『――!』
そのまま巻き付き締め潰そうとする蔦を爆破してちぎり、咄嗟にクチナシはキンカを抱え、《炸裂》と《身体強化》で空に跳躍した。
「クチナシさん!? 大丈夫っスか!?」
『いくらか体力は消耗するが、肩を貫かれたくらいなら大したことはない。だが――』
クチナシが顎でしゃくり、キンカが彼の示す方、足元に広がる地面を見下ろして絶句した。
足元には先ほど倒したはずの植物の魔獣が、また蔦をあちこち張り巡らせていた。吹き飛ばしたはずの茎からは新しい蔦が生え始め、千切れた断面からはすでに新しい先端が出来上がりつつある。二人が立っていた場所は触手に覆われ、クチナシの反応がもう少し遅ければ、二人とも蔦に飲まれて養分にされていただろう。
「そんな、なんで……」
『どうやら、俺の目論見が甘かったらしい』
「どういうことっスか?」
『俺の《感知》は、覆われているものの中身までは感知できない。地中も同じだ。だから地面の下のことまでは考えていなかった』
クチナシの《感知》は、自分と空間を共有しているものしか判別できない。木箱に入った品物や、封筒の中の手紙を透視することはできない。
それは地面も一緒だった。魔元素が地表を読み取った時点で情報をクチナシに返すため、地表よりもさらに下、地中のことまでは読み取ることができない。
「地中ってことは、つまり……」
『ああ、あいつの弱点は、茎じゃない』
キンカの言葉を引き取り、クチナシが断言する。その言葉を聞きとったかのように、植物の魔獣は、埋まっている茎より下の部分――巨大な白い球根を地上へと露わにした。
『あの球根が、奴の弱点だ』
魔獣は球根が完全に地中から掘り起こすと、短くなった茎から伸ばした蔦でぐるぐる巻きにしていく。球根が完全に蔦の球体に覆われると、今度はそれを核にして、両手両足を蔦で編み上げ、人の形を作り出していく。
蔦の巨人はクチナシ達の姿をその眼で見ると、あらんかぎりの雄たけびを上げた。
「うわあ、めちゃめちゃ怒ってるじゃないっスか……」
『向こうも本気になったというわけか。しかしまずいな、ああも蔦に覆われてしまうと、球根まで俺の《炸裂》が届かない」
「連発して邪魔な蔦をどかすってのは!」
『なしだ。時間が掛かりすぎる。掘り進んでいる間に他の蔦に捕まるぞ』
「じゃあ、一発どでかいのをお見舞いするとかはどうっスか!?」
『いけるかもしれんが、上手くいくかは半々といったところだな。賭けるには分が悪すぎる』
「――ウチが鉄の管を転換して、球根に直接種を届かせるのは!?」
『その管を差し込む隙間があるんなら、最初から俺の種を流し込めば――』
キンカの提案を否定しかけ、ふと考え込む。こちらの攻撃を通すための空間がないのならば、それを作るための策を練ればいい。
キンカの転換術は金属の生成と加工だ。先ほども転換した盾を瞬時に鉈に作り替えた。
キンカの転換術は、一度生み出したものを転換術で作り替えることができる。その精度がどの程度かは知らないが、もしもクチナシの考える通りならば、あるいは――。
『……いや、それでいくぞ。ただし、まずはだな……』
地上に降り立ったクチナシが、迫りくる蔦の数々を捌きながら、背中に抱えたキンカに作戦を伝える。理屈の上では可能なはずだ。確実とはいかないまでも、クチナシの全力を一発ぶつけるだけよりはまだ勝算はある。
『……以上が、これからやる作戦だが、できるか?』
説明の後で、クチナシはキンカに問うた。
この作戦が成功するかどうかはキンカにかかっている。
彼女の術者としての腕前もそうだが、なにより二人分の命を背負うだけの覚悟と度胸がなければ話にならない。
「クチナシさんはそれでいいんスか?」
『俺だけでどうしようもないというのは腹立たしいが、これ以上の手も思いつかん。もちろんお前と心中してやる気はないし、失敗したときは全力で離脱するから安心しろ』
「それ聴いて安心したっス。ウチは大丈夫なんで、一緒にあいつをぶっ飛ばしてやりましょう!」
彼女の答えに迷いはなかった。
邪魔としか思っていなかったはずの子供の声が、今は妙に心強い。
『いくぞ。もう後悔するなよ?』
「クチナシさんに着いていくって決めた時から、後悔なんて一つもしてないっスよ!」
キンカの返事とともに、クチナシは《炸裂》を利用して一気に蔦の巨人に突進していった。