんから直々に商談されたんだよ。そこの男は護衛に、自分は隊商の小間使いとして雇ってくれ、ってな」
彼がメイメイ達の雇い主であるヒカガミ商会の会長だということは、今の会話から察せられた。どうやら彼は、クチナシとキンカ、二人ともを雇い入れることに賛成らしい。
キンカをこの街に置いていくつもりだったクチナシにとっては、いつの間にか進められていた話にただただ驚いた。
それはメイメイも同じだったようで、会長に向けて疑問を投げかける。
「会長。よくクチナシだけでなく、キンカちゃんも雇おうと思いましたね」
「まあな。護衛としてろくに期待できそうにない、ぼろっちい身なりのガキに給金を振りまいてやるほど、俺も優しくはない。ましてや今から商会の今後が決まるような重要な行商に、子供を連れていける余裕なんてない。だがな……」
会長はにやりと不敵に笑う。
「メイメイ、そしてそこの坊主。今ここに集まっている野次馬、どれくらいいる?」
彼の言葉に、二人はそれぞれの転換術で周囲の様子を見まわった。ざっと数えたところ二、三十人ほどといったところだろうか。二人の口から出てきた同様の答えに、会長はさらに笑みを浮かべる。
「そう、それだけの人数がいる中で、キンカは他の奴に目もくれず、真っ先に俺に声をかけてきた。お前らの戦いぶりを興味本位でなく、品定めするために見ていたから、つってな」
隣にいたキンカの頭に手を置いて、雑にもみくちゃにしながら会長はさらに話を続ける。
「そしてこいつは、俺に向かって
「ウチそんな口悪くなかったっスよ」
「意味が伝わりゃいいんだよ」
キンカの頭を撫でる手に力が入り、彼女のくせ毛がさらにはねる。
「とにかく俺は驚いたよ。まさかこんな年端もいかない子供に、そんな大それたことができるくらいの洞察力と度胸があるなんてな。そんなもん見せつけられちゃ、一商人としてつい欲しくなっちまった。つー訳でメイメイ、悪いな、色々と考えていたところだったろうが、俺が勝手に買っちまった」
「会長が決めたのなら文句はないですよ。それにしても、会長がそこまで言うなんて、そんなにキンカちゃんのこと気に入ったんですか?」
「まあな。理由は大方さっき言った通りなんだが……」
言いながら会長が顎でしゃくり、メイメイがその先に顔を向ける。
その先には、呆れた様子で話すクチナシと、楽しそうに笑って返すキンカがいた。
『勝手に話を進めやがって。そもそもお前はカカットから抜け出せさえすればよかっただろ? なんでわざわざ、俺に着いてくるために危ない橋を渡ろうとするんだ』
「いいじゃないっスか細かいことは。フォゾまで行く足とお金を稼ぐあて、両方いっぺんに見つけてきたんスから、クチナシさんにとってもいいことづくめでしょ?」
『全く……』
見れば見るほど不思議な組み合わせだなと、メイメイは思った。南の方から旅をしてきたそうだが、詳しいことはまだ聴いていない。
この先一緒に旅をする中で、二人は語ってくれるのだろうか。護衛隊長としての仕事の合間に、こちらから少し話題を振ってみようか。
どうやら彼らとの旅が少し楽しみになっているらしい。それに気付いたメイメイはふっと微笑むと、軽口を叩き合う二人を呼び寄せた。
「クチナシ、キンカちゃん。これから雇用契約の書類を書くから商会に来てくれ。あと、他の護衛達にも顔合わせしておかないとだね」
ヒカガミ商会はちょうど目の前にある。雇うことを決めたらすぐに商会に入れるつもりだったから、場所移動はあらかじめ済ませておいたのだ。
返事とともにやってくるクチナシとキンカに、メイメイは招き入れるように商会の扉を開いた。