巨人もそれに反応し、地面から次々と蔦を生やしては二人を捉えようと伸ばしていく。それらをクチナシが躱しながら進み、巨人の足元までたどり着くと、今度は真上への推進力のために足元で爆発させ、二人は植物の魔獣の頭上よりもさらに上へと飛んでいく。
空中で旋回し、その眼でしっかりと蔦の巨人を見下ろすと、クチナシは右手をキンカに近づけた。
『筒と釘の用意!』
「はい!」
クチナシの指示に合わせ、キンカがクチナシの右腕に転換術を発動した。二つのリングに腕を通して固定した筒の中には、人の腕ほどの長さを持つ釘が一本格納されている。その切っ先を魔獣に向けると、二人は《炸裂》によって加速しながら、一気に魔獣へと突撃した。
二人を撃墜しようと幾本もの蔦が伸びていくが、それを器用に躱しながらクチナシはさらに加速していく。転換術を使っているのもそうだが、右腕に取り付けた大筒と釘が思った以上に重い。制御が効かなくならないよう注意しつつ、限界まで加速して、魔獣の胸へと流れ星のように落ちていく。
『切り離し!』
「はい!」
キンカが大筒と釘をもう一度転換し、中で釘を固定していたストッパーを取り外す。自重でずり落ちる釘の頭と筒の底との隙間には、クチナシの種が数個入れられていた。
クチナシは右腕を伸ばし、釘を魔獣に突き立てると同時に、釘の頭にあらかじめ仕込んでおいた種を爆発させた。文字通り爆発的な推進力を与えられた釘は魔獣の胸を貫き穿ち、幾重にも重ねられた蔦を引き裂きながら、中心の球根にまでその切っ先を届かせた。
『再転換!』
クチナシの攻撃が終わったのと同時に、キンカが魔獣に突き刺さった釘をさらに転換し直して、釘の中心に筒状の穴を空けた。その穴の中にクチナシがありったけの種を流し入れる。釘の中を通った種は重力に任せて落ちていき、胴体の中心にある球根にまで到達する。
『じゃあな。ずいぶん手こずったが、これで終わりだ』
種を流し込み終えたクチナシは素早く魔獣から離れ、なおも襲い掛かる蔦の触手をはじき返しながら呟いた。
十分な距離を稼いだところで、種は一斉に爆発した。
蔦で厳重に覆われていたおかげで、どこにも逃がすことができないでいた衝撃に巻き込まれた球根は、見るも無残に粉々に破壊し尽くされ、心臓をなくした蔦の巨人は、力尽きてその場に膝から崩れ落ちた。
湿地帯の泥を盛大に跳ねさせながら倒れ込んだ巨人は、そのままぴくりとも動かなくなった。周囲でうごめいていた蔦の触手や葉の口も、巨人のあとを追うように次々と倒れていく。やがてすべての蔦が倒れ伏し、動かなくなると、辺りは先ほどまでの戦闘が嘘のように静まり返った。
その中をクチナシとキンカは、もう不意打ちや死んだふりをしていないか警戒しながら着地して、本当に魔獣が死んだと確信すると、ほっと胸を撫で下ろした。
「……やりましたね」
『おそらく、な』
緊張の糸が切れたのか、キンカはその場にへたり込んだ。べしゃりと跳ねる泥に服が汚れるのも構わず、大きな安堵のため息を吐きながら座り込んで、蔦の巨人の死骸をぼんやりと眺めている。
クチナシもまた死んだふりをされているのではないかと、ぴくりとも動かない蔦を一緒に見ながら、《感知》で周囲の警戒も同時に行っていたが、何かが起きる気配もないことを確認して警戒を解いた。
「えへへ……」
唐突に、キンカが満足げに笑い始めた。
『なんだ。気持ち悪い』
「とかなんとか言っちゃってー。クチナシさんだってちょっと嬉しそうな声になってるじゃないっスかー」
『……はあ』
すっかり浮かれ切っているキンカに、クチナシはため息で反応した。
《意思疎通》で相手に届かせた声に、感情はあまり乗らないはずなのだが、どうやらキンカにはいつもと声色が違って聞こえていたらしい。
とはいえ、クチナシも困難を乗り越えたことに内心安堵しているのは間違いないのだが。
「ほら、クチナシさん」
キンカは嬉しそうに、握りこぶしをクチナシに差し出してきた。
以前護衛依頼をこなした後の、酒場での仕草と一緒だ。
ことが上手くいったことを喜び合うための仕草を、キンカはしっかりと覚えてきた。
そして、それはクチナシも同じだった。
クチナシも握りこぶしを差し出して、キンカの拳に軽くぶつけた。
人間のような重さも硬さもないクチナシの拳から、くしゅっと藁が潰れる、なんとも情けない音が鳴った。