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新エリー都にも、もちろん光の当てられない暗部がある。
繁華街の突き当たり…赤いランプを吊るした居酒屋の看板の正面にある地下街への入り口。入る客を品定めするボンプとその飼い主にチップを渡せば、階段を降りられる。
そこは闇市。
治安局や市政の法規制を逃れて運ばれてきた違法な薬物に人身売買、エーテル資源が売り買いされている。水商売の女が客を呼び、武器屋からは試し撃ちの火薬の匂いが漂う。
「あ?ここで古物商やってたジジイ?気づいたらいなくなってたよ」
「先月までいたんだが、パッと消えちまってな。看板も物も何もかもだよ」
「ンナ?ンナンナナナ?(古物商のお爺さん?●んだんじゃないのぉ?)」
そんな無法地帯の片隅に、誠音は用があった古物商の店ーーの跡地に佇んでいた。
もちろん身元がわからないように変装しており、ついてきた朱鳶と青衣も変装している。もしこんなところに治安局であることが丸分かりの服で来ようものならどうなるのかは想像しやすい。
「三件目もハズレかぁ…?あんの爺、どこに消えやがった?」
「うむ、煙消霧散であるな……朱鳶見よ、知能構造体の強化パーツ限定モデルが売っておる」
「ちょっ、先輩!?ダメですよ非合法パーツを使っては!!!」
「ンナ!?ンナンナンナワタンナ!!!(何だと!?人様の商品にケチつけやがってふざけんなこのデカ尻●ッチ!!!)」
「なっーー////!!?」
めちゃくちゃに口が悪いボンプに下品なことを言われ、赤面する朱鳶。言い返そうとするもものすごい剣幕で怒鳴り返されてしまい、しまいにちっちゃな手で尻を叩かれる始末…話すだけ無駄だと判断して彼らはその場を後にし、ルミナスクエアへ向かう。
なお、このボンプは白祇重工に属する魔女の手によって生まれ変わることとなる。
「それにしても……探し人は一体どこにおるのだろうな?」
「さぁ…?前に刀を打ってもらった時はここにいたしーーーその前は衛非地区にいたって。さらに前は郊外に…」
「はぁ、その人とはどういう関係ですか?」
朱鳶の質問に、誠音は頭を掻きながら答える。
「道場の刀掛けに刀置いてあっただろ?あの刀はーーー「朱鳶班長!!青衣先輩!!」
白い毛並みのオオヤマネコのシリオンが、道路付近の通りから人混みの間を縫うように現れた。
そして誠音は、その青年ーーセス・ローウェルのことをよく知っていた。
「あ、お前か。セス」
「ん?ひょっとして…市川さんか!?」
一年前、軍の兵器を積んだトラックと運転していた運送業者を拉致したホロウレイダー組織掃討のために、治安局と仕事したことがあった。その際にセスと知り合い、任務に同行。その途中でホロウレイダーの待ち伏せにあってホロウ深部でキャロット無しの状態で遭難。最初は言い争いもあったが、偶然にも組織のアジトを発見。本隊到着を待とうとする誠音だったが、セスは人質を救うために単身でアジトへ。なんとか人質を逃すも敵に捕られてしまい、あわや殺される寸前ーー誠音はセスを助けるためにアジトへ乱入し、回収を義務付けられていた兵器を一刀両断。任務より戦友の命を優先した誠音と共闘し、なんとか生還。
それ以降、誠音のことを『市川さん』と呼び、尊敬する人物兼気の合う友人となったのだった…
……なお、誠音はセスの兄であるセヴェリアン・ローウェル監察官とは温度差がある関係だ。
誠音本人は嫌いではないのだが、相手にとっては弟が自分よりも懐いてしまっているということ。そして、とある事件で⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎に⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎てしまったことが最大の原因である。
「セスくん、どうしたんですか?」
「あ、はい!実はヒソヒソヒソ……」
セスに耳打ちされ、朱鳶は耳を傾けーー少し驚いたような反応を見せた。
「事件か?」
「……例の犯人が、ヤヌス区の治安局に予告状を送ってきました」
「予告状?はて?今までの事件とは全く違っておるな…?」
とはいえ、事態の急展開であることには変わりない。特務捜査班の三名が踵を返して治安局に戻ろうとしたーーその時だった。
すぐ隣の、建物と建物の間、薄暗い裏路地からカァン!!!と鉄を打つ音が聞こえてきた。
誠音が顔を覗かせると、丸い円の中に十字ーー丸十字の紋章のある暖簾の、小さな店があった。
「あ、あった」
「え?ここですか?かなり古そうな……」
「爺さん!いるか〜!」
暖簾をくぐりながら、埃を被った店内に入る。
鉄を打つ音以外は、店内には何の音もない。せいぜい外にいる鳥の鳴き声が聞こえてくるだけで、それ以外は静かである。薄暗い店内には刀、剣、槍、薙刀、鉄鎚、手斧、盾、青龍刀など、古今東西のあらゆる武器が所狭しと並んでいる。
その奥では、真っ赤に熱された鉄の塊を素手で掴み、火花が散ることも厭わないほどに顔を近づけながら金槌を振り下ろす老人がいた。
「爺さん、入ってもいいか?」
老人の名前は知らない、というか名乗ったことがない。
店の名前が『丸十』なので丸十の爺さんと呼ばせてもらっており、本人もその呼び名を認めているから名前として定着したのだ。この爺さんの素性についてだが、全く分からない。
かつては軍人だったとか、かつてはホロウレイダーだったとか…噂に尾鰭がついて本当のことは分からない。ただ、一度顔を見れば只者ではないことは一目瞭然の風貌をしているとのことだ。
「……誠音じゃねぇか、久しぶりだな。刀の、手入れに来たか?」
「いや……実は、連れがアンタに用があるってんで連れてきたんだ。今大丈夫か?」
「……いいぞ、
外にいる三人に入ってくるようにと伝える。
「うむ、邪魔をするぞ」
「失礼します」
「うおっ…刀でいっぱいだ……!」
「兄ちゃん、あんまりキョロキョロしないほうが、いい」
「あ、すいません…」
老人が叩き上げた鉄を、水桶に浸してその場を後にし、店内の照明を灯す。
明るくなったことで老人の全貌が見えた。
黒く、所々に焦げて穴が空いた晒木綿の半着と袴に身を包み、傷だらけの岩のようにゴツゴツと固く大きくな職人の手、そして彫刻刀で削り切ったような骨が浮き出した人相。
そして、光を失った両目が別々の方向を向いていた。
「不思議であるな。その目、とうの昔に光を失っているように見える。なのにお主は我々のことが見えてるようようだ」
「不思議、だろう?知能構造体の嬢ちゃん」
「む。我が知能構造体であることすら理解できているのか…目利きが鋭いのだな」
「いや、むしろ……刀に関しては、目明きだと…危ねぇから。この商売を始めたときに、自分でジュッとな」
右手に握っていたタバコを灰皿に押し付けて、その目がどう言う経緯でこうなったのかを言葉なしで伝え、青衣はなるほどと頷いた。
「そういや、誠音、俺が打ってやった刀、持ってねぇみたいだな?」
「……まだ一回も使ってねぇ。ていうよりも、アレを抜こうとしても…抜かせてくれねぇんだ」
「はっ…頭が固いヤツだな。まだお前を、認めてねぇみてぇだな」
老人は戸棚の奥から古びた茶碗と急須を取り出し、ツボに入っていた茶葉をお湯に入れる。
ついでに数本の刀を持って、誠音たちの座る和室に入る。
「…誠音坊、ここの刀は異様だな。一見すればただの武器だが…何といえば良いか、エーテリアスと相対しているような…」
「気付いちまったか…この
「?軽合金エーテル製の武器とは違うんですか?」
「兄ちゃん、この刀を抜いてみな」
「えっ、分かりました…ぐっ、ぬ、抜けない……!?」
セスが渡された刀を掴んで、ググッと引っこ抜こうとするも刀はうんともすんともしない。
爺さんがセスから刀を受け取ると、スラリとーーエーテルの粒子同士の結合が綻んでかすかに発光して、美しい波紋と反りの刀身が姿を現した。
「刀に、認められりゃ…こんな爺の手でもするりと抜ける」
「す、すごい…」
「元は魂込めて作った玉鋼の刀ーーだがそれを、ホロウに置いておく。エーテルに浸食され、エーテルの結晶に包まれる瞬間に取り出す。外界で不安定化しても消滅せず、ホロウ内で完全にエーテリアス化しないまたは朽ちさせない状態で取り出せれば、虚鋼刀の完成、だ」
「……ということは、無許可でホロウに出入りしていると?」
「…………アンタら、俺の話聞きに来たんだろ?こんな老耄ホロウレイダーしょっぴいたところで、なんの得にもならないだろうに」
「そうであるな…店主殿、正式に主に協力を要請する」
「あい、わかった」
老人が茶を飲みながら、差し出された鍔痕の写真を見る。
「……この写真に写っているのは、現場の壁に残されていた刀の鍔の形をした血痕です。これから分かる特徴は、外周はほぼ楕円形で中央に十字状の桟、四隅に大きな透かし穴があり、中央の茎孔が横長でーー「
「その刀、打ってやったのは俺だ。全く…因果なものだな…
千年以上、帰ってこない主人を待ち続け、博物館の倉庫で眠り続けた名刀…
ホロウの中で朽ち果てるはずだったモノを持って帰って…
打ち直し鍛え直し…鞘の中に怪物を宿しちまった。
刀の名は『伏魔一文字・禍罪』…
あんなに刀の自我が強ぇのは、三本…いや四本目だろうよ…」
「今日は帰ぇれ。久々に、人と話せて楽しかった…アンタら、悪いことは言わねぇよ。あの剣鬼と怪物に挑むんなら、全員にロケットランチャーを持たせな」
「……あと、誠音。お前が、知り合いだろうと同門だろうと、ましてや大量殺人鬼が相手でも…何の躊躇なく、刀を抜いて斬り結べることは知ってる。だが、その鈍じゃ奴に擦り傷一つ作れねぇ。あの剣鬼に勝ちてぇなら、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎と向き合いな」
そう言って、老人は店の奥に戻ってしまった。
再び金属を打つ音が聞こえてきて、最初にセスが口を開いた。
「いや、沖田総司って…旧時代のーー千年以上前に死んでる人間じゃないか?」
「……どっちも正しい」
「市川さん……知ってるんですね?あの刀の持ち主を」
老人がその名を口に出した時、誠音の眼が微かに動き、本人も気付かぬうちに笑みが溢れていた。
「セスが言ってる沖田総司は、新撰組一番隊組長の沖田総司だ。爺さんが言っている沖田総司は…その沖田総司の子孫だ。正確には沖田総司の姉の系譜で、その息子の代から天才剣士の名にあやかって"沖田総司"を名乗るようになった。いわゆる、襲名制だな」
「成程…では、丸十さんが言っているのはーー」
「初代から数えて十五代目……