鉄屑少女と空飛ぶ案山子   作:くろゐつむぎ

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8.勇者の凱旋
8.勇者の凱旋(1/3)


 王都地下牢獄。

 

 一切の転換術を封じる様々な術式が至るところに施され、いかなる囚人をも逃がすことはない。

 

 その牢獄の中に、ひと月ほど前から、新しく一人の女性が収監されていた。

 

 罪状は、魔王を匿った罪、及び逃走を補助した罪。

 

 取り調べに対しても、彼女はのらりくらりと本質を躱すようなあやふやな返答を繰り返すばかり。たまにまともな返答をしたかと思えば、私達は勇者と魔王というものを知らなさすぎる、彼らについてもっと深く調べを進めるべきだなどと、現行の制度に対する批判とも取れる発言を繰り返している。

 

 そんな態度の囚人が入った檻を前にして、二人の看守は辟易としていた。たとえこの囚人がどれほど質の悪い人物だったとしても、現状魔王に繋がる唯一の手掛かりをないがしろにすることはできない。

 

 たとえ二人の看守が、彼女をどれだけ嫌っていても、だ。

 

「出ろ」

「……今日は何の用だい? まさかまた取り調べじゃないだろうね?」

「……そんなに取り調べが嫌だというなら、さっさと真実を話せ」

「私はずっと真実しか言っていないじゃないか。それを君達が信じてくれないから、こうして取り調べが長引くんじゃないか」

 

 彼女の態度に看守は苛立ちを隠そうともせず、前回の取り調べ内容をそらで口にし始める。

 

「何をもって魔王と断定するか、その定義がないうちは何も話すことができない。貴様の言うこの屁理屈が真実だと? 私達を愚弄するのも大概にしろ」

 

「だってそうじゃないかい? もしも、だ。人知を超えた魔元素量を持つ、たった一人でこの国の存亡すら揺るがしかねない存在を魔王と呼ぶのなら、君達が勇者様と崇め称えるあの少年だって魔王となり得るんだよ?」

 

「貴様勇者様をも愚弄する気か!」

 

 ついに堪えきれず、看守は彼女の胸ぐらに掴みかかった。隣にいたもう一人の看守が慌てて止めに入るが、彼もまた怒りを抑えきれないといった様子が、表情から簡単にうかがえる。

 

 それでもなお、囚人の女性は余裕の表情を崩さない。予想していたものとぴったり同じ反応を見せる看守を、まるで見飽きたおもちゃを見るような顔をして見つめていた。

 

「私は勇者のことは嫌いだけれど、一旦それは抜きにして、さ。君達も私も、勇者と魔王がなんなのかってことを、知らなさすぎるんじゃないかってことを言いたいのさ」

 

 彼女の言葉に何か言い返そうとした看守だったが、彼女との問答に意味はないと口をつぐんだ。返答の代わりに、大げさな舌打ちを彼女に返す。

 

 やがて落ち着いた看守が手を離し、また囚人の先導に戻った。だが、もう彼女とは口をきくつもりはないらしく、苛立たしげに靴音を鳴らして歩くだけだった。

 

「ところで、今日は何の用で牢を出されたのかをまだ聴いていないのだけれど、それは教えてくれないのかい?」

 

 だが、囚人は相変わらずな様子で、看守に前に言った質問を投げかける。

 

「――面会だ」

 

 答えたのは隣にいたもう一人の看守だった。このまま無視していても、彼女は質問に答えるまで聴き続けることは分かっている。どちらにせよ煩わしいやり取りをさせられるくらいならば、早いうちに手短に済ませてしまった方がまだ楽だ。

 

「それも、本来ならば貴様がお話しできないようなお方とな。今回直々にこちらに出向いてくださっているのだ。決して、決して粗相のないようにしろ」

 

 わざわざ決してという言葉を強調させるあたり、相当な人物がやってきたのだろう。そもそも彼女に面会を求める人物がやってくること自体、今回が初めてだ。

 

「へえ……。それは楽しみだ。ちなみに誰か聞いてもいいかい?」

 

 好奇心を抑えきれずに囚人は重ねて質問するも、彼らからの返答はない。囚人と顔すら会わせようとしなくなった二人の顔色から察するに、どうやら彼女を煩わしく思って放置しているというよりは、彼女に構っていられる余裕もないといった様子だ。

 

 ふと、看守の足音が止まった。

 

 どうやらちょうど面会室に着いたらしい。扉の前に立つ二人の看守は、どことなく緊張しているようにも見えた。

 

「……まあ、どうせ部屋に入れば分かることか」

 

 ぽつりと呟いたメイガンの言葉を掻き消すように、面会室の扉がキイと音を立てて開いた。

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