4.ヒカガミ商会護衛任務 後編(1/5)
「クチナシさーん、ちょっといいっスか?」
行商隊の馬車がヒカガミを出てから数日、一行は順調に商業都市フォゾを目指していた。
危惧されていた盗賊の襲撃は今のところ起きていない。数度野生の魔獣と遭遇したものの、大きな被害を出すことなく追い払うことに成功している。
道中少しばかりのトラブルやアクシデントこそあったものの、一行は順調にフォゾを目指していた。
そんなある日、キンカは休憩中だったクチナシのいる荷車の中を覗き込んだ。
キンカは雑用担当としてよく働いた。当初メイメイが考えていた、護衛達だけでは手の回らない雑務全般だけでなく、メイメイからの伝令役としての役割も担うようになっていた。
本人の明るい性格や人懐っこさも相まって、今では多くの護衛達から可愛がられるようになっている。
最近ではヒカガミ商会の会長からも気に入られたようで、彼から直々に商品の目利きや客によって変わる価値観や視点の違いなどを教わっているのがよく見かけられた。
『どうかしたか?』
一方のクチナシは無口で不愛想なおかげか最初のうちこそ一人でいることが多かったが、高い索敵能力と戦闘能力による堅実な仕事ぶりが知れ渡るにつれ、徐々に護衛達と打ち解けていた。
今では、護衛達を叩き起こした《炸裂》事件を掘り起こされ茶化されることも増えた。
「いや、メイメイさんからクチナシさんを呼んできてほしいって頼まれたんで、それで来たんス」
『分かった。すぐ向かう』
交代の時間はまだ先のはずだ。そんな時に呼び出しを食らうということは、何か良からぬことが起きたと考えるべきだろうか。
クチナシが荷車から降り、《感知》で周囲の索敵を行い、思わず絶句した。
まだ距離は離れているものの、隊商は完全に人間の集団に囲まれていた。確認できるだけで人数はおよそ二十から三十程度で、護衛の人数よりもやや多い。
彼らが盗賊団であることは間違いないだろう。このまま放置していれば、隊商が進む先にある森の中で囲まれるのは確実だ。とはいえ他にフォゾへと向かうルートも存在しない。
報告のためにクチナシはメイメイのいる先頭の馬車へと向かった。隊商の先頭では、メイメイが荷車の上に乗っかって、目を凝らして周囲を警戒しているところだった。
「ああ、クチナシ。来てくれたか。休んでいるところをすまないね」
馬車から降りることなく、首だけ動かしてクチナシを見下ろしながらメイメイは言った。
クチナシが休んでいた今、隊商の索敵を一手に引き受けていた彼女だ。敵の存在に気付いていないはずがない。
だが、それが報告を怠っていい理由にはならない。
『それは別にいいが、まずいぞ。囲まれてる』
「ああ、分かってる。だが他にルートがないし、引き返したところで意味がない。待ち伏せの場所をしっかりとわきまえている連中の仕業だ。戦闘は避けられない」
メイメイは周囲の警戒を続けたまま話を続ける。彼女の表情から焦りは感じられない。
「とはいえ、こんな木が密集した森の中なら一斉に襲撃を受けることはまずないだろう。射線を木に遮られるから飛び道具も封じられる。なら相手が来る位置とタイミングさえ把握していれば、私達だけでも対応できる」
『私達だけでも?』
自分の言葉を繰り返すクチナシに、メイメイはにやりと笑った。
「ああ、クチナシにはこちらから攻め込む一手になってほしい。他の護衛達を援護しつつ、機を見計らって盗賊団の頭を直接叩いてほしい。私以上の視野の広さと戦闘向きな転換術があるクチナシなら適任だと思っているんだが、できるかい?」
『任せろ。とりあえずぶっ飛ば――』
クチナシの言葉は、最後まで言い切ることはなかった。
クチナシは肌で、メイメイは目で、それぞれ周りの盗賊達に動きがあったことを素早く察知した。遠巻きにこちらの様子を見ているだけだった盗賊達が、一気に馬車に向けて走り出してきたのだ。