鉄屑少女と空飛ぶ案山子   作:くろゐつむぎ

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4.ヒカガミ商会護衛任務 後編(2/5)

「敵襲! 備えろ!」

 

 メイメイが腰に差した短剣を抜き払って叫ぶ。彼女達目掛けて盗賊達がナイフやこん棒といった思い思いの武器を手に飛び掛かる。それを躱し、返す刀で短剣を突き出す。

 

 お互いの仲間が隊商の周りに集まり、その仲間達がまた手にした武器を振るい戦いに身を投じていく。

 

 戦況は、メイメイの索敵のおかげで不意打ちを防いだ護衛側がやや有利に働いた。真っ先に襲い掛かってきた盗賊達の中に転換術を扱える者はいないらしく、一人、また一人と護衛の面々が盗賊を倒していく。

 

 だが、転換術を扱える者が一人いるだけで、戦況は簡単にひっくり返る。

 

 森の中から突然現れた粘つく水が、護衛の一人に襲い掛かった。咄嗟に剣を叩きつけて応戦するも、水に絡めとられた剣がその重量を増すだけに終わる。

 

 そのまま為す術もなく窒息させられた護衛がその場に倒れ伏すと、水はさらに獲物を捕らえようと近くの護衛達に襲い掛かる。

 

「周りの護衛達は俺が引き受ける! その隙にお前らは荷車を狙え!」

 

 護衛達が次々と倒されていく中、森の奥から野太い男の声がこだました。おそらく彼が水の転換術の使い手で、盗賊団の頭なのだろう。木々の隙間を縫う遠距離攻撃に、メイメイの槍を封じる森の中からの攻撃。

 

 この日のために徹底的にメイメイを対策してきたのだろう。短剣でなんとか応戦するメイメイは思わず舌打ちをした。

 

 戦える護衛の人数が減っていき、メイメイ達は目に見えて押され始めていた。足りない守りを補おうとメイメイも奮戦するも、やはり一人では数が足りない。

 

 そしてついに、盗賊の一人が荷馬車までたどり着いた。

 

「俺が一番乗りだ! 後に続け!」

 

 荷物や商品を漁ろうと、盗賊が荷車の中へと侵入していくのが見えた。今彼に対応できる護衛はいない。

 

 そのはずだった。

 

 うめき声とともに盗賊が荷車から放り出された。全身に巻き付けられた針金で身動きを封じられた盗賊は、受け身を取ることもできずに地面を転げまわる。

 

「大丈夫っスか!?」

 

 荷車から顔を出したのは、みずぼらしい恰好をした、年端も行かない少女だった。

 

 それが大の大人を一方的に締め上げ、護衛と変わらない働きを見せている。それが転換術によるものだということを、その場にいた誰もがすぐに思い至った。

 

 転換術の使い手が一人いるだけで、戦況は大きく変わる。それは敵も味方も同様だ。想定外の敵が現れ、一瞬盗賊達が身じろいだ。

 

 だが、頭はそれに動じることなく、手下達に発破をかける。

 

「はっ! お前らも転換術の使い手を雇っていたか! だがそんな小娘一人、俺の《粘液》の敵じゃないな!」

『だったら、俺とならどうだ?』

「!?」

 

 音のない声に反応して、盗賊団の頭が振り返る。爆発音と共に急接近してきた大男に向けて、咄嗟に水あめのような粘液を蛇のようにうねらせながら発射した。

 

 粘液はクチナシの右腕を包み込み、じっとりと湿らせて重さで動きを鈍らせる。その一瞬の隙を見逃さず、頭は間髪入れずに次の粘液をクチナシに打ち込む。粘液は鎌首を上げてクチナシを真上から呑み込もうと襲い掛かる。

 

「一直線に俺を狙うとはお見事だが残念だったな! 俺の転換術で溺れ死ね!」

『この程度で、か?』

 

 クチナシが一言呟いたと思えば、彼を呑み込もうとした粘液の蛇の頭が、派手な音を立てて爆散した。

 

「水中で爆発だと!?」

『俺の《炸裂》は火や火薬を使わない。魔元素を爆発という現象そのものに転換している。俺を水死させたいのなら、王都の河でも持ってくるんだったな』

 

 そう言いながら、クチナシは右腕にまとわりつく粘液も《炸裂》で吹き飛ばした。

 

 そのままクチナシは盗賊団の頭に急接近する。ぼろぼろに痛んだ長袖の衣服に身を包み、さらに革のグローブに長靴、さらには古びた外套が体中を覆い隠し、素肌を晒す部位は全くない。

 

 まるで陽の光を嫌いでもしているかのようなその男と一瞬目が合った盗賊団の頭は、その異質さに身震いした。長年の経験と勘が頭の中で大音量の警告音を鳴らし始める。

 

 あれに関わってはいけない、と。

 

「な、なんなんだおめえは!?」

『なんでもない。ただの通りすがりだ』

 

 やけになった頭が放つ粘液の蛇が、草地を這ってクチナシを呑み込もうと突進する。それを《炸裂》の反動で宙にふわりと浮かんで躱したクチナシは、右手を盗賊団の頭へと差し向ける。手のひらで魔元素が種の形に転換され、ぽろぽろとにわか雨のようにその場に降り注ぐ。

 

 盗賊団の頭の直感は正しかった。あれはただの人が立ち向かって勝てるような存在ではない。

 

 ただ惜しむらくは、それに気付いたころには手遅れだったということだろうか。

 

『ただ、悪い奴はぶっ飛ばしてもいいという、お前達人間が決めたルールに従っているだけの、な』

 

 直接頭の中に流し込まれているかのような彼の声がした直後、盗賊団の頭を丸ごと飲み込むほどの、大地を揺らすほどの大爆発が、盗賊団の頭を文字通りぶっ飛ばした。

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