幕間3.また俺が何かやってしまっていたか?(1/1)
「なあ、新入りのクチナシってさ」
「ああ、なんというか、ちょっと不気味だよな」
モモトフ山脈を越える道中、隊商が開けた場所で休息をとっている中、護衛達三人が先日入ったばかりの新入りについて話をしていた。
三人はちらと、とある荷車の中に視線を送る。そこには自分の背を壁に預け、静かに眠るクチナシの姿があった。
今は休憩時間中で、クチナシも自分の出番まで眠って待機しているだけだ。そこに関してはなんの問題もない。
護衛達が問題視しているのは、眠っている彼の姿についてだった。
「寝息一つ立てねえし、身じろぎ一つしねえ。まるで人形みたいだぜ」
「そういえばこの前、見張りの交代でクチナシに声かけようとしたんだけど、彼、ちょっと近づいたらすぐ目を覚ましたのよ。びっくりして変な声出たわ」
「ああ、それ俺も心当たりあるわ。あいつっていっつも変な籠被ってるだろ? その下の顔がどうなってるか見てやろうと思って、あいつが寝ている隙にこっそり近づいてみたんだよ」
「どうだった?」
「だめだった。物音は立てていないはずなのに目を覚ましたらしくて、『悪いが顔の詮索はやめてくれ』って釘を刺された」
「それな、キンカちゃん曰く、昔事故で顔がぐちゃぐちゃになって以来、籠を被って顔を隠すようになったらしいぞ。本人が見せたがらねえんだったら、そっとしといてやれ」
事故については、クチナシの籠について問われた際、キンカが咄嗟についた嘘だった。いつも天真爛漫に愛想を振りまく幼い彼女の言うことを疑う者はおらず、いつしか誰もクチナシの身なりについて疑問に思わなくなっていった。
実際には顔どころか体そのものが人間のそれとは大きく異なっている。そのため睡眠中でも《感知》を展開し、自らに近づいていくる気配に反応するという芸当ができるのだが、護衛達にそれを知る術はない。
そんなクチナシが、護衛達の声が聞こえた気がして目を覚ました。荷車の外に視線をやると、護衛達が固まって話をしているのが見えた。
「――いつも座って寝てる――横になったところを見たことがなくて――」
「――ちょっと姿勢というか、寝相がいいというか――」
「――いやよすぎんだろ――」
「――寝息も立てねえから静かすぎるし――」
「――置物じゃねえんだから――」
内容までは聞き取れないが、どうやら自分のことについて話をしているらしい。
先日夜中に《炸裂》を使い、護衛達を全員まとめて起こしてしまったこともある。もしかしたら、自分の気付かないうちに、また何か失敗をしていたのかもしれない。
そう思ったクチナシはゆっくりとした動きで立ち上がり、荷車から顔を出した。
「お、おお、クチナシ。起こしちまったか?」
『いや、それについては大丈夫なんだが……』
護衛達がこちらに気付いて振り返る。
さて何から話したものか。ここでクチナシは何も考えていないまま首を突っ込んだことを思い出した。何を言おうか迷って固まったクチナシを見て、護衛達が息をのむ。
仕方ない。思ったことをそのまま言ってしまおう。護衛達は皆気のいいやつばかりだ。
戸惑いながらも、クチナシが口を開く。
『……俺も護衛につくのは初めてだ。俺の知らないところで失敗をしてしまっているかもしれないし、もしもそうなら直さなければならない。だから教えてほしいんだが――』
クチナシがちらと様子を窺う。三人は無言のまま続きを促している。
意を決し、クチナシが言葉を続ける。
『また俺が何かやってしまっていたか?』
「「「何もしていないから怖えんだよ!!!」」」
綺麗に重なった三人の叫び声が、モモトフ山脈に木霊した。