幕間2.夜間警備(1/2)
「ほら、コーヒー淹れたよ。いるかい?」
『ああ、すまない。こういうのは下っ端の俺がやるべきだった』
「いいよいいよ。私が飲む分のついでみたいなものだからさ」
フォゾへ向かう旅が始まった最初の夜、モモトフ山脈の途中にある森の中で、メイメイとクチナシがたき火を囲んでいた。他の護衛達はそれぞれ割り当てられた馬車で眠り、夜の見張りのために起きているのは二人だけだ。
クチナシは護衛隊長手ずから淹れたコーヒーを受け取ると、頭に被った籠を少し上にずらして一口すする。メイメイもたき火を挟んで向こう側に置かれた椅子に座り、同じようにコーヒーをすすった。
『それにしても、メイメイはよかったのか? これから先寝ずの番なんだろう? 昼間もずっと働きずくめだったし、そんなんじゃ体がもたないだろう?』
「心配には及ばないよ。物心ついてからずっとこうして生きてきたんだ。もうとっくに慣れたさ。それよりも、私はクチナシの体の方が心配だと思うんだがね」
『俺の方は気にしなくてもいい。慣れ、とは違うが、丸一日寝ずにいるくらいならどうということはない』
「そうなのかい? ま、無理だけはしないでくれよ」
『了解。肝に銘じておく』
そう言いながらコーヒーをすするクチナシだったが、実際それほど無理はしていないし、おそらくこの旅の中で無理と呼べるほどのことは起こさないだろうと踏んでいた。
藁を編んで作られたクチナシの体は、人間のように疲労や痛みを感じない。さすがに長時間活動し続けると気力が尽き、体の損傷が激しければ意識を保つことも難しくなるが、丸一日寝ずに行動し続ける程度ならば大した問題にはならない。
むしろ、クチナシと同じように丸一日行動し続け、その上でクチナシにコーヒーを淹れてくるだけの余裕を見せるメイメイの方が異常に思えた。
彼女はヒカガミを出発する前から旅の準備や備品の整理、人員の確保に道中の役割分担を担い、旅が始まってからも護衛に物見、他の護衛達からの連絡を聴き入れ、その都度的確に指示を出し、彼らを上手く取りまとめている。
ヒカガミで初めて出会ってから今に至るまで、クチナシはメイメイが休んでいるところを見たことがなかった。どこか知らないところで休息は取っているのだろうが、常に働き続けているように見えるほど、彼女は護衛隊長としての職務を全うしている。
それだけのことを、彼女は慣れているからの一言で済ませてしまった。勇者でも魔王でもない、ただの人間にここまでのことができるのかと、クチナシは人知れず感心していた。
「どうしたクチナシ。やっぱり実は無理をしていたかい?」
『いや、なんでもない。少し考え事をしていた』
たき火を見つめて動かなくなったクチナシに気付いて、メイメイが声をかけた。それに反応してクチナシはかぶりを振る。
隊長としての仕事をしつつ、隊員のこともよく見ている。
ほとほと、彼女の視野の広さには驚かされるばかりだ。
だが、それはそれとして、だ。クチナシはメイメイに言わなければならないことがある。クチナシは自分の背後を親指で指し示しながら、メイメイに報告を行った。