鉄屑少女と空飛ぶ案山子   作:くろゐつむぎ

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8.勇者の凱旋(2/3)

 面会室は白い壁に四方を囲まれた、ひどく殺風景な部屋だった。

 

 部屋の中央を転換術の障壁で区切られ、椅子やテーブルの配置が点対称となるように並べられている。その部屋の奥側に、囚人との面会を希望した青年が座っていた。

 

 王都騎士団のものと同じ、白銀の軽鎧に身を包んだ彼の表情はどことなく沈んでいる。面会室の扉を開いた音に反応してぴくりと肩を震わせ、ぱっと顔を上げて囚人の姿を一目見たかと思えば、すぐさま彼女から視線を外して周囲に目を泳がせた。

 

 そんな彼に、看守は少し震えた声を掛ける。

 

「勇者様、例の囚人、メイガンをお連れいたしました」

「ありがとう、ございます」

 

 なるほど、どうりでと、囚人――メイガンは思った。

 

 看守、いや、国民全員がもはや神格化している勇者が、まさかこのような場所に赴くことがあろうとは夢にも思わなかったのだろう。看守達の緊張の理由にも納得がいく。

 

 ならばあとは、なぜその勇者が、このような場所に赴いたのか、その理由が問題だ。

 

 メイガンは席に着くと、対面する勇者の顔をまじまじと見つめ、愉快そうに口を開いた。

 

「お久しぶりですね、勇者様。私を収監してから早ひと月、私も貴方様にお会いしたく思っておりました。ですがそれはあくまで私個人の話。勇者様直々にこちらまでご足労いただくことになるとは、一体私に何用でございましょうか?」

 

 長々と話しているが、メイガンが勇者に訊ねているのは面会の理由ただ一つ。

 

 とはいえ、彼がメイガンとの面会を希望する理由など、心当たりは一つしかない。

 

「……魔王について、だ」

 

 勇者が一言呟く。メイガンはそれだけで、彼に何があったのかを察した。

 

「単刀直入に聴く。あれはなんだ?」

「なんだ? と言われましても、私にはなんのことだか分かりませんね」

「……先日、王都近辺で魔王と思しき男性、……男性? と、その付き人の少女と遭遇した」

 

 メイガンは黙って、彼の話の続きを促す。

 

「そのまま戦闘に入り、付き人の女の子の心臓を突き、男性の方も胴体と左腕を切り落とし、もう動かなくなったところを確認した」

 

 勇者の言葉は徐々に語気が弱くなっていった。一度呼吸を整えて、頭を抱えながら言葉を紡いでいく。

 

「ただ、その間際に言われたんだ。『どうしてお前達は、そうやって俺から大切なものを奪っていくんだ』って。俺は、俺は魔王からこの国を守る勇者になったはずなのに、やっていることは、ただいたずらに誰かから何かを奪っていくだけなんじゃないかって――」

 

 みるみる自信をなくしていく勇者の姿に、動揺を隠せないでいる看守がざわめき始める中、メイガンだけは終始無言のまま彼の話を聞き続ける。

 

「魔王を倒したらハッピーエンドじゃなかったのかよ。あれはこの国の厄災じゃなかったのかよ。せっかく異世界転生したってのに、これじゃ話が違うじゃねえかよ……」

 

 そして勇者が軽く息を整え、メイガンに睨みつけていった。

 

「なあ、アンタなら何か知ってるんだろ? なら教えてくれよ。魔王って結局なんなんだよ。俺は何のためにここにいるんだよ……」

 

 この場にいた誰もが、自分の耳を疑った。あの勇者が、魔王の側近と思われる女性に懇願している。

 

 それはメイガンも例外ではなかった。だがその意味合いが看守達とは違う。

 

 今まで表情をあまり変えなかった彼女の口角が、ほんの少し吊り上がる。

 

「なるほど、ね」

 

 彼の問いに答えるのは簡単だ。今持ちうる全てを話してしまうだけでいい。

 

 だが、それだけでは問題の解決にはならないのだろう。

 

 メイガンの持つ答えは、今彼が必要としている特効薬足り得ない。

 

「ところで君、この監獄の至るところに仕掛けられている転換術の阻害術式について、どう思う?」

 

 突然話題を変えたメイガンに、勇者も看守もはてと考え込む。

 

 それを気にせず、メイガンは話し続ける。

 

「君は魔王と接触したのは先日と言ったけれども、実際のところは昨日の話だろう? 時間帯はだいたい夕方になる手前くらいだとして――」

「待て! 貴様、それが本当だとして、なぜそのことを知っている!」

 

 顔を青ざめさせ、声を荒げたのは看守だった。

 

 それもそのはず、勇者が魔王と思しき敵を討伐したという話は、まだ国内では公表されていない。そのため魔王についての話を知っているのは、現状魔王と対峙した勇者とそのパーティメンバー、そして、報告を受けた王都の評議会員だけだった。

 

 つまり、この情報は囚人はおろか、看守にすら知らされていないはずだった。

 

 それにも関わらずメイガンは、ほとんど当事者と同じ目線で、さも自分が現場を見てきたかのように話すのだった。

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