鉄屑少女と空飛ぶ案山子   作:くろゐつむぎ

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1.鉄屑少女と空飛ぶ案山子(3/8)

 その時だった。

 

『おい』

 

 人攫い達のものではない、知らない男の声が聴こえた気がして、その場にいた全員がぱっと振り向いた。彼らの視線の先、大通りへと繋がる方角から、背の高い誰かが仁王立ちしてこちらを見ている。

 

 肌を見せない長袖の衣服に包んだ全身を、古びた外套で覆い尽くしている。外套の隙間から見え隠れする両手には、厚手の手袋がはめられているのがちらりと見えた。長身ではあるが、体格は今一つ掴み切れない。

 

 先ほどの声からして男性なのだろうが、彼の頭には竹を編んだ籠がすっぽりと被さっており、表情どころか、一体どのような顔つきをしているのかも分からない。

 

 まるで陽の光を嫌うように、徹底して素肌を隠した彼は、ずかずかと革の長靴を慣らしながらキンカ達に近づいてきた。

 

「なんだお前は? 部外者はすっこんでろよ」

 

 そんな彼の前に、痩せぎすの男が邪魔をするなと立ちはだかる。腰のベルトに差していたナイフを抜き払うと、鈍色に光る刃を籠の男に向けた。

 

 だが、籠の男はナイフに動じることもなく、歩み寄る脚を止めることもしない。

 

『悪いがそうもいかないんだ。俺は王都を目指して旅をしているんだが、少々路銀が心もとなくてな』

 

 口から発せられ耳へと受け取られる、空気の振動で伝えられる音としての声ではなかった。籠の男の音のない声は、まるで頭の中に直接響いてくるような奇妙な感覚と違和感を与えながら、その場にいた全員に彼の言葉を伝えていく。

 

『そこで、心優しい誰かがいないかと思って、この路地裏を覗いてみたわけなんだが、どうかこの哀れな文無しに、お恵みを与えてはくれないか?』

 

 皮肉たっぷりな言葉が終わるのとほぼ同時に、籠の男は痩せぎすな男の前で立ち止まった。

 

 そんな彼に、痩せぎすな男は嘲笑で返す。

 

「そうか、それじゃ残念だったな。ここにはお前の大好きなお人好しはいねえんだよ!」

 

 叫び声と共に、瘦せぎすな男が手にしたナイフを突き出した。咄嗟に庇おうと動いた籠の男の左腕に、ナイフがざくりと小気味いい音を立てて突き刺さる。根元まで深々と突き刺さったナイフから、思わずキンカは目を背けた。

 

 だが、しばらくして、何か様子がおかしいことに気付いて、キンカはうっすらと目を開く。

 

 ナイフを刺した痩せぎすな男から笑みが消えている。何か信じられないものを見てしまったかのように、彼の腕から生えたナイフを見つめたまま動かない。

 

 一方、ナイフを刺された籠の男は、そのナイフにまるで何の反応も示していなかった。痛みに苦しむでもなく、堪えているわけでもなく、まるで服についた虫でも見るかのようにちらとナイフを見て、興味をなくして瘦せぎすな男に視線を戻す。

 

 それから彼はおもむろに、瘦せぎすな男の腹部に右手をかざし――

 

 瞬間、彼の腹部が爆発した。

 

 ナイフの刺突音とは比べ物にならないほどの爆発音がキンカの耳にまで届き、爆風がキンカの短い髪を揺らす。まともに爆発を受けた痩せぎすの男は吹っ飛ばされ、二、三度地面を転げまわり、倒れ伏したままぴくりとも動かなくなった。

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