終末世界で華や散るらん   作:ランハナカマキリ

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伏魔一文字・禍罪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"動かねば

   闇にへだつや

        花と水"

 

沖田総司 辞世の句より

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とあるホロウ内部、"エーテリアスの巣"ーーホロウレイダーのスラングでエーテリアス密集地帯から遠くない位置にあるホロウの裂け目。

裂け目に向かうある人物は頭から血を流し、狂ったように笑っていた。

 

「くっ、くっくくく……最高じゃねぇか辻斬りヤロぉ…!!」

 

彼の名はロームル。

紅傘製薬もとい、"ブラッドパラソル"に雇われた傭兵で生粋のシリアルキラー。

 

総司と敗れ、エーテリアスの巣に落とされた彼の顔に敗北の屈辱の色は無かった。

それほどまでに先ほどまで戦っていた少年を気に入っていた。

 

 

シリオンの反射神経でも追いつけない俊敏な動き…

 

氷柱に背を貫かれたような剣圧…

 

立ちはだかる者は全て喰い殺すと言わんばかりの、最濃の死の匂い…

 

 

自分はただ翻弄され、手も足も出なかった。

だが、それが嬉しかったのだ。

 

 

ロームルは旧都陥落以前から悪名を轟かせている、ドがつくほどの超危険人物。

数え切れないほどの命を奪った結果、死刑となったが旧都陥落に乗じて脱獄に成功。

その後はしばらくの間郊外で"掃除屋"として活動を続けていたが、彼と実力が拮抗するほどの強敵に出会うことはほとんどなかった。

 

獲物である人間の命を奪い続けることでその渇きを癒したが、完全に癒されることのない永遠の渇きはいつしかロームルの心の底で蠢いていた。

 

 

だが、やっと現れたのだ。

自らの全てを出し切っても敵わないほどの敵が。

 

 

「待ってろよぉ…!いつかテメェを生きたまま切り刻んでやる…!!!」

 

 

血に飢えた狼の狂ったような笑い声が、ホロウ内に響いた。

 

 

 

▲△

 

 

血溜まりの中で立ち尽くす総司は、自分を見つめる誠音には目もくれず、その手前にいる中年の男ーールーディン・レッドローズへと切先を向けていた。かつて仕留めきれず、逃がしてしまった怨敵だった。

 

総司の手に握られた伏魔一文字・禍罪は、黒い刀身に赤黒い血を滴らせている。

 

「た、助けーー「黙れ、とっとと死ね」

 

総司はルーディンの言葉を遮り、容赦なく振り下ろした。

 

その瞬間、甲高い金属音が響き渡る。

 

ガキンッ!!

 

振り下ろされた刀を、誠音が自らの刀で受け止めていた。

 

「…何邪魔してるんですか?」

「悪りぃな…コイツが死のうが構わねぇが、これ以上テメェに人を殺させるわけにはいかねぇしーーな!!」

 

誠音は刀を弾き返し、総司との間に一瞬の距離が生まれる。しかし、互いに退くことはなかった。

 

「ジョン、アキーーイアスと下がってろ…」

 

誠音が一歩前に出た瞬間、ジョンの槍が行手を阻む。

 

「言いましたよね?貴方に、あまり無茶させないようにするために私がいるって、彼と一人で戦わせるわけないでしょう……」

 

だが彼はメガネの位置を直しながら、思案するように目を逸らし、槍を収納して背を向けた。

 

「ンナンナ!!?」

『ジョン!?一体何をーー!!』

 

そして背後にいたイアスとアサギ、二体のボンプを両脇に抱えーーついでに机の下に潜り込んで隠れようとしていたルーディンの首を尻尾で巻いて絞め落とす。

 

「うぐっーーーー」

「でも、私兵どもの増援が来そうですし……イアスくん達とこのクズを連れて、食い止めに行って来ます」

「あとそれと……どうせ守らないでしょうけど、無茶しないでくださいよ」

 

どうせ守ることはない、だが最低限言っておくことは言っておく。

不器用ながらに彼の勝ちを願うジョンは、研究室のドアの奥に消えた。

 

「……やっぱ持つべきは、信頼できる家族だな」

「どうしても、ボクの邪魔をする気ですか?昨日忠告したのに?」

「悪りぃ…どうやら俺ァ、血の滾りの抑え方を知らねぇらしい…」

 

そうですか、と呟いた総司は、残念そうにこちらを睨みーーー

瞬く間に間合いを詰め、火花を散らしながら、二人の刀が鍔迫り合った。

 

「あのクズに刃誅を下すーーーボクの邪魔するなら、あなた方を斬ります」

「ハッ、上等!!」

 

鍔迫った状態から総司が手元を上に押し上げ、誠音のガードが上がった瞬間に素早くバックステップしながら首目掛けて刀を突き、誠音はその突きを回転しながら躱す。

 

「…へぇ、よく躱せましたね?」

「たりめぇだろ、お前の初太刀は必ず頸動脈(急所)狙い…何百回も剣を交えてたらバカでも分かるぜ?」

「だったらこんなのはどうですか…!!」

 

ギィィィィィンッ!!

 

下からの龍尾剣から始まった、総司の猛攻が続く。

小柄な体躯からは想像もつかないほどの速度と威力で、疾風の如き斬撃を繰り出す。

一撃一撃が、命を刈り取るための一閃。受け損なえば、それだけで致命傷になりかねない。

 

斬撃と突きが、誠音に襲いかかる。

 

「ぉらぁっ!!!」

「……」

 

誠音はその猛攻を捌きながら反撃に転じるが、総司はすぐさま応じ、隙を与えようとしない。

互いの刃が幾度となく交錯する。

 

やがて誠音が、袈裟懸けに刀を振り下ろした。

 

しかし、刃が捉えたはずの総司の姿は、ふっとその場から消え失せる。残像すら残さぬ身のこなしで、総司は誠音の斬撃を躱していた。

 

次の瞬間、総司は空中へと躍り出る。

 

そして、誠音の刀を踏みつけ、その反動を利用するようにして突き技を放った。

 

「終わりです」

 

 

神速三段突き

 

 

三連続の刺突が、誠音の急所を正確に狙う。

 

「っっ!!!」

 

だが、誠音は体を捻るようにして、紙一重でその連撃を躱した。

鋭い切先が頬を掠め、赤い血が一筋、宙へと散った。

 

誠音は頰の血を拭いながら、上がった口角を引き攣らせ、抑えようのない興奮の笑みを浮かべる。

 

「ふぅ〜………」

(何だ…?剣圧が消えていく……?)

 

誠音は静かに息を整えながら、自身から立ち昇っていた剣圧を抑え込んでいく。

やがて構えが解け、視線も足元へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

虚狼

 

 

 

 

 

次の瞬間、総司が反応するよりも早く、誠音はその間合いの内側へと踏み込んでいた。

わずか一秒にも満たない、刹那の出来事だった。

 

「なっ…!?」

「終いだーー」

 

『龍尾剣・輪尾』

 

一刀の基本形である龍尾剣の中でも、最も一撃必殺に特化した技。

他の技とは違い刀を横に薙ぎ払う動作が肝であり、その威力は巨大な大砲を一刀両断することさえ可能とする。

 

誠音の刀が、総司の体を捉えた。

しかし、刃がその肌に触れた瞬間、後方へと飛び退いた。

 

「危ないな〜……全く」

「ちっ…!」(虚狼で隙をついたのに、寸前で躱しやがった…!)

 

総司の脇腹からは、わずかに血が垂れているだけ。

誠音はとっておきの隠し技を見切られ、内心焦っていた。

 

「いや〜本当に強くなりましたね。道場にいた頃は僕に一撃も入れられなかったじゃないですか」

 

総司は笑いながら言った。

 

「へっ…そうかよ」

 

その言葉を受けた誠音の口元にも、笑みが浮かぶ。

隠そうとしても隠しきれない、戦いへの喜び。

やはり、自分は戦いというものがどうしようもなく好きらしい。命を懸けた斬り合い。刃が交わる一瞬の駆け引き。そして、己の技が相手に届くか否かという極限の緊張感。

 

そのすべてが、誠音の心を躍らせていた。

 

だが、いつまでも剣を交えているわけにはいかない…誠音は総司を見据え、口を開いた。

 

「総司、お前の姉さんに会ってきたぜ?」

 

ピクッと、総司の肩が揺れた。

 

「記憶喪失ってのはマジっぽいが、根は間違いなくあの人だった。テメェが記憶を失ったあの人を姉と思いたくねぇのはわかるけどよ…一度拒絶されたからって逃げ出して、その逃げた先には何もねぇぞ?」

 

 

 

 

「は、は…」

 

「あっはははははははははは!!!!」

 

総司は笑った。

 

「ははっはははははははははは………あ"ぁ"?」

 

しかし、その笑みは次第に声色が低くなっていき、殺気を纏った言葉が口から漏れた。

声色から軽やかさが消え、言葉の端々に、押し殺していた感情が滲み始めた。

 

「ーーあの人に、会ったんですか…そうですかそうですかガリッそうですかガリッそうですかガリッそうですかガリッそうですかガリガリッ」

 

抑えようのない怒りが、爪の伸びた指先が総司の髪を掻き毟る。

総司は片手で伏魔一文字・禍罪を握り、切先を逃げようとしていた中年の男へと向けた。

 

その目には、もはや笑みの名残すらなかった。

怒りで血走り、紅く光った瞳は人斬りのそれだった。

 

「コイツらはーーー自分たちを嗅ぎ回っていた姉さんを事故に見せかけ殺そうとした!!」

「姉さんは記憶を失いーーーボクの記憶にある姉さんは死んだ…!!」

「人を殺めた罪は、"死"という罰によってのみ償われる…だが、すでにこの世から消えた死人に罰を下す術はない。だから愛する者が代わりに罰を執行する!!」

 

「生きるに値しない咎人に、絶望と血の海の中でもがき苦しませる!それが、"刃誅"ですよ…!」

 

姉を狙った者たちへの憎悪。

そして、かつて自分が知っていた姉はもう戻らないという、拭いようのない絶望。

姉を奪い、姉を傷つけ、そして姉が姉でなくなった元凶らがのうのうと生きていることが、彼にとって何よりも許せなかったのだ。

 

誠音は険しい表情を浮かべる。

 

「だからとはいえ、蜂の巣(裏社会)を刺激して、無事で済むわけねぇだろ…戦争でも起こす気か?」

 

総司の行動がもたらすものを、誠音は理解していた。

 

この男を斬ったところで、すべてが終わるわけではない。

むしろ、新エリー都の裏社会を巻き込む大きな争いの引き金になりかねなかった。

 

それでも、総司は迷わなかった。

 

「姉さんのいない新エリー都なんて、それだけで死ぬに値する百万の理由ですが?」

 

紅く染まった瞳が、誠音を見つめる。

そこに宿るのは、狂気か。それとも、すべてを失った者だけが抱く、純粋すぎるほどの絶望か。

総司にとって、姉のいない世界に価値などなかったのだ。たとえこの街が滅びようとも、失った姉が戻らないのならば、そんな世界に生きる理由など、どこにもなかった。

 

「…そうか、なら止めさせて貰うぜ」

「どうぞ、ご自由にーーーっ!」

 

紅く染まった瞳が、残光を引く。

 

▲▲

 

紅傘製薬、地下研究所と本社に通じるトンネル内部。

ジョン・ドゥの目の前には数十名の私兵らが、銃を構えていた。

 

「侵入者に告ぐ!!レッドローズ氏を解放しろ!!!」

「き、貴様らっ!!私が人質にされているんだぞ!?早く助けろ!!?」

「ンナンナ!!!(黙れ人間のクズ!!!)」

 

後ろでは簀巻きにされたルーディンが慌てた様子で怒鳴り散らしていた。もちろんジョンの顔に焦りはない。シャキンッと収縮された槍を伸ばし、十字の穂先を簀巻きの獲物に突き立て、私兵らを焦らし始める。

 

「ではゴミどもの皆様に告げます。とっと逃げるか、それともコレのために命を捨てますか?」

「ひっ…!?お、お前っ!!!この私に楯突いて無事に済むと思うなっ!!!貴様の身元をすぐに特定して、貴様の祖父母両親兄弟全員を地獄に送ってやるぞぉ!!?」

「…あいにく、私には潜入捜査官で生意気な妹と、私(・)の(・)仕(・)事(・)を(・)理(・)解(・)し(・)て(・)く(・)れ(・)る(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)と(・)し(・)っ(・)か(・)り(・)し(・)て(・)く(・)れ(・)て(・)る(・)最(・)愛(・)の(・)妻(・)以外身寄りがないので…というか、お前みたいな三下に手を出せるほどズボラなわけがないでしょう」

 

アキラは思った。

途中から惚気が混じってなかったか、と。

 

「ぐぬぬ…!!?この脅しであらゆる連中を従えられたというのにぃ!!?貴様らっ!!さっさと捕まえろぉ!!金ならいくらでも払うぞぉぉ!!!!」

 

やはり金の誘惑には弱いのか、私兵らが一人二人ーーそして全員がスタンロッド片手に突っ込んできた。

 

「人為財死、鳥為食亡ですか…なら、覚(・)悟(・)し(・)ろ(・)…!」

 

ジョンが槍を短く持ち、螻蛄首ーー穂の末端にある、穂と柄を繋ぐ境界を強く握りしめ、石突を敵陣へ向ける…異形の構えをとった。

 

 

それは、遥か先の未来の話ーー人類の滅亡を決める神対人類最終闘争(ラグナロク)…三対三の状態で迎えた第七回戦において、神側代表闘士である冥界の王がとった構えに酷似していた。

 

一撃の威力が非常に高い"剛の槍"を身上とする冥界の王の、自らのバイデントの柄の穂先近くを掴んで大きく振りかぶり、そのまま柄を滑らせながら振り下ろす技ーー大地を砕きし者(ペルセポネ・ティターン)に。

 

だが、ラグナロクより遥か昔の現在ーー

 

奇しくもこの終末世界に同じ絶技を操る、銀鼠がいた…!!!

 

螻蛄首を握りしめたまま大きく振りかぶり、そのまま柄を滑らせながら振り下ろす。

自身を倒そうと駆け寄る私兵たちの頭上から、渾身の力を込めた十文字槍が、彼らを消し炭にせんと迫り来る。

 

その技の名はーー

 

 

 

 

天鼠天降(てんそてんこう)

 

 

 

 

 

その後、槍を肩に担いだジョンは片手で失神したルーディンを引き摺って上に繋がるエレベーターに入った。その足元ではイアスとアサギが小さな足で彼らを追う。

 

この後、イアスとリンクしていたアキラは暫くの間トマトが食べれなくなった。

 

なぜなら、彼らの後ろには線状に粉々に砕かれたコンクリートの床と数(・)十(・)の(・)潰(・)れ(・)た(・)ト(・)マ(・)ト(・)の(・)よ(・)う(・)に(・)な(・)っ(・)た(・)も(・)の(・)が点在していた。

 

▽▽

 

総司は誠音に向かって突進した。

 

急速に縮まっていく両者の距離。誠音は確実に仕留めるべく、刀を左脇構えに移し、迫り来る総司を迎え撃つ。

 

そして、互いの間合いが交差する、その瞬間ーー。

 

『龍輪剣・虎振』

 

体のひねりと足の踏み込みを利用し、遠心力を乗せて斜め下から強力に斬り上げる技。

誠音の刀が、総司を捉えんと唸りを上げた。

 

だがーー

 

 

フッ!

 

 

総司の姿が消えーーー次の瞬間には真横に現れた総司が一閃を放った。

 

「っ!?」

 

誠音は間一髪で刀を合わせ、その斬撃を防ぐ。

しかし、安堵する暇などなかった。

 

総司が再び地に足をつけたかと思えば、床に積もった埃を舞き上げーー

 

 

ヒュバッ!

 

 

その姿は、またしても消失しーー今度は頭上。

総司が振り下ろした刀が、誠音の脳天を狙う。

 

(なんて疾さだ…!この四年、色んなヤツらと死合ってきたから、剣を交えりゃ直感で分かるーーーーコイツ、星見雅(虚狩り)より強い!?)

 

誠音は咄嗟に、腰に刺していた虚鋼刀ーー鞘に収められたままの刀と、機龍・赫を交差させるように掲げ、総司の一撃を受け止める。

 

ギリギリギリッ!!

 

小柄な体躯からは想像もできないほどの膂力。

 

まるで巨大な石像を受け止めているような、凄まじい圧力が誠音の腕にのしかかる。

受け止めた刃が、じりじりと首元へ迫った。

 

「ぬ"ぅ"ぅぅあ"ぁ"ぁぁぁっっ!!!」

 

誠音は即座に足を振り上げる。

 

蹴り上げて、強引に間合いを切り開こうとしたのだ。

 

だが、その脚が総司に届くことはなかった。

 

 

ぐるんッ!

 

 

総司は前方宙返りで蹴りを回避すると、伸びきった誠音の脚を踏み台にし、誠音の頭部目掛けて刀を振り下ろした。

 

「うおっ!?」

 

誠音は首を後方へとのけ反らせ、紙一重で斬撃を躱す。

 

切先が眉間を掠め、浅い傷を刻んだ。

致命傷こそ免れたものの、総司の刀は止まらない。刃をギリギリで防いでいる機龍・赫の握りをほんの少しでも緩めてしまえば、誠音の体は真っ二つになる。

 

ギギギギギギギギギィィィ!!!

 

「ーーーっっ!!」

「……」

 

総司は無言で伏魔一文字・禍罪に力を込め、その漆黒の刃で防御を喰い破ろうとする。

誠音は崩されかけた防御を捻るように切先を総司に向け、反撃に転じる。

 

『神速散段突き』

 

前方広範囲に無数の突きを繰り出し、その攻撃が総司を捉える直前、またしても彼の姿がフッと消え失せた。

 

 

ひゅんッ!!

 

 

その間にも、総司は周囲の薬剤や実験器具が上に載った机や棚、さらにはフロア全体に張り巡らされたキャットウォークまでも利用し、目にも留まらぬ速さで駆け抜けていく。

 

 

ひゅんッ、ひゅんッひゅんッ!!

 

 

縦横無尽に移動するその姿は、まさに疾風のようだった。

 

「はぁっ…!くそっ…!!」

 

どこから攻撃が飛んでくるのか、まるで予測できない。

誠音は刀を握り直し、全方位へ意識を巡らせーー

 

 

 

ビュンッ!!!

 

 

 

「ーーーっ!うらぁっ!!」

 

死角から放たれた一閃を躱し、即座にカウンターを繰り出そうとする。

だが、刃が届くよりも早く、総司は再び姿を消した。

 

 

 

 

ブンッ…!

 

 

 

 

そして、誠音の周囲を回るように駆け抜けーーー

 

 

 

 

ブンッブンッブンッーーブゥンッ!!!!

 

 

 

 

ーーー再び死角から斬りつける。

 

「っ!!ちょこまかとっ!!」

「……ちっ」

 

誠音は刀を合わせてギリギリのところで攻撃を凌ぐ。

だがその直後には、別の方向から刃が迫っていた。

 

(攻撃の剣速(スピード)に追いつくのがやっとだ…!?

 

 一撃を防いでも、次の一撃が襲いかかってきやがる……

 

 反撃しようにもーー死角からの攻撃を防ぐために防戦一方の戦いを強いられる…!!)

 

 

 

 

これはまさにーーー剣(・)撃(・)の(・)暴(・)嵐(・)っ!!!

 

 

 

 

 

そしてそれを可能にしているのがーーー総司の紅く灯る眼……

 

(これがーー"鬼子"か!!)

 

 

 

鬼子

 

総司が極限の高揚状態に達したときに発現する、紅い眼。

曰く、鬼子。

 

それは急激な生命燃焼の証である。

 

心臓が通常の三倍もの血液を送り出し、全身の筋肉細胞が覚醒することで、超人的な瞬発力と身体能力を行使可能となる。

 

その力は、常人の域を大きく逸脱する。

 

だが、当然ながら代償も存在した。

 

鬼子は肉体に多大な負担を強いる。行使するたびに、使用者の命を削っていくのだ。だからこそ、総司と誠音の師匠である佩太郎は、この力の使用を固く禁じていたーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーはずだった。

 

(ジジイとの死合に使ってた頃よりーーーー格段に強くなってやがる!!デメリットも感じられねぇ!?あの刀の影響か!!?)

 

纏まらない思考を脳の片隅に押しやり、今目の前にいる敵に集中する。

誠音がとったのは"平青眼の構え"。

 

「ーー来いよッ!!」

 

総司の速度と膂力がどれほど増していようと、鬼子には明確な弱点がある。

 

それは、理性のタガが外れることで生じる暴走状態。

 

極限の高揚によって肉体が強化される一方、理性を失えば動きに綻びが生じる。誠音はそこを突くつもりだった。

 

しかしーー

 

 

 

宙に跳んだ総司が、一瞬で距離を詰め斬りかかってきた!

 

 

 

ーー襲い来る総司の剣撃は、さらに凄まじさを増していた。

 

 

ガガガガガガガガッ!!

 

 

さらに、相手に思考する暇を与えないために、瞬時に接近戦に持ち込んだ。

目にも留まらぬ斬撃、常人離れした踏み込み、寸分の隙もない連撃。それだけの力を行使しているにもかかわらず、総司には暴走状態の兆候がまるで見られなかった。

 

理性を失うどころか、誠音の動きを正確に見極め、的確に追い詰めている。

 

誠音の顔に焦りの汗が浮かぶ。

 

 

やがて、二人の刀が激しくぶつかり合った。

 

ギリギリギリッ!!

 

総司が両手に力を込め、伏魔一文字・禍罪を押し込んでくる。

 

その瞬間だった。

 

「なんだ、それ…?」

 

誠音の目が、総司の手元に釘付けになる。

 

伏魔一文字・禍罪を握る総司の手のひらから、血が流れ出していた。

だが、ただ流れているだけではない。

溢れ出した血液は、刀身へと吸い寄せられるように流れ込み、途切れることなく吸収され続けていた。刀身には人間の血管のような赤い脈動するラインが走っており、血を吸うたびにそれが妖しく光る。まるで、刀そのものが血を求めているかのようだった。

 

「気づきましたか…じゃあ死んでください」

 

総司は淡々と告げると、もう一方の手のひらに溜まった血を、誠音の顔面へと浴びせた。

 

 

バシャァァッ!!

 

 

「ーーっ!?」

 

視界が、真っ赤に染まる。

誠音は反射的に身を引こうとした。

 

だが、次の瞬間。

 

じゅぅぅぅぅぅっっ!!!

 

顔面に浴びせられた血液から、とてつもない熱が伝わってきた。

 

「あっ、つ!?くそっ!!!」

 

まるで熱湯ーーいや、熱湯などという生易しいものではない。まるで燃えたガソリンのような灼熱の液体を直接浴びせられたかのような、常軌を逸した熱さだった。

 

熱さに悶えている誠音を、総司が蹴り飛ばす。

 

「がっ!!?」

 

誠音の体が研究所の壁に叩きつけられる。

視界を奪われたうえに、予想外の熱に襲われたことで、体勢を立て直すことも受け身を取ることすらままならなかった。

 

叩きつけられてからほんの一秒、意識が飛んでいた誠音は急いで咳き込んで呼吸を確保する。意識が朦朧としたり失神したりすると、舌の根元が落ち込んで気道が塞がってしまうからだ。

 

「げほっ、げほっ!!!」

(なんだ今のは!?何かの能力か…!?いや、四年前はこんな事はできなかったはずーーあの刀の能力か!?虚鋼刀は、ただの侵蝕しない刀じゃねぇのか!!?)

 

誠音は苦悶しながら顔についた血を拭いながらも、目の前で起きている異常事態を理解しようとしていた。総司は血を吸い続ける伏魔一文字・禍罪を眺めて、静かに呟いた。

 

「虚鋼刀はただ折れない刀じゃない…それぞれに能力がある」

 

「ボクの伏魔一文字・禍罪は、相手や刀の主(ボク)の血液を吸収することで、斬れ味を増す。そして吸い取った(バイパスした)血液を変換する能力です」

「ーーっ!!」

 

"吸い取った《バイパスした》血液を変換する能力"

 

吸い取った血液の温度を変えたり、主の体内に輸血させることも可能だということ。つまり、鬼子による肉体の酷使。心臓や肺への過負荷。全身の血管や筋肉に蓄積する負担。本来ならば、総司の身体を蝕むはずの代償を伏魔一文字・禍罪の血液を吸う能力によって補っているということ。

 

これでは、誠音が狙っていた暴走の隙も、肉体の限界による失速も期待できない。

 

「ーーっ!!」

 

誠音は迷わず踏み込んだ。

 

考えるよりも先に体が動いていた。

 

このまま距離を取れば、総司の速度に翻弄され続けるだけだ。ならば、多少の危険を承知で懐に飛び込み、斬るしかない。

 

誠音は総司に向かって飛びかかり、渾身の力を込めて機龍・赫を振り下ろした。総司を袈裟斬りにする寸前、間に入ってきた総司の腕が急激に紅く染まりーー

 

ガギィンッ!!

 

振り下ろされた刃が、響き渡る鈍い破砕音と共に刃こぼれした。

折れはしなかったものの、腕と接触した刃先から鎬の部分までが弧を描くように粉砕された。

 

「なっーー」

 

誠音の目が見開かれる。

 

 

天然理心流・体術『刃砕き』×鬼衂衝天

 

『刃砕き』は、傷を受ける覚悟で刀を素手で掴み、鍛え上げた指筋と握力で粉砕する技。

『鬼衂衝天』は、大量の血を一瞬で凝固させ、防御する技。

 

「…少し、ボクに勝てると思ったでしょう?笑わせないでください…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ボク、誠音さん相手に本(・)気(・)で(・)戦ったことないですから」

 




Q.紅傘製薬の元ネタってバイオですか?
A.ゾンビウイルスを簡単に流出させちゃうアンブレラ社モチーフです。

Q.『終末のワルキューレ』との時系列は?
A.本編を現在とすると、人類存亡会議は大体30年後のイメージです。なのでZZZキャラは闘士に選ばれません。なぜならまだ死んでないからです。早死にしたら選ばれるかもですが。
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