終末世界で華や散るらん   作:ランハナカマキリ

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本編ではないエピソード感覚の短編です。
過去編を主にやっていきますので、どうぞ。


本当の強さ

今から9年前、新エリー都の外れにある田舎でのこと。

 

「ってめぇら…!やっちまえ!!」

 

ある少年が近所の不良に囲まれていた。側から見れば、少年が不良に取り囲まれて危ない目に合っているようにしか見えない。だが、この場合において常識は通用しない。

 

バコッ!「うぐっ!?」

「このガキーー」バキッ!

「まっードゴォ!!!ーあふっ」

 

気づけば周りには気絶した不良たちが転がっていた。

 

「たっく、これじゃあ肩慣らしにもなんねーよ」

「つっ、強えぇ…」

 

『市川誠音』この頃まだ10歳になったばかりである。

 

 

△△△△

 

彼は祖父ーー『市川康誠』に育てられた。

 

実の両親とは会った事がない。

 

なぜ自分には親がいないのか。

 

そのことを祖父に尋ねても、悲しそうな顔で黙るだけだった。誠音は祖父を悲しませたくはなかったため、両親に関することを口にするのはやめた。少しだけモヤモヤが残ったが、元々物事にこだわらない性格だったため、両親への疑問は消えた。

 

祖父に育てられている親のいない子、旧都陥落から1年とはいえ孤児になった子供は皆都会や街の学校に多い。田舎の学校ではかなり浮いた。

 

同級生には無視され、靴箱や机の中にゴミを入れられ、担任に至っては『それって君にも問題あるよねぇ』とか『可愛いイタズラじゃないかぁ』とか腫れ物を触るのを忌避するように逃げた。

(報復として同級生の鼻っ柱を折り、担任を木刀でタコ殴りにして半殺しにした)

 

ついたあだ名は、バラガキ

 

「ゴラァ!!また喧嘩しやがって!!!」

「るっせ…虐められたのは俺だぜ?」

「虐められたら相手を半殺しにする奴が被害者面するな!!!」

 

祖父によるゲンコツ制裁を喰らう誠音、この頃わずか10歳だったが近所のヤンキーにも不覚を取らない暴れん坊、最強の悪ガキーーーもといバラガキだった。そんな彼はゲンコツを喰らってタンコブのできた頭を氷で冷やしていた。

 

気がつくとタンコブの腫れは落ち着き、ぬるくなった氷を捨てに台所のゴミ箱に向かう。すると、ゴミ箱の中から一枚の立退要求書を見つけた。すぐに祖父の元へ走っていく。

 

「爺ちゃん、コレ…」

「………どうやら、この近くに巨大な工場を造る計画があってな。この家の土地を買い取ろうと、TOPSの人間が立ち退きするよう言ってきた…退役軍人だろうがお構いなしみてぇだ」

「どうすんだよ」

「目ぇつけられたくねぇからな…この家を手放すしかねぇ。倉庫のガラクタはこの際捨てちまって、婆さんが植えた梅の木は種だけでも持っていくか…」

「ーーんでだよ。何でそんな弱虫なんだよ!!抗議とかすればいいじゃねぇか…!!」

 

祖父は黙り、静まりかえる。そしてポツリと口を開いた。

 

「…確かにな、お前なら嫌なやつを見つけたらぶん殴るだろう。俺はーー弱い人間だったからお前みたいに誰彼かまわず噛みつけない…でもな、それゆえにだ。それ故に強さとは何か、その答えをずっと探してるんだ」

「…意味わかんねぇよ」

「お前も、大人になれば分かる」

 

そう言って、祖父は部屋に戻って行く。

誠音はその後ろ姿を黙って見つめて、行き場のない怒りを黙って押し殺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜だった。

 

何かを燃やしたような匂い、煙が充満する前に目を覚まし、木刀を手に取って口を覆い、慌てて庭へと飛び出した。

 

「ーーーな……誰だよ、お前ら…」

 

庭に植えられた梅の木の根元には、背中を預けるように座り込んだ血まみれの祖父。

それを取り囲むように、刃物を持った男たちが祖父へとジリジリと迫っていた。

 

「お?お?なんだガキンチョじゃねぇか?」

「お頭〜、あのガキも殺します〜?」

「バカ言え〜、俺らの雇い主は"このじいさん"と"オンボロな家"を燃やせって言ってんだ。あんなガキンチョ殺したところで何の価値もね〜よ〜…でも口封じに殺しとくか!!」

 

「「「「ぎゃははははははは!!!」」」

 

男たちは下衆な会話をしながら勝ち誇るように笑い始める。

 

「つーかとっとと出ていけばよかったのによ〜!」

「全くだぜぇ!!思い出なんぞ金になんねぇしなぁ!!!」

「てかあのガキずっと動かなくね?ビビって気絶してね?」

「お〜い、ぼぉくちゃぁん!!!恨むんだったら自分の運の無さをうらーーバキィ!!へぁ?」

 

男が不用意に誠音に近づいた次の瞬間、男の鼻は捻じ曲がり、顎は木刀で砕け、歯が弾け飛んでいた。

 

「ーーーさねぇ、ゆるさねぇぞテメェらぁぁぁぁ!!!!」

「や、やる気かテメェ!!!」

「殺しちまえ!!!」

「おうよ!!!脳みそぶちまけてやらぁ!!!」

 

迎え撃とうと木刀を構ーー

 

ゾクッ!!!

 

「ーっ!!?」

 

彼が今ままでの人生で味合わなかった本物の殺意。

それを受け、体が思うように動かない。

 

(ヤバい…死ーーー)

 

男たちが誠音へと迫った次の瞬間ーーー男たちの首が刎ね飛んだ。

 

ザンッ!!!

 

「へぇ?!」「あぎぃ!?」「うへ?!」

 

転がる生首、溢れ出す散血、刀を振って血を払い飛ばす祖父の姿がそこにあった。

 

「じ、爺ちゃん………?」

「ーーーーー下がってろ、誠音。これは…俺の戦いだ

 

気迫が違う。初めて感じ取る恐怖ーーーいや、剣圧。

 

「このクソジジイ!!そんなにガキと死にてぇか!?」

「あ"?抜いたな?得物を抜いたということはーーこの、山樝旅団"荒神の康誠"を本気にさせるということでいいんだな…!?

「あ、えっ、その、降さーーードシュッ!!「ならこんな場に来んな…!」

 

降伏しようとした男を真っ二つに斬り下ろし、次の男へ斬りかかりこれを斬殺する。

 

「ひ、ひぃ!!?」

日和った男の心臓を突き刺し。

「たったしゅけーー」

命乞いをした男の首を刎ね。

「このクソジーー!」

向かってきた男の頭を輪斬りにする。

 

「すげぇ…………」

 

誠音は圧倒されていた。

こうしてる間にも5人が物言わぬ死体となる。1人覚悟を決めて得物を握って迫って来た者がいたが、近づいた瞬間に首が飛んだ。気づけば、男たちはあと2名しかいなかった。

 

「ど、どうしやす…!?アニキ!!」

「くっそ、くそ、くっそ!!こうなったら、あのガキを人質にして逃げっぞ!!」

「はいっす!!」

 

1人が、目の前の光景に目を奪われていた誠音に迫る。

 

「ーっ!誠音!!」

 

その男が誠音に触れる寸前に、祖父が後ろから斬り捨てる。

散血で誠音の顔にも返り血が飛び、それではっと意識が戻る。

 

「爺ちゃんーー爺ちゃん!後ろ!!」

「っ!!」

 

グサッ!!

 

背後から近寄った男のナイフが、祖父の胸を貫いていた。

 

「ヒャハハハッ!!俺の勝ちいいいい!!ガキなんぞ助けてるからこんな事にーーん?」

 

男の顔面の穴という穴からドス黒い血が溢れ出し、声も出せず悶え苦しみながら男は死んでいく。

祖父は、()()()()突き刺した刀を抜き、そのまま地面に倒れ伏す事なく正座した。口から血を流しながらも、その顔色を変えずただ座っていた。

 

「なんで、なんで…!」

「あぁしないと、お前を守れなかったからな。お前と一緒に逃げることもできたが、俺は婆さんの植えた梅の木を捨てられなかったし、お前を置いてった娘が戻ってくる可能性を諦められなかった。戦わなかったのは激昂した奴らにお前まで巻き込みたくなかったからだ。それで十分か?」

「違ぇよ…何で自分ごと刺したんだよ!?何で!?何で…」

「……旅団に、今の市長(ボンボン)が作った私設軍隊にいた頃、俺はただの人斬りだった。内戦が終わって…防衛軍に入隊した奴や、エリー都から独立した奴もいた。だが俺は、人斬りだった自分に嫌気が差して、剣を捨てて…結婚して、子供ができて、腰を落ち着けた」

 

「長い間、刀の代わりに木刀を握って人に剣術を教えて…その間ずっと考え続けた。剣に生きるとはどういう意味か…本物の強さとは何か、を」

 

「斬り合い勝つ事か、思想を信じ殉じる事か…」

 

「その答えが、やっと俺には分かった…」

 

血まみれの手で、誠音の頭を撫でる。

 

「誠音、ありがとな……お前が教えてくれた。

 

 本物の強さとは…

 

 自分が守るべき人のために死ねることだ

 

「な…なんだよ…、なんだよソレ…」

 

「……今はただ追い求めろ、誠音。

 

 お前の望む、お前だけの答えを、

 

 お前だけの、強さをーー

 

 

 

 

 

 

笑顔でそう言い残すと、祖父は座り込んだまま、動かなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

「なんだよ…なんなんだよ!!!」

 

溢れ出す涙に顔を濡らし、誠音は曇天の夜空に叫んだ。

 

「意味わかんねぇよぉぉっっ!!ちくしょぉぉぉっっっ!!!」

 

△△△△

 

一ヶ月後、祖父の墓参りに行くと見慣れない老人がいた。

 

「…坊主、康誠とは知り合いか?」

「俺の爺ちゃんだけど…誰だよアンタ」

「八神佩太郎……お前の爺さんと同じ旅団にいた。まったく、俺に助けられたくせに先に逝きやがって……」

 

佩太郎は墓石に、持ってきた酒をかける。

 

「あ、墓石に酒かけんなよ……カビ生えたらどうすんだよ」

「細かいガキだな……お前、家族は?」

「もしいたら、たった一人で墓参りに来ねぇよ」

「……そうか。これからは一人で生きていくのか?」

 

誠音はじぃっと、呆れた目で佩太郎を見つめる。

 

「なんで知らない人に自分のことベラベラ喋らねぇといけねぇんだよ」

「………それもそうだな」

 

「…爺ちゃんと同期ってことはーーアンタ防衛軍か?」

「いや、逆だ。俺は……TOPSの豚共に喧嘩売ったテロリストだ」

「へー」

「………最近のガキってのは面白味がないな。一応指名手配されてんだが、そこらのホロウレイダーやヤクザと一緒にするな?これでも共和連邦の元陸軍幕僚長だぞ?今はテロリストだが」

「落ちぶれたな。天下りってやつか?」

「痛いところ突きやがるな……アイツは、俺の話をしたか?」

「『俺の同期に佩太郎ってバカがいて、彼が酔った時に自分の失恋話を吐露してた』って話は」

「あんのしょんべん漏らしめ…」

 

悪態をつく佩太郎と共に家に戻ると、玄関の前にサングラスをかけた怪しいスーツの男が時間を気にするようにウロウロしていた。

 

「……知り合いか?」

「多分、爺ちゃんを殺したチンピラどもを嗾けたTOPSの人間」

「………なるほどな」

 

すると誠音が返ってきたことに気づいたのか、男はパッと表情と仕草を変え、胡散臭い笑顔で近寄ってきた。どうやら隣にいる佩太郎は眼中にないらしい。

 

「やぁ誠音くん。おじいさんが亡くなったそうだねぇ?可哀想に……私はね、君みたいに肉親を失った子供達を引き取る施設にツテがあるんだ。もちろん、この土地は買い取らせてもらってお金を君の口座に振り込もう……どうだい?」

「………靴紐、解けてるぞ」

「え?解けてなーーーザンッ!!ーーへ?」

 

男が下を向いた瞬間、佩太郎が抜刀し鼻を斬り落とす。

べちゃっと地面に落下した鼻を見て、男は放心状態となって数秒後に悲鳴を上げた。

 

「いギャァぁぁ!!?」

「今の誘い文句で思い出した……身寄りのない子供を臓器ドナーとして利用するゲスのブタどもがいると。これで…本当のブタ面だな?」

「だっ、誰だてめぇ!!?こ、こんな、こんなことをして許されると思うなよ!!?俺のバックにはTOPSがいるんだ!!お前もそこのガキもまとめてーーー」バギィ!!!

 

罵声をあげる男の喉に木刀を叩き込む誠音。喉が潰れたのか、声がうまく出せずフゴッフゴッと豚の鳴き声のような声をあげる男を蹴り飛ばしながら空を見上げた。

 

「これで俺も、TOPSに喧嘩売った悪党か?」

「………はっ!この程度の下っ端ごときにカッとなっていたら、悪名高い複合企業体は瓦解している。それで、これからどうする?」

「まず強くなる。強くなって、それから"本当の強さ"っていうのを探す」

「この世界は混沌だぞ。剣がいくら強くても世界は動かせないぞ?強さを探したところで、それが何か理解できるのか?そもそも、なぜ強くなりたい?」

「…阿呆が、当たり前のことを説教しやがってよ……椅子に座ってるだけで強さがわかるか?なら行動しねぇと話になんねぇ」

 

「それにーーー『誰にもできねぇ事をやんのが、カッケェんだろうが!!』

 

 

 

 

 

 

 

「………!」

佩太郎は思い出した。

遠い昔、試衛館の道場に道場破りした阿呆が、誠音と同じ顔をして、同じ言葉を言って、誰よりも命知らずで、誰よりも血が激っていた…土方歳三と同じ目をしていることに。

 

「ーーあっはっはっは!!!」

「何笑ってんだ…ボケたか?」

 

佩太郎は笑った。誠音は引いた。

 

「すまんすまん…昔、お前と同じ目をした馬鹿がいてな……気に入った。お前うちに来い」

「ん?」

「大口叩けるようで結構……だが、お前はまだ弱いけどな」

「あ?」

「お前を鍛えてやる。よろしくな、バカ弟子」

「……よろしく、ジジイ」

 

 

こうして誠音は、八神佩太郎の門弟子となり、剣を磨いてく。

 

最強を求める市川誠音の闘いはここに始まったのである。




設定:
市川誠音のご先祖は、市川真琴。
『ちるらん新撰組鎮魂歌』の登場人物で、土方の孫。

つまり、誠音は土方の子孫。

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