『《回復》、いや、《成長》か? なんにせよ一度ぶっ飛ばすだけでは足りないのは面倒だな』
「面倒だな、で済む話っスか! これじゃ埒が明かないっスよ!」
十分な数を用意し終えた蔦は再度二人を捉えようと襲い掛かった。クチナシが爆破し、キンカが切り刻むものの、それでも膨大な数の蔦を全て相手にするのは不可能だった。やがて数に押され始め、二人の迎撃を潜り抜ける蔦が数本現れるようになった。
触れられそうになる蔦をクチナシの《炸裂》による高速移動で回避するも、このままではキンカの言う通り、いつまで経っても埒が明かない。魔元素は有限で、保有量でいえばおそらくクチナシの方が多いだろうから、持久戦になればクチナシが勝つだろう。
だが、持久戦を挑んだ場合、最初に脱落するのはキンカだ。時間はかけられない。
後方に飛んで距離を取りつつ、どう攻めるか考えるクチナシが、着地した瞬間、彼らを取り囲むように、地面から幾本もの蔦が円を描くように生えてきた。そのまま鎌首をもたげ、中心にいる二人目掛けて、蔦の触手が一斉に襲い掛かる。
時間はかけられない。ならば、速攻で片づければいい。
クチナシは迫る蔦に構うことなく、植物の魔獣に真正面から突っ込んでいった。
背後で炸裂させた魔元素を推進力にして、二人はみるみる加速していく。
襲い掛かる蔦を、わずかに身をよじり、捻り、《炸裂》で消し飛ばしながら進んでいく。
いくら魔獣の操る蔦を破壊しようとも、再生し復活するため効果が薄い。
だが、そんな魔獣にも一つだけ例外はある。クチナシの進む先には、あらゆる障害を阻むように周囲に蔦を侍らせる、ひときわ大きくて太い蔦が一本あった。その先端には巨大な桃色のつぼみのようなものがついており、かすかに開かれた先端は常にクチナシ達に向けられている。
植物でいうところの、茎に当たる部分。おそらく、それこそが魔獣の急所だ。
魔獣もクチナシの狙いが茎であることに気付いたのか、目の前に多量の蔦を出現させ二人の行く手を阻む。だが、クチナシもそれに種をばらまいて対応する。炸裂させた種が触手を消し飛ばし、ついに二人の前に行く手を阻む蔦は消え失せ、一本の茎が露わとなった。
そこにクチナシは、ひときわ大きな種を発射し、茎に刺さったのを確認すると、左に急旋回して魔獣から距離を取った。蔦がクチナシを追うように襲い掛かるが、ただ逃げるだけでいいクチナシ達に追いつくことができない。
十分な距離を取ったところでクチナシがくるりと反転し、魔獣の方を向いて叫ぶ。
『ぶっ飛べ!』
彼の声に合わせて、仕込んだ種が大爆発を起こした。空気の震えが肌で感じられるほどの轟音と、ぬかるむ大地を揺らすほどの爆発は、魔獣の茎をまるごと消し飛ばした。
上部に残ったつぼみはその場にべしゃりと落下し、あちこちに生えた蔦も次々にその場に倒れていく。
やがてすべての蔦が動かなくなると、辺りは嘘のようにしんと静まり返った。戦闘の終わった湿地帯の真ん中で二人は立ち尽くし、何も起きないことを確認して、ようやく歓声をあげた。
「やりましたね! クチナシさん!」
『ああ、そうだな』
勝利にほっと胸を撫で下ろすキンカは、ふと倒したばかりの魔獣を見つめた。
死骸から何か使えそうな素材が取れないか探そうかとも思ったが、炸裂でばらばらになった蔦を持ち帰ったところで使い道はなさそうだ。
「じゃ、さっさと先に進みましょうか。さっきの魔獣が他の魔獣を残らず食べ尽くしたっていうんなら、この先ほとんど魔獣と会うこともなさそうですし、もうこの湿地帯も楽勝っスよ」
『そうだな。ここに留まる理由も――』
クチナシがキンカに返答しようとした、その時――
突然生えてきた蔦の触手が、クチナシの右肩に突き刺さった。