メイガンが生きていることはまず大前提とすると、彼女は一体どこから探すべきだろうか。魔王に繋がる最重要参考人なのだから、監視の目が行き届いた場所に拘留しておくのが一番理想だろう。
まずは情報収集から始めるとして、メイガンの居場所を嗅ぎまわる不審人物の噂が流れるかもしれないが、そちらの方が効率よくメイガンを探し出せるのも事実だ。
王都が近づくにつれ、クチナシはメイガンを助け出す方法を考え始めていた。
だが、結論からいうと、それらの考えは結局使われることはなかった。
ぞくりと背筋が凍るような感覚がして、クチナシはふと歩みを止めた。以前一度だけ味わった、あの感覚がクチナシに襲い掛かる。
正門を見やると、四人組のパーティがちょうど王都から出ようとしていたところだった。見覚えのある服装をした四人組のパーティは、これから向かう目的地についての話をしながらこちらに近づいてくる。
「クチナシさん。どうかしたんスか?」
『黙れ。何も喋るな。今すぐここを離れろ』
「それってどういう――」
『手短に言う。あいつらが例の勇者様だ』
クチナシのその言葉に一瞬空気がぴりついた。
二人とも、彼らと出会うとしたらもっと後だと思っていた。それが実際には王都に入る前にすれ違うことになるなど、心の準備もなにもできていない。
「どうするんスか! ここを離れろっていっても、もうお互い見えるところまで近づいちゃってるんスよ!? 今更急に離れてったら逆に怪しいっスよ!」
『といっても、もう他にやれることなんざないぞ』
向こう側からこちらに向けて歩いてくる勇者達に聞こえないよう、二人は声を低めて言い合った。
だが、どれだけ言い合いを重ねても、二人にできることなどもう何もないということを確認し合うくらいだけに終わった。これ以上の話し合いは無駄だと悟ったクチナシは、最後にキンカに耳打ちする。
『こうなったら仕方ない。お前、勇者様とすれ違っても決して反応するな。全力でただのなんてことのない旅人を装え。あとはもう、向こうがこちらに気付かないことを祈るしかない』
そんな無茶なとキンカは思いながらも、不測の事態に陥ってしまった以上もうやるしかない。
キンカはすっと表情を消し、ただ黙々と王都を目指して歩く少女を一瞬で演じてみせた。小さな女の子が旅をしていることを怪しまれる可能性もあるが、その可能性を今は考えないでおいた。
ただ黙々と歩くクチナシとキンカ。それとは対称的に、おしゃべりに興じながら楽しげに進む勇者達。
お互いがお互いをあまり意識しないまま近づいていく中、クチナシの中でざわめき続けている魂の共鳴はよりいっそう強まっていく。
そしてすれ違いざま、クチナシと勇者の胸の中で、バチッと火花が弾けたような感覚が同時に沸き起こった。
それをきっかけに二人は直感する。
今、目の前にいるのが倒すべき使命を帯びた敵であると。
勇者は瞬時に作り出した光の剣を右手に握りしめ、それを手にクチナシに斬りかかろうとする。
だが、《感知》の使い手であるクチナシの方が、勇者よりもかろうじて一手先に動くことができた。お互いの間に種を放り、爆発されることで勇者を牽制しつつ、爆発の衝撃に身を任せることで距離を一旦放す。キンカもクチナシにしがみついて一緒に後退し、勇者達の出方を窺う。
勇者も転換術で展開した剣を並べて盾にし身を守りつつ、その内の一本を引き抜いて構える。
異変に気付いた勇者の仲間達も慌てて各々の武器を手に取り、クチナシ達を睨みつける。
「勇者様、奴らは一体……」
「魔王だ」
「魔王!? それはなにかの間違いではないのですか!?」
「いや、間違いない。目的が何かは分からないけど、王都に直接乗り込むつもりだったんだ」
魔王が直接王都に侵攻してきたとあって、勇者一行の緊張はピークに達する。一方クチナシも、どうやってこの場を切り抜けるかを必死に考えていた。
「クチナシさん、どうにかしてあの人達に事情を説明して分かってはもらえないんスか?」
『無茶言うな。そんな夢物語がまかり通るなら、あの時先生は連れ去られなかった』
先陣を切ってアイが魔王に突撃してくる。それに対応するため身構えながら、クチナシはキンカに囁いた。
『どうせお前がここに残ったところでなんの役にも立たん。生きたければさっさと逃げろ。俺といたことについては、俺に脅されて仕方なく、王都まで案内していたとでも言っておけばどうにかなるだろ』
「でも、それじゃクチナシさんはどうなるんスか!」
『知るか。お前には関係ないだろうが』