そう言って、クチナシはアイに向けて一歩踏み込んだ。さらに種を数個ばらまきながら彼女の動きをけん制しつつ、手のひらでバチバチと種を弾けさせ次弾の存在をちらつかせる。
二人の間で起きた爆発に怯んだアイは一瞬足を止め、なおも次の攻撃を繰り出そうとする魔王に睨みをきかせる。どうやらクチナシの思惑通り、アイの足を止めることには成功したらしい。
だが、相手以外にもあと三人もいる。彼女の対策ばかりしているわけにもいかない。
クチナシは手のひらを足元に向けて魔元素を炸裂させ、一気に体を宙に舞わせた。その直後、彼がいた場所を風の刃が砂埃を巻き上げながら通り抜けていく。風の刃はキンカのすぐ脇を通り抜けて、切り裂く対象がいないことに気付いたように消えた。
クチナシが空中で身を翻しながら刃の出所に目を向けると、ケイが樫の杖をこちらに差し向け魔元素を転換しているのが見えた。
それとほぼ同時で、地面からあふれ出た粘つく水が渦潮のような軌跡を描いて立ち上り、クチナシを渦の中心に巻き込もうと襲い掛かった。
それに気付いていたクチナシは両手を渦に向け種を弾けさせる。爆発に飲まれた水が四散し、クチナシもその場を離脱する。
その移動先に、まるで誘導していたかのように光の剣がクチナシ目掛けて飛んでいく。素早く反応したクチナシはまた魔元素を爆発させて剣を破壊し攻撃を防ぐ。
『……チッ』
流れるような連撃にクチナシは思わず舌打ちした。勇者さえ除けば、一人ずつ相手をするにはさほど対処に困ることはなかっただろう。だが彼らはパーティで挑み、お互いがお互いの隙を埋めつつ闘っている。その連携が矢継ぎ早に行われるせいでなかなか反撃に出られない。
行動の合間に一つだけ勇者目掛けて種を飛ばしてみたが、それもレンが障壁を展開していともたやすく防御されている。威力を上げれば障壁を破ることはできるだろうが、そんな一撃を放つだけの隙を見せてくれるとは思えない。
勇者達の攻撃をかいくぐるさなかで、クチナシはちらとキンカに意識を向けた。戦闘が始まる前に逃げろと言ったものの、彼女はそれを無視し不安げにクチナシの方を見ていた。
(馬鹿が。そんな顔で俺を見ていたら、後で言い逃れできなくなるぞ)
地上に着地し、アイの剣戟を《炸裂》で裁きながらクチナシは心の中で毒づいた。
生き残るために手段を選ばない彼女が、なぜ自らの首を絞めるような真似をするのか理解できない。
一応キンカとは距離を離しながら戦うようにはしているが、いつ彼女に攻撃の矛先が向けられるか分からない。勇者達もとっくにキンカの存在に気付いている。今は魔王との戦闘を優先させているが、そうしてできた均衡を崩すきっかけとして、彼女を利用しようと考えないとも限らない。
勇者達の連撃を一旦止めて仕切り直させるため、クチナシはひときわ大きな爆発を起こし、放たれた攻撃をすべてまとめて吹き飛ばし、自身も後方に飛ばされることで距離を取った。
勇者達も体制を整えるために、率先して前衛を担っていたアイがパーティの中に戻っていく。
にらみ合いの中、一呼吸おいてからアイが口を開いた。
「さすが魔王ね。結構攻めてはいるんだけどぜんぜん攻撃が当たらない」
「あの爆発が厄介ね。攻撃に防御に移動もできて、おまけに空も飛べるなんて汎用性が高すぎるわ」
「それも、おそらく力を温存しながら、ね。あの魔王がこの程度の威力の転換術しか使えないとは思えないわ」
様子見の段階で手の内をすべて明かすつもりはないが、クチナシはメイガンの封印術のせいで、転換術の出力に限界がある。今のところはなんとか猛攻を凌ぐことこそできているものの、やがてじり貧になるのは目に見えている。
そしてなにより、まだ本気を見せていないのは彼らも同じはずだ。手を抜いているわけではないだろうが、本気で魔王を倒すつもりにしては威力が低すぎる。
何より勇者は少なくとも、メイガンに使ったあの光の剣の大量展開を、まだクチナシに対して一度も使っていない。
「よし、様子見はここまでにしよう。ケイ、俺に合わせてくれ」
「了解です。勇者様!」