7.正義の勇者の名のもとに、悪の魔王に死の制裁を(1/5)
「ついに見えてきたっスね……!」
『そうだな』
感動を露わにしながら話すキンカに、クチナシは短く返事をした。
冠宮殿と呼ばれる国王が住まう王城があり、その周辺を囲うようにして発展を続けた、今この国で最も栄えている街、王都ラシカ。
その正門を視界の奥の奥に捉え、キンカは興奮を隠せないでいた。
「いよいよ、王都に乗り込むんスよね」
『緊張してきたか?』
「いえ、なんというっスか。ちょっと寂しくなるっス」
『寂しい?』
少し困ったように頬をかくキンカの真意が読み取れず、クチナシは首を傾げる。
「だって、王都に着いたってことは、この旅ももうすぐ終わっちゃうってことじゃないっスか」
『それはいいことじゃないか。俺は目的を果たせる。お前だって、生きていくんならあちこち旅するよりも、どこかひとところに落ち着いた方がいいだろう?』
「それはそうっスけど、そうなったらクチナシさんはどうするんスか?」
『俺?』
キンカの質問に、クチナシは思わず言葉に詰まった。仮にメイガンが生きていたのなら、次はどうやって彼女を取り戻すかを考える必要が出てくる。だが、もしもそうでなかった場合、その後のことは何一つとして考えていなかった。
とはいえ、キンカへの返答はこの先の動向に関係なく、たった一言で済まされる。
『……まあ、どうであれ、お前には関係のない話だ』
「……そうかも、しれないっスけど……」
『……?』
突然口ごもるキンカの反応に、クチナシはもう一度首を傾げた。普段減らず口を叩き続けるこのおしゃべりが、何を言い澱んでいるのかは分からないが、今のクチナシの態度に何か思うところがあるらしい。
だが、それが具体的にはどういうものなのか、今の彼女には説明できないような曖昧なものなのだろう。キンカは頭の中に残る曖昧な思いを振り払うように大きく首を振った。
「と、とにかく! この旅が終わったらどうするかは、絶対に教えるっすよ?」
『……あ、ああ』
「絶対っすからね!?」
『分かった。分かったから、少し黙れ』
空返事を繰り返すクチナシに強く念押しするキンカを、クチナシは鬱陶しく思えて、軽く彼女の頭を小突いた。
大して痛くもなんともないはずだが、キンカは反射的に「痛っ」と口にする。
そんな彼女を見て、クチナシは心の中でふっと笑った。
この旅の終わる頃、自分はどこにいるのだろう。あの世か、はたまたまだ見ぬ場所へと旅をしているのか。
いずれにせよ、キンカは王都に置いていくつもりだった。働き口や食い扶持は彼女ならば探せばいくらでも見つけられるだろうし、生きることに必死になった経験からか侮れない程度には知恵もある。
いつか護衛した行商人とも顔がきくから、いざとなればそちらを頼ってもいい。彼女が生きていくには、王都にいることが最善手だ。
だから、クチナシのその先と、彼女のその先には関係がない。
それでいい、はずだ。
「ところで、勇者様って王都にいるんスかね?」
額を抑えるキンカは、そういえばと、ふと浮かんだ疑問を口にした。
『どういうことだ?』
「だって、そもそもクチナシさんが勇者様と会ったのだって、魔王を探して勇者様達が旅をしていたからなんスよね? ってことは、勇者様が今も旅をしていて、実は王都にいないってこともあるかもしれないじゃないっスか」
『ああ、なるほどな』
確かにその可能性はあるなと、クチナシは感心して頷いた。
だが、基本的にその心配はいらないとクチナシは思っている。
『しばらく前に魔王と繋がりのある女性を捉えたんだ。当てもなく旅をして魔王を探し回るよりも、そいつから魔王について話させる方が効率がいいだろう』
説明のために触れたメイガンの話題に、なぜかキンカが苦い顔をする。
『それと、前に少し触れたかもしれんが、俺の魂は勇者様の体と共鳴するようになっている』
「あの、勇者様と初めて会った時に、妙な感覚がしたっていうあれっスよね」
『そう、それだ』
「今それを言い出すってことは、もしかして――」
最後まで言い切る前にキンカが何かに気付き、クチナシもそれを首肯する。
勇者と魔王が感じ取れる魂の共鳴、お互いが近くにいる時に感じる感覚が、王都に近づくにつれ大きくなっていた。
つまりは、そういうことだ。
勇者は、王都のどこかにいる。
「となると、ちょっとまずくないっスか? もしも勇者様に見つかっちゃったら、メイガンさんを探すどころじゃなくなるんじゃないんスか?」
『だろうな。だが、だからといって、いつまでもここで尻込みしているわけにもいかないだろう?』
「あっ、ちょっと待ってくださいよ!」
キンカの心配をよそに、クチナシはずかずかと正門を目指して歩みを進める。キンカも置いて行かれないように、ぱたぱたと小走りになってクチナシの後を追った。