鉄屑少女と空飛ぶ案山子   作:くろゐつむぎ

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1.鉄屑少女と空飛ぶ案山子(4/8)

「てめえ――」

 

 キンカを捕まえていた筋骨隆々な男が口を開いた瞬間、今度は帽子の男の顔面が爆発した。爆発は先ほどよりも小規模なものの、脳みそを揺らされた帽子の男は白目をむいて膝から崩れ落ち、どさりとその場に倒れ込んだ。

 

 爆発が起きる直前、キンカは籠の男が帽子の男に何かを飛ばしているのを見ていた。植物の種のような小さな白い粒が、帽子の男の顔面に迫るやいなや爆発し、たった一撃で昏倒させていた。

 

 火傷跡が一切残っていないことからして、おそらく彼は火を使っているわけではなく、魔元素を爆発という現象そのものに転換させて攻撃を行っているのだろう。

 

 だが、問題なのはそこではない。

 

「な、なんだよお前……」

 

 ここにきてようやく、筋骨隆々な男もその事態の深刻さに気付いた。キンカを捉える腕はわなわなと震え、信じられないものを見るかのように、籠の男から目を離せないでいる。

 

 いや、実際に彼の行動が信じられないのだろう。今まで当たり前になっていた彼らの常識が、ほんの少しのやり取りの中で、いとも簡単に覆されたのだから。

 

「なんでお前、転換術が使えるんだよ!」

 

 筋骨隆々な男の言葉を耳にして、ようやくキンカの中で渦巻いていた違和感の正体がはっきりとした。彼らを攻撃した爆発の転換術だけではない、彼が話す不思議な声もまた転換術だ。

 

 帽子の男によって確かに封じられていた転換術を、彼はなんでもないといわんばかりに使っている。

 

 人攫いの男の叫び声に反応して、籠の男が視線をこちらに向けた。被っている籠のせいでやはり彼の表情は読み取れない。だからこそ、それがいっそう不気味だった。

 

『ああ、確かその帽子の男の転換術で、他の奴らの転換術を阻害しているんだったか。心配しなくともちゃんと効果はあったぞ。そこの二人を気絶させた転換術、俺は《炸裂》と呼んでいるんだが、思ったよりも威力が出なくて困った』

 

 それでも、気絶させるだけの威力は出てくれて助かったと続けた彼の言葉に、キンカと筋骨隆々な男は驚愕した。

 

 決して効果がなかったわけではない。ただただ彼の転換術の技量が高すぎて、灰色の霧が阻害しきれなかっただけなのだ。

 

『悪いな。お前が得意げに説明してくれているのが聞こえていたんだ。だからこそ、その帽子の奴から先にぶっ飛ばしたんだが、何かまずいことでもあったか?』

 

 どうやら帽子の男が嫌っていた無駄口が、予期せぬ方向でキンカに味方していたらしい。

 

 この場で彼が一番強いことは、もはや誰の目にも明らかだった。

 

「く、来るんじゃねえ!」

 

 籠の男が歩み寄ろうとするのを大声で制し、筋骨隆々な男は懐からナイフを取り出し、刃をキンカの首筋に突きつけた。がたがたと震えるナイフの切っ先がキンカの首筋に触れるたび、薄皮を割いて小さな赤い球を膨れ上がらせていく。

 

「それ以上こっちに寄ってみろ! こいつの首掻っ捌いてやる! 転換術もだ! いいか、俺がいいというまで動くんじゃねえ!」

『それがどうした?』

「……は?」

 

 籠の男の言葉に、筋骨隆々な男は思わず呆気にとられる。

 

『最初に言っただろう? 俺は路銀を恵んでもらいに来たんだ。別にかわいそうな女の子を助けたいわけでも、ましてや正義の味方を気取るつもりもない』

 

 籠の男は右腕を上げ、指をまっすぐにこちらに向けてそう言った。それが攻撃の予備動作であることはすぐに分かった。表情を一切読み取れない不気味さが、恐怖心となって筋骨隆々な男にのしかかる。

 

『ついでにもう一つ教えてやる。もしそいつの首をかき切ってくれたなら、俺は喜んでその隙を突いてやるよ。それでもいいのなら、お前の好きにすればいい』

「ひっ……」

 

 完全に恐怖にのまれた彼の隙を、キンカは見逃さなかった。

 

 男の腹部に手をあて、転換術で作り上げた鉄球を思い切り打ち込んだ。男は突然やってきた衝撃にうめき声を上げつつも、反射的にナイフをキンカに突き立てる。だが、それもいつの間にか作られていた、顎から肩までを覆い隠す鉄の防具に弾かれてしまう。

 

 手足を縛る縄は、籠の男に視線を釘付けにされている間に剃刀の刃で切断しておいた。もう邪魔をするものはいない。キンカは一目散に籠の男の方へと走り出した。

 

 転換術を阻害する灰色の霧は、帽子の男が籠の男に倒された時から消えている。突然現れた謎の男に気を取られて、恐怖にのまれた彼だけがそれに気付けなかった。

 

「ま、待ちやがれっ……」

 

 うずくまりながらも男はキンカに手を伸ばすが、そのころには彼女はとっくに手の届かないところにまで走り抜けていた。決して敵わぬ相手を前にして、仲間は倒され、人質には逃げられた。

 

「や、やめて……」

『やめろと言われて、やめる奴がいるか?』

 

 どうしようもない絶望的な状況で、筋骨隆々な男はか細い声で呟いた。それを籠の男は一蹴し、足音を響かせながら歩み寄る。

 

『それに――』

 

 目の前までやってきた籠の男が立ち止まり、攻撃を仕掛けようと右手を向ける。身長はそう大きく変わらず、体格は筋骨隆々な男の方が恵まれているにも関わらず、そのときばかりは、籠の男がやけに大きく見えた。

 

『悪い奴はぶっ飛ばしてもいい。それがお前ら人間の決めたルールだろう?』

 

 籠の男が手のひらからぱらぱらと種をまくと、それが一斉に爆発し、派手な爆発音が人攫いの断末魔の叫びを掻き消しながら飲み込んだ。爆風が狭い路地裏をすさまじい勢いで通り抜け、離れたところで様子を見ていたキンカにも襲い掛かる。

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