10.二人のけじめ(1/10)
「それではこれより、恐ろしくもおぞましき魔王に魅入られ、その身を捧げた囚人メイガンの公開処刑を執り行う!」
急ごしらえのステージ上で、司会を務める男が声を張り上げる。
それに呼応するかのように、冠宮殿前広場に集まった人々から歓声が沸き起こった。
その声を一身に浴びながら、囚人メイガンがステージ上に引きずり出されるようにして登壇した。
勇者とクチナシの戦いからおよそ二週間、突然決定されたメイガンの処刑に、関係者達はその準備のために忙しない日々を送っていた。人員の手配、処刑法の選定、警備の割り振りと、決めなければならないことは山ほどあった。
それをたった二週間で採りつけ、なんとか公開処刑の実行までこぎ着けることができたのは、ひとえに勇者の人望のおかげだといえよう。彼が発案し、計画を進めたからこそ、より多くの協力者が彼に力を与えることとなった。
彼女の目は黒い帯で隠され、後ろ手に縛られた状態で衛兵に連れられている。両脚に取り付けられた足枷と鉄球はかなりの重量で、逃げ出すどころかまともに歩くことすら難しい。
仮にそれから逃れたとしても、処刑台を含むステージは術者数人がかりで張られた障壁で覆われている。勇者パーティの一員であるケイとレンを交えた、王都有数の実力者達が結託してできたこの障壁は、勇者以外に破られることはないともくされるほどの強度を持つ。
そしてなにより、彼女の背後には、処刑執行人として勇者本人が控えている。
メイガンが壇上に座らされ、両目を覆う帯が解かれると、国民達は一斉に非難の声を浴びせかける。中には石ころやごみを投げつける輩もいたが、それらはすべて障壁に阻まれステージに届くことはない。
転換術で声を拡散させながら彼女の罪状を読み上げる司会を横目に、メイガンはこの先の段取りについて考え始める。
司会の男がいかにメイガンのことを悪人であるかを説き、それが終わったら勇者の光の剣によって彼女の首を切り落とす。
ただの魔元素を転換したものでしかない光の剣だが、勇者を神聖視する司会の演説によって、この場では悪人の魂を浄化する聖なる剣として祀り上げられる。
(私の横で魂について語るとは、なかなか面白い趣向を凝らしてくれるじゃないか)
おそらく狙ってやったことではないだろうが、どうにも皮肉めいた彼の演説に思わずメイガンは微笑んだ。その笑みに気付いた誰かを中心に、非難の声はより一層大きくなる。
長々と語り尽くした司会の演説がようやく終わると、彼の一声によってステージの後方から勇者がメイガンに歩み寄ってくる。
勇者は手ぶらだった。本来ならば処刑人は斧や剣といった武器を用いて処刑を行うが、勇者にはそれらは不要なものとなる。
メイガンの背後で足を止めると、意識を右手に集中させて魔元素を転換させる。転換術によって造りだされた光る剣を、勇者は右手で握りしめた。
勇者が最も得意とする転換術、《光刃《こうじん》》
見た目こそ本物とはかけ離れた魔元素の塊でしかないものの、勇者のイメージ通りに転換された魔元素は、自由自在の大きさを持ち、本物をはるかに凌駕する力を持った剣になる。
それこそ処刑台を覆う障壁を、たったの一撃で破ってしまうほどの威力を持つ剣を、今は一人の女性の首にのみ振るわれようとしていた。
転換が終わった時、民衆の野次はぴたりと止んだ。その場にいる誰もが、罪人の首が落ちる時を今か今かと待ち望んでいる。
彼らの視線を一身に受けながら、勇者はふと空を見上げ、他の誰にも聞こえないよう声を潜めてメイガンに言った。