「君達はこの監獄の阻害術式を過大評価しすぎなんだよ」
メイガンは勇者と初めて出会い、そして戦闘を行った時、まずクチナシに対し魔元素と行動の両方を封じる転換術を展開した。
クチナシの行動阻害が解けたのはそれから一か月後、魔元素封じに至っては未だに解けていない。
それが、転換術の使用を封じる監獄内に収監されてもなお続いていた。
「《阻害》の転換術は、厳密にいえば魔元素同士の結びつきを妨害するものだ。だから、すでに転換し終えているものに対しては一切効果がない。もっとも、勇者や魔王ほどの魔元素量なら無理やり突破もできるだろうけれど、ね」
「か、仮にそうだったとしても、貴様が転換術を使ったのはひと月も前の話だ! そんな長期間、転換術を維持し続けられるはずがないだろうが!」
「ああそうさ。普通の人間に、一ヶ月も転換術を維持し続けることなんてできない。だが、今この国には、普通ではない人間が二人いるだろう? 転換術をかけたのは私だが、それを維持し続けていたのは魔王の方だよ」
もっとも、そうするよう命令を与えたのは私だがねと付け加えながら、怒声を上げる看守に向けて、メイガンは平静を保ったまま彼の質問に答えた。
「そして、その転換術にはもう一つ、解除されたことを術者に知らせるよう効果を付け加えている。勇者と魔王の魂の繋がりを感知する《信託》のように、ね」
つまり、まとめるとこうだ。
メイガンがクチナシに施した転換術は、行動不能、転換術の弱体化の二つ。行動不能は時間経過で解除されたものの、弱体化の転換術はクチナシ自身の魔元素を利用して維持し続けていた。
そして、弱体化の転換術が何かの拍子に解除された時、メイガンにそのことが伝わる。
クチナシは、弱体化の転換術が自分の魔元素によって維持していることを知らない。だからこそ、それが解除されたとなると、クチナシの身に何かが起こったと捉えるべきだ。
クチナシの身に起こりうる、転換術を無理やりにでも破壊するような何か。
そんなもの、勇者絡みの出来事以外ありえない。
「胴体と左腕を切断して、動かなくなったところを確認した? 残念ながら、その程度じゃクチナシは殺せないよ」
勇者も、看守も、メイガンの話に驚き言葉が出ない。
彼らには伝えていなかったが、実はメイガンがクチナシに施した転換術は、もう一つだけあった。
支配下にある魂が失われていないか、離れたところから生存を知らせ続ける転換術。
遠く離れた場所から彼の無事を見守り続けるその転換術は、まだメイガンとクチナシを繋ぎ続けていた。
「さて、君が殺したと思っていた相手はまだ生きている。そして君は、彼と、自分自身の両方に決着をつけなければいけない。そこで、だ」
両袖が繋がれ、輪っかになった両腕を勇者に突き出してメイガンが問う。
もはやその場を支配しているのはメイガンだった。彼女が主体となって話を進めることに誰も異論を唱えなければ、誰も彼女の提案を止めることができない。
「君が会いたいと思っている彼を呼び出す。とても簡単で手っ取り早い方法を提案してあげるが、どうするかね?」
勇者はメイガンの提案に、ゆっくりと首肯した。