【意味】圧力や流量、あるいは物体が一定の周期で大きく変動・脈打つ現象
デッドエンドホロウの元ヴィジョンの拠点には、天龍会残党のホロウレイダーがいた。
だが、悲鳴を上げる暇なく一人の小柄な少年に制圧された。
「…た、たすーー「オヤスミナサイっと」ぐっ…」
地面に倒れ伏して動かなくなった男から、総司は突き刺した赤黒い刀を引き抜く。
「…ここらは片付きましたね。もう出て来ていいですよ〜」
『…凄まじいね。誠音も凄いと思ってたけど、物が違うというか…』
「いや〜機嫌良いこと言っても依頼金増やすくらいしかできませんよ〜」
総司とイアスとリンクしたアキラはコンクリートの建物の内、資材の中に隠されていた金庫を見つける。
『君の目当てはコレだね?少し待っててくれないかい?FaーーうちのAIアシスタントにハッキングさせる』
「ん〜大丈夫ですよ」
ビデオ屋の電気泥棒こと、Fairyに金庫をハッキングさせて鍵を解除し始める。箱の上に座って、ぶらぶらと足を揺らしていた総司が口を開いた。
「貴方が誠音さんと知り合いで助かりました…どうやって知り合ったんです?」
『そうだな…最初の出会いはホロウだったね。依頼中にニコたちと逸れて、気づけばエーテリアスに囲まれたときに助けてくれたんだ…満身創痍の血まみれの姿でね』
あの時のことをアキラはイアスを通して話し始める。
曰く、エーテリアスを一掃した後にぶっ倒れたとのこと。
曰く、介抱中に他の壬生狼零番隊のメンバーが現れて最初は剣や刀を向けられたが状況が分かると誠音に乱暴な治療をしたとのこと。
曰く、自分が敵の集団に捕まったと勘違いした邪兎屋と戦闘になりかけたがエーテリアスの大群が現れて共同戦線を張ったとのこと。
『最初はニコがリードに借金してたりとか、アンビーとツイッギーの仲がぎこちなかったけど…その後に何度も顔合わせるうちに仲良くなったんだ』
「へぇ…貴方自身は、誠音さんをどう見てますか?」
『そうだね… 血の気が多くて喧嘩っ早い人だけど、本当に真っ直ぐな性格の人だよ』
「相変わらず、ですね……羨ましいなぁ」
『羨ましい…?それはどういうーー「伏せてっ!!」ーーなっ!!?』
金庫とイアスを抱えて地面に倒れ伏し、爆発に吹き飛ばされた総司。
彼はコンクリートの床に刀を突き立て、煙の中から現れた人物を見やる。
両手に赤い大型ナイフを握り、口に口輪のような拘束具をつけた大柄な狼のシリオンが、崩れたコンクリートを踏み潰しながら総司たちを見やる。
「よぉ…テメェが辻斬りだな?」
「ブラックウルフ…!」
『ブラックウルフって、あの…!?』
ブラックウルフーーロームルは生粋のシリアルキラーだ。数え切れないほどの命を奪った結果死刑判決を受けていたが、旧都陥落に乗じて脱獄に成功し、その後は郊外の掃除屋として悪名を轟かせている危険人物である。
「雇い主からの依頼でなぁ…しつこく嗅ぎ回るガキを殺せってよ。まぁ、こないだ爆弾魔の濡れ衣も着せたんで捕まるのは時間の問題だったが…俺の雇い主はそれじゃ安心できねぇらしい。そのために五千万ディニーの報酬に色をつけて二倍にしやがったんだ…全く、悪党はゆすればいくらでも金を出すよなぁ?」
「……」
「正直金に糸目はつけねぇんだが…新エリー都の均衡を揺るがした辻斬りの首ーー殺意の具現化みてぇなテメェの首を貰うぜ…!!」
ロームルが迫る寸前、金庫からチップを取り出したイアスを建物の外へ蹴り飛ばす。
『なっーーー総司!!!』
「ここまで付き合ってくれてありがとうございます。さようなら…!」
ガキンッと、双剣と刀が鍔迫り合う。
「匂うぜぇ!俺と同じ血の匂いだぁ…お前も俺と同類だろぉ?仲良くやろうぜぇ!!!」
「同類ーーそうですね。あなた、僕が思ってたよりちょっとだけ強いみたいです」
血に飢えた狩人と、剣に愛された鬼子が激突した。
その一時間後、建物付近の裂け目から誠音とジョンが出現した。
二人が現在いる工事現場跡地には、鉄骨や建材が雨ざらしの状態で放置されている。雨を凌ぐために半壊したビルの内部に入り込んで、影の中から双眼鏡越しに元ヴィジョンの拠点を見る。
そこには武装した男たちが数名、周囲を見張っていた。
「……天龍会の残党でしょうか」
「にしては服装や装備に統一感がありすぎる……例の製薬会社の私兵だな」
「歩兵が数十人として…大型兵器は?」
「あ〜、テラー・ラプトルが一機くらいだな。あとは重装歩兵が二体」
「じゃあ、誠音さんは大型兵器の注意を引いてください。私が歩兵を一人ずつ仕留めていきますんでーーー」
何やら怒鳴り声が聞こえる
「おい、そのスカーフ巻いたボンプを捕まえろ!!」
「逃すな!!囲め囲め!!」
『くっ!放せ!!』
「へへっ!暴れるなよ!!」
「つーかコイツ喋らなかったか?新型か〜?」
「それなら売っちまおうぜ!俺らの安月給より高かったりしてな!」
何か見覚えのあるボンプが、男たちに捕まっていた。
「………誠音さん?」
「しょうがねェ…ーーー強行突破だっ!!!」
■△▽■
「はぁっ…何だよ、何なんだよアイツらっ!!?」
なんて事はない。
この前の、『自分たちのことを嗅ぎ回っている女を事故に見せかけて始末しろ』という依頼のように簡単な殺しの任務だと思っていたのが間違いだった。あの血生臭い傭兵を例の辻斬りにぶつけて、自分は遠くから状況を上に知らせるだけだと思っていた数十分前の自分を殴りたい。
傭兵と辻斬りが建物から飛び出してしまい、状況が分からなくなったから奴らを追いかけるか否かを同僚と考えていたら、見張りが変なボンプを捕まえた。
そしたら浅葱色のだんだら羽織を着た二人組に強襲された。
ショートヘアの男が銃を構えた同僚の足を斬り飛ばしたと思えば、瞬きした刹那の間に背後に控えていた三人を斬った。別の三つ編みの男は銃を構えた奴の胸に向かって槍を投げ、持っていた小刀で他の私兵たちの間を縫うように斬りつけた。
当然こちらには大型兵器もあるし、
大型兵器がガトリング銃をぶっ放したら二人組は掃射が止むまで遮蔽物に隠れ、懐から
これにテラー・ラプトルのシステムが壊れてガトリング銃や爆発ミサイルを乱射し、挙げ句の果てには癇癪を起こした子供のようにその場でジャンプし出した。
あっちこっちにミサイルが着弾し、同僚らが逃げ惑う中。
重装歩兵の一人がミサイルをまともに喰らった。
男は刀を突き刺したまま機体の上部分を斬り上げて兵器システムを壊し、文字通り壊れてジャンプし続ける鋼鉄の両脚を横回転切りで斬り飛ばし、落下する上部分を一刀両断して爆散させた。
もう一人、まだその場にいた重装歩兵は、逃げずにレーザー砲を撃ち込んだ。
信じられなかった。
男が、レーザーを刀で斬り裂いたのだ。目を疑い、驚愕した。
そしてそのまま距離を詰め、重装歩兵が着ていたグレイ・ライノを一刀両断した。
怖くなって逃げ出した。
両手で数えられないほど、金のために人も
だが、今回は違う。
本能が、"アイツらはヤバい"、"敵う相手ではない"と告げていたのだ。
トランシーバーから状況を報告するよう怒鳴る雇い主と、自分を呼び止める同僚の叫び声を無視して駆け出した。装備も銃も投げ捨てて結晶が至るところから伸びる建物の内部を走る。
あんな奴らと戦うなんて、聞いてない。
金に目が眩んで、企業の私兵なんてやるんじゃなかった。
俺はまだ死にたくない。
死にたくない、死にたくない、死にたくなーーーどっ!!
背中から胸にかけて激痛が走り、体が宙に浮かぶ。
視線を下すと、胸から顔を出す槍の穂先。
最期に振り返って背後を見ると、そこには先程の三つ編みの男がいた。
「あ、な…なんなんだ…テメェ…」
「……壬生狼零番隊参謀、ジョン・ドゥです」
返り血のついた眼鏡をクイっと位置を直しながら、ジョンと名乗った男は俺の体から槍を引き抜いた。
気づけば男の背後には同僚らの死体が転がっている。
胸の傷口から赤黒い血が流れ、口から逆流してきた血が溢れる。
あぁ…テメェらさえ来なければ……
ジョンは穂先に付いた血をはたき落としながら、たった今殺した敵の遺言を聞いていた。
「…"テメェらさえ来なければ"、ですか。他人のせいにするのではなく、自分の行いを顧みてほしかったですね…」
ジョンにとって、敵を前にして『もしああしていれば』とか『もしこうだったら』ということを口にした時点で敗北が確定している。勝利とはいかなる状況においても全力で掴み取るものなのだと彼は考えている。
『ありがとう、二人とも。あのまま捕まってたらイアスがどんな目に遭っていたか…』
「なぁに、貸し一だぜ?」
イアスを片手に担いで現れたのは刀を振るって血払いする誠音。彼は周囲を見渡しながら、刀を納刀した。今この場には自分らが屠った私兵たちの亡骸は見受けられるが、総司の姿はどこにもない。
「…総司はどこ行った?」
『おかしい、さっきここから蹴り飛ばされたはずなのに…』
「待ってください…少々、
ジョンの瞳が、眼鏡の奥で白眼と瞳の色が逆転する。
黒く染まった目に浮かぶ白い瞳…
ジョンの視界には白く光る足跡と、その足跡の主たちが浮かび上がった。
ネズミは人間と比べると視力はあまり良くない。だが、動体視力と光への感度は人間よりも優れており、ジョンの場合だと顔の産毛が髭の代わりに機能しているため、足跡などの残留エーテルの痕跡から過去に起きた出来事を知ることができる。
ジョンの視界には、ナイフを振るうロームルの巨体を跳躍して躱す総司の姿が映っていた。
総司が消え、すぐさま死角から斬りかかる。
その攻撃を防がれ、逆に蹴りを喰らい壁に弾き飛ばされーー次の瞬間、コンクリートの壁をぶち抜きながら放たれた突きがロームルの肩に突き刺さり、反対側の壁数枚をぶち抜いてエーテルの幻は消えてしまった。
(なるほど、この場でわかるのはここまでと言うことですか…それにしてもあの突き、並の人間でも放てるか分からない威力、人一人串刺しにしたままコンクリート壁数枚を軽々と粉砕した…流石は
「ーーい、おい!!ジョン!!!さっさと手を貸せ!!!」
「な……これ、どう言う状況ですか…?」
瞳の色が元に戻ると、気づけば周囲は敵に囲まれていた。
おそらく先ほどの連中の連絡が途絶えたため、慌てた上の連中が派遣した私兵だろう。誠音は先ほどからジョンの肩を揺らして移動させようとしていたが、とりあえずなんの考えなしに突っ込んできた馬鹿を人質に取らせてもらった。
どうやったか?
出会い頭にメリケンサックをつけた右拳を躱しざまに合わせ、右腕の峰を左手で掴み、手首を外側に強く捻って馬鹿の体勢を崩しただけの事。
「いててててて!!!???折れる折れるぅぅ!!!!」
捻られた手首から激痛が走り、足をジタバタさせて踠く私兵。
誠音はその首元に刀の切先を突きつけながら、周囲を囲む連中に怒鳴る。
「テメェら動くんじゃねぇぞ!!コイツをぶっ殺されてぇか!!?」
「な、なんて野郎だ!隊長を文字通り赤子の手を捻るように!!」
「隊長を放すんだ!!お前にも大切な人がいるだろう!!」
「うるせぇ!!もっと離れろゴラァ!!!」
『完全に人質を取って治安官を脅す強盗だな…』
白い目でこちらを見る二人(一人はボンプ越し)に、誠音は半ばキレていた。
「あのなぁ…!?アイツらは馬鹿だが装備は高品質、裏でもなかなか手に入らねぇ防衛軍御用達の銃やアーマーを持ってるんだよ…ここでチンタラしてたら増援が来るかもしれねぇ…!」
そう、まさに背水の陣。
総司がどこに行ったのか、そしてここから逃げ出す方法を考えなければ、確実に死ぬ。
ジョンは目頭と鼻の付け根の間を摘みながら、誠音と見る。
「あ〜………三分稼げますか?」
「あ”ぁ!!?三分でも十分でも稼いでやらぁ!!!!」
人質を片手で持ち上げ、周囲を囲む私兵たちに向かって投げつける。
そして、慌てて銃をこちらに向ける私兵たちの射線に味方が入るように、敵の中に飛び込んだ。
その隙に総司とロームルがどこに向かったのか、ジョンは壁の穴に向かう。
「っ!!撃て撃て!!」
「待て撃つな!!俺に当たる!!」
「くっそ!!どこに行った!!!」
「うわぁぁぁ!?乗ってる!!!肩に乗ってるぅ!!?」
まさに混乱状態だった。
取り押さえようとした私兵の顔面を蹴り、地面に頽れる私兵を踏み台に別の私兵の肩に乗って私兵たちを蹴り、殴り、斬る。
そして脚で挟んだ私兵の頭に柄頭を叩き込み、倒れる私兵から地面に向かって跳ぶ。
「おらぁぁぁ!!!」
「ぎあっ!?」「うべっ!?」「あごっ!?」
その間に私兵を蹴り上げながら、刀を振るう。
ジリジリと盾を構えて距離を詰めてくる私兵たちに、誠音は大声で怒鳴りつける。
「おら来いやぁ!!!」
「くっそ…あのメガネから仕留めろ!!あのしゃべるボンプもだ!!」
「なーーアサギぃ!!ジョンを死守しろ!!!」
ジョンとイアスの後を追いかけようとする私兵たち。
すると壁を突き破りーーー途中で体が壁の穴に詰まって無理やり出てきたボンプが短刀を振り回しながら現れた。
「ンナァ!!!」
アサギは小さな手足からは考えられないほど近接戦闘に特化したボンプ。
その実力は並の人間を遥かに超える。
「うわぁぁ!!このボンプ強えぇぞ!!!」
「ンナっ!ンナナっ!!ンナワタっ!!!(首!置いてけ!!悪・速・斬!!!)」
「何言ってんのか分かんねぇのに怖えぇぇ!!!」
先ほど蹴り飛ばされた私兵が、銃を構えてアサギを狙いーー
「なんで、か弱いボンプを狙ってんだーーよっ!!」
誠音の斬り下ろしで銃身が斬り落とされる。
彼に翻弄された私兵らがようやく落ち着きを取り戻し、誠音に銃口を向けーー
天然理心流・一刀術『龍尾剣・刺繍』
「な…!?銃が…!!」
「ちっーーー退けテメェら!!!」
一人、巨漢の男が前に出る。
片手に握ったスタンロッドを高く掲げ、勢いよく誠音に叩きつける。
その攻撃を刀で受け流すもーー予想以上の力が込められたその一撃は、彼の手から刀を弾きとばすには充分過ぎる威力だった。
ガンッと鈍い音と共に、刀が床を滑っていく。
「ーーーっ!!」
「オラァ!!くたばれぇぇぇ!!!」
人を感電死させる電流を放ったソレを、野球バットを振るように丸腰の誠音に振り抜きーー
ベキッ!!!
次の瞬間、男の腕は反対方向に折れていた。
誠音の手には…いつの間にかに脱刀していたあの虚鋼刀が握られていた。
「いぎゃぁぁぁぁぁ!!?」
腕を折られた男は悶絶し、うずくまる。
誠音はいつこの虚鋼刀を腰から外したのか、その記憶すらなかった。
それに、虚鋼刀が男の腕をへし折った時の感覚………
「今のはーーー「うぉぉぉ!!死ねぇぇ!!!」ーーっ!!」
「ンナナ!!!」(タイチョー!!受け取って!!!)
「おぅーーよっと!!」
アサギが床に落ちた刀を拾って宙に投げ、それをキャッチする。
ナイフを両手に斬りかかってきた私兵の攻撃を避けながら、顔面を斬り下ろす。
そして下に向かっていた刃を上に向きを変えて斬り上げ、そして刀の背で首を抑えながら腰のベルトを掴み、迫ってくる私兵たちに投げ飛ばす。
「「「うぬおぉっ!!?」
「はぁっ…!!」
そして、アサギに向かって引き金を引こうとしていた三名に向かって突進し、二人の首を跳ね飛ばしている間に、アサギがその重い体で私兵の頭にのしかかりトドメの短刀を突き刺す。
「ンナナナ…!!!(首置いていけぇ…!!!)」
「ぁぁああ!!おい三分経っただろ!!!ジョン!!!」
先ほどの穴に怒鳴ると、イアスを片腕に抱えたジョンが現れる。
「えぇ、もう十二分に情報を得ました!!彼らは戦いながらあのエレベーターの方向へ行き、そのエレベーターのワイヤーを斬って足場を落下させ、彼らは下の階へ移動、その階で大規模な戦闘を繰り広げたのち、ブラックウルフはエーテリアスの巣に突き落とされて消息不明、総司さんは私兵たちが来た方角に逃げたようです!!」
『報告、ここから10メートル先にホロウの裂け目を検知いたしました』
『二人とも!!総司はこっちだ!!!』
私兵らに突っ込もうとしたアサギを掴み、イアスの指し示す座標へと駆け出す。
勿論、私兵らも彼らの後を追う。
「逃すな!!!」
「捕まえろ!!!」
■■▲△
「チッ、追いかけてきやがる…!!」
「ンナ!!ンナワタ!!?」(局中法度!!敵前逃亡は切腹だよ!!?)
「あ!?お前さてはジジイの書いた小説読んでんな!?戦略的撤退だ!!!」
「あ〜八神佩太郎の書いた小説ですか……よく考えれば焚書ものですよね?だってテロリストの執筆した回顧録ですし」
『みんな!!10秒後にジャンプだ!!』
気づけば、元ヴィジョンの拠点が小さく見える高さの建設途中のビルの屋上にいた。
背後の階段から私兵たちが踏み板を踏む音が聞こえてくる。
『9、8、7…』
「急げ!!奴らはもう袋の鼠だ!!!」
階段から私兵らの話し声が聞こえる。
「裂け目を潜れば…そこは総司さんの元です。本当に止められますか?」
ジョンは誠音を見る。
その手は震えているが、恐怖による震えではない。
武者震いだ。
『6、5、4…』
「いたぞ!!!逃すなぁ!!!」
私兵らが銃を構える。
「止められるか?違げぇなーーー」
『3、2、1…今だ!!』
裂け目が出現し、彼らは裂け目に向かって飛び込む。
「止めに行くんだよ!!!」
彼らが裂け目を潜った直後、裂け目はふっと消えた。
裂け目の先は、街の路地裏に通じていた。
「ここは…ヤヌス区か?」
『肯定、紅傘製薬会社の本社付近です』
「誠音さん、総司さんの足跡はあのマンホールに向かっています」
ジョンが指差した先には蓋がズレたマンホールがあった。
その中に入り、狭い排水路をジョンの案内で進んでいく。
しばらく歩いていると広い空間に出た。
『ここはーー』
「アキラさん、下がってください」
そこは真っ白な壁に覆われた無人の研究施設だった。
いや、無人というには語弊があった。
何しろ、この場にいた研究員及び警備員は全て斬り殺されていたのだ。
「おい!!いるんだろ、出てこいよ…総司!!!!」
チ〜ン!!!
「「っ!!」」
エレベーターが鳴り、二人が刀と槍をそちらに向ける。
扉がゆっくりと開き……中から片腕が斬られた中年の男が転げ落ちた。
「ひ、腕が!!腕が〜!!!」
どこか見覚えのあるその男の顔を見たジョンが呟く。
「"ブラッドパラソル"…!」
そう、目の前の男が総司の追い求める仇だった。
ガッシャァァァァァン!!!!
そして、天井に張られたガラスが破られる。
まるで雪のように、砕け散ったガラス片が降り注ぎ……
まるで雨のように、暖かみのある赤黒い血が滴り落ち……
ズォォォォォォオォォォ!!!!
バケモノのような剣圧に包まれた沖田総司が、床に溜まった血溜まりに着地した。
飛び散る血が彼の顔につき、その血をペロリと舐める姿はまさに剣鬼…!!
歩く姿は獲物に歩み寄る獅子、しゃがむ姿は草薮に潜む猛虎…!!
これが、歴代最強"沖田総司"…!!
血溜まりが、総司を中心に波紋を作りだす。
まるで彼の脈動に沿うように、ドクンドクンと波打つ。
「……来ちゃいましたか、誠音さん」
その目は、心底から冷え込んだ人斬りの目だった。
次回、『伏魔一文字』