「失礼する」
尽きない疑問にクチナシが頭を悩ませる中、問題の来客が二人の前に姿を現した。クチナシが《感知》で知った通り、男一人、女三人の四人組が、小屋の主であるメイガンを睨みつけている。
服装や装備は全員てんでばらばらだった。こげ茶色の髪を一つに束ねた少女は、革の胸当てと急所を守るための最低限の防具を身につけ、腰には細身の剣を差している。赤い髪を肩甲骨の辺りまで伸ばした少女は、黒で統一された三角帽とローブを纏い、身の丈ほどの長さの樫の杖を所持している。水色の髪を腰まで伸ばした少女は、赤髪の少女とは対照的に青と白で統一された神官服に袖を通し、先端に透明な宝石をあしらった金属製の杖を手にしている。
こげ茶色の髪の少女が剣士、後の二人が魔術師の役割を担っているのだろう。
そして問題なのが、彼女達に囲まれた男だ。
煌びやかな白銀の鎧を身にまとい、腰には細やかな意匠をこらした細剣を携えている。とび色の短髪は旅の中で伸びたのか、吹き抜ける風にかすかに揺れている。澄んだ青色の瞳には、やや不安げな色が混じっている。
まだ少々幼さの残る彼の顔立ちに、クチナシはどこか見覚えがあるような気がした。だが、初対面のはずだ。そんな気がすること自体おかしい。
ならば、今も胸の内から湧いてくる、焦燥感にも似た感情の正体はなんなのだろう。
クチナシが疑問に思う中、こげ茶色の髪の少女がメイガンに口を開く。
「貴様がメイガンだな」
「いかにも、私がメイガンだ。こんな森の奥までようこそおいでなさった。今お茶を淹れるから、少し待っていて――」
「いらん。それよりも、だ」
ばっさりとメイガンの話を切り捨てて、こげ茶色の髪の少女は早々に本題を切り出した。
「先日、ここズマフジズ森林に魔王が出現していると《信託》があった。近隣の街に聞き込みをしていたのだが、貴様、数年前から謎の男と連れ立って行動するようになったそうだな?」
彼女が言う謎の男というのは、クチナシのことで間違いない。《信託》というものはよく知らないが、彼女の口ぶりからして、どうやら魔王の位置情報を探る転換術か何かだと思われる。
魔王を探している彼らがメイガンに行きつくのは至極当然のことだ。なにせ、彼女はこの十年、実際に魔王と一緒に生活しているのだから。
だが、そのことはまだ彼らは知らないはずだ。聞き込みにしては妙に高圧的な彼女の態度に違和感を覚えながら、クチナシは体を動かせない分頭を働かせて違和感の正体を掴もうとした。
メイガンは口をつぐんだまま動かない。ただ黙って、少女の話の続きを促している。
それを感じ取り、少女はきっとメイガンを睨みつけ、低い声で言った。
「単刀直入に聴く。メイガン。匿っている魔王をどこへやった」
一瞬、ほんの瞬きするほどの短い時間、その場は静寂に包まれた。
クチナシは、こげ茶色の髪の少女が話す言葉を、咄嗟に理解できなかった。
言葉の内容が、ではない。メイガンが共に暮らしていたという男が、魔王であると確信している理由が、だ。
だが、そもそもの前提が違うと分かれば簡単な話だ。彼女達はただ《信託》の導きを信じ、疑わしきものを片端から罰しようとしているだけだ。
クチナシは違和感の正体も合わせて理解した。
奴らは聞き込みをしに来たのではない。
メイガンを尋問しに来たのだ。
「さあて、ね。それよりも、まだお互いの自己紹介すら済んでいないというのに、そんなに高圧的な態度であれこれ聴くのは失礼だとは思わないかい?」
対するメイガンは至っていつも通りだった。先ほどクチナシに見せた緊迫の表情は消え去り、普段よくやるような、うさん臭さに溢れた応対をし始めている。
「時間を稼ぐ寸法か? 貴様の口車には乗らん」
そんなメイガンに、女性三人は各々武器を取って構え始めた。
明らかな敵意をその目に宿し、メイガンを睨みつける。
一触即発な空気の中、メイガンは呑気にため息を吐いた。
「……まったく、年長者の言うことは聴くものだよ? 話をする機会も、時間も、手段もあるんだからね。まあ、君達がその気だというのはなんとなく分かっていたけれど……」
メイガンが杖を手にし、不敵に笑う。
「いいよ。遊んであげるから、かかってきなさい。勇者ご一行の皆様」