諸事情により最新話の執筆が進みませんでした。今までの投稿話を少し修正したり、今後書くネタから先の話を書いていたりしていたら気づけば夏休みが終わってしまっていました。
佩太郎の旅団メンバーの名前を変更したりしましたので、その点はご理解お願いします。
ルミナスクエアを流れる運河沿いのカフェは、多くの人で賑わっていた。
屋上テラスには柔らかな陽光が降り注ぎ、川面を吹き抜ける風がパラソルを揺らしている。その下にある席は半分ほど埋まっていた。
少し早めのランチを楽しむ会社員。
談笑しながらパスタをつつく主婦たち。
制服姿のまま学校をふけてきたらしい学生が、コーヒー片手に笑い合っている。
誰もが穏やかな昼下がりを過ごしていた。
そんな光景の中に小柄な少年がいた。
幼さの残る整った顔立ちに、目元を隠すほど長い前髪。肩まで伸びた後ろ髪は、跳ねるように一つへ束ねられており、上着の上に羽織っているのは猫耳付きのパーカー。男子なら絶対着ないような、可愛さとあざとさ全開の服装だった。
その少年はテーブルの上の砂糖を一本、また一本とコーヒーカップへ放り込んでいた。そして両手でカップを包み込むように持ち、ぐいっと一口飲む。
「ふぅ〜……」
その笑顔だけ見れば、ごく普通の少年だった。
さらに追い砂糖を入れていると、目の前から呆れた声が聞こえてきた。
「げぇ…よく飲めるな?」
誠音とその少し後ろを歩くアキラがテラスへ姿を現すと、総司はぱっと顔を上げ、子どものように手を振った。
「いや〜!久々ですね〜!あっ、後ろの人は"パエトーン"ですね?はじめまして!沖田総司です!趣味は日向ぼっこで好きなものは甘いものと温かいもので〜す!」
総司はにこりと笑う。
アキラは少し驚いた様子を見せながらも、穏やかに笑った。
「やぁ、僕はアキラだ。よろしく」
その横で誠音は眉をひそめる。
「……アキラ。コイツには、あまり気を許すな」
総司は肩を竦める。
「やだなぁ〜誠音さんも神経質ですねぇ。」
まるで旧友同士が軽口を叩いているような会話だった。
だが、その実。この席には一触即発の空気が流れている。
それにカフェから数百メートルも離れていない場所には治安局本部がある。
もし総司の存在が知れれば、この場は数分で包囲されるだろう。
にもかかわらず、連続殺人鬼である総司は何事もないようにコーヒーを飲んでいた。灯台下暗し。その言葉が、これほど似合う状況もない。
「さて。質問があるならどうぞ」
微笑みながら言う。
誠音は真正面から総司を見据えた。
「質問がある。」
「何ですか?」
「"辻斬り事件"の犯人は……お前か?」
「あ、はい。そうですよ」
総司は頷いた。
それも、あまりにもあっさりと。
アキラが思わず目を見開く。
だが誠音は表情を変えなかった。
「……昨日の深夜、天龍会本部で起きた爆発事件。お前は関与してるのか?」
総司は少しだけ首を傾げる。そして、目を細めながら呟いた。
「……な〜んか、治安官みたいな尋問ですねぇ、そうだとしたら…どうしますか?」
「さぁ…?分かってんだろ?」
総司が睨み、誠音が腰の刀に手を伸ばす。
二人の間に緊張が走る。その数秒後、総司は吹き出した。
「あはは、分かりました。でも僕はやってませんよ〜だって、爆発オチなんてサイテーじゃないですか!!」
笑いながら総司は否定する。
その様子から真偽が見極めきれないため、誠音は思わず眉をひそめた。
「……」
「あ、じゃあ誰がやったんだとか、僕の最終的な目的は言えません。僕の邪魔をしてほしくないんですよ…だって、知った顔を殺したくないですし」
その一言に、場の空気が凍りついた。
つまり、総司は余裕で誠音を殺せると言っているのだ。誠音は頬を引くつかせる。
事実、総司は誠音よりも強い。
極限の状況下における成長力・戦闘力は誠音の方が上だが、総司は平の状況から最速・確殺の一撃を放つことができる。
しかも、虚鋼刀を抜けるか抜けないかという武器の差もある。
現在誠音が所持している機龍・赫は防衛軍への入隊記念にドッグトゥース大佐からもらったものであり、並のエーテリアス相手なら問題はない。だが、星見雅の骸討ち・無尾や総司の伏魔一文字、佩太郎の和泉守兼定と比較すると、専用モチーフのS級音動機と代用に使うA級音動機くらい差があるのだ。
(……くそっ!)
目の前にある実力差、自分が虚鋼刀を抜けていれば並べたのではーー否、越えられたのではないかという歯痒さが、誠音の胸中に渦巻いた。
総司は空になったカップを見つめながら言う。
「じゃあ、僕も質問ですけど…僕の斜め後ろの火鍋屋から双眼鏡越しにコチラを見てる女の子と、真後ろのビルの屋上から見てるネズミのシリオンの男性は誰ですか?見ない顔ですけど…」
『嘘でしょ…?気づいてたの…?』
『ーーーさすがは、あの"沖田総司"の末裔ですね』
無線越しに驚きを隠せない二人の声が聞こえてくる。
電話を受け取った後、誠音は総司と面識のないツイッギーとジョンならバレないのではないかと思い、二人を忍ばせていたのだ。結果は…見ての通りだが。
「…お前が出てった後に、うちの門下生になった奴だよ。ツイッギーっていう防衛軍のクローン小隊の生き残りと、もう一人は、ジョン・ドゥっていう荷の重い役所仕事に労基違反の環境に嫌気が差して治安官のエリートコースから身投げした哀れな男だ」
『市川さんぶち殺しますよ?』
「え、事実だろ?」
『あのですねぇ…!』
「あははっ!!楽しそうですね〜!なんといっても喧嘩は、家族の醍醐味ですしーー改めて、本題に入りましょうか」
「…そうだな、話せ」
「実は、アキラさん…もとい、"パエトーン"に依頼があるんです。最初はインターノットで探そうと思ってたんですけど、前にアカウントが消されてから消息がわからなくて…そしたら僕の知人が誠音さんは"パエトーン"とのコネを持ってるって言うからーー」
「おいちょっと待て…知人?まさか道場の…いや、ハジメかジジイか?」
「いや、あの二人とは連絡持ってないですし…ていうか、ハジメ
アキラが少し考え込むように顎へ手を当てる。
「……なるほど。つまり君が狙っていた物は、既に別の場所へ運び出された…そういうことかい?」
「さすが"パエトーン"ですね〜、新しい隠し場所は前に潰れたヴィジョンの前線基地で、今は廃墟になってる施設です。ある情報屋から、そこに目当てのものがあるって聞き出しました」
ヴィジョンの前線基地、猫又やニコたちと行ったあの建物はデッド・エンド・ブッチャーは倒されてホロウの範囲も縮小して尚、ホロウの中に存在している。
「要するにホロウにパパッと侵入して、お目当てのブツを回収して、サッと出口を見つけて帰る…ただそれだけ。そのためには凄腕のホロウ案内役"パエトーン"…あなたの力が必要なんですよ」
「…わかった。その仕事を引き受けよう」
「やった〜「ただし、あくまで目当てのものの回収が仕事だ。君の連続殺人に加担するつもりはないよ。いいかい?」…心配しなくてもいいですよ、僕だって無関係の人間を巻き込みたくないですし。それに妹さんやボンプの家族もいるんでしょう?夢見が悪くなることはしませんよ」
「で、何故俺も呼んだんだよ」と悪態を吐く誠音。
誠音の質問に、総司はう〜んと頭を捻らせるような仕草をして答える。
「誠音さんと会うのはこれで最後になるかもしれないし、おしゃべりしたいな〜って」
拍子抜けの回答が返ってきたため、誠音は空を見上げながら笑い出した。
「だっははは!!」
「え〜?僕真剣なんですよ!?」
誠音は総司の方へ身を乗り出しながら言う。
「はっ……テメェが殺人鬼として治安局に捕まって処刑されるのを待つくらいなら、俺がテメェを殺して、散らせてやるよ」
「あはは………へぇ?」
そして顔を上げると冷酷な笑みを浮かべ、テーブルの空気が張り詰め、殺気が篭った視線を誠音に向けた。人間にはわからないが、すでに小鳥が飛び立ち、野良猫はゴミ箱をひっくり返して逃げ、散歩中の犬は唸りだす。
「なら逆に散らせてあげますよ…なんなら今この場でやりますか?」
「っ!」「落ち着けアキラ…場所を変えるぞ」
プロキシとしていくつか修羅場を超えたことがあったが、個人から放たれる本物の殺意に動揺するアキラを庇うように、誠音が場所を変えようと提案する。
「…いいですよ、近くの公園でやりましょう」
■
無人の公園に場所を変えた。
所々塗装が剥がれ落ちた黄色い雲梯に小さな砂場、奥には山ほど積まれた土管と三体のキディライド。誠音は砂場を背後に、総司は雲梯を背後に向かい合う。
「降伏するなら今のうちですよ?」
「はっ、テメェこそ初めて負けた言い訳を考えとけよ?」
「誠音ーー「アキラ、お前は下がってろ…巻き込まれるぞ」
黙ってベンチまで下がるアキラ。
双方が鯉口を切り、柄に手をかける。
お互いに総司の剣速の速さについて、誠音の斬り合いの成長速度について知っている。
誠音は、総司が攻撃するよりも前に先手を打つため…
総司は、誠音が成長する前に一撃で勝敗を決めるため…
(("これ"だろうな/ですね))
双方が居合術の構えをとった。
幕末、剣と剣がぶつかり合い、血の雨が連日降り注いだ京の街では、あらゆる武術・剣術が鎬を削っていた。二人の師匠であり、新撰組一番隊組長助勤である八神佩太郎は、天然理心流では珍しい二刀流の使い手であった。
本来なら天然理心流には二刀流の流派はなく、ほぼ我流に近かった。
だが、八神佩太郎は違う。
相対した攘夷志士や不逞浪士の技を吸収し、独自的で尚且つ最善的な技を構想した。
居合術の使い手からは、居合術と屋内実戦的な動作を。
槍術の使い手からは、槍術の中遠距離攻撃と対集団戦における技を。
この時代に来てから、見たことない強敵から人智を超えた一撃必殺の一撃を。
その全てを吸収、新たな技を練り上げることで、終末の世界を生き延びた。
息がつまる。
剣圧が高まる。
総司の禍々しい剣圧と、誠音の激るような剣圧。
双方の緊張が限界まで張り詰めーーーー
天然理心流・居合術『龍閃剣・飄』
天然理心流・居合術『龍閃剣・凩』
総司の放った"飄"は、居合術の中で最速の横薙ぎの一閃。
一方、誠音の放った"凩"はその最速の攻撃を迎撃する逆袈裟斬りの一閃。
両者が共に最適解に到達したこの一閃、ゆえに、勝敗を決するのはーー武器の差である。
ガキャンッ!!!
刀が衝突しーー誠音が弾かれた。
「っぐ!?」
砂煙が舞い、誠音の右手に握る機龍・赫は折れてはいないものの、微かな音を伴い細かく波打つように揺れていた。
砂煙を突っ切るように、総司が誠音と鍔迫り合う。
「つぅぅぅ…!!」「ーーこんなんで死なないでくださいよ」
上から押さえ込んでいた誠音の刀を上に押し上げ、胴体がガラ空きになりーーー
「往きますよ…!」
「ーーっ!?」
神速三段突き
急所である首を狙って放たれた神速の三撃ーー
壱
最初の一撃。首目掛けて放たれた神速の突きを、刀の背で防ぐ。
弍
次の一撃は少し下から放たれた一撃。
防御の構えをとっていた刀を押し上げ…否、突き撥ね飛ばす一撃。
参
誠音の体勢が崩れた瞬間、最後の一撃が迫る。首の急所を刺し貫く勢いで放たれた不可避の突き。誠音は防げないと悟り…後方へ飛び退き、跳ね上がられた刀を勢いよく振り下ろした!!
総司の刀の背を助走台のように勢い滑らせ、突きの軌道を逸らしたと同時に、誠音の刃が総司の手首に迫りーーー
ガッンッッ!!!
「「ーーーっ…!」」
誠音の首筋の切り傷から血が垂れ、総司の手首は青黒く変色していた。
総司の突きは、軌道を逸らされたことで誠音の首を貫けず、首筋に刃を走らせることしかできなかった。一方、誠音の斬撃も刃をたてる寸前に、手首を刀の側面に勢いよく叩きつけ、峰打ちとした。
だが、誠音は追撃しなかった。
なぜなら彼の目は総司の右手に握られている虚鋼刀に目を奪われていたからだ。
総司の右手に握られているのは…
あの四つ目透かしの鍔を備えた赤黒く鈍い光を放つ刀”伏魔一文字”
その美しい黒曜石のような漆黒の刃と、血が壁をつたって落ちているような波紋、狂気的な色気を醸し出したその刀に誠音は、つい目を奪われていた。
「うぉ…」
「いい刀でしょう?」と自慢する総司。
一方、総司は内心驚いていた。
門下生だった頃は、誠音に何度も何度も勝負を挑まれては返り討ちにしてきた。四十二敗、十一分けの試合結果の通り、実力は総司の方が格段に上だったはず…
先ほどの立ち合いでも圧倒していたのは総司の方であった…だが、総司の見解は少し異なる。
三段突きの三段目、あの攻撃は殺す気で放った一撃だった。しかし、誠音は突きが入る瞬間、咄嗟に後ろに飛んで突きを回避し、あまつさえあの状況から反撃してみせたのだ。
武器の差、技の練度、体捌き、その全てで優っていたというのに、誠音は自分に手傷を負わせてみせたのだ。知人から誠音が虚狩りの星見雅に一太刀浴びせたという噂を、もちろん総司も耳にしていた。とはいえ信じていたかと言われれば、信じていなかった。
4年前の真剣仕合、佩太郎が顔に負った刀傷に手を当てて、地面に倒れ込んだ誠音を見下ろしながら、笑みを浮かべて溢した言葉通りであった。
『
総司は湧いていた。
"復讐"の道を選んだ時点で、その喜びも捨てたはずだった。
だが、あの頃と変わらないーー馬鹿正直に最強を追い求める少年の目をしていたあの頃と。
「いや〜………もっと楽しみましょうよ」
「はっ…!上等ぉ…!」
両者が一歩踏み出そうとした瞬間ーー上空から一本の十字槍が突き刺さった。
その槍の石突にジョンが立っていた。
「悪いですが、そこまでにして貰いますよ。師範代の命令には可能な限り従いますが、衆人環視の近くで流血沙汰はやばいでしょう?」
「あぁ?クソ真面目だな、お前は…!」
「…僕の邪魔する気ですか?」
総司がジョンの懐に入ろうとした瞬間、いつの間にか彼の背後をとったツイッギーが、双刀を総司の首筋に当てていた。
「動かないで」
「ーーあれ、ひょっとして非戦闘員ですか…?ある程度手解きは受けてるみたいですけど…その程度の実力じゃ僕に殺されちゃいますよ?この至近距離じゃ避けきれない、怖くないんですか?」
「…!」
気づけば、ポケットの中に入れていたナイフを彼女の首に突きつけられていた。
冷や汗を垂らすツイッギーだが、腹を括ったのか双刀を握る力は弛まない。
「へぇ…?(ネズミのシリオンの人はかなりの実力者…白髪の女の子はそれなりの実力と覚悟はある…パエトーンとのコネといい、虚狩りと戦える実力といい…これらの傑物を従える人望)ーー四年前と比べて変わりましたね、誠音さん」
「…」
「あ、もちろんいい意味でですよ?今日のところは引き上げます。あと、アキラさんでしたっけ?すでにリードくん経由で座標を送ったんで、明日の夜中に会いましょう」
ナイフをポケットにしまい、刀を鞘に納めて歩き出す総司。
彼が通り過ぎる前に、誠音は思い出したことを口にした。
「あ、そうだ。ミツさんは元気か?」
「ーーー」
ピシッと、総司の体が止まった。
総司の姉『沖田ミツ』は、総司を女手一つで育て上げた彼の親代わりとも言える。弟とは正反対の性格の持ち主であり、普段は厳しいが時に優しい一面を持っている。道場時代に何度も会ったり、劇物じゃない料理を振る舞ってくれたりなど、かなり尊敬に値する人物だ。
確か、メーティス総合学校の数学講師として働いていたはずだが…
「ーーー」
「……総司?」
「ーーーー僕は、殺さないといけないんです。姉さんのために…」
誠音に振り返らず、出口に向かって歩き去った。
Q.4年前の壬生道場には門下生はどのくらいいたの?
A.30名以上いましたが、実力者は現ミブロ古参勢と佩太郎の腹心くらいです。
Q.誠音のおじいちゃんは元防衛軍とのことですが、階級は?
A.中佐です。大佐に昇進の話もありましたが、生意気な上官を半殺しにしたら昇進の話が消えました。その後も誰彼構わず噛み付いたので、"荒神の康誠"という異名がついたとのこと。
Q.沖田総司(現在)の両親、もとい一族は?
A.旧都陥落で死んでます。