終末世界で華や散るらん   作:ランハナカマキリ

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エキシビション「狐と狼」

邪兎屋の面々がホロウに落ちて、依頼を受けたパエトーンが謎のハッカーにアカウントを取られ、H.D.D.システムに変なAIが乗り移る数ヶ月前のこと。

 

市川誠音は零号ホロウにいた。

 

ホロウの中でエーテリアスの死体が消えていく。

黒い革で装飾されたタクティカルな持ち手、その中央から刀の鎬にかけて赤い一本の線が刻まれた輝磁製打刀『機龍・赫』を鞘に戻しながら、誠音は一息つく。

 

そして額に浮かんだ汗を拭い、前髪を掻き上げる。

 

その日の彼はホワイトスター学会の研究者による零号ホロウ内調査の護衛をしていた。詳しいことはわからないが、ホロウ内のエーテル物質の濃度の観測のために機械を設置しているとのことだ。白衣と防護服を着た研究者が作業しているのを尻目に周囲を見張る。すると、後ろから声をかけられた。

 

「よぅ、相変わらず派手にやるじゃねぇか」

「ドッグトゥース大佐…久しぶりだな」

 

新エリー都防衛軍ジェイダイト大隊大佐、ドッグトゥース。

グラサンにリーゼントという、どう見ても軍人には見えない男だ。誠音も初対面の頃は軍人と思っていなかった。彼は防衛軍の所属であるが、上と揉めて"特攻大隊"とあだ名をつけられた死亡率の高い任務に送られる捨て石集団へ左遷された。だが、大隊の荒くれ者や外部委託の傭兵たちを分け隔てなく率いるこの男はまさに傑物である。

 

「誠音。ひとつ提案がある」

「……嫌な予感しかしねぇんだが」

「HIAセンターのVRゲームに参加してみねぇか?」

「?」

「ルミナスクエアにあるHIAセンターで開かれる大会なんだが…ウチの隊員が参加申請したのに、急病で欠場することになったんだ。ひとり空いちまった席を埋めるためにいろんな奴に声をかけてんだが…どうだ?強ぇ奴と戦いたいお前にゃ、うってつけだろ?」

「いや、パンピー相手に暴力振るうのは……」

「ま、そう言うと思ったぜ〜」

 

大佐はあっさり諦めると、ぼそっと付け加えた。

 

「賞金も出るけどな〜」

 

誠音の足が止まった。

 

「……いくら」

「50万ディニー………大金だろ?」

 

沈黙。

誠音は空を仰ぎ、深く息を吐いた。

視線を戻し、ドッグトゥースを睨む。

 

「分かった…相変わらず性格悪ぃな、アンタ」

 

大佐は満足そうに笑った。

 

「決まりだな」

 

△△△

 

『HIAセンター・シミュレーションゲーム大会』

【フルダイブでリアル再現されたエーテリアスを相手にした没入型シミュレーションゲーム。

バトルロワイヤル形式で、エーテリアスだけでなく他プレイヤーとの戦闘もできる。

エーテリアスを倒して得点王を目指せ!!優勝者には賞金と会員パスをプレゼント!!!】

 

こう書かれたチラシを手に持って、誠音はHIAセンターの前に立つ。

 

「あ、大会出場者ですね〜こちらへどうぞ〜」

 

スタッフに連れられてやってきたのはHIAセンターのフロントの奥。

『模拟中』と書かれた、鯨の頭のように丸みを帯びたコックピットのようなステージがいくつも鎮座していた。これに入るとVR空間に入ることができるそうだ。

 

仮想空間に入ると、少しの浮遊感と暗転する視界。

 

視界が明るくなると、目の前には仮想の街が展開されていた。その街のあちらこちらにエーテリアスが闊歩している。もちろん本物ではなくシミュレーションなのだが、データは本物からとっているので本物と大差ない。

 

『大会の説明を開始します。皆様、お聞きください』

 

プレイヤーはマップ内にランダムでスポーンし、低級から中級のエーテリアスを一体倒すごとに低級は1点、中級は5点ゲットできる。また、試合後半に出現し始める上級エーテリアスを倒すと一気に10点手に入れることができるらしい。

 

『これより、シミュレーションゲームを開始します。参加者は準備してください』

「よし…やるか」

 

一方、仮想の街の一角で、狐のシリオンがVRゲームの説明を受けていた。

「"VRゲームで敵を多く倒す修行"……やはり会議を抜け出してきて正解だったな」

 

 

△△△△

 

「Grrrr」

「GRRRRRR!!!!」

 

低級エーテリアス『ホプリタイ』が数体、そして中級エーテリアス『デュラハン』が誠音に迫ってくる。ホプリタイが飛びかかってきたため誠音はそれを刀で弾き、そのまま体を捻って刀を振り下ろす。

 

「Giiii!」

 

ホプリタイの体が切断され、悲鳴を上げる前に他の個体も斬り倒していく。

 

「GRRRR!!!」

 

デュラハンが右手の長刀を振り下ろす。その攻撃を避け、盾を構えたデュラハンの左半身に向けて刀を一直線に構え、突く。

 

『神速散段突き』

 

同じ読み方をする三段突きは、天然理心流の奥義であり、新撰組一番隊組長『沖田総司』の秘剣でもある一撃必殺の剣。三度の突き技で敵の急所を貫くという神速の突き技。

 

だがこの散段突きは、たった一度の突き技で散弾のように広範囲で敵を貫く派生技である。

 

一瞬で体の数か所にポッカリと穴を開けられ、唸り声を上げながら体が崩れ落ちる。

 

「g、grrrrr………」

「これで50点か…ランクはーーーー2位?」

 

1位だと思ってたのにと首を傾げーー次の瞬間、ぞおっと首筋が凍った。

 

「ーーっ!!」

 

(なんて剣圧!?まさか…師匠(ジジイ)か?いや、まるで氷塊に閉じ込められたような…!一体誰だ……?)

 

少し離れた住宅街の中央、そこに巨大なエーテリアスが落下した。

 

『10点が追加されました。現在のランキングは1位です』

「そうか」

 

無数の斬り傷が刻まれたエーテリアスの体の上に、1人の少女が立っていた。

 

青緑色の羽織は右腕だけ袖を通し、黒い長髪の上に長い狐の耳を生やしたその少女の名を、新エリー都中の誰もが即答できるだろう。

 

"虚狩り"星見雅

 

新エリー都の公的組織「H.A.N.D」の一員で、エーテリアス討伐やホロウ災害の対応を専門とする遊撃部隊である対ホロウ事務特別行動部第六課ーー通称対ホロウ六課の課長。そして、暴走ホロウ「アルゴス」を鎮静化させた功績により、当代最年少で"虚狩り"の称号を叙勲している。ホロウレイダーから見れば悪夢そのものである。

 

「やっべぇ…今日は厄日か?」

 

通りを歩く彼女を屋根の上から見下ろした誠音、今この瞬間にも逃げ出したいほどの剣圧を放つ彼女の姿を見て、思わず冷や汗をかく。すると彼女の耳がぴょこっと動き、こちらを向いた。

 

(やべっ……!?)

 

臨戦態勢をとった誠音、だが星見雅は剣圧を鎮めた。

 

「安心しろ。いたずらに市民に手を出すつもりはない」

「……あ?」

 

彼女の口から出たのは敵意がないことを表す言葉だった。

最強とはいえ、いたずらに力を奮ってはホロウレイダーと大差ない。

 

ブチッ!

 

誠音のこめかみに青筋が立つ。

 

舐められた。敵とは認識もされず、ただの市民として扱われた。

 

手が震えるも、それを恐怖によるものと勘違いした彼女はさらに火に油をそそぐ。

 

「ここから離れた箇所にセーフゾーンがある。怪我をしているのならそこへーー」

 

言葉の途中で誠音が鞘を雅に向かって投げ捨てる。

雅はその鞘を刀で弾き飛ばし、カァンと鈍い音がする。

 

「逃げてもいい?ありえねぇな…寝言は、防衛軍最強の俺を倒してから言え!!!」

 

ヤケクソに近いハッタリである。バカだこいつ。

 

「ほう、最強ーーーでは、手合わせ願おう」

 

こっちもバカだった。

 

△△△△

 

ドッグトゥース大佐はHIAセンターに足を運んでいた。

 

「さぁて、アイツはどうしてるかな……ん?」

 

「雅様は!?どこどこ!?」

「すみませんここから先は入らないでください!!」

「いいじゃんか〜!!生虚狩りをちょっと見るだけ〜!!」

 

妙にセンター内が盛り上がっている。スタッフが、集まってきた一般人がセンター内に雪崩れ込まないように足止めしていた。話を聞けば星見雅が来ているそうではないか。

 

「星見雅かぁ……こりゃ賞金は手に入らないな」

 

防衛軍に所属している彼も、星見雅の強さを知っている。数年前のアルゴスの一件で、ドッグトゥースは避難民警護の任を務めた。自分も前線に立って兵士たちと共に戦った。そんな中、異常共生体エーテリアス「レルナ」のコアを単身で破壊した彼女を見た。

 

あれは人間のできる技じゃない、彼はそう結論付けた。

 

だからドッグトゥースは、星見雅が負けることはまずないと考えていた。

 

「にしても、すげぇ人気だな……」

 

するとセンターの奥、数人のスタッフがVR空間で行われているイベントの観戦に夢中になっており、モニターをじっと見つめていた。どうやら星見雅とプレイヤーの勝負が始まったらしい。

 

「おい、このプレイヤー!雅様に勝負挑んでんぞ!?」

「まじか!?」

 

(あの星見雅に勝負を挑むってどこのバカだぁ?)

 

そう思いながらモニターを見る。

そのバカは、浅葱色のだんだら羽織を着た、見覚えのある男だった。

 

「何やってんだアイツぅぅ!!?」

 

 

△△△△

 

一方、VR空間では死闘が繰り広げられていた。

 

ギャン!!!

ガッ!

バギンッ!!

 

金属同士がぶつかり合う音が響く。

 

街を模した仮想空間で、二人は屋根の上で斬り合っていた。

 

ガキン!!

キィン!!!

 

雅が刀で攻撃し、誠音がギリギリで防御し、反撃するも避けられ、また攻撃が来て防御する。

 

ギギギギギギッ!!

 

鍔迫り合いの最中、誠音が雅の体を蹴り飛ばし、弓を引き絞るように構えた右腕で瞬時に三度、首に向けて刺突する。また雅も、抜刀術の構えから一気に間合いを詰めて斬撃を放つ。

 

『神速三段突き』

『深雪』

 

ガキンッ!!!

 

誠音の顔からつぅっと、斬り傷から血が垂れる。

雅の黒いネクタイに刺突の刺し傷が刻まれている。

 

「ーーふぅ…」

「……次、行くぞ」

 

雅が動く。

 

ザザザザッ!!!

 

目にも止まらぬ斬撃が、誠音に襲いかかる。

 

ギィギギギィィ!!!

 

その無数の斬撃に対応し、刀の峰で防御するも、彼の腕や足や脇腹から血が舞う。刀を防御することはできても、それ以外は違う。彼女が振るう刀に込められた霜烈は、巻き起こす風をも凶器と化していた。

 

「ーーーっ!!」

 

そのまま下からの斬り上げが迫りーー

 

ガチッ!!!

 

ーー誠音の機龍・赫がその刃を止める。

そして雅の持つ無尾の刃先を撫でるように、刀を滑らせて雅の首元まで刃を迫らせる。

 

ギィィィィィーーガンッ!!

 

だが雅は刀をそのまま斬り上げて、誠音を弾き飛ばす。

弾き飛ばされた誠音は二軒先のテラス席に着地し、一瞬で距離を詰めて刀を振り下ろしーー

 

ーーそして、回避された刀を握る両手を巧みに捻って、斬り上げる。

 

『龍尾剣』

 

だがその渾身の一撃に対し、雅は先ほど同様に間合いを詰め、無数の斬撃を巻き起こす。

 

『飛雪』

 

 

ドォンッ!!!

 

 

まるで大砲を撃ったかのような音があたりに響く。

 

「はぁ、はぁ……」

 

土煙が晴れると、全身汗だくで、右腕から血を流した(一定以上のダメージを受けるとダメージ表記される)誠音がいた。着ていた羽織の右袖はズタズタに、表示された誠音のHPは三分の二になってしまった。誠音は汗を拭いながら、雅を見る。

 

(強い。剣圧も実力も段違いだ…それにあの刀、斬り合いの途中じゃ気付かなかったが、どんどん力を増している。攻め手に移れない……実力差があり過ぎる)

 

雅も思案に耽っていた。

 

(不思議だ。何度も何度も、奴に一撃を入れる余裕はあった。だが、当たる寸前に全て紙一重で防がれる。それでも圧倒的な実力差があるというのに、目が死んでいない)

 

誠音は、自分より強い相手と戦う機会があまりなかった。

雅も、強いが故に一撃で倒せない敵など今までいなかった。

 

((けど/だが……面白れぇ/面白い!))

 

誠音は、楽しんでいた。今まで師範らと剣を交えてきて、斬り合いをしているときこそが真に生きていると実感することができた。目の前には、最強の座に座る虚狩り。自分を鳥とするならば、相手は天を舞う龍、それでも彼の心臓は高鳴っていた。

 

雅もまた、楽しんでいた。今までの人生で自分と対等に戦えるものが少なく、その力をいたずらには振るえなかった。戦う前に降参する者の方が多かった。だが目の前の男は、自分の実力差などお構いなしに勝負を挑んでいる。

 

(さっき相殺できたのは奇跡……二度目は受け切れない。ここで一撃決めてやる)

(甘く見ていればこちらがやられる……これで決める)

 

 

スッ………

 

右手をやや下に落とし、柄の端と刀先を水平に構える。

相打ち覚悟、"平青眼の構え"をとる誠音。

 

チャキッ………

 

鯉口を切り、右手で柄を握る。

一撃必殺、"抜刀術の構え"をとる雅。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドクンッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

両者の緊張が高まり、動く。

 

「「っ!!」」

 

コンマ一秒早く動いた誠音が、抜刀する雅の右腕を刀の柄頭で押し込み、動きを抑える。

 

「ーーーっ!」「るぁっ!!」

 

『龍尾剣』

 

ズバァッッ!!!!

 

凄まじい金属音と共に血が飛び散る。

 

そこには滝のように汗を流す誠音と、雅の肩から脇腹にかけ、刀傷を負った雅がいた。

 

「はぁ、はぁ…!」

(ヤッベェ…!楽しい!!)

 

 

ドクンッ!

 

 

極限状態ゆえにアドレナリンが出まくっていたせいか、心臓が高鳴り、呼吸も苦しくなる。だが、誠音の顔には笑みが浮かんでいた。

 

それは雅も同じだった。

 

「傷を負ったのは初めてだ……全力を出さねばならないな」

 

傷を撫でながら、薄く笑みを浮かべた彼女は刀を鞘に戻し、ボタンを押す。

 

 

 

ズゾォッ!!!!!

 

 

 

蒼炎のように燃え盛る剣圧が、雅を包みこむ。

誠音の顔全体から、汗がぶわっと吹き出す。そして心臓を鷲掴みに、胃や腸を冷たい手で握りしめられ体外に抉り出されたような気分になった。頭が、体が、本能が危険だと知らせている。

 

「ーーっ!」

(マジか…!何か仕掛けがある鞘だとは思ってたがーーここまで!?)

 

『骸討ち・無尾』

 

星見家初代当主より代々受け継がれた妖刀で、今代の星見雅含む歴代の跡取り・当主の武勇と共に在り続けたこの世界で最高の一振り。起源は星見家の初代当主が魔や妖から人々を護るため、力の源である自らの尾を鍛造して一振りの刃を創り出し、力の大半を刀身に宿したとされる。

 

咄嗟に防御の構えをとる誠音。雅は抜刀術の構えーー霜月の構えをとる。

 

雅は言った。

 

「名は?」

「ーー誠音、市川誠音だ」

「そうかーー死ぬな」

 

次の瞬間、彼女は鯉口を切りーー

 

 

 

 

 

 

 

 

ズバババババッッッ!!!!

 

 

「ーーーーーっ!!?」

 

 

 

 

 

 

ーー誠音の全身に刀傷が刻まれ、体が弾かれる。

 

ドーム状の間合いーーその中に刻まれるのは無数の斬撃。

目にも止まらぬ速さ、巻き込まれた上級エーテリアスをも瞬殺する。

 

その技の名はーー『霜月』

 

仮想エリアの端ーー湖にかかる石造のアーチ橋の上まで、血まみれの誠音は弾き飛ばされた。

 

「っっ……!!生きてるよな……?」

 

無数の剣撃の中で、彼が唯一防御できたのはひとつだけ。それでも、その一撃を防いだ衝撃によって、誠音の体は弾き飛ばされてしまったのだ。だが、吹き飛ばされていなければ、あの場で斬り刻まれて、彼のHPは0になっていたであろう。

 

なんとか立ちあがろうとするも、全身から体温を奪われたように手足は冷たく、それでいて燃えるような痛みが彼の意識を奪おうとする。震える手で刀を握りしめ、体に鞭打って立ちあがろうと片膝を上げる。

 

「はぁっ、はぁっ!!」

 

水面に映った彼の体ーー刀傷が体全体に刻まれていた。仮想空間の体を構成するオレンジ色のポリゴンがダメージ表現に追いついておらず、傷口がオレンジ色に表現される。そして

 

「ーーーーまさか、あの攻撃で生き延びるとはな」

「はぁっ、はぁっ、はぁっーー」

 

目の前に立つ雅のHPバーは、先ほど入れたダメージも含めても、まだ八割も残っている。

正直、もはや彼は風前の灯だった。だが、鼓動の高鳴りはまだ続いている。

 

 

ドクンッ!!

 

 

一方、雅も驚いていた。

常人なら細切れになっていたであろう『霜月』、人も機械もエーテリアスもこの技の前に屠ってきた。だが、自分が繰り出した高速の剣撃、その最後の一撃を彼が防いだことに驚いていたのだ。

 

先ほどまでの、彼女に一撃を入れる前までの彼では防ぎきれなかった技だ。なぜ彼は防ぎ切ることができたのか。彼女は目の前にいる未知の食材に惹かれ始めていた。だが、その答えを聞く前に、彼が先に限界を迎えそうだ。

 

「見事だ。私に一撃を入れただけではなく、無尾でその状態になるまで斬られても、意識を保っている者は初めてだ。手合わせはこれにて終わりだ。セーフゾーンまで連れーーっ!」

 

視界が赤く染まる。

 

(これはーー血の目潰し!)

 

ガキィン!!!

 

雅は首に迫った刀を、すぐさま抜刀した刀でギリギリ止めた。

 

「ーーーったく、終わらせるだの、苦しませないだの……下らねぇこと言いやがって、獣が狩人の言葉をありがたく頂戴するとでも思ったか?」

「……まさか、あの重傷で動けるとはな」

「それにしても、防がれるとは思ってなかったけどな……」

 

互いに、力を抜けば即斬される状況。

押し負けないように足に力を入れて踏ん張る誠音。

それでも彼は、嗤っていた。

 

「楽しいのか?」

「っ…正直勝てる見込みもないってのに…どういうわけか、俺は今生きてるって思えるし、この死合がとことん面白ぇ……!!」

「………そうだな。私もだ」

 

両者共に蹴りを入れ、その反動で両者とも弾かれる。

二人の間にまた距離が空いた。この場で決めなければ、誠音は敗北する。

 

 

 

ドクンッ!!!

 

 

 

 

「次の一手で、勝負は決まる……全力で来い、市川誠音。

 

 

私も今………斬り合いを楽しんでいる」

 

 

 

 

ドクンッ!!!

 

 

△△△△

 

 

一方、ところ変わって街角のカラオケ。

 

その一室ではHIAセンターのデータを違法に閲覧する老人がいた。

名は八神佩太郎、彼はニヤニヤを止められずにいた。

 

「これが、星見家当代の無尾持ちか…さて、誠音はどう出る?」

 

リモートで通話をしていた相手がいる。

 

『何故そんなに笑ってられるんだ?彼にもはや勝ち目はーー』

「おいおい、アイツを誰が師事したと思ってる?」

『記憶が正しければ、君は何年も前に師事を放棄していたはずだが?』

「…アイツは、強い。そのうち俺より強くなる。もし強くなるまで師事したら、俺はきっとアイツと殺り合いたくなる」

 

通話の相手が呆れたようにため息を吐く。

 

「それに…………アイツが強くなるのはここからだ」

『なぜそう言い切れるんだ?』

「ーーーー見た目も性格も似てるんだよ。俺の知る最もバカで、負けず嫌いで、一番嫌いで……一番カッコよかった、アイツによ」

 

△△△△

 

 

ドクンッ!!!

 

この時、誠音に勝算はなかった。

VRによる痛みの錯覚、多量の出血を脳が現実だと誤認したことによる失血状態。

 

 

 

ドクンッ!!ドクンッ!!!

 

 

 

誠音は、朦朧とする意識の中……彼は思考することをやめた。

 

 

 

ドクンッ!!!

 

 

 

剣を握った頃から渇望していた、"最強"への憧れさえも消えていた。

 

 

ドクンッ!!ドクンッ!!

 

 

この、圧倒的不利な状況の中で、

 

 

高鳴る心臓の音を聞きながら、

 

 

ドクンッ!!

 

 

 

市川誠音は、なんの構えもとらずただ己の剣にのみ、没入していた。

 

「…?」

 

雅は困惑していた。

 

構えもとらず、目も虚になり、口も開いたままぼうっと突っ立ったまま。

 

一見すれば諦めたとしか思えない。

 

また、あの人外じみた剣撃を受ける前から、蓄積されたダメージが力を奪っていたと考えるのが自然である。だが目の前にいるのは自分に初めて手傷を負わせた男。油断はできない。

 

雅は再び『霜月』を繰り出せるよう、落霜を溜める。

 

(次の一合全身全霊で、奴が動く前に仕留める…)

 

 

 

 

 

 

ドクンッ!!

 

ドクンッ!!

 

ドクンッ!!

 

ドクンッ!!

 

ドクンッ!!

 

ドクンッ!!

 

ドクンッ!!

 

ドクンッ!!

 

ドクンッ!!

 

ドクンッ!!

 

ドクンッ!!

 

ドクンッ!!

 

 

 

 

 

 

"無念無想の境地"

 

ドクンッ!!

 

 

ドクンッ!!

 

二刀流の剣豪『宮本武蔵』

 

新陰流の生みの親『上泉伊勢守』

 

名だたる剣豪が修練の末、到達していた境地。

 

 

ドクンッ!!

 

ドクンッ!!

 

ドクンッ!!

 

 

そして、

 

初代新撰組局長『芹沢鴨』

 

新撰組副長『土方歳三』

 

この二人も到達していた境地。

 

 

ドクンッ!!

 

ドクンッ!!

 

ドクンッ!!

 

 

この瞬間図らずとも、市川誠音も高鳴る鼓動と共に、彼らと同じ境地に達し、その技は発動した。

 

 

ドクンッ!!

 

ドクンッ!!

 

ドクンッ!!

 

 

無念無想の状態から、後も気配もなく、無粋に肉薄し、決殺する。

 

 

言わば無念無想ならぬ、無念無双

 

 

その姿、本能のみで獲物を狩る狼が如き一閃。

 

 

土方歳三はその技をこう名付けた。

 

 

 

 

《fade:1》

 

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虚狼(うつろ)!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

横薙ぎの一閃。

雅の季肋部が無数のオレンジ色のポリゴンで表示される。

雅の残りHPが、わずか1にまで削れ、何が起きたのか理解が追いついた雅の背後には、血まみれの顔を拭って、べっとりとした前髪をかきあげる誠音がいた。

 

(反応できなかっただと?いや、まるで……初動から結果まで、過程を飛ばしたような……間合いを一瞬で潰されたのか……!?)

 

雅は歓喜していた。呼吸が荒れて、頬が紅潮する。決して浮ついた動機から来る喜びではない。自分に致命傷を与えた(VR空間のHP)、自分と同じ剣客。今まで妄想の中でしか戦えなかった想像の敵ーーいや、好敵手に出会えたことに対する喜びである。

 

「ーーー星見雅…」

「あぁ……そうだな」

「……とことん咲こうぜ」

 

"虚狩り"星見雅、"壬生の狼"市川誠音。

 

両者、背中合わせの状態からーーーー振り向きざまに、斬る。

 

 

 

 

バシュッ!!!

 

 

 

結果は、相討ち。

 

△△△△

 

「ーーーーーっは!?」

「お、目が覚めたか」

 

目が覚めたのは夕方、HIAセンター内のステージから、気絶した誠音を引っ張り出したドッグトゥースが、車で道場に運んでいる最中だった。上体を起こそうとすると鋭い痛みが全身に走る。

 

「痛っーー!!?」

「あまり動くなよ〜、HIAのスタッフ曰く脳の錯覚で何たらかんたら…でしばらく痛みは残るってさ」

「ーーークッソ痛てぇ……」

「にしても、相変わらず死に急ぐやつだな?虚狩りとやり合うなんて、命知らずもいいところだ」

「命知らずで結構だ。最強を目指すのに、わざわざ遠回りできるかよ……大佐、見とけよ。ここから、俺はもっと強くなるぜ」

 

ニヤリと笑う誠音。

ドッグトゥースはその笑顔を見て、やはりコイツを部隊に入れて正解だったと確信していた。

 

この日、HIAスタッフ間で『この間のイベントで星見雅と同等の剣客がやり合った』と言う噂が広まっていき、HIAセンターに通う人から、インターノット中に都市伝説として広まっていった。

 

 

 

 

 

「そういや、星見雅は?」

「あ〜、メガネの嬢ちゃんに引っ張られて行ったぜ」

「そうか」

 

一方、星見雅は『修行を共にした相手と剣について語り合う修行』をしようとしたところ、ステージを出たすぐ目の前で般若のように笑みを浮かべ、ゴゴゴという擬音と仁王立ちした月城柳によって襟首を引っ張られて行ったそうな。

 

「課長?これから『溜まりに溜まった仕事を終わらせる修行』をしますよ〜?」

「や、やめろ……」




壬生狼零番隊メンバー古参順

市川誠音
蒼烈
レイ・リード
セレッソ
大和ハヤテ
ツイッギー
ジョン・ドゥ

だいたいこんな感じ

『ちるらん』読んだことある?

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