けど書かないと進まないので書き続けます!!
十一年前、旧都陥落で街に避難民が溢れかえっていた頃のことだった。
両親を失って路頭に迷っていた幼い姉弟は、悪い大人にとっては格好の獲物だった。姉を襲おうとしたチンピラ三名を、十二歳に満たない少年が返り討ちにした。
正当防衛の範疇を超えた過剰で、再起不可能な蹂躙だった。
騒ぎに駆けつけた治安官に取り押さえられた彼を救ったのは、偶然ホロウレイダーの仕事をしていた佩太郎だった。
佩太郎は治安官を睨んで下がらせ、二人とも連れ帰ってきたのだ。
彼は少年ーー総司を道場の門下生として迎えた…だが、その数日後だった。
ザクっ!!!
立ち合いの最中、総司の目は紅く光り、常人離れした動きを見せた。さらに、一瞬だけだが、佩太郎の反応速度を上回った彼の剣は、握っていた木刀を砕き、親指をへし折った。
変化はこれで止まらなかった。親指をへし折られた佩太郎が、もう一本の木刀で総司を叩き飛ばして気絶させた際、急いで医者のところへ運ぼうとした他の門下生たちがその体に触れただけで、あやうく火傷を負いかけたのだ。
その後、佩太郎は総司と二人きりで和室にこもり、何かを話し合っていた。
そして、その数時間後。
月明かりに照らされた庭で、佩太郎は晩酌をしていた。視線の先には、花を散らし尽くした梅の木が静かに佇んでいる。
そこへ、背後から声がかかった。
「…で、ジジイ。昼間の総司のアレは何だ?」
振り返ることなく、佩太郎は声の主が誠音であることを察した。
昼間の立ち合いで目の当たりにした光景が気になって仕方がないらしい。
紅く光る瞳。人間離れした動き。そして、触れただけで火傷しかけるほどの異様な体…このホロウが存在する世界には見えないものを感じ取ったり、未来の景色が見えたりする"能力"を持つ人間が存在する。総司は"能力持ち"ではないかと誠音は思ったのだ。
佩太郎は手元の酒をゆっくりと呷ると、静かに口を開いた。
「誠音…少し、昔話をさせてくれ」
月を見上げながら、佩太郎は語り始めた。
今から千年前。
試衛館で仲間たちと剣を磨いていた頃、そこには沖田総司という少年がいた。誠音たちの仲間である総司と同じ名を持ち、そして同じように"鬼子"を使う少年だった。
その強さは、まさしく鬼神の如し。
しかし、鬼神にも等しい力は、しだいに少年自身の体を蝕んでいった。
やがて沖田総司は、労咳によって命を落とした。
佩太郎は、遠い昔を懐かしむように目を細める。千年という途方もない時間を隔てた記憶が、月夜の静寂の中で蘇っていく。
「昼間のアレは、紛れもない人斬りの目だった。俺はアイツに言い聞かせたーー」
『…その強さは、たしかに本物だ。だが、闇しか見えない人斬りの眼はーー修羅に堕ちたとほぼ同義だ。次に鬼子を使えば、お前はもう二度と戻れなくなる…』
『僕にも、どうすればいいか分からないんです』
『では…お前は、姉を置いていくつもりなのか?』
『それは…嫌、だ』
『"鬼子"を使うな………
包帯が巻かれた親指を月にかざしながら、佩太郎は再び酒を呷る。
その言葉には、老人が長い年月をかけて抱えてきた葛藤が滲んでいた。
目の前にいる少年たちは、かつて肩を並べて戦った仲間たちではない。姿形が似ていようと、同じ名を持っていようと、別の時代を生きる別の人間だ。それでも、かつての恩人と同じ顔を持ち、同じ力を宿した少年を人斬りに堕とすなど、ましてや自らの手で葬ることなどできなかったのだ。
佩太郎は酒盃を置き、誠音へと視線を向けた。
その眼差しには、師範としての厳しさではなく、一人の家族としての願いが宿っていた。
「もし奴が再び鬼子に戻った時は、お前が止めろ…それが、家族だ」
◀︎▶︎
一撃一撃が、受け止める誠音の骨の芯まで響いていた。
『機龍・赫』は、受け止めた部分の灰色の刃先が失われ、ヒビの入った切先部分の刃と、赤く発光する鎬と黒い棟だけが残されていた。
総司はさらに加速する。
その動きは、ついに残像が見えるほどの領域へと達していた。
斬撃が迫り、防ぎ、次の一撃を受け流す。
反撃に転じようとしても、総司はすでに間合いの外へと消えている。
「くっ!!?」
(アイツ…"まだ本気を出していない"だと!?ここからが本番だって言うのかよ!!)
疲労で全身が重く感じ顔にかかった血は大部分が流れ落ちているが、血による火傷は肌や目をヒリヒリと疼いていた。
それに比べ、総司の状態は軽傷というべきであろう。腹部の傷も血が固まって封じていた、そもそも移動が速すぎて攻撃が当たらない。
誠音は防戦一方だった。
そして、ついに総司が正面から仕掛けた。
「ーー散れ」
紅く血に染まった腕で刀を頭上へと掲げる。重力に従って下がろうとする刃を、右手で下から支えるようにして構え、柄の鵐目を握り込むように持ち替え、切先を誠音へと向ける。
そして、誠音の心臓の一点を狙い…突きと同時に、足先から脚へ、手首から腕へと、全身を捩じるように回転させ、握っていた手を離し、誠音の体へ捩じ込むように掌で柄を押し込んだ。
『穿龍突』
突きの切先、その一点に体重と全身の回転によって生じた力を集中させ、威力と殺傷力を数倍にまで引き上げるーー体重も身長も足りない総司自らが考案した突き技。これにさらに、鬼子によって増幅された身体能力が、その威力を極限まで押し上げていた。
防御したところで刀ごと上半身を貫かれる、防ぐことすら許さない、絶殺の一撃。
(これはーーまともに受けたら死ぬな…)
誠音は、目の前から迫る死に慌てふためいていなかった。
彼の心に過ったのは、羨みだった。
旧友の忘れ形見として門弟になり、剣を学んだ。
いつか最強になるために…そして最強とは何かを見つけるために…
だが、上には上がいる。
総司は自分よりも後に入ったのに、それまで誠音が何十回挑んでも傷一つつけられなかった佩太郎に、わずか一日で傷をつけた。
もう一人、誠音と同時期に門弟になった男ーーしょっちゅう名前を改名するから決まった呼び名も経歴も一切分からず、シカのシリオンということしか分からない彼も、悔しいが誠音より剣の腕があった。
他にも才能がある奴は大勢いたし、今の壬生道場にはセレッソやハヤテ、それにジョンといった才能の化け物というべき連中もいる。
自分にも才能はあるが…流派全ての技を磨き、最も鍛錬に尽力し*1、星見雅との立ち合いで"虚狼"を会得しても尚…総司に、届かない。
それどころか虚鋼刀を抜くことすらできずにいる。
誠音は、自らの力不足に歯痒さを感じていたーーー
ーーーだが、それでも嗤っていた。
「ぐっ!!」
誠音は刀で受け止めることを選ばなかった。
ヒビの入った刀で受け止めれきれない攻撃ではないと確信したからだ。刃を薙ぎ、突きの軌道をわずかに逸らしーー心臓を狙って放たれた切先が、狙いを外して肩へと突き刺さった。
ぐいっ!
総司は表情ひとつ変えずに、
誠音の体が引き上げられ、自分を睨む総司と目があう。
(は?おいおい…!!総司は俺の半分くらいだぞ!!?マジかよーー化け物め!!!)
そのとき、総司の紅く染まった瞳が、ひときわ強く滾った。
「
刀身の血管から溢れ出した血液が、じゅぅっと音を立てて熱を帯び、傷口や垂れる血から白い煙が立ち上った。
「っぁぁぁあ!!?」
凄まじい激痛が、誠音の肩から全身へと駆け抜ける。
焼けるような熱が傷口を襲い、誠音は思わず顔を歪めた。
総司は淡々と告げる。
「『鬼子・赫血淋漓』血液の温度を上げる技ーー本当はこういう風には使いたくはなかったんです。けど、ボクの問題に首を突っ込んできたのは貴方ですから」
その声には、先ほどまでの戦いを楽しむような軽さはなかった。ただ、自分の前に立ちはだかる者を排除するという、冷徹な意志だけが込められていた。
「っーー”姉さんのいない新エリー都なんて、それだけで死ぬに値する百万の理由” …そう言ってたよな…!?」
「俺の知ってる総司は、そんなネガティブな思考はしねぇ……暗くなることはあっても、慰めようとしたらいつの間にか消えて、自分を可愛がってくれる女にパフェを奢ってもらったり、野良猫の溜まり場で遊んでたり、うだうだどうにもならないことを考えずに次の日にはケロッとしてるよう奴だぞ…!?いつからそんな面倒なやつになったんだ!?あぁ?」
誠音は激痛に耐えながら、総司を睨みつける。
「…何を」
「一応言っとくけどなぁ…この新エリー都に生きてる奴にとって、家族を殺されたなんてのは日常茶飯事なんだよ!!」
誠音の脳裏に、死んだ祖父の光景が浮かぶ。
「俺らは、道場で共に剣を振ってた家族だろうが…!!俺らに頼れよ!!!お前が抱え込んでるもんを、俺らにも背負わせろよ!!!」
誠音の声が、室内に響き渡る。
刀を砕かれ、肩を焼かれ、まともに反撃することすら難しい状況。
それでも、誠音は総司に言葉をぶつけ続けた。
目の前にいるのは、倒すべき敵である以前に、かつて同じ道場で剣を振るった家族なのだから。
「っ……るさい……!」
総司の声が、怒号となって弾けた。
怒りに身を任せ、引き抜いた伏魔一文字で誠音の首を斬り落とそうとーーー
「なっ!?」
そこに、誠音の姿は無かった。
虚狼
「ーーーがっ…」
後頭部に激しい衝撃ーーー総司の体は床に倒れ伏した。
「はぁっ、はぁっ…一本取ったぜ」
左手に刃が欠けた『機龍・赫』を握り、右手で虚鋼刀を握った誠音は、肩で息をしながら倒れ伏した総司を見下ろしていた。虚狼で総司の背後に回り、振り向きざまに彼の後頭部へ鞘付きの虚鋼刀を叩き込んだのだ。
怒りで背後に回った誠音に気づけなかった総司の隙をついた作戦だったが、これが上手く行った。
誠音は総司を縛るロープを探そうと辺りを見回し、壁に取り付けられてあった消防用ホースを見つけた。これなら大丈夫そうだと思 どずっ
床に、斬り別れた上半身と下半身が転んだ。
血はすぐに大きな水溜りを作り、内臓は切断面から溢れだす。
状況が飲み込めず、痛みと共に斬られたことを意識した瞬間には意識が飛びーーー
ーーーと、錯覚した。
「はっ!!?」
(なっ…何だ今のは…っ!!?)
慌てて腹部に手をやり、血が出ていないことや内臓がまろび出ていないことを確認する。
額に汗をかき、息が苦しくなる。
そして、今自分に起きた現象を、嫌でも理解させられた。
(嘘だろーー剣圧だけで…斬られたのか…!!?)
すぐに振り返り、倒れ伏しーー否、立ちあがろうとする総司に刀を向ける。
「はぁっはぁっ…!?」
最後の後頭部への一撃、彼は総司の命を絶たないように鞘で覆われた虚鋼刀で行った。だが、それは悪手だった。
あの場での最適解は、首を刎ね飛ばすことだった。
誠音の心の底から湧きあがった感情ーーーそれは、恐怖だった。
■
まだ辻斬り事件が発生する前のことだった。
「はぁっ、はぁっ…!」
天龍会、ブラッドパラソル、そして紅傘製薬…
すぐに紅傘製薬の"ブラッドパラソル"を血祭りにあげようとしたが、彼を守る天龍会のヤクザやホロウレイダー崩れの私兵たちを相手にするには、総司の力は足りなかった。
『もっと、力が欲しい…!!ボクの姉さんを奪った奴らを皆殺しにする力が…!!』
かつて、壬生道場で佩太郎と結んだ誓いを捨て、修羅となることを決意した。
肉体を鍛え、技を磨き、己が全てを怨敵を殺すことへ捧げた。
だが、まだ足りない。
彼は、新エリー都中の裏市を周り、丸十を訪れ、伏魔一文字・禍罪を手に入れたのだ。
その足で天龍会傘下のヤクザの事務所を血祭りに上げーー今、逃げ惑う組員の一人を追いかける現在に繋がっているのだ。
「や、やめてくれ…!!頼む!!」
男は必死で命乞いをする。
「か、家族がいるんだ…!命だけは…!!」
男は震える手で懐から何かを取り出したので、拳銃かと思ってその腕を斬り飛ばした。
血の雨と絶叫が路地裏に響く中、地面に転がる腕が掴んでいたものを拾う。
それは、仲睦まじい家族写真だった。
「お、お願いだ…助けーーーー」
だが、もう決めたのだ。
そして男の心臓を貫き、滴る血を伏魔一文字・禍罪が吸い上げはじめていた。
広がっていく血の海に手を伸ばし、彼は五本の指を沈めて、物思いに耽った。最後に男の死体の上に写真を置いて、彼は闇に消えた。
この瞬間から、沖田総司は修羅になることを決意したのだ。
■
この時、総司の身体に沸き上がったのは、自分から最愛の姉を奪った外道への怒りーー
否っ!!
自らの命をも擲つ覚悟で自分の凶行を止めようとする市川誠音ーーそんな彼の命を奪おうとした己、こんなところにまで堕ちてしまった己自身への怒りだった。
その怒りが、均衡を保っていた総司の力のタガを、壊してしまった。
「…殺す…」
「…殺す…」
「…殺す…」
「殺す…殺す…コロ…ス…………」
「コロス」
次の瞬間、総司は一瞬で誠音の懐へと入り込んだ。
地面をすれすれに重心を落とし、そこからさらに前方へと駆ける。
速さだけではなく、一点を貫くためにあらゆる力を凝縮した突進。
天然理心流の中でも、最も神速で、最も貫通力に優れ、最も殺傷力の高い技。
天然理心流一刀型『奥義・鬼爪突』。
総司の切先が、誠音の体を貫こうと迫る。
誠音は右手に握った虚鋼刀を掲げーーー
ガギィィィンッ!!
切先が体に届く寸前、虚鋼刀の鞘がその一撃を受け止めた。
ピシっと鞘に走った亀裂は瞬く間に広がり、虚鋼刀の鞘が悲鳴を上げた。
そして、その一撃が生み出した衝撃は、誠音の体内へと突き抜けた。
「ーーうぐっ!?」
車にはね飛ばされた人形のように、衝撃で弾き飛ばされる。
呼吸が途絶え、胸の奥から空気が押し出され、誠音の体が大きく揺らぐ。
骨を砕くような衝撃が全身を貫き、肺から空気が押し出される。
「うっぐーーーおぇ…!」
誠音は血を吐く。
もはや、まともに体を支えることすらできない。
総司はその姿を、ただ見下ろしていた。
彼の状態は常軌を逸していた。
極限状態の高揚感か、それとも心を焼き尽くす怒りゆえか……
「コロス…コロス…」
"鬼子"は新たに進化ーーー否、暴走しはじめた。
「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス」
鬼子を長時間使用し続けると起きるデメリットは、身体への負荷だけではない。
誠音の一閃による後頭部への一撃、さらに鬼子による体温の急激な上昇で脳がオーバーヒートしたことによって、本来無意識のうちに押さえつけていたリミッターが崩壊。
解放された総司の殺戮本能は、彼の理性を完全に奪いーーー
「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキル」
総司は、殺戮本能に操られし最強の"人斬り傀儡”と化した。
(不味いーー最悪な形で暴走しやがった…!!)
暴走狙いで隙を突こうとしていたが、油断も隙も無い総司になすすべなく斬りつけられていく。
一太刀防いでも、三太刀腕に傷を負い…
三突き躱そうと、刀身に纏った血が飛散し、誠音の肉体を焼く。
攻勢に転じても、カウンターの攻撃を食らいさらに出血。
「はぁっ、はぁっ…」
気づけば、誠音は満身創痍で死にかけていた。
「コロス、コロスコロスキル、キルキルっ!!!」
正面から迫り来る総司に、誠音はここで勝負に出た。
「おらぁっっ!!!」
「っ!!!」
総司の視界が、浅葱色に染まった。
彼は自らの羽織を目くらましとして投げつけ、総司の視界を奪ったのだ。
(ここで決める!!アイツの動きが止まる刹那、その一瞬を斬る!!!)
『龍尾剣・輪尾』
横薙ぎに放たれた機龍・赫の刃は羽織を斬り…
…その数ミリ先で急停止した総司に当たらなかった。
総司が急発進し、誠音に迫る。振り切った機龍・赫を戻そうにも時間が足りない。その間に総司は既に、前のめりの体勢から必殺の三段突きの構えをとっていた。
「ーーーシネ」
下段からの突きが誠音の腹を突きーーーー伏魔一文字・禍罪の刀身を、素手で握って止めていた。
肉の焼ける音と共に悪臭が漂っても、握る手は動かない。
「っーーー『神速三段突き』は、一瞬三突の神業…!だが、戦いの中で何度も繰り返されたら、嫌でも慣れるんだよ…!!」
ズバッ!!!
逆手に握り直した機龍・赫を、その切先を垂直に斬りあげる。
赤い血が飛散し、限界を迎えた機龍・赫の刀身が真っ二つに折れた。
「ーーっは!!?」
「終わりだ…総司っ!!!」
刀身が折れても刀は刀、刃の残った部分で総司の首を斬ろうと振りかぶりーーー
ーーー勝利を確信したその時だった。
誠音は違和感を覚えた。
確かに総司の胴体を一直線に斬り上げたことは確かだ、切先が肉を裂いて鎖骨に当たった感触もあった。だが、伏魔一文字・禍罪で出血をも操作出来るはずの総司が、なすすべなく崩れ落ちるように前のめりに倒れたのだ。
そして彼は気づいた。
これは倒れたのではなく、体を落下させて加速度を上げたのだと。
「ーーっ!!?」
総司が放つのは、彼自身が編み出した独自の奥義。
初代"沖田総司"の得意技とされる、『神速三段突き』
その技を、さらに絶対的な必殺技へと昇華させたものだった。
右肩。
右下腹。
左下腹。
左肩。
そして、首。
かつて、血の海に鬼子の指が沈み、五つの波紋が血の海に広がっていく様子に掛け…
その技を名付けた…
曰くーーー
『天鬼五爪突』
計五ヶ所にぽっかりと貫通した穿孔から、大量に出血した。
「ーーーがはっ…!!」
攻撃の衝撃力も常人には真似できない
誠音の体が、凄まじい勢いで吹き飛ばされた。
「シネ」
これに留まらず、鬼衂衝天で覆った脚から放たれる蹴り技により誠音は天井に叩きつけられ…轟音とともにコンクリートの天井を突き破り、砕けたコンクリート片と粉塵が視界を覆った。
▲▼
ドゴォンっ!!!
吹き飛ばされた先は、真夜中の会社の無人エントランスフロア。
誰もいない静寂の空間に、破壊音だけが虚しく響き渡った。
総司は天井に開いた穴の下ーー地下一階から、一階の天井にめり込んで落下しようとしていた誠音の姿を見上げていた。
そのはずだった。
「…?」
総司の目が、ある一点に向けられていた。
右手に握られた、あのひび割れた鞘に収められた虚鋼刀、その割れ目から淡い光が漏れている。
そして、誠音の心臓が高く鳴り響き始めた。
ドクンッ!!
ドクンッ!!ドクンッ!!!
ドクンッ!!ドクンッ!!!
現在の状況
・市川誠音
首、右肩、右下腹、左下腹、左肩に穿孔。
心臓が高鳴り始める。
・沖田総司
コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス