村の危機を救った二人の英雄に、村人達はあらんかぎりのもてなしを行った。
酒と料理を出し、できる限りのふるまいに、キンカは満面の笑みで喜んだ。
その後、誰も使っていない倉庫にベッドと毛布を運び入れ、二人への寝床として提供された。元々古びていたことに加え、大蜘蛛の襲来があったおかげで、あちこちに修繕されないまま放っておかれた傷跡が残されている。
壁からは隙間風が入り込み、絶えずきしむ音が鳴り続ける小屋に案内した老人は、二人の英雄に深々と頭を下げた。
「お二人にお貸しできるような部屋がなく、このような物置に押し込めてしまうことを、どうかお許し願いたい」
「いやいや、雨風しのげるところを貸してもらえるだけでも嬉しいっスよ! それに、ベッドに毛布も用意してもらえるなんて……!」
『普段は野宿だからな。落ち着いて体を休める場所を頂けるだけでもありがたい』
「そ、そうなんですか……」
彼らの普段の生活にやや困惑する老人だが、特に文句も何も言わないのを見て少し安心した。
「では、また何かありましたらなんなりとお申し付けください」
そう言って老人は小屋を後にした。
老人を見送ると、キンカはさっそくベッドに飛び込んだ。今は使われていない粗末なものではあったが、これまで硬い地面で眠りについていた彼女にとっては、それだけでも極上の寝床となる。
「ああ、温かい……。クチナシさんもどうっスか?」
毛布に包まって温かみに顔を綻ばせていたキンカは、ベッドの向かいの壁に寄りかかって床に座り込むクチナシに、毛布を捲り上げて入ってくるよう誘ってみる。
『いや、ベッドはお前が一人で使え。借りたものに文句を言うつもりはないが、そのベッドに二人で寝るのはさすがに手狭だろう』
「えー。ウチはあんまり気にしませんよ?」
『お前はもう少し気にした方がいいと思うが……まあいい。せっかくの機会だ。存分にベッドで体を休めればいい。どうせ俺は疲れも寒さも感じないから、床もベッドもそう変わりはしない』
「そうっスか……」
何か言いたげなキンカを無視して、クチナシはそのままぼろの外套にくるまった。その様子を見て、キンカは頬を思いっきり膨れさせる。
ぱっとベッドから飛び起きると、そのままクチナシに向かって広げた毛布を被せる。マントのように肩から毛布を被せると、キンカは彼の前に回り込み、彼のあぐらの中心にどかりと座り込んだ。
そのまま毛布の両端を持ってくるりとくるまり、二人の全身を覆う。二人羽織りのような格好で小屋の隅にうずくまるキンカは、満面の笑みで全体重をクチナシに預けた。
「んー、やっぱり温かいっス」
『おい、邪魔だ。ベッドに戻れ』
「じゃあクチナシさんも一緒に来てください」
『なんでだよ。手狭だと言ったろうが』
「ウチは気にしないって言ったじゃないっスか」
『俺とお前の体格差だ。毛布全部むしり取るぞ』
「その時はクチナシさんにくっつくんで大丈夫っス」
『何がどう大丈夫なんだ。いくら小屋の中とはいえ、夜は冷えることくらい分かってるだろ?』
「いいじゃないっすスか。クチナシさんとくっついてたら温かいですし」
『俺の体に対する皮肉か?』
「いいえ。そんなまさか」
悪びれもせずにキンカは口にした。おそらく本心から、クチナシの体を馬鹿にするつもりはないのだろう。
ならばどうして、彼女はやけにクチナシと体をくっつけたがるのだろう。藁を束ねて編み上げた彼の体に、人の持つような体温はない。干し草をベッド代わりにして眠る人もいるにはいると聞くし、実際似たような体をしている彼ならば多少は暖かさもあるのかもしれない。それでも、ベッドの持つ温もりには敵うはずもないだろう。
「クチナシさんも、そんな遠慮しなくてもいいんスよ?」
『遠慮してるんじゃない。単にお前が鬱陶しいだけだ』
「とかなんとか言って、真っ先にウチにベッド譲ろうとしてるじゃないっすかー。いいじゃないっスか、一緒に寝ましょうよー」
『俺にベッドは必要ないが、人間のお前はしっかりと眠るためにベッドが必要だってだけの話だ。俺に寄りかかってたら、休めるものも休めないだろうが』
「ウチはどこでも寝られるんで大丈夫っス」
笑って返すキンカに、クチナシはため息を吐いた。
頭の回転が妙に早く、計算高い彼女ではあるが、年相応に無邪気でわがままな面もある。
おそらく今は効率どうこうを考えてはいない。ただただクチナシと一緒のベッドで寝たいだけだ。藁を束ねた自分の体の一体どこに、ベッドでゆったりとした眠りにつく以上の利点があるというのか。