鉄屑少女と空飛ぶ案山子   作:くろゐつむぎ

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1.鉄屑少女と空飛ぶ案山子(7/8)

『……何が目的だ』

 

 ここまで問い詰めておいて、ただ気になったから質問しているだけのはずがない。彼女は何か思惑があって、力では到底敵わない自分を言葉で追い詰めようとしている。

 

 籠の男は苛立ちを隠そうともせずに、目の前にいる小さな少女を睨みつけた。

 

 そんな彼を意に介することもなく、キンカは籠の男に言葉を投げかけた。

 

「なんてことはないっス。ただ、ウチのことを助けてくれそうな、心の優しーい人に助けてほしいなーって、そう思ってるだけっス」

『それは俺に言っているのか?』

「他に誰がいるっていうんスか?」

 

『心の優しい人? 俺が? なにかの間違いだろ?』

「いーや、ウチはあなたのこと、けっこういい人だなーと思ってるっスよ」

 

 鬱陶しいくらいの笑みを浮かべて、キンカはそう断言した。それを聴いた男はため息交じりに、先ほど人攫いの男達から拝借した財布を一つ取り出し、キンカに向けて放り投げた。

 

 キンカが左手だけで上手く財布を掴まえたのを見て、籠の男は諦めたように呟いた。

 

『さっきお前から受け取った、あのナイフの男の財布だ。これで満足か?』

「そういう問題じゃないんスよ!」

 

 キンカは掴んだ財布を握りしめ、叫んだ。

 

「今日はたまたまあなたに助けられたからよかったものの、次またあいつらに見つかったら、今度は絶対に捕まるっス。そうでなくとも逆恨みして仕返しに来るかもしれないし、そもそも、ウチみたいな子供を商売道具にするような奴らがこの街にいるんスよ!? ウチはもう、この街では生きていけないんス!」

 

 一歩、また一歩と、キンカは籠の男に詰め寄りながら、一言一言力を込めて言葉を放つ。男は彼女を見たまま動かなかった。

 

 いや、動けなかった。

 

「あなたさっき、王都を目指して旅してるって言ってましたよね!?」

 

 籠の男も、まさか十歳そこそこの小さな子供に、気圧される日が来ようとは思ってもみなかった。

 

「お願いします! ウチを、あなたの王都への旅に連れてってください!」

 

 キンカは籠の男の目の前、お互いの体が触れ合いそうなほど近づいたところで立ち止まり、首がもげそうな勢いで頭を下げた。

 

 最初からこれが目的だったのかと、籠の男は内心納得した。

 

 子供を襲う人攫いが街にいることが分かっている以上、彼女が再度狙われる危険性は高い。かといって、他の街に逃げるとしても、彼女が一人で当てもなく街を出るのは自殺行為だ。

 

 だからこそ、キンカがこの先生きるためには、彼女と別の街へ移動する道連れを探すしかない。

 

 人攫いの男達を倒してから現場を離れるまで、そう時間は取らせなかったはずだ。その短い時間の中で、彼女は自分が置かれている現状を、かなり正確に把握していたようだった。

 

 どうやら目の前の少女は、頭の回転が思ったよりも早いようだ。籠の男には、腹の探り合いや言い負かし合いにいい思い出がない。はいかいいえくらい物事を単純に考える方が、彼の性に合っていた。

 

 とはいえ、今回ばかりは、籠の男の答えは最初から決まっている。

 

『断る。どうして俺が、お前のためにそこまでしてやらなきゃならないんだ?』

「あれ? そんなこと言っていいんスか?」

 

 籠の男の言葉を聴いてキンカが顔を上げる。魔元素を切らした疲労感が顔に出ているが、なぜか笑みも一緒に浮かんでいた。

 

「近づいてよく見たから分かったんスけど、ナイフにも腕にも、血がついてないじゃないっスか。ナイフを刺した時の音もおかしかったし、一言も声を出していない。それになんスか、あの言葉」

 

 ――悪い奴はぶっ飛ばしてもいい。それがお前ら人間の決めたルールだろう?――

 

「ハチャメチャに強いくせに目立たないように隠れて行動して、血も声も出さない。それでいて自分のことは人間じゃないって言ってるようなあの言葉。ここまで変なことばかりなら、いっそ最初から最後まで全部受け入れちゃった方が、よっぽどすっきりするってものっスよ」

 

 そこでキンカは一度言葉を区切った。

 

 次に口を開いた時、彼女の顔はにんまりとした笑みで溢れていた。

 

「――そうっスよね? 魔王様?」

 

 魔王を倒し王国を救う、その功績が神話となって語り継がれる伝説の勇者様でさえ、差し伸べられる手は二本しかない。ましてや王都から遠く離れた、王国南端の小さな貧民街の少女に手を差し伸べるような、そんな都合のいい勇者様がいるとは思えない。

 

 だが、勇者と同じくらい常識はずれな力を持つ者が、この世界にはもう一人存在する。

 

 勇者様が現れると同時に生まれ、自身の欲のために暴れまわり、そして最後は決まって勇者様に倒される。

 

 この国の人間ならば誰もが知っている、この国に伝わる英雄譚。

 

 その敗北者ならば、あるいは――。

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